樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

二刀流の完成と伸びしろ(大いなる感謝と愛をこめて)(J-123)

MLBへの関心がほぼポストシーズンへと移り、10月5日のエンゼルス対アスレチックス

の最終戦はただの消化試合になると思われていたが、思わぬ注目を集めることになっ

た。この試合に、大谷選手が規定投球回数到達をかけて先発登板することになっていた

からである。

大谷は5回1失点で惜しくも16勝目を逃したが、今シーズンの投球回数は166回となり、

既定の162回を難なくクリアした。打者としては既に規定打席数を超えており、彼は同

一シーズンで投・打共に規定回数超えをした史上初の選手となった。

今シーズン規定回数をクリアしたのは両リーグ合わせて投手で44人、打者で130人に限

られる。規定回数に到達するということは、とりもなおさず一流選手の証明でもあり、

大谷選手は投手としても打者としても一流の仲間入りをしたことになる。

まさしく、二刀流の完成である。

この快挙がどれほど価値のあるものか、そして大谷の目指す頂上はさらにその先にある

のか・・・この際スポーツライターになった気分でいろいろと掘り下げてみたい。

 

投手としての大谷

先ずは今シーズンの投手としての成績を見てみよう。( )内は順位

 

 防御率   勝利数  奪三振  投球回数  QS率   K/BB    WHIP

 2.33(4) 15(4) 219(3) 166(20)  57.1(9) 4.98(7) 1.01(5)

 

投手三冠と言われる防御率、勝利数、奪三振数ともに見事な数値と順位にある。

何も文句は付けられない成績ではあるが、防御率と勝利数は投手だけで決まる数値では

ないので純粋に投手の能力を示すものではないという考えもある。だからFIP(Fielding

Independent Pitching) という新しい指標も生まれている。これは、被本塁打、与四死

球、奪三振のみで投手を評価しようとする試みであるが、例えば打たせて取るタイプの

投手が評価されにくいといった欠陥もある。

ではどういう投手が優れているのか、それは監督の立場で考えると分かり易い。

監督からすれば、まず年間を通じてローテーションを守ってくれる投手である。故障せ

ず波が小さく、安定したパフォーマンスを発揮してくれる投手だ。それは最終的に投球

回数になって表れる。規定投球回数をクリアするのは1チーム当たりわずか1.5人程度

で、規定が厳しすぎはしないかとも思うが、いずれにせよ極めて貴重な存在だ。

次に望まれるのはいわゆる試合を作ってくれる投手で、それを示す指標がQS率である。

QSとは先発投手が3失点以下で6回以上を投げることをいう。これが大谷選手は57.1%と

好投手の中ではやや低い。その理由は、好不調の波というよりは球数が5回あたりで100

球前後に達してしまうことにある。あと1回が投げられていないというもどかしい場面

がかなりある。

投手としての力量は、いかに威力のある球を制御できるかにあり、それはK/BBという指

標として表れる。Kは三振、BBは四球である。大谷投手のK/BBは4.98で7位、立派な数値

ではあるが、奪三振率(9回当たりの奪三振数)が1位の11.87であることを考えればや

や不満が残る。

監督目線で言うとさらにもう一つ、攻撃のリズムに好影響をもたらす投手である。守備

の時間をテンポよく締めてくれる投手だ。それはWHIPという指標に表れる。WHIPとは

(Walks plus Hits per Inning Pitched)の略で、1イニング当たりのランナー数である。

たとえ無失点でもピンチの連続では攻撃のリズムが生まれない。WHIPは、いわゆる”試

合の流れ“に影響する重要なファクターであるといえよう。好投手はこの数値が1.0前後

にあり、ここでも0.83のバーランダーが断トツであるが、大谷は0点台の4人に次ぐ5位

なので胸を張ってよい。

今シーズンの大谷は、投手としてのパフォーマンスが著しく向上したと言われるが、そ

の言葉の通り勝率以外の指標ではいずれも昨シーズンよりも今シーズンの数値が良い。

その原因の一つに変化球の組み立てが多彩になったことが挙げられている。

今思い出されるのは、このブログにも「真二刀流はホロ苦スタート」として書かせても

らった昨シーズン、2021年4月4日のホワイトソックス戦である。

この試合で大谷は4回までをヒット1本に抑え、自身のホームランなどで3-0のリード

で勝利投手の権利がかかる5回のマウンドに立った。ところが、2アウト1塁から牽制悪

送球、四球、四球で満塁となったあと、空振り三振に打ち取った球を捕手が後逸、さら

振り逃げの走者を刺そうとした送球がそれ、さらにさらにその球をカバーした外野手

がホームに悪送球というミスの連鎖で3失点、遂に同点とされたうえに大谷はカバーに

入ったホームベースで走者に足を踏まれマウンドを降りた。

あのころ大谷の持ち球は、ストレート、スライダー、フォーク、カーブの4種類で、私

は素人ながら空振りをさせる球だけでなく凡打にさせる球としてカットボールかツーシ

ーム、出来ればその両方が欲しいと書いた。

今シーズンの大谷は、比率としては少ないが、その二つの球種を新たに加えて投球の幅

を広げている。しかし、投球の中心となっている球種は磨きのかかったスライダーだ。

捕手のスタッシーが大谷のスライダーは6種類あると言っているらしいが、素人の目に

も左にスライドして落ちる球、まっすぐ落ちる球、横に大きく曲がる球の3種があるこ

とがわかる。持ち球の全てが勝負球に使えるレベルなのでその日の調子や打者に合わせ

て使い分けシーズン後半は圧巻のピッチングを重ねた。

いとも簡単に(ではないかもしれないが)球種を増やす彼の姿を見ていると、そのうち

チェンジアップやスクリューなども見せてくれるかもという期待感さえ抱かせてしま

う、それが投手としての大谷である。

 

打者としての大谷。

大谷選手の今シーズンの打撃成績は下表のとおりで、見た目の数値はほとんどの指標で

昨シーズンを下回っている。その原因は昨シーズン最後までタイトルを争ったホームラ

ン数が46本から34本へと大幅に減少したためである。今シーズンのボールは飛ばないと

いう話も伝わるが、ひとり大爆発のジャッジを除けば全体的に打者の成績は落ちてい

る。しかし見方によれば、大谷の成績は昨シーズン以上と評価できなくもない。とく

に、今シーズンは打率が大きく向上し25位にランクされたため、一般に打率の順位によ

って30位までが示されるランキング表に名前が載ることになったことは、大谷の存在感

をさらに高めることにつながったと言える。

大谷の成績と1位の数値を並べると下表のとおりである。

 

      大谷選手の打撃成績(上)とランキング1位の数値(下)

  打率   打点   本塁打  打席数  塁打   OPS   BB/K

 .273(25)     95(7)        34(4)      666(9)    304(5)    .875(5)      0.447

   .316        131 *         62 *       724        391*      1.111 *      0.634*

                                              ( )内は順位、* はジャッジ選手の数値  

打撃ランキングを打率の順位で構成することは、打率を重視しているという背景がある

のかもしれないが、打者を評価するうえでは弊害もある。例えば、上表にある打席数

724でトップの座に就いたのはレンジャーズのマーカス・セミエン選手であるが、打率

が.248なのでランキング表の30位にも名前が出てこない。しかし細かく見ると塁打は9

位の282、打点83で盗塁が25もある。これを打率.304でランキング表の6位にランクされ

ているヤンキースのベニンテンディ外野手の打席数521、打点51、塁打184、と比べてみ

るとチームにとってみれば明らかにセミエン選手の貢献度が高いといえるだろう。

打者の優劣もまた投手と同じく監督目線で見ると分かり易い。

監督目線で見れば、やはりシーズンを通じて安定したパフォーマンスを発揮してくれる

選手が有難い。それは打席数となって表れる。だから大谷選手の打席数が666で全体の9

位というのは極めて大きな意味を持つ。

次に監督が望むのは、チャンスメーカーでありポイントゲッターでもあるという選手

だ。それが表れるのはOPSという指標である。OPSとは、出塁率+長打率(塁打÷打数)

で計算される数値で、一見意味不明な指標のようにも見えるが、その打者の貢献度をよ

く示している。今シーズンのジャッジは1.111でずば抜けているが。NPB 通算成績でこ

れが1.0以上の選手は王貞治ただ一人、MLB通算では8人でベーブルース、テッドウィリ

アム、ルーゲーリック、バリーボンズとビッグネームが名を連ねる。8番目に現役のマ

イク・トラウトが食い込んでいるが、彼が1.0以上で現役を終えられるかどうかは微妙だ。

更にもう一つ、私が勝手に作ったBB/Kという指標がある。BBは四球、Kは三振で、投手

を対象としたK/BBを逆にして打者を見てみようという指標である。これは投手から見て

その打者がいかに厄介な相手であるかを示している(と勝手に思っている)。 大谷は

昨シーズンホームランを警戒されて敬遠四球が20もありBB/Kは0.508、今シーズンは

それより下がっている。ちなみに、NPB通算では王1.6、落合・長嶋が1.3、松井が1.0と

いったところで、MLBではベーブルースが1.55、バリーボンズが1.66という高い数値を

残している。今シーズンのジャッジは0.63なので、それらの先輩たちには遠く及ばな

い。

打者としての大谷選手は、一言で言えばまだまだ伸び代がある選手ということになる

が、それについては次項で述べることとする。

 

大谷の”SUGOI”と伸び代

MLBの実況放送を観ていると、大谷選手がホームランを打つたびに名物アナウンサーの

口から様々な日本語が発せられる。その代表が“SUGOI”である。エスカレートしている

感もあるので来シーズンには“YABAI”とか“EGUI”なども飛び出すかもしれない。

では大谷選手のどこがすごいのか、そこを探ってみよう。

まず挙げられるのは、彼の強靭な身体能力である。たしかに、先発ローテを全うした選

手が全体9位に当たる打席に立ったという実績にはすごみがある。しかしそれにも増し

て驚かされるのは、登板翌日の打撃成績だと元プロの有名選手たちが口をそろえる。

100球も投げれば翌日は使い物にならないのが普通なのに、大谷はむしろよく打つとい

うのである。調べてみればまさにその通り、登板翌日の打撃成績は、69打数23安打で打

率.333、6本塁打とシーズンを通した成績を大きく上回っている。さらに、登板間隔を中

5日に縮めた後半戦は、41打数17安打で打率.415、本塁打4と疲れ知らずの驚異的な数

字を叩きだした。

それを根拠に、ファンが大谷のさらなる進化を期待するのは当然かもしれない。

投手としての大谷選手のSUGOI は、奪三振率11.87(1位)の高さだ。しかし、現役投手

NO.1の呼び声が高いアストロズバーランダーが、奪三振率では大谷より2ポイント以

上低い9.51でありながらK/BBが6.38と逆に2ポイント以上高いことを考えると、少々

SUGOIもかすんでくる。しかし、そこに大谷の伸び代が潜んでいると言える。

K/BBのランクを見ると、大谷の4.98はランク7位である。奪三振率で1位の大谷がなぜ

そこまでランクを落とすかと言えば勿論与四球が多いからだ。下表のとおりK/BBの順位

は、奪三振率よりもむしろ与四球率に影響される。

 

     K/BBの順位     奪三振率の順位     与四球率の順位

  1. ガウスマン      大谷          クルバー

        2.  クルバー       コール         ガウスマン

        3.  バーランダー     シース         バーランダー

        4.  ビーバー       ガウスマン       ビーバー

        5.  コール        マクラナハン      マクラナハン

        6.  マクラナハン     レイ          コール

        7.  大谷         バーランダー      大谷

この表から大谷選手が改善すべき方向が見えてくる。ファウルで粘る打者を三振に打ち

取るのはなかなか難しい。その結果が四球になればダメージも大きい。だから凡打に打

ち取る投球術が必要だ。それは、省エネ投球につながり、投球回数の増加に直結する。

似たようなことが打者大谷についても考えられる。

一般に、ストライクが先行すれば投手有利、ボールが先行すれば打者有利といわれる。

それはその通りで、カウウント別の打撃成績にはっきりと表れている。

では3ボール2ストライクからの打撃成績はどうだろうか。

ここで塁打ランキングの上位6選手のデータを取り上げてみよう。

 

    塁打ランキング上位選手の3-2からの打撃成績

          機会(回) 打率 三振  四球   BB/K

 1.ジャッジ    95    .263  49    51   1.04

 2.トラウト    66    .152  24  29   1.21

 3.アルバレス   65    .200  27  29   1.07

 4.大谷      75    .133  37  23   0.62

 5.サンタンダ―  72    .167  24  28   1.17

 6.シーガー    43    .256  21  27   1.29

 

全体として言えば、3-2というカウントは投手不利のようにも感じられるが、実際は

この表の通り、打撃上位の選手でさえ投手有利の結果が示されている。しかし、流石に

上位の選手だけあって大谷以外のBB/Kは1.0以上、約半数は四球となっている。

四球よりも三振の数が多いのは大谷だけなのだ。そこは積極性の現れなのかもしれない

が、0-2,1-2からの打率も.120、.163と極端に悪く、やはり2ストライクを取られ

た後の対応については改善の余地がある。

この他にも、100マイル以上を何回投げただとか、打球速度、一塁到達速度など、大谷

選手のSUGOIをいろいろと掘り起こしてくれるマニアがいて、それはそれで楽しみを増

やしてくれてはいるのだが、大谷自身はおそらくそんなことはまったく気にしていな

い。イチローもそうであったが、彼のライバルは過去の自分なのである。

今シーズン、大谷は自分のチームがポストシーズンへの望みを絶たれた後半戦で、明ら

かに目標をチェンジしたように見えた。それは規定投球回数への到達と打率の向上であ

る。そして、その目標がほぼ達成されたことを彼のコメントからも感じとることができ

る。

来シーズンもエンゼルスでプレーすることになった大谷が、果たしてどのあたりに目標

を設定したのであろうか。ファンとしては、来シーズンもケガをせずに活躍してくれれ

ばそれで充分だというのは表向きのセリフで、さらに二刀流を進化させてほしいという

のが本音であろう。

全くもって余計なお世話ではあるが、大谷選手の来シーズンの目標設定はこのあたりで

いかがでござろうか。

     大谷選手の来シーズンの目標(ファンとしての希望)

    投手成績               打撃成績

 投球回数  180回 +           打席数    600  +

    QS率    75 % +           打率    .290  +

    K/BB     6.0  +            塁打    330  +

       WHIP   1.0   -             BB/K    0.7  +           

 

以上、大谷選手への感謝と愛をこめて

過去最高の選手が集結するであろうWBCを楽しみに・・・

                          2022.10.15