樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

武器禁輸のこれまでとこれから(J-142)

 

国内政治と世の関心が自民党議員の裏金問題で明け暮れる中、日・英・伊三国の共同開

発による次期戦闘機の第三国への輸出が認められることになった。これまで難色を示し

てきた公明党が一定の条件のもとに歩み寄ったのである。

日本もようやく世界の常識が通用する国になったかと思う一方で、かつては民生用の部

品や軽トラックでさえやり玉に挙げられたことを思うと、なんだか居心地の悪さも感じ

ないこともない。

この大きな国の方針転換は、さほど大きな騒ぎに発展しなかったが、「毎日新聞」は、

3月16日“「戦闘機輸出自公が合意」「殺傷兵器第三国に解禁」”と題して一面トップで報

じ、社説には「なし崩しで突き進むのか」と批判的な記事を載せた。

その主張するところは、“「安全保障政策の根幹に関わるルールが与党の合意だけで変

更されてよいのか」、「平和国家としての日本の在り方が問われている」、「なし崩し

で進めるべきでない」“というもので、朝日新聞もまた、同じ記者が書いたのかと思う

ほどに同じ論調だ。

そもそも、“武器を売らない国日本=平和国家”というキャッチ・コピーは、「キャッ

チ・コピー」という言葉が和製英語であるのと同じで、世界には通用しない。極論すれ

ば、単なる“思い込み”か“自己満足”のようなものである。PKO派遣に踏み切るまでは、武

器を買うくせに売ってくれない国、カネは出しても兵力は派遣しない国=ずるい日本と

も見られていたのである。

武器禁輸政策は法律化されたものではない。勿論条約でもない。だから、方針転換は必

然であったかもしれないが、とりあえずこれまでの歴史を振り返ってみよう。

 

武器禁輸政策の変遷

1967年佐藤内閣

 最初に武器禁輸を打ち出したのは佐藤内閣で、①共産国 ②国連決議で禁じられた国

③紛争当事国又はその恐れのある国への輸出を禁じるといういわゆる武器禁輸三原則を

表明した。この内閣は三原則が好きで同じ年に非核三原則も打ち出し、74年佐藤はノー

ベル平和賞を受賞した。

1976三木内閣

 佐藤内閣が示した対象国以外の国に対しても”武器の輸出を慎む”として、”慎む“とい

う表現ながら、これが事実上の”全面禁輸“へと発展した。

1983中曽根内閣

 米の要請を受け例外的に米への技術供与を認め、以降個別の案件としてミサイルの共

同開発やPKOに従事する他国軍への銃弾提供などが認められた。

2005小泉内閣

 米とのミサイル共同開発・生産を例外化

2011野田民主党内閣

 三原則の緩和を決定。国際共同開発・生産などでパートナー国への輸出を容認。

 パートナー国が第3国へ輸出する場合は日本の事前同意を義務付け

2014安倍内閣

 一定の条件下で武器(防衛装備品)の移転(輸出)を解禁する新たな「防衛装備移転

三原則」を策定した。禁止する相手は従来通りだが日本の安全保障に資する場合は移転

を認めるとともに移転先から第三国への移転は日本の事前同意が必要とした。

 ただし、完成品については「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」に限定され、

実績としてはフィリピンへの警戒管制レーダー一件のみ。

2023岸田内閣

 殺傷能力のある武器であってもライセンス生産しているものはライセンス元に輸出で

きるとした。具体的には「PAC2」「PAC3」のライセンス生産品を米に輸出

2024岸田内閣

 日・英・伊共同開発による次期戦闘機の第三国への輸出を認めるという方針転換。

 ・第三国への輸出を認めるケースは防衛力整備上の必要性があり、完成品の輸出が必 

  要な国際共同開発・生産に限る

 ・個別のプロジェクトごとに協議、今回は次期戦闘機に限定

 ・輸出が認められる国は協定などを締結している次の15か国

  (米・英・独・仏・伊・スエーデン・オーストラリア・印・シンガポール・タイ・

   フィリピンインドネシア・マレーシア・ベトナム・タイ・UAE)

 

言うまでもなく、今回の方針転換は戦闘機の第三国への輸出を許容するという点で、こ

れまでとはレベルの違う路線変更である。これに対する各政党の反応はどうであった

か、各党政務調査会長等の見解を見てみよう。

 

各政党の見解

公明党(高木)

 戦闘機は攻撃兵器と捉えられがちだが、我が国は専守防衛のために必要。輸出するの

であればそれも国の防衛に必要。憲法の問題はクリアしている。

立憲(長妻)

 与党だけで決めて閣議決定というのは拙速だ

維新(青柳)

 (今回の戦闘機だけと言わず)例外なく第三国への輸出を認めるべき。何かと面倒く

 さい国はパートナー国として選ばれなくなるだろう。

共産(小池書記局長)

 憲法違反であり、断固抗議し撤回を求める。

国民(榛葉幹事長)

 公明がブレーキをかけながらも門戸を開いたことを高く評価

 

以上の通り変われば変わるものである。その背景にはロシアのウクライナ侵攻もあるだ

ろうが、敢えてクレームをつければ次の通りだ。

・立憲は手続きのみを言っており、態度を明らかにしていない。おそらく党内はまとまっていないのであろう。

・公明の言っていることは支離滅裂、連立与党の座を失いたくないだけの妥協策に見える。

・維新と共産は正反対でありながらどちらも筋が通っている。つまるところは憲法に帰着する問題だ。

国民はいつもながらの”長老的発言“である。

 

戦闘機やミサイルなど最先端技術の結集ともいうべき武器の国際共同開発は、単なる経

済効果に留まらず、むしろ政治外交的に大きな意味がある。兵器における相互依存は、

安全保障において条約以上の重みを持つ可能性があるのだ。

これからも国際共同開発・生産には積極的であるべきだと考えるが、だからと言って、

憲法に手を付けずに”なし崩し“に進めてゆくわけにもいくまい。

                         2024.4.6