樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

新型コロナのこれまでとこれから(J-141)

このブログを始めたのは2020年3月で、新型コロナによる閉じこもり生活がきっかけの

一つであった。だから当然のごとく、Jシリーズ(爺怪説)の第一回目は「COVID

-19は最強か」と題した新型コロナの話題となった。以来30数回にわたり新型コロナ

に関連する話題を取り上げてきたが、初めの頃はメディア-特にテレビのバラエティー

番組に対する私の”違和感“を述べることが多かったように思う。

初期における日本の戦略は“感染のピークをなるべく後ろにずらし、その間に医療体制

を整え死亡数の最小化を図る”というもので、スピード感には不満があったが、世界と

の比較においては“結構うまくやっているのではないか”というのが私の感覚であった。

ところがメディアの多くは、極端な例を取り上げるなどして行政側の不備を追求するこ

とに明け暮れ、とくにテレ朝の“PCR検査数を拡大せよ”という主張は、それがあまり有

効ではないと分かった後まで続いた。

私は当初から、感染症爆発(パンデミック)に対する評価は人口に対する死亡率であ

り、その影響を受けたその他の要因(医療崩壊により本来の治療や手術を受けられなか

ったケースなど)を含めたものとすべきで、最終的には平均寿命の変化となって表れる

はずだと主張してきた。そして後に、その考え方は何も私の独創ではなくてメディアが

それを(敢えて?)言わないだけのことであったことが分かった。

やがて日本の死亡率の低さは世界に注目され始め、ノーベル賞の山中先生がそれを”フ

ァクターX“と名付けて、その要因(X)を探る動きが活発になった。

そして、「ファクターX」の候補に上がってきたのは次のようなものだった。

・肥満率 ・遺伝子 ・生活習慣 ・BCG ・交差免疫(類似したウィルスに感染)

しかしそれらは何れも決め手を欠くものであったため、当ブログでは「ファクターXes

なのか?」(2020.6.15)と題して複合要因の可能性について述べた。

私の関心はその後も「ファクターX」から離れることはなかったが、10月になって、ふ

と昔のNHK番組を思い出し録画を調べてみた。それはNHKスペシャル「人体」の第4集

「腸」(2018.1.14)という番組である。これが放映された2018年には、まだ新型コロ

ナは登場していなかったのでアレルギーや多発性硬化症などを対象としているが、要す

るに“免疫の暴走による重症化”を防ぐ機能として腸内細菌が重要な役割を果たしている

という次のような最新の研究結果を紹介したものだ。

 

“いわゆる免疫の暴走によって発症する疾患を持つ患者の便には、クロストリジウム菌

が著しく少ないことが判明する。詳細に調べると、この菌は100種類ほどあり、その中

の17種が一緒になるとメッセージ物質(酪酸)を発出する。すると、これを受け取った

免疫細胞が免疫の暴走を抑制するTreg 細胞に変身する。日本人の腸内細菌は免疫力を

コントロールする物質を出す能力がずば抜けて高く、腸内細菌の組成から出身国を推定

すると日本人については正答率が100%であったという調査もあった。”

つまり、日本人の腸内フローラの特異性が推定されたのである。

 

新型コロナに感染しても大した症状が出ない人と、あっという間に重症化して死亡に至

る患者の差はなにゆえに生じるのか。持病の有無や年齢だけでは説明できないその謎

が、私たちの恐怖の根源でもあったわけだが、やがてそれは免疫の暴走(サイトカイ

ン)が起きるかどうかであるということが分かり、そのカギを握るのが腸内細菌である

ことも、最新の研究成果で専門家の間では知られていた。にもかかわらずファクターX

の候補に上げられなかったのはなぜなのか。その理由は不明だが、おそらく、データ不

足と直近の対策に結び付けようがないからであろう。

しかし最も重要なのは、感染を防ぐことではなく重症化しないことである。季節性イン

フル程度の毒性ならばせいぜい学級閉鎖くらいの対策ですむからだ。

詳細を知っているわけではないが、実は免疫の暴走を抑える遺伝子というのもあるらし

い。CD55という遺伝子のSNP(塩基が一つだけ異なる変異)がそれだ。そもそも

ヒトのゲノムは解読されたと言っても、分かったのはタンパク質をつくる指令を出して

いる遺伝子だけであって、ゲノム全体の約1.5%に過ぎない。それ以外は“ごみ”のような

ものと言われてきたが、本当は何らかの役割を持っていそうな気がしてならない。

さらなるゲノムの解明と腸内フローラの研究は、感染症対策としても今後の大きな課題 

であり希望でもある。

新型コロナは行政面における日本の弱点と課題をも浮き彫りにした。

その一つはワクチンの開発である。国民の多くは日本の医療分野は世界のトップレベ

にあると信じていたが、ワクチンについては輸入に頼らざるを得なかった。その原因

は、重大な副作用を発生させた三種混合ワクチンの失敗によって生じた厚労省と製薬会

社の消極性にあるという説もあるが、今回初めて承認されしかも大量に使用された

mRNAワクチンの安全性がほぼ証明された実績を踏まえ、日本のワクチン開発に是非と

も予算を投入してもらいたいと思う。

もう一つは法的な問題である。パンデミックや大規模災害などはいわゆる“有事”に該当

すると思うのだが、日本はその切り替えがどうもうまくいかない。日本の防災システム

自治体ごとに編成されており、広域にわたる災害に対しては様々な制約がある。だか

ら広域或いは大規模な有事において最も頼りになるのは自衛隊しかないのだが、自衛隊

災害派遣都道府県知事、海上保安庁長官、空港事務処長などの要請に基づくことに

なっている。つまり、端から広域・大規模災害を想定していないような仕組みとなって

いる。大規模な災害に対しては直ちに政府が動く必要があるが対応は常に抑制的であ

る。つまり、国民の権利や自由を制限することに慎重である。運の悪いことに、阪神

路の時は自社さ連合の村山政権で、東日本大震災の時は民主党の菅政権だったのでそれ

が顕著に表れてしまった。

繰り返すが、大規模の災害等に際して自治体の能力は貧弱であるばかりか、対応すべき

組織や人員そのものも被害を受けており機能しないケースが多い。また、複数の県知事

等から災害派遣の要請があったとき、その優先順位を誰が何に基づき判断するのか。

そもそも派遣要請という手順が必要なのか。重要なことが何も決まっていないように見

える。

国全体としての効率的なシステムを考えるならば、ヘリ搭載の病院船を有し、災害派遣

を本来任務とする部隊を組織編成すべきかと思うが、憲法に何の規定もない自衛隊がな

し崩し的に変身を続けるのもいい事とは思われない。

 

話が先に進みすぎたようなので元に戻そう。

各国の新型コロナ対策は、つまるところ“その国の平均寿命に現れる”と述べたが、よう

やくその結果がいくらか見えるようになってきた。

2019年から2022年の日本の平均寿命は次の通りである。(2023年は今年の7月ごろ発表

される)

 年    男性          女性

2019  81.41         87.45 

2020  81.64 (+0.23)     87.74  (+0.29) 男女ともに過去最高値

2021  81.47 (-0.17)   87.58 (-0.16) コロナの影響

2022  81.05 (-0.42)   87.09 (-0.49) コロナの影響

 

以上の通り、2020年は新型コロナによる(とされた)死者が3,466人あったもののイン

フルエンザが流行しなかったことなどにより、過去最高の平均寿命を記録した。いわゆ

る超過死亡率(平年を上回る死亡率)は、欧米などに100%(2倍)を超えるものが

出る中で、日本はマイナス3%(35,000人に相当)とコロナの影響を感じさせない数値

となった。

しかし2021年は、重症化しやすいデルタ株の感染拡大により16,771人が亡くなり10年ぶ

りに(東日本大震災以来)平均寿命が短くなった。翌23年は次々に変異を繰り返して免

疫をすり抜けるオミクロン株の流行で4万7,635人もの犠牲者が出たため平均寿命が0.5歳

近く短くなった。

これが世界と比べてどうかということになるが、ようやく一つの信頼できる研究成果が

このほど(5日前の3.21)発表された。詳細なデータは確認できていないが、共同通信

記事によると、

“米ワシントン大の研究所を中心とした国際共同チームが、「世界の疾病負荷研究」の

一環として、204の国と地域の人口動態統計や国勢調査など2万種類を超えるデータを使

い、新型コロナによる死亡率や平均寿命の変化を計算した。その結果、21年の世界全体

の平均寿命は71.7歳で19年に比べて1.6歳短くなった。これは過去半世紀に起きたどの自

然災害や紛争よりも甚大な影響を及ぼしたものである。この2年でアメリカは2歳、ペル

ーは6.6歳、平均寿命を下げ、日本の平均寿命の延びは0.2歳に鈍化した。“

(下線部は分かりやすいように筆者が修正、厚労省のデータと異なる理由は定かでない

が、例えば自殺などを除外するといった処理をしたのかもしれない)

まだ中間レポートのようなものではあるが、これを見る限り日本の新型コロナ対応は、

結果として上出来であったと評価するのが公平な態度であろう。しかしそれを日本政府

の手柄というにはいささか抵抗があるのも事実だ。

「これまで」は「これから」によって決まる(評価される)のである。

 

前に「ウィルスプラネット」(J-116)で述べた通り、ウィルスは地球環境や生物の進化

に大きく関係している。彼らは宿主を絶滅させることはないが、消えてなくなることも

ない。今後も、いつの日か新型のコロナやインフルが必ず現れ私たちを悩ませるだろ

う。その時に備え、世界が今回のパンデミックの教訓を生かせるかどうかとなると、

悲観的な気分にならざるを得ないが、日本として改善すべき要件はかなりはっきりして

いる。やるかどうかの問題である。しかしながら、裏金問題に明け暮れる国会ばかり見

せられると期待感は薄らぐばかりだ。

 

最後に、蛇足ながら「平均寿命」について念を押しておく。

平均年齢とは死んだ人の年齢を平均した数値ではない。各年齢毎の死亡率をもとに計算

した、あと何年生きられるかという推定値(期待値)である。だから「平均余命」と

呼ぶのが正しく、年齢ごとの表として発表される。その0歳の平均余命を一般に「平均

寿命」と呼んでいるのである。日本人男性の平均寿命が81歳で自分が80だからといっ

て、“余命いくばくもない”と考えるのは大違いで、80歳の余命は8.5歳あり、その85歳に

たどり着けば、余命はさらに6歳ばかりある。まだまだ先は長いのである。

                          2024.03.26