樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

ペナントの行方(J-146)

2024年のプロ野球オールスター・ゲームは、セ・パが仲良く星を分けたと言えば聞こえ

がいいが、両軍が放った安打数の合計が77、本塁打12本と球史に残る乱打戦であった。

これまでのレギュラーシーズンは、両リーグ合わせて3割打者がわずか3人、本塁打も17

本がトップという明らかな“投高打低”の状況であったため、“ボールが違う”とか何らか

の申し合わせがあったのでは”といった噂さえ流れる始末。打たれた投手がニタニタ

うような緊張感のないゲームが面白いはずはなく、私は二試合とも前半でチャンネルを

変えた。

何はともあれ、明日からは後半戦が始まる。後半戦といっても、すでに90試合ほどを消

化しているので残りは50数試合程度しかない。果たして頂点に立つのはどのチームか、

その予想の前にとりあえず現在の成績を見てみよう。

 

まずパリーグであるが、こちらはソフトバンクが2位に10ゲーム差をつけて首位を独走

中だ。これまでに10ゲーム以上をひっくり返した例がないわけではないが、選手層の厚

ソフトバンクが失速するというシナリオは描きにくく、他のチームはCSの短期決戦に

かけるしかない。3位までに入る可能性は西武以外の4チームが持っているが、最後にソ

フトバンクを倒す力はないだろう。

分からないのはセリーグである、7月に入って巨人に6連勝があり少しバラけてはきた

が、少し前まで上位4チームが1ゲームの中で”もぐらたたき“の様相を呈していた。

現在の状況と今後の予想に資するデータ(私見)を示すと次の通りとなる。

 

     勝 負け 分け G差 総得点 総失点 得/失 総QS 先発勝利 失策

巨人   46 38   5      ―   261   228      1.145      53         35   29

広島   43 37      4       1        234         205      1.141      61         36   41

横浜        45    42      1         1.5       308         301      1.023      51         31   59

阪神     43    42      5          1         262         244      1.073      63         30   59

中日     38 46      6         4.5     211         284      0.742      53         26   44

ヤクルト  36  47  4  1.5  307  315    0.975   39     22      44

 

このとおり4位の阪神までがゲーム差3.5以内にひしめき合っており、1週間もあれば

ことごとく順位が入れ替わってもおかしくない。

一般に、詳細なデータとして示される数値として、チーム打率・チーム防御率・本塁

打数盗塁数などもあるが、それらはつまるところ得点ないし失点として表れるとして、

まず総得点を総失点で割った数値を出してみた。この数値が大きいほど勝ちも多いはず

だというわけだが、上位4チームの数値はかなり接近している。それだけ今後の予想も

難しいということになる。

次に「総QS」と「先発勝利」という欄がある。

QSとは先発投手が6回以上を3点(自責点)以内に抑えた場合を言い、勝利に結びつく数

字として、この回数が多い程良い先発投手とされる。この表ではローテーションを担う

主力投手だけでなく先発したすべての投手のQSを足し合わせた数値を示している。

「先発勝利」というのは、先発した投手に勝ち星が付いた試合数である。

もう一つ、「失策」数を加えたのは、失策はムードや試合のいわゆる“流れ”に大きな影

響を与えるからである。

以上、これらの要素を踏まえて、各チームの特徴と今後の展開を予想してみよう。

<巨人>

・得点/失点比率でわずかに広島を上回り1位、攻撃と防御のバランスがとれている。

・広島阪神に比べQS数が少ない。先発投手が4.5人(戸郷、山崎、菅野、グリフィン+井

 上)で誰かが抜けるとガタガタになる恐れがある

・先発投手が勝利投手になる比率で他チームを圧倒している。つまり先行逃げ切り型の

 スタイルが確立している。失策も最も少ない。

・ヘルナンデス(5月)若林(6月)に加え7月加入のモンテスと開幕後の補強に成功し 

 た。

・伝統的に1番バッターとクローザーに悩みを抱えていたが、丸と大勢でほぼ解消した

<広島>

防御率の良い先発投手を6人揃え、クローザーも安定している。

・ところが、その先発陣に案外勝ち星がついていない。15試合に先発し防御率0.82の大

 瀬良が4勝1敗、開幕投手でQS10の九里が4勝6敗、つまり攻撃のエンジンがかかるの

 が遅く接戦となることが多い。

・全員野球で、波に乗れば大型の連勝もあり得るが、選手層が薄いので主力にけが人が

 出れば一気に崩れる可能性がある。

・何故か中日に3勝9敗と大きく負け越している。後半戦もこの傾向が続けば優勝は難し

 くなる。

<横浜>

・打線に破壊力があり得点力が最も高いが失点も多い。

・投手陣は、今永、バウアーの抜けた穴があまりにも大きく、東だけがたよりである。

・クローザーにも不安を抱えている。

・8勝0敗の東以外に貯金を殖やせる先発がいないので優勝は難しくCSの短期決戦にかけ

 るしかない。

<阪神

・昨シーズンの優勝メンバーがそのまま残っており、投手陣にも余裕があるにもかかわ

 らず、才木投手以外のほぼ全員が不調である。

・とくに野手陣の個人成績は惨憺たるありさまで、各部門のランキング上位に阪神の名

 前がない。

・実は阪神はこれまで連覇したことがなく、優勝の翌年は元気がないのが常なので、

 それを考えると打つ手がない。

<中日>

・得点力があまりにも低く、Aクラス入りも難しい

投手力はまずまずだが勝ち越しているのは高橋(宏)のみ

・広島に9勝3敗なので波乱要因にはなりうる

<ヤクルト>

開幕投手のサイスニードが15試合に先発して防御利率4.56、1勝4敗という実績がす

べてを物語っている。他チームなら一度ローテーションを外すところだが、それもでき

ないのがこのチームの辛いところ。Aクラス入りは難しく投手陣の立て直しが必要だ。

 

私の分析は以上の通りだが、今シーズンの特徴としてQSが勝利に結びついていないとい

ことが挙げられる。これまでは、6回を3点以内に収めれば勝利の確率が高くなるからこ

そのクオリティー・スタートであったわけだが、それがどうもその程度ではクオリティ

ーとは言い難い状況だ。

技術の進歩とデータの活用で先発投手への負担は増々大きくなり、いわゆる分業化が進

んでいるため5回を1~2失点におさえることがより重要になっている。1試合に投入され

る投手の数は5,6人というのが普通になり、それに備えたピッチングスタッフが必要に

なるということだ。

 

では最後に、私の最終結果予想を披露させていただこう。

パリーグソフトバンクセリーグは巨人が優勝し、CSも同チームが制する。

日本シリーズは巨人が4勝2敗で勝ち日本一になる。根拠は、交流戦が巨人の2勝1敗で

あったからという単純な理由である。その3戦で戸郷、グリフィン、菅野が投げていな

いことも有利に働くと見る。

少々巨人びいきが過ぎるとお思いだろうが、それは仕方がない。私は巨人ファンなので

ある。公平な態度を装いながら巨人への応援メッセージを書いたのである。

ゆるされよ。

                           2024.07.25

同じ釜の飯と頂芽優勢(Y-66)

海上自衛隊のヘリパイロットから、縁あって三菱重工のテストパイロットに転職し、そ

れから10数年経過したころの話です。

三菱重工には知る人ぞ知る「社是」があり、その第一番目には

  • 顧客第一の信念に徹し、社業を通じて社会の進歩に貢献する

と謳われています。

転職の際には複数の人から、“官から民へ意識を変えて”というアドバイスを貰いました

が、私はこの社是のおかげでその必要はないと思いながら勤務していました。顧客は自

衛隊であり言い換えれば日本国であったからです。

ある日のことです。

私の事情をよく知るある技術者(N氏)が、こんな風に話を切り出してきました。

自衛隊の同期の皆さんの絆の強さにはいつも驚かされます」

「どういうことですか」と尋ねると、

「M(私)さんの後輩だと思いますが、自分たちの同期生の一人を『あいつは素晴らし

い、同期生の希望の星だ』みたいなことを皆が言うんですよ。悪口を言う人はひとりも

いないんです。民間なら同期生はライバルですから、あんなふうな関係は生まれませ

ん。ちょっとうらやましくもありますね」というのです。

実際には、もっと長々とその経緯を話してくれたのですが、要約すればそんなところです。

「そこにはまあ“同じ釜の飯効果”と“頂芽優先現象”があるでしょうね」と答えると、

「それはまたどういう意味ですか?」と聞いてきます。

「同じ釜の飯というのは、文字通り共同生活の歴史があるということです。つまりガラ

ス張りのような環境の中で、それぞれの資質や性格、リーダーシップの有無などが浮き

彫りになります。だから、誰もが認める奴というのが自然に形成されることが多くなる

んじゃないですかねえ」

「なるほど。で、もうひとつはなんでしたっけ?」

「頂芽優勢です頂芽というのはてっぺんの芽という意味で、植物にみられる性質です。

たとえばひまわりや朝顔なんかでは茎の先端にある頂芽だけがぐんぐん伸び、側芽の成

長は抑えられます。成長を促すのはサイトカイニンという物質ですが、一方頂芽からは

オーキシンという物質が側芽に送られてこれが側芽の成長を抑制します。人間社会でも

よく似た現象があって、最初に頭角を現した人には、頂芽に養分が優先的に送られるの

と同様に、優先的にチャンスが与えられることが多いのです」

「しかし、チャンスを与えるのも評価するのも、それは教官や上司であって同期生では

ありませんよね」

「その通りです。”同期の星”が常に頂芽になるわけではありません。Nさんがお知り合

いになったクラスは、たまたまそれが一致しているというケースなんでしょうね。実は

頂芽にはリスクも多いのです。植物なら虫や獣に食べられることもあるでしょうし、人

間社会では部下のミスや不祥事に足を掬われることもあるでしょう」

「頂芽が挫折するとどうなりますか」

「頂芽がだめになると、頂芽からのオーキシンが送られなくなりますから側芽のどれか

が頂芽になってどんどん成長するようになります。花づくりで行う“ピンチ”はこの性質

を利用して分枝を増やす作業です。人間社会も同じで、先頭を走っていた人が失脚する

と誰かが取って代わるわけです。それは組織的にみると案外うまくいっているケースも

多いのではないでしょうか。地位が人を創るという言葉の通りですね。同期生からする

と、ようやく同期の星が頂芽になったと喜んでいるケースもあるでしょう。実はです

ね、“種”にも面白い性質があるんですよ。花の種などを撒いてみると分かるんですが、

品種による差異はありますが、同じ環境のはずなのに何故か芽は一斉に出てこないので

す。おそらくその直後に霜が降りたり何かに食べられたりして全滅するというリスクに

備えているのです。何もなければ、あとから出てきた芽は太陽の光をさえぎられてあま

り育ちません。しかし、先に出た芽が何らかの理由で失われると、見事に取って代わり

ます。まるで大器晩成のごとくです。さきほど品種による差異があると言いましたが、

たとえばカイワレ大根をみてください。ほぼ均一に育っています。野菜などはこのよう

な形になることが多いのです。人の手による品種改良は植物が持っていた本来のリスク

に備える能力を失わせているかもしれません」

「なるほど、なんとなくMさんのおっしゃりたいことが読めてきました」

「そうです。歴史的に見ると、まるで誰かがシナリオを描いたかのように、その時代そ

のタイミングに必要な人物が登場してきますが、近年だんだんとそれがなくなってきて

いるような気がしませんか」

「人類の野菜化現象ですか」

「うまいこと言いますね。野菜というのは個性があってはいけませんからね。曲がった

キュウリは売れません。それどころか大きすぎるキュウリもだめなんですから」

・・・・・・・・・

こんな昔話をふと思い出したのは何故なのかわかりませんが、きっかけは都知事選挙

ったような気がします。都知事選は、メディアの視点は「与野党対決」でしたが、野党

の星蓮舫氏は”2位じゃダメ?“どころか惨敗(3位)に終わり、2位の座は石丸氏に奪われ

ました。石丸氏は、人口わずか3万人足らずの元安芸高田市市長で、議会との激しいバ

トルがネット社会で拡散したことで有名になり、任期途中で投げ出して都知事選に立候

補した人物です。目立った実績はなく、少子化対策に”一夫多妻制度“を挙げるなど、た

だの”目立ちたがり屋”かと思わせるようなところがあります。しかし、多くの若者たち

は彼を”希望の星“に見立てるしかなかったのかもしれません。

今、日本の政治・経済界には“希望の星”が見当たらないのです。

その原因を考えるとき、またまた頭に浮かぶのが”同じ釜の飯“と”頂芽優勢“です。

45年前、松下幸之助が「松下政経塾」を開設したとき、明治維新における「松下村塾

を連想したのは私だけではなかったでしょう。この塾から新しい日本のリーダーが生ま

れそうな期待感が間違いなくありました。以来50人を超える国会議員を輩出し、1期生

の中からは野田佳彦首相も生まれました。しかしながら、松下政経塾出身者としてのま

とまりがあるようには見えません。最大のチャンスは「日本新党」が結成されたときで

したが、その新党の党首は身内のスキャンダルが報じられると、支持率が高いままなの

に政権を投げ出してしまいました。そして、それに代わるべき“側芽”も控えていなかっ

たのです。

既得権益の塊とも言うべき自民党からは公認・推薦を受けられず、卒業生の多くは民主

党系の政党に頼ることとなり、寄せ集めの野党第一党の右派に属しながら離合集散の波

間に沈んでいます。既に相当の勢力になっているのですから、新党の名乗りを上げるか

維新の党を乗っ取るくらいのことは出来そうなんですが、そんな勢いは全くありませ

ん。入塾者もはじめの頃は各期15名程度で総勢60名を超えるほどの盛況でしたが、現在

は42~45期の20名に減少しています。この先もあまり期待は持てないような気がします。

その原因はどこにあるのでしょうか。

これはあくまでも想像ですが、共同生活をしているかのように見えて、実は塾生同士の

緊密度案外低いのではないかと思うのです。つまり同じ釜の飯効果が出ていないと思う

のです。現在首相候補に名乗りを上げているのは5期の高市早苗氏一人ですが、応援団

が見当たりませんね。この政経塾の塾生としての生活や研修の詳細は分かりませんが、

塾生を限界まで追い詰めるような修行的な教育訓練の場はあるのでしょうか。それがな

いと”絆“は生まれにくいのです。

極端な言い方になりますが、“教育は平等である必要がない、頂芽優勢の原理を取り入

れよ”と考えてはどうでしょう。スポーツの世界における成功はまさにそれです。

今世紀を混迷の世紀と呼ぶ人もいるようですが、政治・経済・思想いずれの分野におい

をても、“よきリーダーがいない”という現実が、世界の危機に繋がっているような気が

してなりません。

                         2024.07.23

 

 

 

 

笹生と渋野・気になる二人(J-145)

ゴルフファンにとって、今年の全米女子オープンはたまらない4日間となった。

1946年から続くこの最高の舞台に、過去最多となる20人の日本人選手が出場し、しかも

連日リーダーボードを賑わしてくれたのである。

東京五輪「金」で今シーズン8戦6勝と、いわば無双状態にあるネリー・コルダがPAR3

の12番で10打を叩くなど、難コースというよりは意地悪なコースに嵌まってビッグネ

ームが次々に崩れてゆく中で、日本人選手は見事14人が予選を突破した。

さらには、なんと眠りから覚めたかのように、笹生優花と・渋野日向子がワンツーフィ

ニッシュを決め込んだのである。

この大会がいかにビッグであるかは、その賞金額を見ればよくわかる。

賞金総額は昨年よりも100万ドル増額されて1200万ドル(約18.8億円)、優勝賞金も240

万ドル(約3.7億円)に跳ね上がったが、これはプロスポーツ全般の男女格差を是正する

動きに沿うもので、21年に笹生が同大会で優勝したときの賞金が100万ドルであったこ

とを考えると隔世の感がある。

日本人選手が獲得した賞金の合計は、約480万ドル(約7.6億円)に上り、これは賞金総

額1200万ドルの40%に当たる。個人ランキングもかつては「賞金ランキング」で示され

るのが普通であったが、これを適用すれば、ランク1位のネリー・コルダ(6勝、290万

ドル)に続いて笹生が260万ドルで2位に入り、渋野はこの準優勝だけで3位のハナ・グ

リーン(133万ドル)と僅差の4位(132万ドル)に付けたことになる。

あらためて今大会を振り返ってみよう。

初日、笹生は(-2 )で単独首位と好スタートを切る。アンダーパーはわずか4人しかい

ない。他の日本人選手では、5T(E)に岩井千怜、吉田優利、15T(+1)に河本結、

渋野日向子、古江彩佳、22T(+2)に山下美夢有、小祝さくら、鈴木愛らが名を連ね

た。

2日目、笹生は1打落として2T(-1)となったが、小祝、渋野、岩井が踏ん張って5T

に並ぶ。

そして3日目を終え、翌日の決勝を前にした順位とスコアは次のようになった。

   順位  スコア(Today) 選手名    (国名)

    1   -5  (-4 )  ミンジー・リー (豪)

    1   -5    (-3 )  アンドレア・リー(米)

    1   -5    (-1 )  ウィチャネ・メーチャイ(タイ)

    4   -3  (-4 )   渋野日向子   (日)

    5   -2  (-1 )   笹生優花    (日)

    6   +1  ( E )   小祝さくら   (日)

    6   +1   ( E )   イム・ジンヒ   (韓)

 

ここまでの経過から決勝ラウンドもビッグスコアは出そうになく優勝候補はこの7名に

絞られたように思われた。競馬風に予想すれば、本命はメジャー2勝でランキング9位の

ミンジー・リーで動かぬところ、あとはひいき目に見て、対抗がランキング30位で今回

崩れる気配のない笹生優花、大穴が3日目を4アンダーと上昇気運に乗る渋野といったと

ころであった。

ところが、最終日はまさかの嬉しい展開が待っていた。結果は次の通りだ。

 順位  スコア (Today)  選手名      (国名)

 優勝   -4   (-2)   笹生優花      (日)

  2   -1   (+2)  渋野日向子     (日)

  3T    E    (+5)      アンドレア・リー   (米)

  3T    E      (-4 )    アリー・ユーイング  (米)

  5    +1   (-1)  A.ユボル               (タイ)

  6T    +2      (+7)    W.メーチャイ            (タイ)

  6T  +2   (-2)  古江彩佳       (日)

  6T  +2   (-2)  A.ティティクル   (タイ)

  9T  +3   (+2)  小祝さくら     (日)

  9T    +3   (+1)   竹田麗央      (日)

  9T   +3    (+8)  ミンジー・リ     (韓)

   

  赤文字で示した通り、最終日を(-5)のトップで迎えた3選手は全員が貯金をすべて吐

き出し、優勝候補筆頭のミンジー・リーに至っては9位まで順位を下げた。

終わってみれば、アンダーパーはわずかに二人、我慢比べのような大会の9Tまでに5人

の日本人選手が名を連ねた。

そこには韓国・欧州勢の姿はなく、何だか勢力地図を塗り替えたように、日本とタイの

存在感が拡大した。

このトレンドはしばらく続くかもしれない。

 

笹生優花は2019年JLPGAプロテストに合格すると翌年8月NEC軽井沢、ニトリレディース

と初優勝から2戦連続という鮮烈なデビューを果たした。21年からは主戦場を米国に移

し、19歳という最年少記録のおまけつきで全米女子オープンを制した。実はこの時も、

優勝を競ったのは日本人の畑岡奈紗でスコアも4アンダーであった。この年の東京五輪

に、彼女はは母の国籍フィリピン代表で出場し9位に入った。22~23年はあまりいい

結果が得られなかったが、24年に入ってからは上位に食い込むことも多く、そろそろと

いう気配を感じさせてはいた。彼女はまだ22歳という若さである。5大メジャー制覇も

夢物語ではない。

渋野日向子は笹生より1年早い2018年のプロテストに合格し、彼女もまたその翌年早々

鮮烈なデビューを飾る。国内4勝どころか8月の全英オープンを制し、“スマイルシンデ

レラ”の異名とともに世界の人気者となった。東京五輪が予定通り2020年に行われてい

れば日本代表になっていたに違いないが、その後コロナ禍の無観客のゲームが多くなる

とともに彼女の成績は低迷した。22年主戦場を米国に移してからは試行錯誤の繰り返し

で、同年の全英で3位と健闘したほかはこれといった実績がなく、今年に入ってからも

6/10が予選落ちという最悪の状態が続いていた。実は、アンダーパーで終えたのは

この全米OPが初で、準優勝は本人がいうとおり”奇跡的“な結果なのである。

しかし、実は”これから”の彼女が、もがき苦しんだ”これまで“の彼女を決める(評価す

る)のである。

さしあたり、8月22日からセント・アンドリュースで開かれる全英女子OPが楽しみだ。

笹生に続き2度目のメジャータイトルを是非ともつかんでほしい。

その前に、8月7日からはパリ五輪での大会がある。日本代表は畑岡奈紗と誰かという状

況にあったが、全米の結果で笹生と誰かという状況になり、畑岡、古江、山下が僅差で

並んでいる。カギを握るのは6月20日からの全米女子プロ選手権である。渋野はちょっ

と離されているが、このメジャー大会で優勝でもすれば滑り込めるかもしれない。

いずれにせよ、ここしばらくは目が離せない二人である。

                          2024.06.09

 

 

日本人は外国人嫌いだと?(J-144)

5月17日(日本時間18日)ロサンゼルス市は、ドジャースの大谷選手を市議会に招き、

この日を「大谷翔平の日」に制定するという決議文を手渡し祝福した。

その夕刻、彼はこれに応えるかのようなリーグの先頭に立つ13号ホームランを放ち、チ

ームの勝利に貢献した。後にわかったことだが、5月17日は彼の父徹氏の62歳の誕生日

でもあった。やはりこの男、尋常ではない。

今シーズンは投げないことになっているものの、術後の経過は予想以上に良いようで、

もしかすると、ポストシーズンでの登板もあるのではないかという期待さえも膨らんで

くる。樗木もまた、“大谷翔平依存症”とでも言いたいような状態で、世の出来事への感

受性や批判精神が鈍化しているような気がしなくもない。とは言いながらも、久々に違

和感を覚える記事に出会ったのでこれに食いついてみたい。

 

それは、毎日新聞論説委員や専門委員が曜日ごとに担当しているコラムで、私の知的

好奇心を刺激してくれるお気に入りである。以前にも、火曜日の「火論」(大治朋子専

門記者)に噛みついた記憶があるが、今回は5月11日土曜日の「土記」(伊藤智永専門

編集委員)が対象だ。そのタイトルは「憲法に潜む外国人嫌い」、なんだか週刊誌っぽ

い表題である。

内容的には、憲法制定過程のGHQと日本政府側のやり取りなどが紹介されていて興味深

いものだが、なんとなく意図的な“ミスリード“が感じられるのである。

まずは書出しの部分だ。

 

“「日本人は外国人嫌いだ。移民を望まないから問題を抱えている」バイデン米大統領

の発言は、選挙集会用の失言ではなかった。3月にラジオ局のインタビューでも同じこ

とを云っていた。日本政府は遺憾の意を伝えたが、米側は撤回も謝罪もしていない。

集会は1日。憲法記念日前だった。実は77年前に施行された日本国憲法に「日本人の外

国人嫌い」は埋め込まれている・・・・“  なんだか怪しい気配がする。

実際のバイデン発言を調べてみると次のとおりである。

“今年11月の大統領選挙では、自由とアメリカと民主主義が問われる。何故か?私たち

は移民を歓迎するからです。考えてみてください。どうして中国は経済的にこれほどひ

どく停滞しているのか。どうして日本は大変な思いをしているのか。ロシアはどうし

て?インドはどうして?これらの国々は外国人を嫌っているからです。移民に来てほし

くないのです・“

 

このスピーチが行われたのは資金集めのパーティーで、聴衆の大半はアジア系米国人で

あったらしい。だからバイデンは、聴衆やその祖先(移民1世)を称賛してご機嫌取り

をしたというのが真相のようだ。加えて、トランプ氏との違いを強調する狙いもあった

であろう。

また、“3月のラジオ局インタビュー”というのは、接戦が予想されるネバダアリゾナ州

を訪問するのに合わせて収録されたスペイン語放送のラジオ局である。だから、ここで

中南米系移民にアピールしたものとみるのが自然である。例えちゃ悪いが、前静岡県

知事の失言(あなた達は野菜を作っている人達とは違うと新人職員にスピーチ)とそう

変わらず、取り立てて騒ぐほどのものではない。

 

記事はかなり省略された表現となっているが、紙面のスペース上の都合もあるだろうか

ら大目に見ることもできよう。しかし、許されざるミスリードは、バイデン大統領の発

言にある「これらの国々」を「日本人」と言い換えてしまったことだ。「これらの

国々」を「日本」に置き換えるのは度が過ぎるし、「日本」と「日本人」もまた同じで

はないのである。

私がよく観るTV番組に、テレ東の「Youは何しに日本へ」と「世界!ニッポン行きたい

人応援団」がある。これらを見て日本人が外国人嫌いだと思う人は先ずいまい。むしろ

真逆である。普通の日本人は外国人が大好きなのだ。嫌いなのは日本を敵視する外国人

であり極めて限定的だ。“日本が好きな外国人”にとって、日本は天国なのである。

それは善し悪しの問題ではなく好き嫌いの話であり、カッコつければ美醜の問題だ。

誰かさんのように約束を反故にしたり、1000年も恨みを持ち続けるのは美しくないので

ある。

 

第一生命経済研究所がまとめたデータによると、移民の比率は豪・加・独・米・英・仏

の順に高い。日本は2.2%で、米国の15.3%に比べればかなり低いが、中国の0.1%やイ

ンドの0.4%と同率に語られるレベルでもない。また、移民が自国の発展に与える影響が

どうかという問いに対する回答を(良い、分からない、悪い)の比率で見ると、次の通

り各国の事情は複雑である。

豪(27:31:42)、加(53:30:7)、米(44:41:16)、日(28:43:28)

個の資料からすれば、移民は好ましいとはっきりしているのはカナダのみで、最も移民

比率の高いオーストラリアでは意外にも国民の42%が悪い影響をもたらしていると考えてい

る。アメリカや日本はどちらとも言えないというのが本音だろう。(アメリカの“分か

らない41”の本音は“悪い”が多いとみる)

 

土記は、バイデン発言が日本の憲法記念日前だったという訳の分からないこじつけから

本論へと移って行く。要約(抜き書き)すると次のとおりだ。

憲法3原則の人権はすべての人は生まれながらにして平等の理念をもとにしている。フ

ランス人権宣言しかりアメリカ合衆国憲法しかり、ドイツ基本法も同様だ。一方日本国

憲法に「人」は登場しない。主語は「国民」だ。・・・政府は文語体から口語体に直す

どさくさに主語を自然人から「国民」に戻し外国人の保護規定を削った・・・はざまに

置き去られたのは旧植民地出身者だ。憲法施行の前日、政府は「台湾人の一部と朝鮮人

は当分の間、外国人と見なす」最後のポツダム勅令を発出。3年後、国籍法で「国民」

を「日本国籍保有者」と規定した。”

そして最後を次のように結ぶ。

“今日の憲法解釈は、人権を国民だけの権利とはしていない。だが、外国人の権利は限

定的であるべきだとの通念は広く根強くある。戦争放棄を享受するだけの護憲論はおめ

でたい。”

 

「土記」の主張するところはどこにあるのか。一読したときには、憲法の「国民」を

「人民」に書き換えろと言っているようにも思われた。だがそうではない。次いで、国

籍法は憲法違反だから無効だと言いたいのかとも考えた。しかし締めの言葉“戦争放棄

を享受するだけの護憲論はおめでたい”ですべてが混乱してきた。いくつかの用語につ

いて調べもした。

 

そもそも「法」は誰のために作られているのか。実は、それを簡単に知る方法がある。

「法」はその条項に違反することができるもののために作られていると考えればよい。

例えば、刑法199条には

“人を殺した者は死刑又は無期若しくは3年以上の懲役に処する”と定められている。この

条項に違反することができる立場にあるのは裁判官である。だから刑法は裁判官を縛る

ためにある。つまり裁判官のために作られている。

では憲法はどうか。憲法は国民が国家権力に縛りをかけたものである。違反できる立場

にあるのは国家権力だ。憲法には普遍的な“理想”が延べられていることもあるが、あく

までも国内法であって、これを外国にも当てはめようとすればそれは内政干渉になる。

たとえそうでなくても、例えば日本国憲法第25条の“すべて国民は、健康で文化的な最

低限度の生活を営む権利を有する”の「国民」を「世界の人民は」に置き換えても実行

は不可能だ。

「土記」が持ち出した「フランス人権宣言」や「アメリカ合衆国憲法」も外国人の権利

を保障しているわけではない。実態としては、自国内の多民族が対象とみるべきだ。

一般に、論文における結論や主張は最後の部分に現れる。とすれば「土記」の主張もぼ

んやり見えてくる。どうやら言いたいのは“今日の憲法解釈は人権を国民だけの権利と

はしていない。だが、外国人の権利は限定的であるべきとの通念は根強くある。“とい

うことらしい。つまり、”外国人の権利は限定的であるべきという通念”に異を唱えてい

るのである。

それを前の部分と合わせて超具体的に推論すれば、“いわゆる在日の権利を保障せよ”と

いうことになる。在日の権利はほぼ日本国籍保有者と同等であるから、さらに参政権

も与えるべきだとでも言いたいのだろうか。もしそうなら大いに異議がある。

「土記」には、“はざまに置き去られたのはポツダム勅令で外国人と見なされた旧植民

地出身者だ”という記述がある。ポツダム勅令というのは、形の上では日本政府が発し

政令だが実際はGHQの指令であり“鶴の一声”だ。だから台湾人や朝鮮人から日本国籍

を奪ったのはGHQである。しかし、彼らを日本人の檻の外に出したのは、彼らを被害者

とみての温情でもあったのである。彼らの多くは帰国しても良かったのだが、間もなく

始まった朝鮮戦争がそれを拒んだ。しかし日本は、一度は日本人となっていた彼らを無

視することはしなかった。「特別永住者」としてほぼ日本人と同等の権利を与え生活保

護をも行っているのである。

その根拠は、国民を対象とする憲法25条ではなく、昭和29年に発出された「生活に困窮

する外国人に対する生活保護の措置について」という知事あての厚生省通知にある。

しかし、見ようによっては、この通達そのものに憲法違反の疑いがかかってもおかしく

ない。

特別永住者」が日本国籍を取得することは比較的容易である。それをしない理由の第

一は、”別に困ることがないから“ということらしいが、本音を勘繰れば、兵役の義務も

なく、また日本国民としての義務を果たす必要もないからという打算とも考えられなく

もない。

しかし、そこは品の悪い”嫌味“となるのでこれ以上は書かないことにする。

                           2024.05.19

ドジャースのアレ大谷のアレ(J-143)

例年6月になると大暴れする大谷翔平が、今年は5月早々ゾーンに突入したかに見える。

5月5日からの3試合で、12打数9安打(うち本塁打4本)、打率(.370)ホームラン数

(11)となって共にランキングのトップに駆け上った。

今シーズンの大谷は、昨年の肘の手術のリハビリ期間ということで打者に専念する。

術後の影響は懸念材料の一つでもあったが、それに加えて大きな環境の変化もあった。

所属チームがエンゼルスからドジャースに替わり、それに伴いリーグも変わり、そして

結婚、さらには信頼していた専属の通訳の裏切り行為という衝撃的なスキャンダルまで

発生した。

開幕直前に、米・データサイトの[fangraphs]が予想した今シーズンの大谷の成績は、次

の通りファンにとっては納得しがたい数値であったが、それさえも危ぶまれるような出来事が続いた。

       < 米データサイトが発表した2024大谷の成績予想>

       打率:.273 本塁打38 102打点 OPS .926 WAR 4.3

しかし、彼はやはり“並の人”ではなかった。最初のホームランまでは9試合を要したもの

の、その後は何事もなかったように本来の姿、というより期待以上のパフォーマンスを

見せ続けている。

チームもまた2勝1敗のペースでナショナル・リーグ西地区の首位を独走しているが、開

幕前は主力級が故障入りしている投手陣に不安を抱えていた。それを救ったのは、レイ

ズから移籍のグラスノーと新人の山本由伸である。そして、二人の獲得には大谷の存在

が大きく影響したことが知られている。

さて、タイトルに書いたドジャースの”アレ“は、言うまでもなくワールドチャンピオン

である。

このチームは、1958年にブルックリンから移転してロサンゼルス・ドジャースとなった

が、以来NL西地区の強豪として輝かしい歴史を築いている。しかし、1988年からはワ

ールドチャンピオンの座が遠のき、2020にやっと32年ぶりの優勝を果たしたところであ

る。ところがそれで満足するチームではない。常にどん欲に”アレ“を狙う西の横綱なの

であり、今シーズンも110勝前後の勝ち星をあげ、間違いなく地区優勝すると見られて

いる。問題はポストシーズンであり、エースカーショーの復帰と強力打線のコンディシ

ョンが鍵となるだろう。

一方大谷の”アレ“は、彼の言によれば”ヒリヒリする9月“である。彼の願いは、シーズン

最後の試合まで、観客席でなくグランドに立っていたいのである。

しかし、ファンとしての“アレ”は、やはり“賞”であり”タイトル“だ。最大の期待は何と言

っても”三冠王“獲得だ。そして、その夢は次第に現実味を帯びてきているのである。

 

2020年8月10日、この日10勝目をあげた大谷は25本の本塁打と合わせて、ベーブ・ルー

ス以来104年ぶりの2桁勝利2桁本塁打を達成した。以来何かにつけてベーブ・ルース

比較されることが多く、今年日本人最多となる通算176号を打った時には、それが両者

とも725試合目であったとか、481.2イニング投げて38勝19敗の大谷に対し、ベーブ・ル

ースは37勝19敗であったというマニアックなデータまで引っ張り出されたりもした。

しかし、実際の二人はむしろ似ていないところが多い。

ベーブ・ルースは、初めの数年はよく打つ投手、あとの大部分は元投手であった強打者

といったイメージだ。真に二刀流と言えるのは1919年の1シーズンに限られている。

彼が投打共に規定回数に達したことは一度もなく、これに対して大谷は、2022年に投打

の規定回数をクリアしている。だから、“二刀流”という意味では、大谷はすでにベー

ブ・ルースを超えていると言っても言い過ぎではない。2021年には投打5部門での「ク

インティプル100」(100投球回、100奪三振、100安打・打点・得点 超え)、及び

「オールスターにおいて投打で先発」ということでギネス・B に登録されてもいる。

しかし、打者として例えばホームラン数などはベーブ・ルースに遠く及ばず、これを超

えることはおそらくできない。そもそも、野球は個人競技ではないので、時代が違う選

手の数値を比較してもあまり意味がなく、むしろタイトルにこそ意味がある。ベーブ・

ルースは一度も三冠王になったことがなく、大谷には今後数年間そのチャンスがある。

また、人間的にも二人は全く異なっている。ベーブ・ルースは不良少年に近く、矯正施

設のような学校で育った。そこで恩師とも言うべき牧師に出会い野球を教わったのが始

まりだ。しかし性格は変わらず、審判に殴り掛かったこともあり、女癖も悪かったらし

い。似ているところと言えば”人気の高さ“くらいしかないのである。ベーブ・ルース

ベーブは”baby"から来た愛称で、そのベビーフェイスも人気の一因であるが、大谷もど

ちらかと言えば”赤ちゃん顔“で、強いて言えばそこも似ている。

 

長い歴史を持つMLBでも三冠王を獲得した選手はわずか6名しかいない。昨年引退した

ミゲル・カブレラが2012年、45年ぶりの三冠王となったが、このときの彼の成績と昨シ

ーズンNLの各部門1位の成績を見てみてみよう。

 2012 三冠王カブレラの成績   本塁打44、打点139、打率 .330

 昨シーズンの各部門1位の数値  本塁打47、打点112、打率 .336

 

まだシーズンの約1/4を消化したところではあるが、大谷が今のペースでシーズンを

終えるとしたときの予想値を計算すると、「本塁打48、打点118、打率 .370」とな

る。・・・ということは、いわゆる射程圏内だ。

ドジャースの打線は1~4番まで3割バッターが並び、そのあとも長打力のあるバッター

が控えているため、相手投手も大谷と勝負せざるを得ない。だからこそ今シーズンはそ

の可能性が十分ある。

 

2シーズン前のこと、当ブログで大谷がフルカウントになった後の結果を、ランキング

上位の選手と比較したことが在る(「二刀流の完成と伸びしろ」20022.10.15)。

かなりマニアックなデータではあるが、そこには大谷がさらに飛躍するためのヒントが

はっきりと表れていた。大谷は他の強打者に比べて3ボール2ストライク後の成績が極端

に悪かったのである。当時その原因は、大谷自身のストライクゾーン(打てる領域)が

広いために、ついつい届かないところまで手を出してしまうからではないかと考えてい

た。それは必ずしも的外れではなかったと思うが、それよりもチーム事情が大きな要因

だったかも知れない。当時のエンゼルスは大谷の長打が頼りで、彼の四球はチャンスに

つながりにくかったし、大谷自身もそれが分かっていたからそうなったという意味だ。

ところがドジャースは全く違っている。層が厚く、後に強打者が控えているので大谷の

四球はチャンスにつながる。大谷も無理やり打ちに行ってはいないように思う。おそら

く、今シーズンの彼の打率は自己最高となるだろう。

 

というわけで、今シーズン大谷の最終成績に対する私の期待値は

  打率:.333 本塁打:55 打点:125 で三冠王達成!

というところまで跳ね上がる。

そして来シーズンから3年以内に投手部門でもタイトルを取るチャンスが必ず巡ってく

ると予想する。

素人が何を寝ぼけたことをと非難されるかもしれないが、かつて玄人(野球評論家)た

ちのほとんどは、“二刀流を続ける限り投打とも平凡な記録に終わるだろう”と言ってい

たではないか。

だから大谷に関する限り、素人も玄人もないのである。玄人はあっさり肩書を捨て、フ

ァンの一人になった方がむしろさわやかというものだ。賢い”元メジャーリーガー”は、

既にその方向に舵を切っている。

                        2024.05.12 

武器禁輸のこれまでとこれから(J-142)

 

国内政治と世の関心が自民党議員の裏金問題で明け暮れる中、日・英・伊三国の共同開

発による次期戦闘機の第三国への輸出が認められることになった。これまで難色を示し

てきた公明党が一定の条件のもとに歩み寄ったのである。

日本もようやく世界の常識が通用する国になったかと思う一方で、かつては民生用の部

品や軽トラックでさえやり玉に挙げられたことを思うと、なんだか居心地の悪さも感じ

ないこともない。

この大きな国の方針転換は、さほど大きな騒ぎに発展しなかったが、「毎日新聞」は、

3月16日“「戦闘機輸出自公が合意」「殺傷兵器第三国に解禁」”と題して一面トップで報

じ、社説には「なし崩しで突き進むのか」と批判的な記事を載せた。

その主張するところは、“「安全保障政策の根幹に関わるルールが与党の合意だけで変

更されてよいのか」、「平和国家としての日本の在り方が問われている」、「なし崩し

で進めるべきでない」“というもので、朝日新聞もまた、同じ記者が書いたのかと思う

ほどに同じ論調だ。

そもそも、“武器を売らない国日本=平和国家”というキャッチ・コピーは、「キャッ

チ・コピー」という言葉が和製英語であるのと同じで、世界には通用しない。極論すれ

ば、単なる“思い込み”か“自己満足”のようなものである。PKO派遣に踏み切るまでは、武

器を買うくせに売ってくれない国、カネは出しても兵力は派遣しない国=ずるい日本と

も見られていたのである。

武器禁輸政策は法律化されたものではない。勿論条約でもない。だから、方針転換は必

然であったかもしれないが、とりあえずこれまでの歴史を振り返ってみよう。

 

武器禁輸政策の変遷

1967年佐藤内閣

 最初に武器禁輸を打ち出したのは佐藤内閣で、①共産国 ②国連決議で禁じられた国

③紛争当事国又はその恐れのある国への輸出を禁じるといういわゆる武器禁輸三原則を

表明した。この内閣は三原則が好きで同じ年に非核三原則も打ち出し、74年佐藤はノー

ベル平和賞を受賞した。

1976三木内閣

 佐藤内閣が示した対象国以外の国に対しても”武器の輸出を慎む”として、”慎む“とい

う表現ながら、これが事実上の”全面禁輸“へと発展した。

1983中曽根内閣

 米の要請を受け例外的に米への技術供与を認め、以降個別の案件としてミサイルの共

同開発やPKOに従事する他国軍への銃弾提供などが認められた。

2005小泉内閣

 米とのミサイル共同開発・生産を例外化

2011野田民主党内閣

 三原則の緩和を決定。国際共同開発・生産などでパートナー国への輸出を容認。

 パートナー国が第3国へ輸出する場合は日本の事前同意を義務付け

2014安倍内閣

 一定の条件下で武器(防衛装備品)の移転(輸出)を解禁する新たな「防衛装備移転

三原則」を策定した。禁止する相手は従来通りだが日本の安全保障に資する場合は移転

を認めるとともに移転先から第三国への移転は日本の事前同意が必要とした。

 ただし、完成品については「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」に限定され、

実績としてはフィリピンへの警戒管制レーダー一件のみ。

2023岸田内閣

 殺傷能力のある武器であってもライセンス生産しているものはライセンス元に輸出で

きるとした。具体的には「PAC2」「PAC3」のライセンス生産品を米に輸出

2024岸田内閣

 日・英・伊共同開発による次期戦闘機の第三国への輸出を認めるという方針転換。

 ・第三国への輸出を認めるケースは防衛力整備上の必要性があり、完成品の輸出が必 

  要な国際共同開発・生産に限る

 ・個別のプロジェクトごとに協議、今回は次期戦闘機に限定

 ・輸出が認められる国は協定などを締結している次の15か国

  (米・英・独・仏・伊・スエーデン・オーストラリア・印・シンガポール・タイ・

   フィリピンインドネシア・マレーシア・ベトナム・タイ・UAE)

 

言うまでもなく、今回の方針転換は戦闘機の第三国への輸出を許容するという点で、こ

れまでとはレベルの違う路線変更である。これに対する各政党の反応はどうであった

か、各党政務調査会長等の見解を見てみよう。

 

各政党の見解

公明党(高木)

 戦闘機は攻撃兵器と捉えられがちだが、我が国は専守防衛のために必要。輸出するの

であればそれも国の防衛に必要。憲法の問題はクリアしている。

立憲(長妻)

 与党だけで決めて閣議決定というのは拙速だ

維新(青柳)

 (今回の戦闘機だけと言わず)例外なく第三国への輸出を認めるべき。何かと面倒く

 さい国はパートナー国として選ばれなくなるだろう。

共産(小池書記局長)

 憲法違反であり、断固抗議し撤回を求める。

国民(榛葉幹事長)

 公明がブレーキをかけながらも門戸を開いたことを高く評価

 

以上の通り変われば変わるものである。その背景にはロシアのウクライナ侵攻もあるだ

ろうが、敢えてクレームをつければ次の通りだ。

・立憲は手続きのみを言っており、態度を明らかにしていない。おそらく党内はまとまっていないのであろう。

・公明の言っていることは支離滅裂、連立与党の座を失いたくないだけの妥協策に見える。

・維新と共産は正反対でありながらどちらも筋が通っている。つまるところは憲法に帰着する問題だ。

国民はいつもながらの”長老的発言“である。

 

戦闘機やミサイルなど最先端技術の結集ともいうべき武器の国際共同開発は、単なる経

済効果に留まらず、むしろ政治外交的に大きな意味がある。兵器における相互依存は、

安全保障において条約以上の重みを持つ可能性があるのだ。

これからも国際共同開発・生産には積極的であるべきだと考えるが、だからと言って、

憲法に手を付けずに”なし崩し“に進めてゆくわけにもいくまい。

                         2024.4.6

新型コロナのこれまでとこれから(J-141)

このブログを始めたのは2020年3月で、新型コロナによる閉じこもり生活がきっかけの

一つであった。だから当然のごとく、Jシリーズ(爺怪説)の第一回目は「COVID

-19は最強か」と題した新型コロナの話題となった。以来30数回にわたり新型コロナ

に関連する話題を取り上げてきたが、初めの頃はメディア-特にテレビのバラエティー

番組に対する私の”違和感“を述べることが多かったように思う。

初期における日本の戦略は“感染のピークをなるべく後ろにずらし、その間に医療体制

を整え死亡数の最小化を図る”というもので、スピード感には不満があったが、世界と

の比較においては“結構うまくやっているのではないか”というのが私の感覚であった。

ところがメディアの多くは、極端な例を取り上げるなどして行政側の不備を追求するこ

とに明け暮れ、とくにテレ朝の“PCR検査数を拡大せよ”という主張は、それがあまり有

効ではないと分かった後まで続いた。

私は当初から、感染症爆発(パンデミック)に対する評価は人口に対する死亡率であ

り、その影響を受けたその他の要因(医療崩壊により本来の治療や手術を受けられなか

ったケースなど)を含めたものとすべきで、最終的には平均寿命の変化となって表れる

はずだと主張してきた。そして後に、その考え方は何も私の独創ではなくてメディアが

それを(敢えて?)言わないだけのことであったことが分かった。

やがて日本の死亡率の低さは世界に注目され始め、ノーベル賞の山中先生がそれを”フ

ァクターX“と名付けて、その要因(X)を探る動きが活発になった。

そして、「ファクターX」の候補に上がってきたのは次のようなものだった。

・肥満率 ・遺伝子 ・生活習慣 ・BCG ・交差免疫(類似したウィルスに感染)

しかしそれらは何れも決め手を欠くものであったため、当ブログでは「ファクターXes

なのか?」(2020.6.15)と題して複合要因の可能性について述べた。

私の関心はその後も「ファクターX」から離れることはなかったが、10月になって、ふ

と昔のNHK番組を思い出し録画を調べてみた。それはNHKスペシャル「人体」の第4集

「腸」(2018.1.14)という番組である。これが放映された2018年には、まだ新型コロ

ナは登場していなかったのでアレルギーや多発性硬化症などを対象としているが、要す

るに“免疫の暴走による重症化”を防ぐ機能として腸内細菌が重要な役割を果たしている

という次のような最新の研究結果を紹介したものだ。

 

“いわゆる免疫の暴走によって発症する疾患を持つ患者の便には、クロストリジウム菌

が著しく少ないことが判明する。詳細に調べると、この菌は100種類ほどあり、その中

の17種が一緒になるとメッセージ物質(酪酸)を発出する。すると、これを受け取った

免疫細胞が免疫の暴走を抑制するTreg 細胞に変身する。日本人の腸内細菌は免疫力を

コントロールする物質を出す能力がずば抜けて高く、腸内細菌の組成から出身国を推定

すると日本人については正答率が100%であったという調査もあった。”

つまり、日本人の腸内フローラの特異性が推定されたのである。

 

新型コロナに感染しても大した症状が出ない人と、あっという間に重症化して死亡に至

る患者の差はなにゆえに生じるのか。持病の有無や年齢だけでは説明できないその謎

が、私たちの恐怖の根源でもあったわけだが、やがてそれは免疫の暴走(サイトカイ

ン)が起きるかどうかであるということが分かり、そのカギを握るのが腸内細菌である

ことも、最新の研究成果で専門家の間では知られていた。にもかかわらずファクターX

の候補に上げられなかったのはなぜなのか。その理由は不明だが、おそらく、データ不

足と直近の対策に結び付けようがないからであろう。

しかし最も重要なのは、感染を防ぐことではなく重症化しないことである。季節性イン

フル程度の毒性ならばせいぜい学級閉鎖くらいの対策ですむからだ。

詳細を知っているわけではないが、実は免疫の暴走を抑える遺伝子というのもあるらし

い。CD55という遺伝子のSNP(塩基が一つだけ異なる変異)がそれだ。そもそも

ヒトのゲノムは解読されたと言っても、分かったのはタンパク質をつくる指令を出して

いる遺伝子だけであって、ゲノム全体の約1.5%に過ぎない。それ以外は“ごみ”のような

ものと言われてきたが、本当は何らかの役割を持っていそうな気がしてならない。

さらなるゲノムの解明と腸内フローラの研究は、感染症対策としても今後の大きな課題 

であり希望でもある。

新型コロナは行政面における日本の弱点と課題をも浮き彫りにした。

その一つはワクチンの開発である。国民の多くは日本の医療分野は世界のトップレベ

にあると信じていたが、ワクチンについては輸入に頼らざるを得なかった。その原因

は、重大な副作用を発生させた三種混合ワクチンの失敗によって生じた厚労省と製薬会

社の消極性にあるという説もあるが、今回初めて承認されしかも大量に使用された

mRNAワクチンの安全性がほぼ証明された実績を踏まえ、日本のワクチン開発に是非と

も予算を投入してもらいたいと思う。

もう一つは法的な問題である。パンデミックや大規模災害などはいわゆる“有事”に該当

すると思うのだが、日本はその切り替えがどうもうまくいかない。日本の防災システム

自治体ごとに編成されており、広域にわたる災害に対しては様々な制約がある。だか

ら広域或いは大規模な有事において最も頼りになるのは自衛隊しかないのだが、自衛隊

災害派遣都道府県知事、海上保安庁長官、空港事務処長などの要請に基づくことに

なっている。つまり、端から広域・大規模災害を想定していないような仕組みとなって

いる。大規模な災害に対しては直ちに政府が動く必要があるが対応は常に抑制的であ

る。つまり、国民の権利や自由を制限することに慎重である。運の悪いことに、阪神

路の時は自社さ連合の村山政権で、東日本大震災の時は民主党の菅政権だったのでそれ

が顕著に表れてしまった。

繰り返すが、大規模の災害等に際して自治体の能力は貧弱であるばかりか、対応すべき

組織や人員そのものも被害を受けており機能しないケースが多い。また、複数の県知事

等から災害派遣の要請があったとき、その優先順位を誰が何に基づき判断するのか。

そもそも派遣要請という手順が必要なのか。重要なことが何も決まっていないように見

える。

国全体としての効率的なシステムを考えるならば、ヘリ搭載の病院船を有し、災害派遣

を本来任務とする部隊を組織編成すべきかと思うが、憲法に何の規定もない自衛隊がな

し崩し的に変身を続けるのもいい事とは思われない。

 

話が先に進みすぎたようなので元に戻そう。

各国の新型コロナ対策は、つまるところ“その国の平均寿命に現れる”と述べたが、よう

やくその結果がいくらか見えるようになってきた。

2019年から2022年の日本の平均寿命は次の通りである。(2023年は今年の7月ごろ発表

される)

 年    男性          女性

2019  81.41         87.45 

2020  81.64 (+0.23)     87.74  (+0.29) 男女ともに過去最高値

2021  81.47 (-0.17)   87.58 (-0.16) コロナの影響

2022  81.05 (-0.42)   87.09 (-0.49) コロナの影響

 

以上の通り、2020年は新型コロナによる(とされた)死者が3,466人あったもののイン

フルエンザが流行しなかったことなどにより、過去最高の平均寿命を記録した。いわゆ

る超過死亡率(平年を上回る死亡率)は、欧米などに100%(2倍)を超えるものが

出る中で、日本はマイナス3%(35,000人に相当)とコロナの影響を感じさせない数値

となった。

しかし2021年は、重症化しやすいデルタ株の感染拡大により16,771人が亡くなり10年ぶ

りに(東日本大震災以来)平均寿命が短くなった。翌23年は次々に変異を繰り返して免

疫をすり抜けるオミクロン株の流行で4万7,635人もの犠牲者が出たため平均寿命が0.5歳

近く短くなった。

これが世界と比べてどうかということになるが、ようやく一つの信頼できる研究成果が

このほど(5日前の3.21)発表された。詳細なデータは確認できていないが、共同通信

記事によると、

“米ワシントン大の研究所を中心とした国際共同チームが、「世界の疾病負荷研究」の

一環として、204の国と地域の人口動態統計や国勢調査など2万種類を超えるデータを使

い、新型コロナによる死亡率や平均寿命の変化を計算した。その結果、21年の世界全体

の平均寿命は71.7歳で19年に比べて1.6歳短くなった。これは過去半世紀に起きたどの自

然災害や紛争よりも甚大な影響を及ぼしたものである。この2年でアメリカは2歳、ペル

ーは6.6歳、平均寿命を下げ、日本の平均寿命の延びは0.2歳に鈍化した。“

(下線部は分かりやすいように筆者が修正、厚労省のデータと異なる理由は定かでない

が、例えば自殺などを除外するといった処理をしたのかもしれない)

まだ中間レポートのようなものではあるが、これを見る限り日本の新型コロナ対応は、

結果として上出来であったと評価するのが公平な態度であろう。しかしそれを日本政府

の手柄というにはいささか抵抗があるのも事実だ。

「これまで」は「これから」によって決まる(評価される)のである。

 

前に「ウィルスプラネット」(J-116)で述べた通り、ウィルスは地球環境や生物の進化

に大きく関係している。彼らは宿主を絶滅させることはないが、消えてなくなることも

ない。今後も、いつの日か新型のコロナやインフルが必ず現れ私たちを悩ませるだろ

う。その時に備え、世界が今回のパンデミックの教訓を生かせるかどうかとなると、

悲観的な気分にならざるを得ないが、日本として改善すべき要件はかなりはっきりして

いる。やるかどうかの問題である。しかしながら、裏金問題に明け暮れる国会ばかり見

せられると期待感は薄らぐばかりだ。

 

最後に、蛇足ながら「平均寿命」について念を押しておく。

平均年齢とは死んだ人の年齢を平均した数値ではない。各年齢毎の死亡率をもとに計算

した、あと何年生きられるかという推定値(期待値)である。だから「平均余命」と

呼ぶのが正しく、年齢ごとの表として発表される。その0歳の平均余命を一般に「平均

寿命」と呼んでいるのである。日本人男性の平均寿命が81歳で自分が80だからといっ

て、“余命いくばくもない”と考えるのは大違いで、80歳の余命は8.5歳あり、その85歳に

たどり着けば、余命はさらに6歳ばかりある。まだまだ先は長いのである。

                          2024.03.26