樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

アカツキジャパンに注目(J-140)

東京オリンピック」・・・と言っても3年前の話ではない。60年前の1964年(S39)

に開催された、第一回東京オリンピックから話を始めたい。

国土の大半が焦土と化した敗戦から、わずか20年足らずで奇跡の復興を果たした日本は

この年、世界に先駆けて高速鉄道「新幹線」を開通させ、その数日後にアジア初となる

オリンピックを開催した。国民はまだ豊かさを手にしたとは言えなかったが、希望の光

に満ちた幸せな時代でもあった。

この大会で日本は米ソに次ぐ16個の金メダルを獲得し、スポーツの分野においても大い

なる躍進を遂げた。当時私は学生の身分であったが、今でも体操男子の圧倒的パフォー

マンス、女子バレーボールがソ連に勝った決勝戦、マラソン銅の円谷幸吉の力走、柔道

無差別級決勝で神永がヘーシングに敗れた場面などが目の奥に焼き付いている。

しかし、選手らの活躍に喝采を送る一方で、ある種の“限界”を感じたのも事実である。

金メダル(16)の内訳は、男子が体操(5)、レスリング(5)、柔道(3)ボクシン

グ(1)、重量挙げ(1)で、女子はバレーボール(1)のみというところがそれだ。

つまり、当時から“お家芸”とも言われた体操と階級別の軽量級に偏っているのである。

実態としては、開催国の特権で多くの種目にエントリーはしたが、体格によるハンデは

如何ともしがたく、とくに女子ついては、将来の展望が見えないという状況であったと

思う。

ところがパリ大会を迎える現在の様相は、60年前には予想もしなかったレベルにある。

メダルを期待される競技はむしろ女子が優勢で、なんと投擲競技までが有力候補に挙げ

られている。陸上、競泳、球技などの多くは、やはり体格によるハンデを感じるが、い

わゆる”歯が立たない“状態からは完全に脱した感がある。

それらの中で、にわかに注目を集めているのが”アカツキジャパン“だ。

アカツキジャパン」とは、バスケットボール代表チームの愛称である。ご存知の通

り、男子・女子及び三人制(3X3)を含めたすべてに適用される愛称である。

3X3に出場できるのは8か国で、日本は6月の最終予選で最後の3枠を争うことになる

が、従来の5人制については男女ともに既に出場権を獲得している。これは、モントリ

オール大会(1976)以来で48年ぶりの快挙ということになる。

意外と言えば意外だが、これまでの実績では女子の方が好成績を収めている。

中でも、1970年代は“黄金時代”とも言うべき時代で、アジア大会での優勝、世界選手権

準優勝、オリンピック5位などの実績がある。しかしその後は低迷を続け、ようやく

2010年代に渡嘉敷来夢吉田亜沙美と言った選手がチームをけん引して、2013年のアジ

ア選手権で優勝した。

そして、2017年に就任したトム・ホーバスHCのもとでアジアカップの4連覇を達成し、

2021年の東京オリンピックで銀メダルを獲得するという快挙を成し遂げた。

この大会、日本はランキング(9)位でアメリカ(1)、フランス(5)、ナイジェリ

ア(17)と予選リーグを戦い、アメリカ以外の2チームに勝って決勝トーナメントに進

んだ。準々決勝の相手はベルギーで、ベルギーにリードされたまま終盤を迎えたが、残

り16秒で林咲希が逆転の3ポイントを決め大逆転勝利した。準決勝では予選で戦ったフ

ランスを再び粉砕して決勝に進んだが、決勝ではアメリカに75-90で完敗し、金には届

かなかった。とは言え、堂々たる殊勲の「銀」にファンは感動し十分満足した。

その直後、トム・ホーバスは、強い要請を受けて男子チームのHCに就任した。

 

日本男子チームは、2014年にFBAから国際試合資格停止処分を受けた(JBAの内紛=ガ

バナンス不足)影響などもあり長く低迷を続けていたが、2019年になって2006年以来と

なるW杯に出場した。この時日本のランキングは(48)位で、アメリカ(1)、トルコ

(17)、チェコ(24)と同組となったが、全敗して予選突破はならなかった。

2021年の東京オリンピックにも開催国枠で出場したが、これも予選でスペイン(2)

、アルゼンチン(4)、スロベニア(16)に完敗した。

そのタイミングでトム・ホーバスがHC就任した。

そこから2年、2023年8月に日本・フィリピン・インドネシア共催によるW杯が開催され

ると日本チームは鮮やかに“変身”していた。

一次リーグではドイツ(11)、オーストラリア(3)に敗れたが、フィンランド(24)

に勝利して17-32順位決定戦に進み、ベネズエラカーボベルデに連勝して全体の19位

となった。これがアジア勢の最上位であったことで、パリオリンピックの出場資格を

早々に確定することになった。ランキングも37位(アジア6位)から26位(アジア1位)

へとジャンプアップした。このW杯でパリ行きを決めたのは8か国で、残りの4か国は大

会直前に行われる最終予選で決まる。その中にはスペイン(2)、ラトビア(8)、リ

トアニア(10)、スロベニア(11)、ブラジル(12)、イタリア(13)などの強豪チー

ムが残されている。

いずれにせよ、パリ大会で日本が戦う相手はすべて自分よりランキング゙の高いチーム

となることが予想され、勝ち星を挙げるのは容易でない。しかし、勝利の可能性がない

わけではない。少なくとも”歯が立たない”という試合にはならないはずである。

 

一方女子のパリ大会出場資格は、この2月に4会場に分かれて行われた最終予選で12ヵ国

すべてが決定した。最終予選は4つのグループが4か所の会場に分かれ、各グループの上

位3チームが出場資格を得る。一見楽そうに見える条件だが、最終予選だけに強豪ぞろ

いで勝ち抜けるのは容易ではない。とくに日本(ランキング9位)と同組になったの

は、スペイン(4)、カナダ(5)、ハンガリー(16)で“死の組”とも呼ばれた厳しいグ

ループであった。

日本は初戦で難敵スペインを86-75で下し出場に王手をかけた。第2戦はランキング下位

ハンガリーである。順当に勝てばパリ行きが確定する。そしてその戦いは、いきなり

9-0の滑り出しで楽勝かと思われた。ところが後半に入ると、地元の大応援を受けてハ

ガリーの大反撃が始まった。そしてまさかの大逆転、75-81で敗れてしまったのであ

る。このゲームの勝敗を決めたのは、23-43というリバウンドの差であった。

2試合を終えたところで各チームが1勝1敗の横並びとなり、日本のパリ行きは最後の

カナダ戦に勝利するしかないという状況に追い込まれた。カナダが勝てば日本のパリ行

きは消え、ハンガリーがパリ行きの切符をつかむ。当然ハンガリーの観客はカナダの応

援に回り完全アウェイの雰囲気の中で最後の決戦が始まった。試合は終盤まで互角の展

開となったが、79-79の同点から宮崎のドライブでリードを奪い86-82で逃げ切った。

最終予選を突破してパリ大会に出場するチームは次の12ヵ国となったが、ランキング上

位の力は拮抗しており、9位の日本女子にもメダル獲得の可能性が十分ある。

 

・フランス   (7)    ・オーストラリア(3)   ・ベルギー  (6)

アメリカ   (1)    ・日本     (9)   ・ナイジェリア(12)

・中国     (2)    ・スペイン   (4)   ・ドイツ   (19)

プエルトリコ (11)    ・カナダ    (5)   ・セルビア  (10)

 

男女共に、日本の強みはスピードと3ポイントシュートだと言われているが、スピード

というよりは敏捷性を生かした攻撃パターンの多様性だと思う。そして、その主役を務

めるのが小さなPG(司令塔)のセンスである。男子では富樫勇樹(167㎝)、河村勇

輝(172㎝)という二人の“ユウキ”であり、女子では山本麻衣(163㎝)、宮崎早織

(167㎝)の二人である。この二人が同時にコート内にいる場面での、相手を翻弄する

波状攻撃は見ごたえがあり、大会でも注目されるに違いない。

そして、小柄な選手たちの活躍はバスケットボール界のすそ野を広げる可能性がある。

 

アカツキジャパンをここまで躍進させた功労者の第一は、やはりトム・ホーバスHCであ

ろう。彼は1967年生まれのアメリカ人で、NBAの選手としてはわずかに2試合の出場し

かないが、日本のトヨタペイサーズなどで4年連続得点王になるなど、日本で活躍し

てきた。2000年に引退したが、2010年JXサンフラワーズからオファーがありコーチにな

った。そして2017年から女子代表のHCを務めた。彼の強みは日本語が堪能であること

だ。奥さんも日本人であり、日本語で選手を指導する。そして、日本人の特徴を生かし

たチームをつくりあげた。しかし、指導法は(見た目だが)男子と女子では全く違って

いる。女子に対しては、感情を表に出して叱咤激励する場面が多く見られたが、男子に

対しては感情を抑え、選手たちのプライドを尊重し刺激するような姿勢を貫いている。

 

日本ではサッカー野球が人気だが、世界で見れば、競技人口1位はバレーボールで2位が

バスケットボールである。日本も10代に限れば、バレーボールや野球よりもバスケット

の競技人口が上位にある。

だからというわけではないが、今後のバスケットボール界にとってパリ大会は重要な意

味を持っている。もしアカツキジャパンが活躍を見せれば、その影響は世界に及ぶので

はないだろうか。

そんな期待を込めてアカツキジャパンに注目している。

                         2024.03.10