今月13日、政府は現行の健康保険証を2024年秋に廃止して、マイナカードと一体化した
「マイナ保険証」に切り替える方針を打ち出した。
ところが、総務省が19日に発表したように、マイナカードの普及率は、2016年1月から
6年9か月をかけて、ようやく50%越えを達成したばかりである。
どうしてこれほど普及が進まないのであろうか。
デジタル庁の調査(今年1~2月)によれば、その理由は次の通り見事に3分されている。
・情報流出が怖いから 35.2%
・申請方法が面倒だから 31.4%
・カードにメリットを感じないから 33.1%
しかし、これらの理由には誤解や考え違いと思われる部分もある。
その原因はいくつかあると思われるが、メディアのマイナカードに対する姿勢が、なぜ
か冷ややかであることも一因ではないだろうか。
例えば、10月14日の毎日新聞の「国民不在の強引な普及策」と題する社説がそれだ。
要約すれば、このような内容である。
“政府は「誰一人取り残されないデジタル化」を掲げる。そうした理念に反する政策
ではないか。確かに利便性は高まるだろう。ただ期限は設けず普及状況や医療機関の態
勢などを考慮して決めるはずだった。
カードの交付開始から7年近いが、国民の半分しか持っていない。取得手続きのわずら
わしさだけが理由ではあるまい。政府が個人情報を管理し、データを活用することへの
不信や不安は根強い。カードを持ちたくない人が保険診療を受ける仕組みはあるのか。
紛失時にはどう対応するのか。
日本では、政府に個人情報を握られることへの警戒感が払しょくされていない。成果を
急ぐあまり、混乱や不信を招いては本末転倒である。国民に対し丁寧に説明し、理解を
得る手続きを怠ってはならない。”
この社説は、マイナンバーカードの利便性を認めながら、逆に不安感を煽る論調となっ
ている。社説には執筆者の名前がない(毎日の記事は原則記名方式)ので誰が書いたの
かはわからないが、この筆者は間違いなく総務省のホームページに目を通しているに違
いない。もし読まないで描いたとすれば無責任も甚だしい。
令和2年に発せられた「マイナンバーカードの安全性」には、イラストを駆使した丁寧
な説明がある。執筆者は読者にその事実を知らせることもせずに、知らぬ顔で読者を漠
然とした不安感へと誘導し、“国民に丁寧に説明し理解を得る手続きを怠ってはならな
い”と結んでいるのである。総務省の説明に疑義があるのであれば、具体的にその部分
を追求すべきだと思うが、それはしない。一方的かつ独善的だ。だから“ビラになった
新聞”(門田隆将)などと揶揄されるのである。
名寄せとは、元々は金融機関が複数の個人口座を持つ顧客の正確性を確保するための
管理を指す用語だ。つまり、ミスの防止と業務の効率化が狙いである。行政の狙いもこ
れと似たようなものと考えてよいだろう。反対派の懸念は大げさすぎるのだ。
マイナンバーカードそのものには大した情報は入っていない。詳細な情報は各行政機関
にあるが分散管理されているので、芋づる式に個人情報が漏れることもない。
また、カードのICチップは偽造に対する耐タンパー性(いじる、勝手に変える)を有し
ており、不正に情報を読み出すとすると壊れる機能がある。さらに言えば、他人に悪用
されたとしても、被害に遭うのは概ね行政機関側で、そこはクレジットカードなどとは
異なる。
何らメリットがないから持ちたくないという理由もそれは考え違いだ、何故なら当人に
メリットがなくても(それは誤解なのだが)行政側にメリットがあるからである。つま
り行政の効率化は国民全体にとってのメリットであり、様々なサービスを受けている国
民側も協力する義務があるということだ。
マイナカードに関する誤解は他にもある。
その一つが年代別の普及率だ。今年5月、しゅふJOB総研が「仕事と家庭の両立を希望す
る主婦・主夫層」528人に対しインターネットを利用して調査した結果を公表した。
その内容は、年代が低い程マイナカードの所持率が高く、30代以下と60代以上では20
ポイント近い差があり、スマートフォンやパソコンによる申し込みが便利なことが影響
しているのではないかというものであった。
その影響かどうかは知らないが、どうやら”アナログ世代が取り残される”というイメー
ジがこのマイナカードにも定着しているらしい。しかし実態は大違いなのである。
総務省の9月末のデータによると、5歳区切りの年代別普及率ベスト5はつぎのとおり高
年齢層の所持率が高い。(2022年9月末データによるもので国民全体は49%)
1.75~79 才 56.6%
2.60~69 55.6
3.65~69 53.5
4.30~34 52.6
5.55~59 52.5
さらに意外なのは、男女別にした時の高齢男性層の高い所持率である。
1.男性90歳以上 68.6 %
2.85~89 60.3
3.75~79 60.2
4.80~84 58.6
5.60~64 55.8
総務省のデータからは、地域別の所持率についてもまた意外な事実がみてとれる。
都市別の所持率ベスト5は次の通りである。
1.宮崎県都城市 84.7%
3.石川県加賀市 76.9
5.石川県珠洲市 68.0
宮崎県や兵庫県は県全体としても1,2位なので、都城市や養父市に違和感はないが、
宿毛市の4位には少々特異な感じがする。なぜなら、高知県全体では41.3%で沖縄に次ぐ
ビリから2番目にランクされているからである。
となると、そこには何か理由があるはずである。もしかすると、普及率ランキングは
各自治体職員の熱意ランキングそのものではないのか・・・。その思いを抑えきれず、
迷惑を承知で宿毛市の市民課に電話をかけてみた。すると・・・
冷たくあしらわれるかと思いきや、予想外の丁寧な対応である。
そして、その回答も予想外であった。”特段のことはしていない”というのである。
”他の自治体さんと特に違ったことをしているわけではありませんが、割と早い段階か
ら取り組んできたので、マイナカードのメリットなどが口コミで伝わったのではないで
しょうか”といったふうに、”謙虚”そのもので、”自慢話”を引き出せない。
そこではたと気づいたのだが、実はそこがキモなのではないか。つまり、このような地
域差は、”普及作戦”の優劣からではなく、”職員のサービス精神”の差から生まれている
のではないかということである。電話対応がそれを感じさせるのである。
マイナカードの導入に反対、あるいは懸念を示してきた勢力には、正当な理由がない。
たいていは、お決まりの政府批判か自己都合によるものだ。しかし、マイナ保険証への
一本化方針発出以降、カードの利便性や安全性に関する情報も急に増えてきた。
23年3月までに全国民に行き渡らせるという当初目標の達成は無理だとしても、これか
らの交付速度は格段に加速するのではないだろうか。
2022.10.22