樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

MVP 気になる行方(J-120)

8月の終わり、大谷が所属するエンゼルスは、ホームに東部地区首位を独走する人気の

ヤンキースを迎え、今シーズン最後の3連戦に臨んだ。

しかし、チームは既にポストシーズンへの望みを完全に絶たれており、果たして観客が

足を運んでくれるかどうかということになると、はなはだ心細い状況にあった。

ところがふたを開けてみれば、連日満員の大盛況となったのである。

その理由は他でもない、MVPの有力候補アーロン・ジャッジと大谷翔平の直接対決に注

目が集まったからだ。そして、残念ながら、投手大谷対ジャッジの対決は実現しなかっ

たが、ゲームは観客が期待した通りの展開となった。

第1戦は、両者がホームランを放ち大いに沸いたが、大谷の2ランがジャッジのソロに

勝る形で、エンゼルスが4-3で勝利した。そして第2戦は、ジャッジの3ランが効い

て7-4でヤンキースが雪辱した。

ここまではともに4安打であったが、内容的にはジャッジの2ホーマー4打点が明らかに

勝っていた。

ところが第3戦、大谷は見事にその立場をひっくり返した。2点リードされた6回裏、

ランナー2人を置いての第30号逆転3ランである。しかも相手は、奪三振王の剛腕コール

投手だ。

この一発は、あまりにも強烈だった。

それは、ジャッジがややリードとみられるMVPレースにも少なからぬ影響を与えたに相

違なく、もしかするとヤ・軍はその後遺症が出るかもしれないと思わせるほどの衝撃弾

であった。

この3連戦で相対的に評価を挙げたのは大谷の方で、ますます混とんとしてきたMVPの

行方であるが、どうやらその状態は最後まで続きそうである。

先ずジャッジの成績を見てみよう。

今シーズンのボールは“飛ばない”といわれる中で、彼は既に54本のホームランを量産

し、2位以下に20本以上の差をつける圧倒的なパフォーマンスを発揮している。

ナ・リーグのトップに対しても17本の開きがあり、ア・リーグの最多記録61本も射程

圏内にある。3冠王は難しいが、打者部門のほとんどの項目で1位の座にあり、普通なら

文句なしのMVPであろう。また、もともとMVPは、成績よりも勝利貢献度が重視さ

れることから、優勝チームから選出されるべきだという意見も根強い。ヤンキースが優

勝すれば、それはジャッジにとって大きなアドヴァンテージとなるだろう。さらには、

MVPは打者部門から選出されてきた経緯があり、大谷の投手成績が軽視される可能性

がある。

昨シーズン、大谷は満票でMVPに選出されたが、それは最後までホームラン王を争いな

がら申告敬遠に泣かされたことへの同情や、大谷の二刀流がMLBのルールを変更させ

た(投手を降板しても打者として継続できる)ことへの敬意があったからであろう。

しかしその一方で、大谷自身がインタヴューに答えた“誰もやらなかっただけで、普通

の数字かも知れないし・・”というコメントに同調するグループも一定数存在する。

大谷は投手としても打者としてもチーム内トップの成績を上げており、勝利貢献度は極

めて高い。しかしチームが弱すぎてそれがアドヴァンテージにならないのである。

では、ジャッジを上回る票を獲得するためには何が必要であろうか。

そのために絶対に必要な条件は、規定投球回数規定打席数をクリアすることだ。

打席数についてはすでに達成しており、現在打率は .269で25位、打点は85で4位、

本塁打は32本で2位となっている。私が重視するOPS長打率+出塁率)は .898で

3位である。いずれもジャッジに劣るが立派な成績である。

問題は投球回数の方だ。こちらは規定ぎりぎりの状態が続いており成績表には名前が載

ったり消えたりを繰り返している。しかし、前回のアストロズ戦で8回1失点と好投し、

何とかなりそうなところに漕ぎつけた。実は規定投球回数の達成は、現代野球では厳し

すぎる条件(試合数と同じで162回)で、これを達成する投手は20人程度しかいない。

しかし、昨年達成できなかった大谷がこれをクリアすれば、投手大谷の”非凡さ“がはっ

きりと浮かび上がってくる。防御率2.58は現在5位、奪三振率は堂々の1位でK/BB(三

振/四球)5.48は5位。その上にいるのはサイヤング賞候補の超一流投手だけである。

二人の成績を比較した時、もしMVPが日本語として一般的に使われる「最優秀選手賞」

の意味であるならば、軍配はおそらく大谷に上がる。しかし、MVPにふさわしい日本語

訳は、やはり「最高殊勲選手賞」なのだ。大谷にとっては、そこが悩ましいところだ。

この後大谷は、アストロズマリナーズ、ツインズ、レンジャーズの4戦かそれにアス

レチックスを加えた5戦に登板して規定回数をクリアするはずである。とくに苦手とし

ている相手もなく、防御率や勝利数などの指標もさらに伸びていくに違いない。

いずれにせよ今シーズンのMVPは予想しがたく、最後まで分からない状況が続くに違い

ない。そればかりか、決定した後も議論が収束しないかもしれない。

というのも、そもそも二刀流をどう評価すべきかその評価尺度がないのである。

「すごい」という日本語を広め、MLBのルールを変えた男・大谷翔平は、近い将来

大谷翔平賞”を新設させることになるのかもしれない。

                       2022.09.06