樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

中国の狙いは「漁翁得利」か(J-105)

 

ロシア軍の突然のウクライナ侵攻から50日、戦況はまさに泥沼化の様相である。

現在は、ウクライナ東部が主戦場となっているが、ロシア軍の民間人大量虐殺の実態が

明らかになるにつれ、一時は期待もされていた停戦・和平交渉はどこかへ吹っ飛んで行

ってしまったようだ。 NATOからの武器支援と半ば無責任な世界の応援団に押され、

ウクライナもやすやすと白旗を揚げる訳にはいかない状況になってきた。

今後の予想については二つの見方がある。一つはウクライナ全土の制圧と政権転覆を諦

めたプーチンが、5月9日の「対独戦戦勝記念日」までに何らかの成果―例えばドンバス

地方の完全制圧―を出して勝利宣言をし、ロシア側に有利な停戦・和平交渉に持ち込む

というものであり、もう一つはまだまだ終わらず最悪2~3年は戦争状態が継続するとい

うものだ。

いずれにせよ、主導権はロシア側にあり、ウクライナには気の毒だがウィン・ウィンの

決着は望めそうにない。

世界の多くの国々は厳しくロシアを非難するものの、核のボタンを収めたカバンをちら

つかせるプーチンの前に、直接介入はできない。数次にわたって強化された経済制裁

よるロシア経済のダメージは相当な規模に及んでいるようだが、これに同調しない中・

印の貿易額の方がはるかに大きいので、その効果は限られたものとなる。

要するに、カギを握っているのは中国なのである。

毎日新聞の社説(4.10)は「大国にそぐわぬ利己主義」と題して中国の外交姿勢を次の

ように批判した。

“中国の姿勢はロシアによる侵攻から1か月以上過ぎた今も曖昧なままだ。

「主権と領土の一体性」の尊重を訴えながら、対露批判は避けている。

・・(中略)・・

中国は「国連中心の秩序」を掲げてきたはずだ。ロシアへの国際的な圧力を弱めるよう

な言動は大国としてふさわしくない。“

 

この社説、一言で言えば”甘い“。

”日頃ご立派な貴方らしくない”と阿っているようにさえ感じられる文脈だ。

識者の中には“中国は困っている”と論評する人もいる。

ロシアにもウクライナにも友好関係を維持しているからだという。

これもまた中学生レベルの分析である。

 

中国は板挟みになっているわけではない。明らかにロシア側に立っている。

しかし中ロ関係を歴史的に見れば、むしろ敵対関係にあった期間の方が長く、両国が手

を結ぶのは概ね共通の敵が存在する場合に限られている。かつての日本や今のアメリ

がそれだ。

中国は、“現在の状況を憂慮する”と言いながら、実は”いい塩梅だ“と思っているかもし

れない。戦争が長引けば長引くほど中国の存在感は増大する。両者が疲れ果てたところ

で仲裁役としての出番が回ってくれば最高だ。一方ロシアは、勝利したところで弱体化

は避けられない。それは中国に対する潜在的な脅威を低下させると同時に、米欧との対

立構造をさらに拡大させて結果的に米欧の対中圧力を分散させることになる。

偏見かも知れないが、中国は対等な同盟関係を結ぶことが嫌いな国のようである。

それはおそらく”約束“とか”契約“に対する意識が緩いからなのだろう。

だから、中露が軍事同盟を結ぶことは金輪際あり得ないと思う。

中露の信頼関係は“理”ではなく“利”によって左右されるのである。

中国は今、“何もできない”のではない。それが最も”得”だと思うから“何もしない”のだ。

待っているだけで、“嫌われロシア”の資源を優先的に確保し、廃墟と化したウクライナ

の復興支援をする“という状況がやってくる。これこそ中国のベストシナリオだ。

だから中国は傍観している。漁翁得利すなわち「漁夫の利」作戦である。

中国にとっての心配事があるとすれば、「プーチンの失脚」による終結なのだが、そこ

に至るルートは中国の態度によって大きな影響を受ける。よって今後中国の態度に変化

が生じるかどうかは、最も注視すべきポイントのようにも思われる。

                           2022.04.14