樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

憲法記念日の失望と希望(J-108)

5月3日憲法記念日の朝のこと、郵便受けに共産党の”チラシ“が投入されていた。

明らかに夏の参院選に向けた活動とみられ、”フライング“の感もするのだが、タイトル

は”ロシアは侵略戦争やめよ“となっている。その中味は、この機会にロシアを非難し、

共産党に対する負のイメージを払拭したいという意図がありありの内容だ。

要約すれば、“安保条約、自衛隊社会主義などについては、国民の意思により変えて

ゆく、日本共産党は現行憲法全条項を守る立場なので天皇制も当然守る。労働時間を大

幅に短縮させ、その自由時間を使ってそれぞれの個性や潜在的な能力を最大限発揮でき

る社会を目指す”といったところだ。

一見”みんなの党“的表現だが、よく読めば矛盾だらけ、詐欺師的文言である。

仮に政権与党の座に就いたならば、天皇制は国民の総意でないからと言って廃止に向け

た動きをするだろうし、また個人の能力や個性は、むしろ労働(仕事)において最大に

発揮されるのが民主主義の世界なのだから、そもそも労働に対する感覚が古いままだ。

何よりも、近年は憲法改正を望む国民の方が多数を占めるようになっているのだから、

何事も国民の意思により決めてゆくというのなら、改憲論議お断りという態度を改め、

憲法改正の発議をすることこそ国会議員の責務であることを再認識する必要がある。

 

憲法改正の賛否を問う世論調査は毎年行われているが、実は今年の調査には例年以上の

関心を抱いていた。言うまでもなく、ロシアのウクライナ侵攻が国民の意識を大きく変

えたのではないかと期待していたからである。ところが、実際にはあまり大きな変化は

起きなかったというのが実態だ。

細かいデータは省略するが、その数値は調査機関によって相当の開きがある。

ここ数年間の調査結果は、大まかに言えば、読売、産経、共同では憲法改正に賛成が50

~60%、反対が40%前後であるのに対し、朝日、NHKは30~40%で両者が拮抗

し、毎日はその中間と言ったところで落ち着いている。

しかしながら、今年の朝日とNHKのデータには注目すべきポイントがあると思われるの

で、そこに焦点を当ててみたい。 数値は%で()内は昨年の値である。

 

       憲法改正に 賛成   反対   9条改正に賛成   反対

   朝日    56(45) 37(44)  33(30) 59(61)

   NHK      35(33) 19(20)  31(28) 30(32)

 

NHKは電話調査なのでその影響があると思われるが、この5年間数値はほぼ変化せず、

常に“どちらでもない”が40%を超えている。NHKは他の調査と大きな乖離があること

について、自分たちの調査方法に疑問を持つべきであるのだが、不遜にも都合のいい専

門家を引っ張り出し、“改正への流れができるのではと懸念したがデータを見る限り国

民は冷静だという印象を受ける”(東大石川健治教授)などとコメントさせているから

たちが悪い。

また、朝日の調査結果は今回改正賛成が反対を大きく上回り劇的に変化した。朝日は、

その理由として女性の賛成票が増えたことを挙げている。 一方9条改正については、

相変わらず6割程度を改正反対派が占め、他社の調査と大きく異なる。

朝日の調査には、いわゆる”バイアス“がかかっていると見るべきかと思うが、いずれに

せよ、今年の憲法改正に関する世論調査結果は、全体として見れば従来と大きな変化は

なく、私の希望的予想とはかなりの開きがあった。

 

ロシアのウクライナ侵攻は「核を持つ国が核を持たない国を侵略した時、それを止めら

れるものがいない」という現実を国際社会に突き付けている。そして我が日本は、厄介

な三つの核保有国と問題を抱えながら対峙している。ウクライナは決して他人事ではな

いのである。

しかるに衆院憲法審査会で野党側の筆頭幹事を務める立民の奥野議員は「ウクライナ

問題をダシにして改憲に突き進もうとする与党の姿勢を許すわけにはいかない、ロシア

より許せないのが今の自民党だ」といい、志位共産党委員長は「日本がやるべきことは

敵基地攻撃能力ではなく東アジアを戦争のない平和な地域にすること」だという。

この人たちはウクライナに「日本国憲法をプレゼントしよう」というつもりなのか。

憲法改正に関する世論調査結果から“国民の意識はあまり変わっていない”と結論付けた

憲法学者やメディアは、それを“国民は冷静だ”と持ち上げる。

本当にそうなのだろうか。ただ能天気なだけか平和ボケなのではないか。

その想いが表題の憲法記念日の「失望」の部分である。

 

では何が「希望」なのかといえば、意外に思うかもしれないが朝日の調査にある。

朝日の調査には、「今夏の参院選で与党と憲法改正に前向きな勢力が3分の2以上の議席

を占めた方が良いと思うか」という問いがある。実はこれに対する回答で、改憲勢力

2/3以上を占めた方が良いが44%で、占めない方が良いの35%を大きく上回った。

朝日は前回の参院選前(2019年)の調査では、44対46で占めない方が良いが多かった

と残念そうに伝えているが、朝日の調査にしてこの数値なら実態はそれ以上かもしれ

ない。NHKの調査でどちらとも言えないと態度を明らかにしなかった4割を占める人た

ちの本心は、もしかすると改憲賛成派が多いのではないかとも思われ、そこに「希望の

光」を感じたのである。

                           2022.05.06