樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

ロコ・ソラーレの快(J-100)

ロコ・ソラーレに敢闘賞を

2月20日、いくつかの汚点と課題を残しながら北京冬季五輪が閉幕した。

日本は、史上最多となる18個のメダルを獲得したが、これはJ-96 で紹介したGracenote

の予想とほぼ同じ結果であり、私的にはやや不満があるものの、選手たちは期待に応え

て頑張ったと評価されるだろう。

殊勲賞を贈るならやはり高木美帆で、技能賞には小林陵侑と平野歩夢あたりで異論はな

さそうだが、敢闘賞となると候補者は多い。しかし私は、カーリングで銀メダルを獲得

したロコ・ソラーレを強く推したい。

このチームの銀メダルへの道のりは、まさに敢闘賞にふさわしいものである。

そして、仮にオリンピックを一つの営業活動として見るならば、ロコ・ソラーレの働き

はおそらくNO.1である。というのは、TVの視聴率において、1位が決勝の日本対スイス

戦、2位が準決勝の日本対イギリス戦と、このチームの競技が上位を独占しているから

だ。私自身、予選からほぼすべてのゲームを観戦したので、この事実に驚きはない。

私がカーリング・ファンになった時期は定かでないが、多分現在ロコ・ソラーレの代表

を務める本橋麻里がこのチームを立ち上げた2010年ごろだったと思う。彼女のストーン

を注視する瞳がとても美しかった記憶があるので、あるいはそこに魅せられたのかもし

れないが、以来日本チームの中でもとくにロコ・ソラーレを応援している。

 

カーリングのメッカ常呂町

ロコ・ソラーレの名付け親は本橋麻里である。彼女が北海道の常呂町出身であることか

らこのチームを立ち上げたときに”ローカル“と”常呂っ子“にちなんだロコとイタリア語

で太陽を意味するソラーレをくっつけたものだという。しかし、登録名は地名や企業名

などでなければならない規則があったため、2018年に一般社団法人になるまでは「LS北

見」で登録されていた。

常呂町は、人口が5000人にも満たないような小さな町で、その成り立ちは大正4年に遡

る。このころ、隣り合わせていた4つの村が合併して生まれた。その村の名は、常呂

少牛(ちいうし)、太茶苗(ふとちゃない)、手師学(てしまない)で、いかにもアイ

ヌを連想させるが、実はその通りで、常呂アイヌ語の「トー・コロ」で「沼・湖のあ

るところ」という意味らしい。確かに日本最大の汽水湖であるサロマ湖のほとりにあ

り、オホーツク海の流氷が接岸するいわば辺鄙な町だ。

しかし近辺には竪穴式住居の遺跡が数多く残されており、採集経済の古代には豊かで住

みやすい場所であったのかもしれない。

地図を拡大してみると、土佐、岐阜といった地名が読み取れる。しかもウィキペディア

によると、高知県佐川町岐阜県大野町を姉妹都市としているらしい。もしや開拓民か

と思い佐川町のホームページにアクセスしてみると、電話するまでもなく、詳しい説明

がある。やはり、これらの町から移住した人が多かったのである。

姉妹都市と言えば、実はカーリングの普及も北海道とカナダのアルバータ州が姉妹提携

を結んだことがきっかけで、常呂町で盛んになったのも、何も娯楽がないからとオジサ

ンたちが広場を氷で固めカーリングのまねごとをして遊んだのが始まりだ。

北海道の中でも常呂町は特にカーリング熱が高く、1988年には日本初の競技場「常呂町

カーリングホール」まで作ってしまった。

尚、常呂町は2006年から北見市の一部となっている。

 

北京への道のり

ロコ・ソラーレ発足時(2010)のメンバーは、本橋麻里、馬淵恵、江田茜、鈴木夕湖

吉田夕梨花の5名であったが、当時は中部電力が強かった。その後、2014年に北海道銀

行から吉田知那美、2015年に藤沢五月が中部電力から移籍して現在のメンバーになった

あたりから、常にトップ争いをする強豪チームとなった。

そして、2018年の平昌では予選4位で決勝トーナメントに進出し、準決勝では韓国に延

長戦の末敗れたが、3位決定戦でイギリスを5-3で破り銅メダルに輝いた。

当然次の北京大会への期待は高まったが、2021年2月の日本選手権決勝で北海道銀行

敗れ、4月末の世界女子カーリング選手権には北海道銀行が出場することになった。

この大会は、6位までに入れば北京五輪出場資格が与えられるという大事な試合であっ

たが。北海道銀行チームは11位に終わり日本の出場資格は得られなかった。

日本は、北海道銀行の成績にかかわらず、北京五輪への代表は北海道銀行とロコ・ソラ

ーレの直接対決によることとなっていたので、2021年9月、両者による日本代表決定戦

が行われた。先に3勝したチームが勝ちというこの試合で、ロコ・ソラーレは第1,2戦

を落として土壇場に追い詰められたが、何とそこから3連勝して12月の世界最終予選に

臨むこととなった。

世界最終予選に出場するのは9チーム、争うのは北京への最後の3枠である。

ところが、この総当たり戦で、スコットランド、韓国、日本が6勝2敗で並び、しかも

この3か国の直接対決が1勝1敗であったため順位はDSCで決められることになる。

DSCはドローショット・チャレンジのことで、試合開始前にいかにハウスの中心に近い

かで先攻/後攻決めるLSD(ラスト・ストーン・ドロー)の平均値である。これの成績で

スコットランドが1位となってまず出場権を獲得した。残りの二つは、2位から4位チー

ムのプレーオフである。そこで日本は韓国に勝って出場権を獲り、次いで韓国がラトビ

アに勝って最後の枠を獲得した。

このような形でかろうじて出場資格を得たスコットランド(英国)・日本・韓国の3チ

ームなのだが、面白いことに本番の北京五輪では大活躍を見せることになる。

 

北京五輪での戦いとその後

カーリングの戦いは常に長期戦となり、五輪も例外ではない。今回は10チームが出場

し、まずは総当たりの予選リーグで4位以内に入り予選突破を狙う。その4チームが準決

勝・3位決定戦・決勝を戦うことになる。つまり、あと2つ勝てば「金」、1つなら

「銀」または「銅」で2つとも負ければメダルなしというわけだ。

五輪直前、日本は2020年の4位から7位まで世界ランキングを落としていたが、メダル候

補の一角としてダークホース的なポジションにいた。コロナ禍で国際試合が制約を受け

たこともあり、ランキングはあまり当てにならないとも言われていた。

とはいえ、第1戦がランク1位のスウェーデン、第2戦が2位のカナダとなるとちょっと悩

ましい。予選突破には6勝、少なくとも5勝が必須条件とみられ、最初の2戦で連敗すれ

ば、たちまち背水の陣を敷かねばならないことになる。

そして、2月10日平昌五輪の金メダリスト、アンナ・ハッセルボリ率いるスウェーデン

との戦いが始まる。日本は前半5エンドまでを3-2と順調な滑り出しを見せたが、第6、

第8エンドにそれぞれ3点を奪われ、5-8で惜敗する。

翌11日のカナダ戦、カナダはテークアウト・ショットの成功率が悪く、逆に日本はスキ

ップ藤沢のショットが冴えわたって、8-5で勝利する。勢いに乗って、12日のデンマー

ク戦では第10エンドで3点を奪って逆転勝ちを収め、夜のROCには10-5で完勝する。

翌13日は試合がなく、次の日の対中国、韓国戦に勝利すれば予選突破の目安とされる6

勝に到達する状況となる。そして14日午前のゲームは、中国が第8エンドでコンシード

するという10-5の圧勝である。ところが、夜の韓国戦では打って変わった内容で、5点

差を付けられて第9エンドでコンシード負けを喫する。この試合では日本のミスショッ

トが目立ったが、どうやら午前中の中国戦とは氷の状況がずいぶん違っていたらしい。

そこがカーリングの難しいところだ。

迷いが出たのかプレッシャーなのか、翌15日の対イギリス戦もいいところなく4-10で敗

れてしまう。あと2試合を残すこの時点で、各チームの成績は、スイスが7勝1敗、スウ

ェーデンが5勝2敗でほぼ予選突破を決め、カナダ、日本が4-3、イギリス、アメリ

が4-4、韓国が3-4という状況で、のこり2枠はまだ先が読めない状況となった。

16日、日本はアメリカに勝って5勝目を挙げ一歩リードし、次いでカナダ、イギリス

、韓国が4-4で並んだ。これら4チームにとっての問題は、17日最終戦の相手チームにあ

った。カナダとイギリスは相手が格下のデンマークROC なので楽勝と予想されるのに

対し、日本と韓国は相手がここまでの予選成績が1,2位のスイスとスウェーデンという

厳しい相手なのである。そして番付どおり、カナダとイギリスは勝って5勝目を挙げ、

日本はスイスに敗れた。

スイスに敗れたその瞬間、ロコ・ソラーレのメンバーは、”終わった・・“という感じで

落胆していたが、そこへ予選突破の知らせが届く。

落胆の涙は一転して歓喜の泣き笑いとなった。そこへ韓国に勝ったスウェーデンの選手

たちが近づき祝福する映像が心に刻まれた。

ロコ・ソラーレのメンバーは、スイスに勝つしか道はないと思い込んでいたらしい。

ところが、韓国の負けでまたもやDSCの勝負となり、イギリスが35.27cm、日本が36.0

㎝、カナダが45.44cmということで、わずか10㎝足らずが天と地を分けたのである。

もし韓国が勝っていたならば、4チームが5勝4敗で並び、その4か国の直接対決は、カナ

ダと韓国が2勝1敗で、日本とイギリスが1勝2敗なので、準決勝に進出するのは韓国とカ

ナダということになる(多分)。だから当然メダルも別のところへ行くことになる。

今回決勝戦を戦ったイギリスと日本チームは、前回の平昌では銅メダルをかけて戦った

チームであり、イギリスは雪辱を果たしたことになる。

お互いに最終予選でかろうじて北京行きの切符をつかみ、そして決勝戦まで上り詰めた

この2チームは、互いに尊敬しあうよきライバルでもある。

しかしこの二つのチーム編成は極めて対照的だ。ロコ・ソラーレのメンバーは姉妹であ

るとか同郷であるとか、いわば血脈で結ばれているのに対し、イギリスは個々を選抜し

てそれを優れたリーダーに預けるという、いわば契約で結ばれている。どちらにも長所

と短所があると思うが、この2チームが決勝を戦ったことで、どちらのタイプも生き残

りそうな気がしている。

ロコ・ソラーレの彼女たちが常々発していたのは、”もっと多くの人にカーリングの素

晴らしさを知って欲しい”という言葉であったが、その願いはほぼ達成できたのではな

いだろうか。

カーリングは、ちょっとしたことから大きく流れが変わることがよくある。いろんな点

で、個人と団体の違いはあるがゴルフに似ていると私は思う。

・距離と方向の精度を競う競技であること・環境の変化に適応する能力が必要なこと

・先を読む力が必要なこと・メンタルが大きくプレーに影響すること・幸運と不運が常

に付きまとうこと・選手寿命が長いこと・・等々であるが、とくに芝を読む、氷を読む

というところに相似性を感じる。

 

北京の後はイタリアのミラノ、コルティナダンペッツオと決まっている。そしてその次

の2030大会には札幌が名乗りを上げている。

ロコソラーレのメンバーが今後も競技を続け活躍すれば、カーリング人気はさらに高ま

るであろうし、彼女たちが望むかどうかは別として「国民栄誉賞」の声がかかる可能性

もある。となればまさしく「常呂っ子」の「快」というべきで、私がそれを期待してい

るのは言うまでもない。

                        2022.02.24