「1972ミュンヘン・オリンピックで、男子が「金」女子が「銀」を獲得した団体競技と
いえば?」・・・・クイズ番組にでも登場しそうなほど遠い記憶となってしまったこの
答えはバレーボールである。かつては“お家芸”とまで言われ人気を博したこの競技が、
長いトンネルの闇を抜けて今輝きを取り戻している。
バレーボールの国際大会は、2018年からネーションズリーグという形になって毎年行わ
れているが、日本チームはこれまであまりいい成績を上げられていない。それどころ
か、以前のワールドリーグ(男子)、ワールドグランプリ(女子)の時代を含めて、
1990年あたりから低迷がつづいている。
すこし歴史をさかのぼってみよう。
バレーボールが初めてオリンピックに組み入れられたのは1964年の東京である。
この晴れの舞台で日本チームは、男子が「銅」、女子が「金」を獲得した。特に、女子
の決勝対ソ連戦は日本中が熱狂し、この時の66.8%というTV視聴率は1984年以前の紅白
歌合戦を除けば、いまも歴代一位の座を保っている。日本女子の「金」は1936年の
前畑(平泳ぎ)以来であり、彼女らは”東洋の魔女“とも呼ばれるヒロインとなった。
女子はその後も1976年モントリオールで「金」を獲るなど、しばらくトップグループに
いたが、男子はミュンヘン以降急速に力を失った。そして1990年ごろからのワールドシ
リーズでは、男子は概ね15位前後、女子は5,6位あたりが定位置となった。
2018年からのネーションズリーグの成績も次のようにさほど変わらない。
ネーションズリーグの成績
男子 女子
優勝 2位 3位 (日本の順位) 優勝 2位 3位 (日本の順位)
2018 ロシア フランス アメリカ 12位 アメリカ トルコ 中国 10位
2019 ロシア アメリカ ポーランド 10 アメリカ ブラジル 中国 9
2020 ・・・・コロナにより中止・・・・
2021 ブラジル ポーランド フランス 11 アメリカ ブラジル トルコ 4
ところが今年は全く様相が異なり、男女ともに予選リーグで好成績を収めている。
今年は予選リーグが従来の16チーム”総当たり戦“ではなくて、4試合×3ラウンドの
各チーム12試合の予選リーグを行う。その上位8チームが決勝トーナメントに進むとい
う方式だ。男女共にここまで8試合を消化し、男子は6勝2敗で4位につけ、女子は8戦全
勝の首位に立っている。
男子の2敗は優勝候補のアメリカとフランスで、アメリカとは2-3セットの惜敗、フラン
スにはBチーム0-3ながらも好勝負を演じたので、もし決勝トーナメントで再戦するとな
れば勝つチャンスは十分ある。最終ラウンドは大坂が会場になるので地の利もあり、初
めての決勝トーナメント進出は勿論、メダルへの期待も膨らむ。
女子は、既に3連覇中の最強アメリカを3-0で下しているので、今日からの最終ラウン
ドで当たるオランダ、トルコ、セルビア、ベルギーにも負ける要素は見当たらない。
わずか1年前の東京オリンピックでは、男子は開催国枠で出場しベスト8に進出したが、
ブラジルに3-0で敗れて敗退し、女子は予選を突破できなかった。そのチームが1年足ら
ずで、これほど強くなるとは驚きである。どこにその秘密があるのだろうか。
いずれ専門家の分析がなされると思うので、素人が口をはさむべきではないが、素人が
口を挟めるのは今しかないので、この際敢えて口をはさんでみたい。
ここまで強くなった要因は色々あると思うが、あえて絞り込めば、男女ともにそれは
「サーブ力」と「新戦術」ではないかと思う。
男子のイタリア戦、日本は3-2でこの激戦をものにしたが、イタリアの強力なブロック
による得点とほぼ同じサーブポイントを挙げたことがまず挙げられる。もうひとつは、
高いブロックへの対策として、ブロックが完成される前にスマッシュを決める速攻と、
ブロックの壁にソフトに当ててリバウンドをとり多彩な攻撃に結び付ける戦術である。
いわば、体格とパワーのハンデを日本流の戦術で補う作戦だ。
ここで終わるつもりであったが、今日からカナダで始まった女子の最終第3ラウンド
の初戦対オランダ戦で”異変”が起きた。ここまで8戦全勝の日本が1勝7敗のオランダに
敗れたのである。最も楽な戦いのはずが、接戦に持ち込まれた末に2-3で負けてしまっ
たのだ。ほぼ予選敗退が決まったオランダはのびのびと闘い、おそらく最高の出来であ
ったのに対し、日本は受けて立とうとした。それが思い切りを失くし攻撃が単調になっ
てしまったように見えた。
この敗戦から言えることは、もともとチーム力の差はそれほど大きいわけではなく、
好不調の波や試合の流れで勝敗は変わるということだろう。
女子の次戦は7.2(土)のトルコ戦となる。オランダ戦を反省し修正するというよりも、
ここまでの戦いを思い出してもらいたい。
男女が揃って決勝トーナメントに進出するとなれば初めてのことだ。
猛暑の中、熱い戦いはまだしばらく続く。
2022.06.30