樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

たかがランキングされどランキング(J-126)

“4年に一度世界が熱狂する”と言えばかつてはオリンピックしかなかったが、近年はこれ

に替えて「FIFAワールドカップ」を挙げる人が多いかもしれない。そこまでではないと

しても、勢いの差は歴然としている。サッカー人気の秘密はどこにあるのだろうか。

第一に挙げられるのはその手軽さである。ボール一つとある程度の広場があれば20人以

上が参加できて、設備や用具による制約は少ない。ルールもシンプルである。一人で練

習することも可能だ。

第2にスリリングな展開がある。得点を競うスポーツの中では最も点が入りにくい競技

なのに、最も遠いところから10秒前後で得点が入ることもある。だから観ている方は目

が離せない。プレーの激しさから高齢者などには無理なところもあるので、競技人口は

バレーボールや卓球よりも少ないようだが、ファンの数では断トツの一位である。

第3には夢があることだろう。世界には300ほどのプロリーグがあるらしいが、欧州や南

米を中心とする一流選手の名声と報酬は、間違いなく夢を与えている。

第4に、これは偏見かも知れないが大国の不振がある。

オリンピックなどでメダル争いを演じる大国が、サッカーとなると揃いもそろって

あまりパッとしないという皮肉な現実である。

アメリカはようやくランキングを16位まで上げてきたが、ロシアは33位、中国に至って

は79位でコートジボワールやマリなど西アフリカの国々よりも低位に甘んじている。

それが何となく”心地よい“のである。

 

さて、今回のカタール大会は、1930年の第1回から数えて22回目のWCとなる。

出場チーム数は1978までは16で、1982年から24となり、1998年からは32に増えた。

日本の初出場は、その32に増えたフランス大会で、それ以降7連続出場となっている。

カタール大会は、いろいろ話題の多い大会となったが、その一つに“番狂わせの連発”

が挙げられる。“番狂わせ”とは、大きなランキング差のある下位チームが上位チームに

勝利することだ。それを演じたのはアジア・アフリカの代表チームで、日本のGS

(グループ・ステージ)における対ドイツおよび対スペイン戦の勝利は”奇跡“とまで言

われた。実は最大の番狂わせは開幕早々にアルゼンチンを破ったサウジアラビアで、こ

の他にもデンマークに勝ったオーストラリア、ベルギーを始め次々に格上を倒して、ベ

スト4まで進んだモロッコがいる。ブラジルに勝ったカメルーンポルトガルを破った

韓国も”番狂わせ”には違いがないが、この二つは相手が既にGS突破を決めた後の試合だ

ったので少々評価は下がるらしい。

いずれにせよ、あまりに”番狂わせ“だの”奇跡“だのと騒ぐものだから”ランキングがなん

ぼのもんじゃい“と言いたくもなる。これは性格だから仕方がない。

 

そもそもランキングは何のためにあるのか、と言えばそれは出場資格と組み合わせのた

めである。しかし、その重みは競技によって異なる。例えばゴルフだとランキング1位

の選手が予選落ちして50位の選手が優勝しても誰も番狂わせとは言わないし、テニスや

卓球で20位が1位に勝てばかなりの番狂わせとなる。サッカーはその中間程度といった

ところだが、実はランキング算出方法は競技によって大きく違っている。

最も明快なのはテニスで、直近52週間における上位18大会の合計ポイントでランキング

される。ランキング上位者は組み合わせを始め多くの優遇措置を受けられるが、1年間

試合をしなければポイントをすべて失うことになる厳しさもある。

逆にサッカーは最も複雑で、次のごとく不公平に見える部分もある。

<サッカーランキングの算出法>

サッカーのランキングは、過去48か月の国際Aマッチの成績を基にポイント化したもの

で、1993年から発表されている。算出法は次の通りである。

(A)勝ち点、 勝利:3点 (PKは2点)

(B) 試合の重要度 

   1.0 親善試合

   2.5 大陸選手権の予選、FIFAWC予選

   3.0 大陸選手権の本選、FIFAコンフェデレーションズカップ

   4.0 FIFAWC本大会

   *大陸選手権とは欧州選手権AFCアジアカップなど6つの大会

(C) 対戦国の強さ

    FIFAランキングが適用される

    1位:2.0

    2位以下は200-相手国のFIFAランキング/100の値

    (ドイツの例;200-11/100=1.8)

    150位以下は0.50

(D) 大陸連盟間の強さ

    対戦国が所属する大陸連盟ごとに以下の定数を割り当てる

    欧州:1.0、南米:0.98、 その他:0.85

    対戦2国の定数合計/2=Dとする。

    (要するに欧州以外のチームはポイントを割り引く)

以上の値を基に次の式により国際Aマッチにおけるポイントを計算する。

 (A)×(B)×(C)×(D)×100=暫定ポイント

次いで

 (1)48か月を12か月ごとの4つに区分する

 (2)直近の12か月毎に暫定ポイントを合算し試合数で割って平均を出す。

    但し5試合以下の場合は5で割る。

 (3)得られた4つの平均値に対し、直近の12か月から順に1.0、0.5、0.3、0.2

    をかけた値を合計する。これがランキングポイントとなる。

    (つまり、4年間の成績を対象としているが、古い成績ほど割り引かれるとい 

     う仕組みだ。)

このランキング算出法からわかるように、アジア、アフリカのチームはなかなかランキ

ングが上がりにくい仕組みになっている。だから本当はそれほどの番狂わせではなく、

ましてや”奇跡“と呼ぶのは勝ったチームに失礼なのかもしれないのである。

日本は7回連続出場を果たし、そのうち4回はGSを突破してベスト16に進んだ。

2002年の日韓大会は首位通過したがトルコに敗れた。そのトルコは3位になった。

2010年の南アフリカ大会では、パラグアイと引き分けたがPK戦で敗れベスト8には進め

なかった。

惜しかったのは2018年のロシア大会である。日本はベスト8をかけてベルギーと対戦

し、後半早々2点を先取したが69分、74分と立て続けに失点し同点のままアディショナ

ルタイムに入った。だれもが延長かと思った終了間際、日本のコーナーキックを敵キー

パーがキャッチするやあっという間のカウンター攻撃でゴールを決められてしまうので

ある。これは今も「ロストフの14秒」と呼ばれる苦い記憶として刻まれている。この時

もベルギーは3位となった。そして今回、”死の組“とも呼ばれたGSを首位で突破して、

”今度こそ新しい景色を“という願いを込めてクロアチアと対戦したのである。しかし、

またもやPK戦で敗れベスト8の壁に跳ね返されてしまった。先に進むにはどうやらPKの

壁も破る必要がありそうだ。

しかし、あと一息のところにきていることは間違いない。今回、ドイツとスペインに勝

ったことでランキングの方もかなり上昇するだろう。

次回の2026年はアメリカ、カナダ、メキシコ合同の大会となり、出場枠も48と大幅に

増加する予定である。アジア予選は間違いなく突破するはずなので、今度こそベスト8

以上を期待したい。しかしながら、今大会の3位決定戦と決勝戦は、ベスト8の先には

さらに高い壁があることをを想像させるものでもあった。やはりランキング上位同士の

ガチンコ勝負はレベルの高さを見せつける内容であった。それは同時にランキングの重

みを実感させるものでもあった。

WCの優勝チームは欧州か南米かそのどちらかに限られてきた。しかし、いずれそれ以

外の地域にも優勝のチャンスが巡ってくるだろう。そして最初にチャンスをつかむの

は、アメリカかアフリカのチームになりそうだ。アメリカはタレントが集まる国であ

り、アフリカはタレントが他のスポーツに分散しないからである。日本にもチャンスは

あるとは思うが、ランキングが12位程度まで上がらないと頂点は難しいような気がして

いる。                   2022.12.22