樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

百花繚乱の女子ゴルフ(J-117)

 

今年の全英女子オープンゴルフは、南アのA.ブハイが韓国の田仁智(チョンインジ)と

プレーオフを制して優勝した。3年前に渋野日向子と最終組で回った彼女が、再び最

終組で相まみえるというありえない展開の末、33歳にして悲願のアメリカツアー初の優

勝を飾った。

全英と聞けばドラマティックな展開を期待しまうこの大会も46回目を迎えたわけだが、

今年はとくに日本のファンの関心は高かった。

その理由の一つは、今回開催されたミュアフィールドG.C.が世界最古のゴルフクラブ

あると同時に、創設以来273年間女人禁制を守り続け、今回が初の女子メジャー開催

だということである。もう一つは、日本選手が12人も参戦するということにあった。

その中には、アメリカに拠点を置きメジャー大会の勝利に最も近い日本人選手と言われ

続けている畑岡奈紗を始め、直前のスコットランドオープンを大会新で優勝した米ツア

ー1年目の古江彩佳、国内4日間大会でノーボギーという新記録で優勝した絶好調の勝み

なみ、現在国内賞金ランキング1位の山下美夢有、伸び盛りで安定感のある西郷真央な

どが含まれている。さらには、メジャー制覇後の成績がもう一つさえない人気の渋野日

向子と笹生優花も、そろそろ目覚めるのではないか、うまくいけば2,3人がリーダー

ボードを賑わせてくれるかもとの期待があった。

そして何と、その通りの展開となったのである。

大会初日、渋野はいきなりの3連続バーディーでスタートし、8バーディー2ボギーの-6

でトップに立っ。2日目、渋野は+2とスコアを落として7位に後退し、ー5を出した田

仁智がトータルー8で首位を奪う。3踊り出る。この日は渋野も負けずに-5で回り、田は踊り出る。この日は渋野も負けずに-5で回り、田はどまった。かくしてこの3人が次のスコアで最終日に挑

むことになり、4位以下にはほぼチャンスはなさそうに見えた。

        

         3日トータル    F9(OUT)  B9(IN)
  A.ブハイ    -14        -11          -3

  渋野日向子     -9        -4             -5

  田 仁智      -9        -4        -5

 

ブハイは2位に5打差をつけており、4打差以上の逆転勝利はない全英の歴史からすれ

ばブハイの逃げ切りが濃厚ではあったが、詳細に見てみるとそうとも言えない波乱要素

もうかがえた。

ブハイはOUTを得意とし、2日目と3日目の二日間で1イーグル9バーディーを奪った。

それに比し、INは5バーディー2ボギーと他の二人に劣る。とくに、最難関ホールにラン

クされる最終18番が2ボギーで相性が悪い。渋野と田は全く同じ数値であるが、渋野は

14番田は15番でいずれも2ボギーと相性が悪い。以上の分析から、もし前半で差が広が

ったならば追いつくのは難しく、1打でも縮まっていれば14,15,18番ホールが鍵にな

りそうな気がした。

”最後は3人がー12で並び、3人のプレーオフになる”

これが私の(希望的な)予想であった。

8mの強風の中、最終日の競技が開始された。

最終組は予想だにしなかった渋野・ブハイ組、その一つ前が田仁智・朴仁妃の韓国組で

ある。

スコアが動いたのは2番ホール、まず田がバーディーを奪い、これに渋野が続いた。と

ころが、2日目3日目バーディーのブハイがここでボギーを叩く。なんだか怪しくなって

きた。

前半を終えたところで3人のスコアは、ブハイー13、田-12、渋野-10、もはや射程

圏内である。この時点では、最も安定したプレーを続けている田がやや有利かと思われ

た矢先、10,12番でボギーを叩いてしまう。13番を終えた時点で、ブハイー13、渋野

-10,田-10となり、ここからは3人が、先に指摘したそれぞれのキーホールに挑戦する

というスリリングな展開となった。

先ずは渋野の14番である。ところがよさそうに見えたドライバーショットはバンカーに

かまり、彼女は3オン3パットのダブルボギー、万事休すである。

次いで田の15番、彼女は無難にこのホールをパーで切り抜けるが3打差のままだ。

そして、ここで事件が起きる。ブハイのティーショットが深いラフにはまり、何とこの

ホールでまさかのトリプルボギーを叩いてしまう。

3ホールを残して、ブハイと田が―10で並び、渋野が2打差のー8,まだまだ分から

ない。そして渋野が17番でバーディーをとり、1打差の中でブハイのキーホール最終

18番を迎える。

まず1組前の田がパーでホールアウトし最終組を待つ。

渋野がここでバーディーなら3人のプレーオフもありえたが、バーディーパットは惜し

くも外れ3位が決定する、ブハイはぺレッシャーのかかるパーパットを気合で沈め、遂

に優勝の行方はブハイと田のプレーオフの持ち越される。

 

夕闇が迫る中でのPOは18番ホールの繰り返しである。ブハイには悪いが、本日+4で

18番を苦手とするブハイは苦しかろうと誰もが予想する中で、ブハイが執念を見せ、

遂に4ホール目に田がボギーを叩いてブハイが歓喜の初優勝を遂げる。

 

勝利の神は”女神“である。

であるが故に、気まぐれで、ちょっといたずら好きで、時に意地悪な振る舞いをする。

イメージするなら「奥さまは魔女」のサマンサ‥ではなくて、その母親の方だ。

要するに”ハプニング“や”スリリングな展開“がお好きなのだ。だからゴルフ場にはよく

お見えになる。今回はブハイの球をちょっと曲げてみせたが、3年前の渋野には4パッ

トの試練を与えた。

しかし、やはりそこは女神である。恨んだり落ち込んだりしなければ、再び微笑み返し

てくれる優しさがある。

ブハイはこの勝利でランキングを84位から27位に上げ、渋野も41位から30位に戻した。

今回の全英で予選を突破した4人の日本人選手は、全員が15位以内に入るという大健闘

ぶりを見せてくれた。参加しなかった選手の中には稲見萌寧や小祝さくらなどの実力者

も控えている。日本女子ゴルフ界はまさに百花繚乱の時代を迎えたかのようで楽しみは

増すばかりである。

                         2022.08.11