“自らは何もしない”というレッテルを貼られそうな岸田総理だが、オミクロン株の蔓延にもかかわらず案外支持率を保っている。それが“聞く力”の証明なのかどうかは分からないが、波風を立てず、何となくうまくやっているようにも見える。派手さはなくても、経済安保や子ども基本法など、ひいき目に見て、このところ多方面にわたる議論が活発になっているような気がしないでもない。
先日法制審議会が明らかにした、以前からの懸案事項“嫡出推定”にかかわる民法改正案もその一つである。
毎日新聞はこれを「離婚後300日現夫の子」というタイトルで、2月2日の1面トップで報じたのだが、この問題に対するスタンスがどうもしっくりこない。タイトルからしてピントがずれているように思うのである。
記事の内容をかいつまんで説明すると次の通りだ。
“民法では、結婚から200日以降に生まれた子は現夫の子とされ、離婚から300日未満に生まれた子は前夫の子と規定されている。重複期間を避けるため、女性のみは離婚から100日間の再婚禁止期間がある。しかし現実問題として、法的に離婚が成立する以前から現夫との関係が始まっていた場合は、離婚から300日未満であっても生まれた子は現夫の子である公算が圧倒的に高い。ところが、届け出をすれば前夫の子とされてしまうために届け出を控えるという状況が生まれ、結果、その子は無戸籍となってしまう。
夫婦の3組に1組が離婚するという現今の状況下、今回示されている「生まれた子は原則的に現夫婦の子とし、女性の再婚禁止期間を廃止する」という改正案は、無戸籍の回避に大いに資するであろう・・・。“
いくら前夫婦関係が破綻していても、離婚成立以前における現夫婦の関係はいわゆる不倫に当たることからその用語を避けたのか、元の記事は少々分かりにくい表現になっているが、平たく言えばこのような内容となっている。
しかし、そのスタンスは日頃「人権」に敏感な毎日にしては、なぜだか“らしくない”。
本来の毎日らしいタイトルをつけるならこんなところだろうか。
憲法24条は“婚姻は両性の合意のみに基づく”と規定し、諸々の事項に関する法律は“個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定”されることを求めている。
つまりこの問題は”人権問題“としてとらえるべきなのに、毎日は”夫婦の3組に1組が離婚する時代に合わない“などと馬鹿なこともいっている。
離婚率というのは人口1000人当たりの離婚件数で日本は1.7程度。世界的にはまだまだ低い数値だ。3組に1組というデータをどこから持ち出したのかは知らないが、それはその年の婚姻数と離婚数を単純に比較しただけの数値であって、日本のカップルの3分の1もが離婚に至るわけではない。意図的に誤解を生む表現としたとすれば悪質だ。
人間に限らず、生物学的な父親の推定はなかなか難しい。はっきりしているのは競走馬くらいのものだ。歴史的に見ても、平清盛の実の父は平忠盛ではなく白河院であるとか、豊臣秀頼の実の父が秀吉であるはずがないとか、そんなエピソードはいくらでもある。それらの疑惑は、当時の人々には今の我々より鮮明であったに違いないが、忠盛も秀吉も疑惑のそぶりをいささかも見せていない。要するに、嫡出推定とは夫婦の覚悟なのである。結婚を決意するということは、相手の過去は問わず丸呑みにするということだ。将来における子の奪い合いを防ぐために必要なら離婚届のチェック項目に選択肢として加えればよい。
安易なDNA鑑定は、必ずしも解決にはならない。むしろ子供を不幸にするケースもありうることから限定的に使用されるべきだと思う。
実はこの民法の規定は、割と最近の2016年にも一度改訂されている。
それまでは、離婚禁止期間が180日であったのだが、その前年に最高裁が離婚禁止期間の100日を超える部分は過剰な制約であり違憲にあたると判断したためである。
しかしそれは、女性のみに課せられる禁止期間が違憲に当たるかどうかを判断したものではなく、いわばお茶を濁したような改定に過ぎなかった。だからこの改定は、問題解決にはほとんど効果がなかったのである。
今回の改正案は再婚禁止期間の廃止に加え、妊娠から出産までの間に複数の婚姻がある場合は出産直近の夫の子と推定するというもので、原則が実にスッキリしている。
これに異議がある場合のみ裁判でもなんでもやればよいのである。
残念ながら諸外国の状況がわからないのだが、毎日が3面に特集まで組みながらそこに触れていないのは手抜きなのか、それとも力の限界なのか
2022.02.08。