樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

国民栄誉賞ってなんだろう(J-87)

大谷翔平国民栄誉賞を「まだ早い」と言って辞退したという。

「当たり前でしょう」と、打診した側のセンスを疑わざるを得ない。

性格がいいから表には出さないが、彼の心のうちはこうかもしれないのだ。

“ボク、来期はもっと上を目指しているんですけど・・どうしてくれます?”

本人もファンも”まだまだこれからだ”と信じているのである。

 

そもそも、国民栄誉賞って何だろうと思うことが在る。

この賞は、王貞治選手が世界のホームラン記録を塗り替えることが確実となった1997年

に総理大臣賞の一つとして急遽決まった制度である。いわば王選手の功績をたたえるた

めに作られた賞だ。この時、王選手の国籍は中華民国で、初の国民栄誉賞は外国籍の人

物に贈られてスタートした。

第2号は、翌年1978の古賀政男で没後10日目に追贈された。これにより、故人もその対

象者であることが明らかになり、その後人気作曲家が死亡するたびに追贈するパターン

が出来上がった。職業別に見れば野球と作曲家は俳優とともに最多の4名が受賞してい

る。

俳優は長谷川一夫渥美清、森光子、森繁久彌の4名であるが、森光子以外はいずれも

没後の追贈である。このあたりになると“石原裕次郎三船敏郎はどうなのよ”という

外野からの声も聞こえてくる。

また15人目の受賞者高橋尚子は、シドニーオリンピックのマラソン金一発で受賞が決ま

り、2011年のなでしこジャパンの受賞により団体も対象であることが分かった。

このような経過から判断すると、受賞資格にはほとんど制限がないことが分かる。

規約としては次の通りだ。

“広く国民に愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったものについ

てその栄誉を称える”

つまり、資格要件は無きに等しいのである。

だから、極端なことを云えば、ビートルズやオードリーヘップバーンも、源義経や坂本

龍馬も、ことによれば鉄腕アトムでさえ対象になってもおかしくはない。

実は国民栄誉賞が生まれる前から総理大臣による表彰制度は存在している。

それは、1966年に当時の佐藤栄作首相が創設した「内閣総理大臣顕彰」である。

これまでに50の個人と団体が受賞し、最近では松山英樹の受賞がある。

当初の対象者は”社会貢献”的な要素が強かったが、次第に国民栄誉賞との差が分からな

くなってきている。現に、棋界のトップ井山裕太羽生善治は両方の賞をもらってい

る。近い将来、あの天才少年藤井聡太が受賞するのはほぼ確実とみられるが、どちらの

賞を先にもらうかは時の総理の好みにかかっている。

国民栄誉賞はこれまで、はっきりしているところだけで3人に辞退されている。

野球の福本豊イチロー本人と作曲家古関裕而の遺族からだ。それに今回大谷翔平が加

わったことになる。

何が言いたいのかと問われそうだが、非難を承知で言えば、まるで最高の栄誉のごとく

に聞こえる「国民栄誉賞」の実態は案外“軽い”ということである。その訳は、受賞者よ

りも授与者側の都合で運用されてきた経緯にあると思う。言い換えるならば、授与者の

権威の問題だ。

我が国には、れっきとした勲章・褒章制度がある。

しかし、確かにその制度だけではカバーしきれないところもある。

だから、より柔軟な総理大臣表彰の必要性を、積極的に認めたいとは思う。

それはそれとして、現行の曖昧な2制度は、その統合をも視野に入れた見直しが必要で

はないかと言いたいのである。

                            2021.11.22