樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

挑発に乗ってはならぬ(J-72)

オリンピック選手村の、韓国選手団の宿舎に欠けられていた横断幕が取り外された。

そこに至る経緯の詳細はよくわからないが、最終的にはIOCの指示によるものらしい。

韓国メディアは、日本の一部メディアが「反日宣伝」であると報じて極右団体が

騒ぎ、IOCが日本寄りの判断をしたと報じている。

その横断幕にハングル文字で書かれていたのは、

“臣にはまだ5000万国民の応援と支持が残っています”

という言葉であった。

これが「文禄・慶長の役」で秀吉軍に抵抗して活躍した李舜臣将軍の

“今臣戦船尚有十二(臣にはまだ12隻の戦船があります)”という言葉をもじったもので

あることは明らかで、韓国内では映画の大ヒット以来、しばしばこの言葉がいろんな形

に変形されて決まり文句のように使われていいるらしい。

別にどうということもないように思われるのだが、その映画などの影響もあり、李将軍

が”反日の英雄“に祭り上げられてしまったために、どうでもいいことでなくなった。

釜山の丘に登ると李将軍の像が立っており、“今も敵が攻めてこないように日本の方角

を睨んでいます”と案内役から説明される。

”救国の英雄“は完全に”反日の英雄“として偶像化されているのである。

となると、日本の側にも黙っておれない人たちが活動し始める。

例によって、武藤元駐韓大使がこれをとりあげ、これまでのオリンピックがらみの反日

行為を列挙して、文政権下の指導者層に充満している反日思想を糾弾する記事を書いて

いる。

大筋から言えばその通りなのだが、今回ばかりは過剰反応ではないだろうか。

選手を鼓舞するために、自国の英雄を引っ張り出すことはよくあることだし、目くじら

を立てるほどのことではない。問題は李将軍が偶像化され反日のシンボルとして利用さ

れているところにある。反論するならそこをつくべきである。

そもそも李舜臣という人物は、言っちゃあ悪いがそれほどの英雄ではない。

1592年の文禄の役初頭において、李将軍は、水上戦を想定していなかった日本側のいわ

ば輸送船を襲って戦果を挙げるが、日本側が武装してからはほとんど戦果をあげていな

い。しかし、陸上戦は明・朝鮮連合軍が盛り返して膠着し、翌年から休戦状態となる。

そして1597年、第二次の戦い(慶長の役)が始まる直前、加藤清正軍が乗り込んでくる

という情報があり李将軍はこれを阻止する攻撃命令を受ける。ところが彼は、その情報

を日本側の罠と判断して攻撃命令に背く。その一件が咎められ、一旦は死罪となるが助

命され「白衣従軍」を命ぜられる。白衣従軍とは一兵卒に格下げということで極めて厳

しい罰である。

そのような中で、睨みあいを続けていた両者は再び戦闘状態(慶長の役)となり、水軍

は李将軍のライバルで犬猿の仲であった元均が指揮を執る。そして朝鮮水軍は壊滅状態

となり元均は戦死する。

そこで再び李将軍が呼び返される。このとき彼が宣祖に上げた報告書の文中にあるのが

問題の”臣には12隻の・・・“という言葉なのである。

その後李将軍は、明水軍の指揮下に入り失地回復を目指すが、ことごとく敗退する。

そうこうしているうちに、1598年秀吉が死亡し日本軍は撤退することになる。

とりあえず明との講和を成立させた日本軍が引き上げ始めたとき、秀吉の死を知った

明・朝鮮連合水軍は撤退する日本軍に襲い掛かり激しい戦闘となる。

そして、この戦いの最中に李将軍は戦死する。

李将軍だけでなく、明・朝鮮側では多くの将官が戦死しているのだが、韓国の歴史で

は、“大敗した日本軍を追撃中に李将軍は流れ弾に当たり戦死”となっているらしい。

以上の通り、彼を伝説の英雄とするにはいささか内容が寂しすぎると思うのだが、

どうやら韓国では、映画が歴史となっているようだ。

武藤元駐日大使も韓国の歴史には詳しいはずだから、そういった情報を流してほしいと

思うのだが、今度は横断幕が外された後に架けられた半島の形をした虎の垂れ幕にも

加藤清正のエピソードを持ち出して”これまた反日だ”と噛みついている。そこまでケチ

をつければ、やっていることが韓国側と同じになる。つまり世界から受ける評価は

”どっちもどっちの泥試合“となってしまう。

韓国は常に泥試合を仕掛けているのだ。その証拠に、IOC に対して、垂れ幕を下す代わ

りに、旭日旗の持ち込みも禁止せよと要求している。無観客でその恐れがないことを利

用してIOC が軽率な約束をすることを期待しているのである。

さて、虎の絵の垂れ幕にはどんな思いが込められているのだろうか。

そこに書かれているのは”虎が下りてくる“という言葉なのだが、どうやらそれは

大ヒットした歌の文句であるらしい。

朝鮮には「パンソリ」という伝統芸能があり、それは3拍子の太鼓を伴奏に物語を独特

の発声法で語り謡うものである。謡曲のようでもあり、狂言のようでもあり、また演歌

のようでもある。呪文のようにも聞こえる言葉の意味は分からなくても、どこか魂に響

く不思議な音楽だ。

2019年、イナルチというグループがこのパンソリを現代風にアレンジした曲に独特のダ

ンスを交えて発表するとたちまち大人気になり、多くのCMなどにも登場するようにな

った。“虎が下りてくる”はそのパンソリの「水宮歌」の一節で、イナルチが作った曲の

曲名でもある。それは韓国観光公社の広報ビデオにも使われている。

これらのことも武藤氏は知っているはずで、それを伏せて韓国人が大嫌いな加藤清正

結び付けるのはいわばこじつけだ。韓国が原発処理水や福島産食料品にケチをつけるの

と同じ“ように、”単なる“いちゃもん”のレベルだと言わざるを得ない。

繰り返しなるが、韓国の現政府は、対日関係における不利な体勢を対等に立て直そうと

必死である。度重なる駄々っ子作戦(所かまわず泣き叫べばやがて救いの手を差し伸

べてくれる)も通じなくなり、今は見かけ上の対等な位置関係を示そうと、事あるごと

に泥試合化を目論んでいるかに見える。つまり、相手を自分のレベルに引きずりおろそ

うとしているのだ。

ここはそのような挑発に乗らず、冷静に時を待つのが肝要かと思う。

                           2021.7.22