ゴルフファンにとって、今年の全米女子オープンはたまらない4日間となった。
1946年から続くこの最高の舞台に、過去最多となる20人の日本人選手が出場し、しかも
連日リーダーボードを賑わしてくれたのである。
東京五輪「金」で今シーズン8戦6勝と、いわば無双状態にあるネリー・コルダがPAR3
の12番で10打を叩くなど、難コースというよりは意地悪なコースに嵌まってビッグネ
ームが次々に崩れてゆく中で、日本人選手は見事14人が予選を突破した。
さらには、なんと眠りから覚めたかのように、笹生優花と・渋野日向子がワンツーフィ
ニッシュを決め込んだのである。
この大会がいかにビッグであるかは、その賞金額を見ればよくわかる。
賞金総額は昨年よりも100万ドル増額されて1200万ドル(約18.8億円)、優勝賞金も240
万ドル(約3.7億円)に跳ね上がったが、これはプロスポーツ全般の男女格差を是正する
動きに沿うもので、21年に笹生が同大会で優勝したときの賞金が100万ドルであったこ
とを考えると隔世の感がある。
日本人選手が獲得した賞金の合計は、約480万ドル(約7.6億円)に上り、これは賞金総
額1200万ドルの40%に当たる。個人ランキングもかつては「賞金ランキング」で示され
るのが普通であったが、これを適用すれば、ランク1位のネリー・コルダ(6勝、290万
ドル)に続いて笹生が260万ドルで2位に入り、渋野はこの準優勝だけで3位のハナ・グ
リーン(133万ドル)と僅差の4位(132万ドル)に付けたことになる。
あらためて今大会を振り返ってみよう。
初日、笹生は(-2 )で単独首位と好スタートを切る。アンダーパーはわずか4人しかい
ない。他の日本人選手では、5T(E)に岩井千怜、吉田優利、15T(+1)に河本結、
渋野日向子、古江彩佳、22T(+2)に山下美夢有、小祝さくら、鈴木愛らが名を連ね
た。
2日目、笹生は1打落として2T(-1)となったが、小祝、渋野、岩井が踏ん張って5T
に並ぶ。
そして3日目を終え、翌日の決勝を前にした順位とスコアは次のようになった。
順位 スコア(Today) 選手名 (国名)
1 -5 (-4 ) ミンジー・リー (豪)
1 -5 (-3 ) アンドレア・リー(米)
1 -5 (-1 ) ウィチャネ・メーチャイ(タイ)
4 -3 (-4 ) 渋野日向子 (日)
5 -2 (-1 ) 笹生優花 (日)
6 +1 ( E ) 小祝さくら (日)
6 +1 ( E ) イム・ジンヒ (韓)
ここまでの経過から決勝ラウンドもビッグスコアは出そうになく優勝候補はこの7名に
絞られたように思われた。競馬風に予想すれば、本命はメジャー2勝でランキング9位の
ミンジー・リーで動かぬところ、あとはひいき目に見て、対抗がランキング30位で今回
崩れる気配のない笹生優花、大穴が3日目を4アンダーと上昇気運に乗る渋野といったと
ころであった。
ところが、最終日はまさかの嬉しい展開が待っていた。結果は次の通りだ。
順位 スコア (Today) 選手名 (国名)
優勝 -4 (-2) 笹生優花 (日)
2 -1 (+2) 渋野日向子 (日)
3T E (+5) アンドレア・リー (米)
3T E (-4 ) アリー・ユーイング (米)
5 +1 (-1) A.ユボル (タイ)
6T +2 (+7) W.メーチャイ (タイ)
6T +2 (-2) 古江彩佳 (日)
6T +2 (-2) A.ティティクル (タイ)
9T +3 (+2) 小祝さくら (日)
9T +3 (+1) 竹田麗央 (日)
9T +3 (+8) ミンジー・リ (韓)
赤文字で示した通り、最終日を(-5)のトップで迎えた3選手は全員が貯金をすべて吐
き出し、優勝候補筆頭のミンジー・リーに至っては9位まで順位を下げた。
終わってみれば、アンダーパーはわずかに二人、我慢比べのような大会の9Tまでに5人
の日本人選手が名を連ねた。
そこには韓国・欧州勢の姿はなく、何だか勢力地図を塗り替えたように、日本とタイの
存在感が拡大した。
このトレンドはしばらく続くかもしれない。
笹生優花は2019年JLPGAプロテストに合格すると翌年8月NEC軽井沢、ニトリレディース
と初優勝から2戦連続という鮮烈なデビューを果たした。21年からは主戦場を米国に移
し、19歳という最年少記録のおまけつきで全米女子オープンを制した。実はこの時も、
優勝を競ったのは日本人の畑岡奈紗でスコアも4アンダーであった。この年の東京五輪
に、彼女はは母の国籍フィリピン代表で出場し9位に入った。22~23年はあまりいい
結果が得られなかったが、24年に入ってからは上位に食い込むことも多く、そろそろと
いう気配を感じさせてはいた。彼女はまだ22歳という若さである。5大メジャー制覇も
夢物語ではない。
渋野日向子は笹生より1年早い2018年のプロテストに合格し、彼女もまたその翌年早々
鮮烈なデビューを飾る。国内4勝どころか8月の全英オープンを制し、“スマイルシンデ
レラ”の異名とともに世界の人気者となった。東京五輪が予定通り2020年に行われてい
れば日本代表になっていたに違いないが、その後コロナ禍の無観客のゲームが多くなる
とともに彼女の成績は低迷した。22年主戦場を米国に移してからは試行錯誤の繰り返し
で、同年の全英で3位と健闘したほかはこれといった実績がなく、今年に入ってからも
6/10が予選落ちという最悪の状態が続いていた。実は、アンダーパーで終えたのは
この全米OPが初で、準優勝は本人がいうとおり”奇跡的“な結果なのである。
しかし、実は”これから”の彼女が、もがき苦しんだ”これまで“の彼女を決める(評価す
る)のである。
さしあたり、8月22日からセント・アンドリュースで開かれる全英女子OPが楽しみだ。
笹生に続き2度目のメジャータイトルを是非ともつかんでほしい。
その前に、8月7日からはパリ五輪での大会がある。日本代表は畑岡奈紗と誰かという状
況にあったが、全米の結果で笹生と誰かという状況になり、畑岡、古江、山下が僅差で
並んでいる。カギを握るのは6月20日からの全米女子プロ選手権である。渋野はちょっ
と離されているが、このメジャー大会で優勝でもすれば滑り込めるかもしれない。
いずれにせよ、ここしばらくは目が離せない二人である。
2024.06.09