4月21日、ソウル中央地裁は、元慰安婦らが日本政府に賠償を求めた訴えを却下した。
至極当然の判決なのだが、日韓両国の政府・メディア・国民ともに狐につままれたよう
に唖然として、不思議な静寂が続いている。というのも、同じ地裁がほんの3か月前
に、別のグループに対して日本政府に賠償を命ずる判決を下したばかりだからである。
一体何が起きているのだろうか。
実は韓国の人事異動は2月が主流で、判事は入れ替わっている。同じ地裁ではあるが、
流石に同一の判事ではない。しかし、裁判長だけは交代しておらず同じ裁判長が180度
異なる判決を下したことになる。
当然、韓国メディアの論評も次のごとく分かれ、歯切れが悪い。
朝鮮日報:反日であれば国際法を無視していいことにはならない。今回の判決は世界の
論理に従ったもので、1月の判決は国民感情に従ったものだ。
中央日報:日本との外交で解決せよ
京郷新聞:同じ地裁が異なる二つの判断をした
ハンギョレ新聞:覆された正義
ソウル新聞:どの国の裁判所なのか
日本のメディアもあまり大きくは取り上げていない。
共通しているのは、これが日韓関係改善のきっかけにはならないだろうという見方だ。
日本メディアの一部には、文在寅政権への求心力が低下していることの証左であると論
評しているものもあるが、それは読みが浅い・・と思う。
実際は、文在寅大統領がこの判決を望んでいたのである。
あからさまに言えば、”悪あがき”のようなものだ。
そのヒントは、判決が下ったのとほぼ同じころ鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相が発し
た次のコメントにある。
“・・国家安保室長当時数回にわたって日本政府高官と協議したが、毎回日本が自分の
主張だけを一貫して行う態度に驚いた。協議を壊そうとしていた。・・韓国政府が慰安
婦合意を破棄するといったことは一度もない。韓国政府は合意の枠を維持しながら現実
的な解決方法を追い求めていく”
日韓合意に添った行動を全くとらず、むしろ反対の動きをしてきた文政権の実情を知る
ものからすれば、実にあきれるばかりの内容であるが、誰に向けた発言かと言えば
それはアメリカだ。端的には、バイデン大統領に向けた発言なのである。
2015年日韓合意の事実上の立会人は、当時オバマ政権時代の副大統領であったバイデン
現大統領その人だ。
文大統領は、5月末に訪米し、米韓首脳会談を行う予定となっている。
このところすっかり信用を失っている文大統領とすれば、かなり大量の“言い訳”を準備
していることだろう。
2021.4.23