樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

ドジャースのアレ大谷のアレ(J-143)

例年6月になると大暴れする大谷翔平が、今年は5月早々ゾーンに突入したかに見える。

5月5日からの3試合で、12打数9安打(うち本塁打4本)、打率(.370)ホームラン数

(11)となって共にランキングのトップに駆け上った。

今シーズンの大谷は、昨年の肘の手術のリハビリ期間ということで打者に専念する。

術後の影響は懸念材料の一つでもあったが、それに加えて大きな環境の変化もあった。

所属チームがエンゼルスからドジャースに替わり、それに伴いリーグも変わり、そして

結婚、さらには信頼していた専属の通訳の裏切り行為という衝撃的なスキャンダルまで

発生した。

開幕直前に、米・データサイトの[fangraphs]が予想した今シーズンの大谷の成績は、次

の通りファンにとっては納得しがたい数値であったが、それさえも危ぶまれるような出来事が続いた。

       < 米データサイトが発表した2024大谷の成績予想>

       打率:.273 本塁打38 102打点 OPS .926 WAR 4.3

しかし、彼はやはり“並の人”ではなかった。最初のホームランまでは9試合を要したもの

の、その後は何事もなかったように本来の姿、というより期待以上のパフォーマンスを

見せ続けている。

チームもまた2勝1敗のペースでナショナル・リーグ西地区の首位を独走しているが、開

幕前は主力級が故障入りしている投手陣に不安を抱えていた。それを救ったのは、レイ

ズから移籍のグラスノーと新人の山本由伸である。そして、二人の獲得には大谷の存在

が大きく影響したことが知られている。

さて、タイトルに書いたドジャースの”アレ“は、言うまでもなくワールドチャンピオン

である。

このチームは、1958年にブルックリンから移転してロサンゼルス・ドジャースとなった

が、以来NL西地区の強豪として輝かしい歴史を築いている。しかし、1988年からはワ

ールドチャンピオンの座が遠のき、2020にやっと32年ぶりの優勝を果たしたところであ

る。ところがそれで満足するチームではない。常にどん欲に”アレ“を狙う西の横綱なの

であり、今シーズンも110勝前後の勝ち星をあげ、間違いなく地区優勝すると見られて

いる。問題はポストシーズンであり、エースカーショーの復帰と強力打線のコンディシ

ョンが鍵となるだろう。

一方大谷の”アレ“は、彼の言によれば”ヒリヒリする9月“である。彼の願いは、シーズン

最後の試合まで、観客席でなくグランドに立っていたいのである。

しかし、ファンとしての“アレ”は、やはり“賞”であり”タイトル“だ。最大の期待は何と言

っても”三冠王“獲得だ。そして、その夢は次第に現実味を帯びてきているのである。

 

2020年8月10日、この日10勝目をあげた大谷は25本の本塁打と合わせて、ベーブ・ルー

ス以来104年ぶりの2桁勝利2桁本塁打を達成した。以来何かにつけてベーブ・ルース

比較されることが多く、今年日本人最多となる通算176号を打った時には、それが両者

とも725試合目であったとか、481.2イニング投げて38勝19敗の大谷に対し、ベーブ・ル

ースは37勝19敗であったというマニアックなデータまで引っ張り出されたりもした。

しかし、実際の二人はむしろ似ていないところが多い。

ベーブ・ルースは、初めの数年はよく打つ投手、あとの大部分は元投手であった強打者

といったイメージだ。真に二刀流と言えるのは1919年の1シーズンに限られている。

彼が投打共に規定回数に達したことは一度もなく、これに対して大谷は、2022年に投打

の規定回数をクリアしている。だから、“二刀流”という意味では、大谷はすでにベー

ブ・ルースを超えていると言っても言い過ぎではない。2021年には投打5部門での「ク

インティプル100」(100投球回、100奪三振、100安打・打点・得点 超え)、及び

「オールスターにおいて投打で先発」ということでギネス・B に登録されてもいる。

しかし、打者として例えばホームラン数などはベーブ・ルースに遠く及ばず、これを超

えることはおそらくできない。そもそも、野球は個人競技ではないので、時代が違う選

手の数値を比較してもあまり意味がなく、むしろタイトルにこそ意味がある。ベーブ・

ルースは一度も三冠王になったことがなく、大谷には今後数年間そのチャンスがある。

また、人間的にも二人は全く異なっている。ベーブ・ルースは不良少年に近く、矯正施

設のような学校で育った。そこで恩師とも言うべき牧師に出会い野球を教わったのが始

まりだ。しかし性格は変わらず、審判に殴り掛かったこともあり、女癖も悪かったらし

い。似ているところと言えば”人気の高さ“くらいしかないのである。ベーブ・ルース

ベーブは”baby"から来た愛称で、そのベビーフェイスも人気の一因であるが、大谷もど

ちらかと言えば”赤ちゃん顔“で、強いて言えばそこも似ている。

 

長い歴史を持つMLBでも三冠王を獲得した選手はわずか15名しかいない。昨年引退した

ミゲル・カブレラが2012年、45年ぶりの三冠王となったが、このときの彼の成績と昨シ

ーズンNLの各部門1位の成績を見てみてみよう。

 2012 三冠王カブレラの成績   本塁打44、打点139、打率 .330

 昨シーズンの各部門1位の数値  本塁打47、打点112、打率 .336

 

まだシーズンの約1/4を消化したところではあるが、大谷が今のペースでシーズンを

終えるとしたときの予想値を計算すると、「本塁打48、打点118、打率 .370」とな

る。・・・ということは、いわゆる射程圏内だ。

ドジャースの打線は1~4番まで3割バッターが並び、そのあとも長打力のあるバッター

が控えているため、相手投手も大谷と勝負せざるを得ない。だからこそ今シーズンはそ

の可能性が十分ある。

 

2シーズン前のこと、当ブログで大谷がフルカウントになった後の結果を、ランキング

上位の選手と比較したことが在る(「二刀流の完成と伸びしろ」20022.10.15)。

かなりマニアックなデータではあるが、そこには大谷がさらに飛躍するためのヒントが

はっきりと表れていた。大谷は他の強打者に比べて3ボール2ストライク後の成績が極端

に悪かったのである。当時その原因は、大谷自身のストライクゾーン(打てる領域)が

広いために、ついつい届かないところまで手を出してしまうからではないかと考えてい

た。それは必ずしも的外れではなかったと思うが、それよりもチーム事情が大きな要因

だったかも知れない。当時のエンゼルスは大谷の長打が頼りで、彼の四球はチャンスに

つながりにくかったし、大谷自身もそれが分かっていたからそうなったという意味だ。

ところがドジャースは全く違っている。層が厚く、後に強打者が控えているので大谷の

四球はチャンスにつながる。大谷も無理やり打ちに行ってはいないように思う。おそら

く、今シーズンの彼の打率は自己最高となるだろう。

 

というわけで、今シーズン大谷の最終成績に対する私の期待値は

  打率:.333 本塁打:55 打点:125 で三冠王達成!

というところまで跳ね上がる。

そして来シーズンから3年以内に投手部門でもタイトルを取るチャンスが必ず巡ってく

ると予想する。

素人が何を寝ぼけたことをと非難されるかもしれないが、かつて玄人(野球評論家)た

ちのほとんどは、“二刀流を続ける限り投打とも平凡な記録に終わるだろう”と言ってい

たではないか。

だから大谷に関する限り、素人も玄人もないのである。玄人はあっさり肩書を捨て、フ

ァンの一人になった方がむしろさわやかというものだ。賢い”元メジャーリーガー”は、

既にその方向に舵を切っている。

                        2024.05.12