ある論文が小さな波紋を広げている。
その論文とは、GoToトラベルとコロナ感染の関連性を調査したもので、12月6日
インターネット上に公開された。通例のいわゆる査読を受ける前の状態なのだが、
緊急性があるため発表したのだという。明らかに国内向けの内容なのに、なぜか
英文で書かれている。
作成したのは、その関係がよくわからない4人からなる共同研究グループであるが、
主導したのは東大の宮脇先生と米カリフォルニア大の津川先生らしい。
内容は、インターネットによるアンケート調査をまとめたもので、年齢、性別、
地域などを考慮して224,000人を選出し、その12.5%、28,000の回答者から
不適切な回答2,518を差し引いた25,482人が対象者となっている。
そして、そのうちの12.9%(3,289人)がGoToトラベル利用者ということで、
バランス的には少々偏りがあるものの調査数としては十分だろう。
実際のアンケート調査票が見つからなかったので詳しくは分からないのだが、
8.25~9.30までの約1か月間で、GoTo利用の有無とコロナを示唆する5つの症状
(発熱、咳、咽頭痛、頭痛、嗅覚/味覚異常)の有無を聞いたものらしい。
その結果、GoTo利用者のグループに約2倍の発症が見られたというので、これに
メディアが飛びついた。
これまで、GoToとコロナ感染拡大を結びつけるエビデンスはないと主張して
きた首相に対して、「GoToトラベルはコロナ発症が2倍」「首相!エビデンス
でござる!」と迫ったのである。
政府関係者はそろってこれを無視する構えなのだが、もう少し詳しくこの
論文を見てみよう。
結論(メディアの翻訳)は婉曲表現が多く、分かりにくいところがあるので、
自分流に短くまとめてみるとこんな感じになる。
- GoToトラベルはコロナ感染のリスクを増加させた可能性がある。
- 感染リスクの高い人がより積極的にGoToを利用している可能性がある。
- 高齢者、基礎疾患のある人に感染が多いとはいえず、これらの人に自粛を求めるのは的外れである。
なんだかツッコミどころ満載なのだが、そのあたりは「調査の限界」として次の
通り苦し気な言い訳を付け加えている。
1.GoToトラベルが直接コロナ症状の増加につながったとは断定できない。
2.症状の出た人が必ずしもコロナに感染しているわけではない。
3.GoTo利用と発症の時系列的関係が不明。
4.症状の出た人がその原因としてGoToを思い出しやすい可能性がある。
そこまで予防線を張られると何も言えないが、この論文が無意味だとも思えない。
分かったことは、まず第一に、日ごろ感染防止の意識が薄弱な人、対策行動が
おろそかな人がGoTo 利用者に多いことであり、この人たちをどう啓蒙するか
が課題の一つであるということ。
第二に、症状の見られた人の中に本当にコロナ感染者がどの程度であったか、
また旅行先での行動態様がどうであったかというさらなる調査が必要である
ということである。そしてそれらの教訓を今後の対策に生かすことだ。
GoToトラベルは、困窮する業界を救うかなり有力な施策でもある。
感染が全国に拡大し、安全な場所など無きに等しい現状において、問われる
のは個人の意識と行動(習慣)である。
この論文で見落としてはならないのは、高齢者、基礎疾患のある人と発症比率の
因果関係は認められなかったという結果である。彼らの中には、少しでも苦境に
喘ぐ業界の助けになればと考えた人たちも含まれていよう。そして、彼らは感染
防止に気を配り発症しなかったのである。要は、個人個人の心掛けが大切なのだ。
GoToトラベルの最大の問題は、GoToを利用しない人たちにも多大な心理的影響
を及ぼすことだ。
第三波のピークがまだ見えず、医療崩壊が危ぶまれるこの際、気を引き締める
ためにもGoToの、一時中断はやむを得ないところかもしれない。
メディアも、もう少し建設的なスタンスをとれないものかといつもながらに思う。
2020.12.9