樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

チコちゃんに叱られる(J-115)

車で1時間ほどのところに弟が住んでいて、2,3か月に1度くらい肴持参で飲みに来る。

楽しみにしているのだが、“職場の関係者にコロナが出た“ということで、しばらく来訪

が途絶えた。

「ワクチンも打ってるし、陽性になっても免疫が強化されるだけだから、こちらは構わ

んよ」と誘いをかけてみるのだが、「兄貴は“後期”(高齢者)だから」と用心深い。

それがようやく心配なくなったということで、約半年ぶりの来訪と相成った。

で、今回手土産に持ってきたのが“覚王山フルーツ大福「弁財天」”という和菓子であ

る。名前は老舗っぽいが聞いたことがない。

「最近大人気だけど知らない?来る途中寄ってみたら、もう人気の種類は売り切れて

これだけしか残っていなかった」と弟は言う。

パンフレットを見れば、あまおう、ピオーネ、キウイ、マンゴー、メロン等々20種類ほ

どのフルーツが載っている。一番人気はイチジクだという。

「高そうだな」と聞くと、

「うん、まあ一度ためしに・・」という。

姿かたちに特段の特徴はない。イチゴ大福と同じように見えるのだが、「おや?」と思

わせる仕掛けは、そこに“タコ糸”が添えられていることだ。

“この糸で切ってお召し上がりください”ということらしい。

やってみると、なるほど見事に切れて切り口が美しい。

そこで肝心の味はどうかということになるのだが・・・・

最初にピオーネを食べてみた・・・上等のピオーネである。つまり、素材(果物)その

ものの味が印象的だ。なるほど、うたい文句の“最高のフルーツを最高の状態で閉じ込

めた”に嘘はない。フルーツを包んでいる求肥の触感は柔らかくなめらかで”高級感“が漂

うが、味そのものは控えめだ。しかし、”衝撃度“でいえば”花畑健牧場には負けているか

も・・といった第一印象である。

そこから急に、話があらぬ方向に発展した。

「ところで、求肥ってなんだ?」と言ったのは私である。

白玉粉でしょ?」

「いや、求める肥って変じゃない?まてよ、“牛の皮”というのも見た記憶があるぞ」

「ギュウヒという音の当て字なのかな?」

こんな時、今の時代はまことに便利である。

「ギュウヒって何?」とスマホに聞く・・・答え一発、

「ギュウヒは平安時代唐から伝来した。牛皮に似ていることから付けられた名前だが、

日本ではその文字が嫌われて求肥となった」とある。

「なんだ、そんなことか。チコちゃんに叱られそうだな」

と笑い話になってしまったのだが、こんなことは他にもたくさんありそうな気がする。

というわけで、これまでちょっと気になりながらほったらかしにしてきた言葉を調べ始

めた。ところが、その作業は際限なく広がってまだ終わりが見えていないのだが、その

一端をご紹介したい。ただし、知っている人にはつまらない話ではある。

例えば「上前をはねる」という言葉である。

広辞苑その他の辞書を総合すると、”「上前」の元は「上米」で、江戸時代、諸国の年

貢に対して通行税と称し寺社がとりあげたもの”で「ピンハネ」に同じとある。

なるほどその正体は”上米“であったかと納得したが、今度は”ピンハネ“がわからない。

調べてみると、”ピン“についてはポルトガル語で点を意味するPintaに由来するというこ

とで異論はないが”キリ“については2説あって定かでない。その一つは、十字架(Crus)

に由来するという説で、辞書編集者で「チコちゃんに叱られる」にも出演したことが在

る神永暁先生もこの説を採っている。しかし、ピンとキリがセットで使われることを考

慮すると、どうもスッキリしない。そこでさらに調べてみるとWiktionaryにこんな説明

があった。

ポルトガルから伝わったカルタを基に「天正カルタ」が生まれ、その1(竜の絵)を

ピン12(王の絵)をキリと呼んだことから”・・・・これなら説得力がある。

それに、キリが王様なら“ピンからキリまで”の意味も、元々は逆の意味だったらしい。

次はポン酢である。これも何かいわくがありそうな名前だが、どうやらオランダ語

ponsからきているらしい。Ponsとは柑橘類などの果汁である。フルーツポンチのポンチ

も同じ由来だそうである。それにしても「ポンス」といわずに「ポン酢」としたところ

が、いかにも日本流だ。

このように、今までほったらかしにしていた言葉がいくらでも浮かんでくる。

それらを全て列挙するわけにもいかないので、最後にもう一つ、「ホットドッグ」を

取り上げて終わりにしたい。

出口宗和の「語源」によると、“ある競技場で、このソーセージは犬肉だと騒ぎ立てた

人がいてそれが広まった”と説明されている。しかし、なんだか胡散臭い。もしそれだ

けの理由なら、定着することはなかったのではないかという気もする。で、またもスマ

ホに聞いてみるとちゃんと出てくる。

”ホットドッグ:アメリカのドイツ移民がフランクフルトソーセージをパンにはさんで

食べたのが始まり。その姿から「ダックスフンド・ソーセージ」と呼ばれたが、ある漫

画家が、その絵に「ダックスフンドはいかが?」と書こうとしてDachshundのスペルを

思い出せなかったので「Hot dog」と書いたのが名前の由来“だとのこと・・・

ほぼ納得である。

チコちゃんに叱られようがどうされようがもはや手遅れ、あとはボーっと生きてやろう

とこの正月に決めたはずだったが、スマホはそれを許してくれない・・・

ああ、また目がかすむ・・・。

                          2022.07.18

 

 

 

 

 

言論に異議あり(J-114)

 

7月8日、安倍元総理が奈良市参院選の応援演説中、暴漢の凶弾を浴び死亡した。

“最も安全な国”ともいわれる日本で起きたこの事件は、“信じがたい惨劇“として世界に

衝撃を与えたが、ある意味”日本らしさ“をも漂わせている。

その一つは、犯行に使用された銃が”手製“であったこと、もう一つは”警備の甘さ”

である。

事件の概要は、メディアやSNSを通じてまたたくまに全国に拡散したが、政治家や識者

の発言はまるでハンコでも押したかのように、「言論を暴力で封じようとする暴挙」、

「民主主義に対する挑戦」といったコメントに集約されている。

あたかも二本の”金太郎あめ”のようなこの現象は、不気味でもある。

同時に、その発言内容や報道姿勢には首をかしげざるを得ない部分も少なくない。

 

まず第一に、現行逮捕された犯人についての発言である。

この男が元海上自衛官であったという事実は早い段階で報じられ、その経歴が20年前か

らの3年間であることもわかっていた。しかし、言論界のこの経歴に関する反応は明ら

かに過剰である。自衛官と手製の銃をこじつけたり、5.15,2.26事件をもちだしたり、

ほとんど“言いがかり”とも言うべき無茶苦茶な論法だ。

犯人が使用した銃の詳細は明らかでないが、見た眼には火縄銃のような原始的な構造の

ようである。実は小学生のころ、仲間の間で手製の銃をつくることが流行り、私も制作

したことが在る。銃身にはコウモリ傘の柄などを利用し、火薬には紙火薬をバラシて使

った。銃身に小さな穴をあけてそこに少し火薬を乗せ、ゴムを動力にした撃鉄でその部

分を叩くという仕組みだった。たいていは弾を込めずに音と炎だけで喜んでいたが、鉛

を溶かして弾をつくった奴もいた。まもなく大人たちに見つかって禁止されてしまった

が、かなりの威力があった。原始的な銃なら子供でも作れるばかりか、そもそも、海上

自衛官はそれほど銃に詳しくない。

皆が知りたいのは遠い昔の話ではなくて、犯人の最近の状況だ。

「何故メディアは“元”を強調する? 今何やってるかを先に教えて」とサッカーの本田

がツイートしている。その通りである。

 

次に最も気になる犯人の動機についてである。

犯人は「安倍氏の政治信条に恨みはない。特定の宗教団体に恨みがあり、初めはその団

体を狙っていたが、難しいのでその団体に深いつながりがある安倍氏を狙った」と告白

している。そこに至るまでに誤解や思い込みがあったかどうかは分からないが、おそら

くその発言に嘘はない。思想的な理由であるならそれを隠すことは目的に反するからで

ある。だから、思想的背景があったわけではない。

では、正義感に基づく懲罰・制裁の意味があったのかどうか・・・つまり、

“母親がある宗教に嵌まりひどいことになった。犠牲者は他にもいる。だからこの宗教

団体には懲罰を与えなければならない・・”と犯人が考えたかどうかということだが、

もしそうなら犯人ははっきりとその団体名を口にしているはずである。しかしその部分

は報じられない。

ここに問題がある。犯人が口にしようがしまいが、警察もメディアもおそらくその団体

名は分かっている。それをあえて公表しないのはなぜか・・・。

振り返れば、北朝鮮による拉致犯罪もオウム真理教のケースも、初期においては同様の

扱いが続いた。

SNSを探ってみると、その宗教団体は「統一教会」ではないかと推定されている。

あの「霊感商法」や「合同結婚式」で悪名を馳せた「世界基督教統一神霊教会」であ

る。教祖は死亡し現在は「世界平和統一家庭連合」と名を変えているが、おそらくそう

であろう。

遠からずこの情報は拡散すると思われるが、大手メディアはこの時を待っている。

先走れば、嫌がらせや業務妨害、訴訟などの厄介ごとに見舞われかねないからだ。

世間に名前が知られればあとは思うままに叩くことができる。この団体をターゲットに

した追求は、さらに政治と宗教界の関係にまで踏み込んでゆくのかもしれない。

そのときには、かつて自分たちが「暴力による言論封殺」、「民主主義への挑戦」など

と騒いでいたことはすっかり忘れ、自身が”エンマ大王”に変身する。

詳しくは書かないが、言論界は暴力による言論弾圧を激しく否定しながら、自分たち自

身が“言論による言論封じ”をしばしば行っていることに気づいていない、若しくは気づ

かぬふりをしている。

”ペンは剣よりも強し“ ペンは時に集団となって、剣よりも人を傷つける。

                          2022.07.11

バレーボールが熱い(J-113)

「1972ミュンヘン・オリンピックで、男子が「金」女子が「銀」を獲得した団体競技

いえば?」・・・・クイズ番組にでも登場しそうなほど遠い記憶となってしまったこの

答えはバレーボールである。かつては“お家芸”とまで言われ人気を博したこの競技が、

長いトンネルの闇を抜けて今輝きを取り戻している。

バレーボールの国際大会は、2018年からネーションズリーグという形になって毎年行わ

れているが、日本チームはこれまであまりいい成績を上げられていない。それどころ

か、以前のワールドリーグ(男子)、ワールドグランプリ(女子)の時代を含めて、

1990年あたりから低迷がつづいている。

すこし歴史をさかのぼってみよう。

バレーボールが初めてオリンピックに組み入れられたのは1964年の東京である。

この晴れの舞台で日本チームは、男子が「銅」、女子が「金」を獲得した。特に、女子

の決勝対ソ連戦は日本中が熱狂し、この時の66.8%というTV視聴率は1984年以前の紅白

歌合戦を除けば、いまも歴代一位の座を保っている。日本女子の「金」は1936年の

前畑(平泳ぎ)以来であり、彼女らは”東洋の魔女“とも呼ばれるヒロインとなった。

女子はその後も1976年モントリオールで「金」を獲るなど、しばらくトップグループに

いたが、男子はミュンヘン以降急速に力を失った。そして1990年ごろからのワールドシ

リーズでは、男子は概ね15位前後、女子は5,6位あたりが定位置となった。

2018年からのネーションズリーグの成績も次のようにさほど変わらない。

 

            ネーションズリーグの成績

          男子                女子  

   優勝  2位  3位 (日本の順位)  優勝  2位  3位 (日本の順位)

2018 ロシア フランス アメリカ    12位          アメリカ  トルコ    中国    10位

2019 ロシア アメリカ ポーランド  10        アメリカ ブラジル 中国    9

2020         ・・・・コロナにより中止・・・・

2021 ブラジル ポーランド フランス 11            アメリカ ブラジル トルコ     4

 

ところが今年は全く様相が異なり、男女ともに予選リーグで好成績を収めている。

今年は予選リーグが従来の16チーム”総当たり戦“ではなくて、4試合×3ラウンドの

各チーム12試合の予選リーグを行う。その上位8チームが決勝トーナメントに進むとい

う方式だ。男女共にここまで8試合を消化し、男子は6勝2敗で4位につけ、女子は8戦全

勝の首位に立っている。

男子の2敗は優勝候補のアメリカとフランスで、アメリカとは2-3セットの惜敗、フラン

スにはBチーム0-3ながらも好勝負を演じたので、もし決勝トーナメントで再戦するとな

れば勝つチャンスは十分ある。最終ラウンドは大坂が会場になるので地の利もあり、初

めての決勝トーナメント進出は勿論、メダルへの期待も膨らむ。

女子は、既に3連覇中の最強アメリカを3-0で下しているので、今日からの最終ラウン

ドで当たるオランダ、トルコ、セルビア、ベルギーにも負ける要素は見当たらない。

 

わずか1年前の東京オリンピックでは、男子は開催国枠で出場しベスト8に進出したが、

ブラジルに3-0で敗れて敗退し、女子は予選を突破できなかった。そのチームが1年足ら

ずで、これほど強くなるとは驚きである。どこにその秘密があるのだろうか。

いずれ専門家の分析がなされると思うので、素人が口をはさむべきではないが、素人が

口を挟めるのは今しかないので、この際敢えて口をはさんでみたい。

ここまで強くなった要因は色々あると思うが、あえて絞り込めば、男女ともにそれは

「サーブ力」と「新戦術」ではないかと思う。

男子のイタリア戦、日本は3-2でこの激戦をものにしたが、イタリアの強力なブロック

による得点とほぼ同じサーブポイントを挙げたことがまず挙げられる。もうひとつは、

高いブロックへの対策として、ブロックが完成される前にスマッシュを決める速攻と、

ブロックの壁にソフトに当ててリバウンドをとり多彩な攻撃に結び付ける戦術である。

いわば、体格とパワーのハンデを日本流の戦術で補う作戦だ。

 

ここで終わるつもりであったが、今日からカナダで始まった女子の最終第3ラウンド

の初戦対オランダ戦で”異変”が起きた。ここまで8戦全勝の日本が1勝7敗のオランダに

敗れたのである。最も楽な戦いのはずが、接戦に持ち込まれた末に2-3で負けてしまっ

たのだ。ほぼ予選敗退が決まったオランダはのびのびと闘い、おそらく最高の出来であ

ったのに対し、日本は受けて立とうとした。それが思い切りを失くし攻撃が単調になっ

てしまったように見えた。

この敗戦から言えることは、もともとチーム力の差はそれほど大きいわけではなく、

好不調の波や試合の流れで勝敗は変わるということだろう。

女子の次戦は7.2(土)のトルコ戦となる。オランダ戦を反省し修正するというよりも、

ここまでの戦いを思い出してもらいたい。

男女が揃って決勝トーナメントに進出するとなれば初めてのことだ。

猛暑の中、熱い戦いはまだしばらく続く。

                             2022.06.30

もう一つの参院選=SNS上の戦い(J-112)

前回のブログは、政党要件を満たしている既存政党についてしか述べていない。

新聞やTVが概ね対等に扱ってくれる、いわば表の参院選だ。

しかし、今回選挙がいつもと違うように感じられるのは、従来は「諸派」として「泡

沫」扱いされてきた政治団体が裏(SNS)で熱い戦いを繰り広げているからである。

若者の多くはSNSから情報をインプットしており、時代はこれらの政治団体を「泡沫」

として無視するわけにはいかなくなっている。

大手メディアが無視を決め込んでいる中で、毎日新聞は、6月22日の「風知草」(特別

編集委員山田孝男のコラム)で、そういった状況を“「参政党」現象”と題してこのよ

うな言い回しで触れた。

 

“知る人ぞ知る、知らぬ人は名さえ聞いたことがない政治団体について書く。(中略)

 過日、「サンセイトーってどうなんです?」と知人に聞かれ、「えっ?」と聞き返し

た。 知人は49歳で私は70歳。「ご存じないとはショックです」と知人は言い、私も驚

いた・・(略)”

実は私も「参政党」を知らなかったのだが、この記事を読んで一度これらの政治団体

ついて頭を整理してみようという気になった。中にはちょっと気になる団体もある。

先ずは目新しいところから・・・

参政党:

吹田市議の神谷宗幣(44)を中心に、“投票先がないなら自分たちで作ろう”と5人のメ

ンバーで2021年に立ち上げた。“誰かがやってくる時代は終わった”としてDIYを理念と

している。今回の選挙では、10の柱と3つの重点政策を掲げ、45選挙区のすべてと比例

区に5人を立てた。その中には元衆院議員で風見鶏のような松田学や中部大客員教授

武田邦彦先生もいてなかなか強力な布陣だ。

重点政策は、・教育・先人の知恵を生かしたSDGs・国の守り の3つだが、総じてグロ

ーバリズムへの抵抗感がみてとれる。

 

ごぼうの党:

会員制高級サロンなどを経営する奥野卓志(48)が立ち上げた。23日、都庁前で行われ

た初の街頭演説では、法被姿に天狗の面に白髪のかつらをつけて登場し、「この選挙を

祭りとして楽しめるような運動をしていく」「政治を花火のようにしたい」と訴えた。

20分程度のスピーチの後は、若者たちの「よさこいソーラン」風のダンスとなった。

お面にダンスはかつてオウムがやったパフォーマンスで印象が悪いが、有名芸能人やア

スリートたちの応援もあって、SNS上ではかなりの勢いがある。

“一番大切なものは「笑顔」であり、コロナ対策はその笑顔を奪った”と訴えるところと

合わせると、コロナが生んだ政治団体と見ることもできる。

ただ、一部には、立憲と参政の票を割らせようとする”自民の別動隊“であると指摘する

者もいる。

以下はお馴染みの団体である。

くにもり:

元々は「日本の敵とは徹底的に戦う集団=国守衆」という集団があり、「我らこそが自

民が立党宣言をした時代の魂を受け継ぐ嫡流である」と宣言していた。その政治家分野

が「新党くにもり」であるという。今回選挙には比例に党代表の本間奈々を立てている

が、彼女は早大から自治省に入り、その後わが春日井市の副市長を務め、札幌市長選に

も立候補したことが在るという元気な女性だ。

 

幸福実現党

宗教法人「幸福の科学」(総裁:大川隆法)を母体とするもはやお馴染みの団体だ。

勢いは下降気味であり、昨年には国政選挙から撤退する意思を表明したが、今回また党

首を比例に立てている。

 

日本第一:

ヘイトスピーチ橋下徹市長とのバトルで知られた桜井誠の団体であるが、未だに国・

地方共に議員はゼロ、自身も中核派青年との援助交際スキャンダルで元気はない。

 

新風:

魚谷哲夫(74)が1995年に設立した。

「あらゆるレイシズムに反対する」といいながら、「韓国との国交断絶」を主張するな

ど矛盾するところもあるが、一貫しているのは「戦後体制への不満」である。2009年ご

ろをピークに党員も減少し続けている。

 

以上を総括してみると、これらの政治団体の中に学生運動から派生した団体はいない、

全体的に反グローバリズムの傾向が見られ、右か左で言えば自民よりさらに右に立って

いるようにも見える。このことは自民がそれほど右に偏ってはいないことの証明である

ともいえよう。

ただ一つ、「参政党」だけは他とは違うところがある。

「自尊史観の教育」とか、「日本版SDGs」とか、「外国勢力が関与できない体制」だ

とかナショナリズム的な香りがプンプンしていても、演説を聞けば「れいわ」や「N

党」よりも穏やかで、国際試合で日本を応援するときと同じような気分にさせられる。

私は今回この党が1議席と政党要件の2%を獲得するのではないかとみているが、政治

家本来の務めはリーダーシップにあると考えるので、本気でメッセンジャー的な姿勢を

貫くつもりだとすれば、少々物足りない。しかし、存在意義はありそうで、今後伸びて

いくポテンシャルがある。

SNS上の熱い戦いに比べ、いまのところ表の戦いは冷ややかである。

一足も二足も早い梅雨明けと猛暑の所為だけでもあるまいが・・・。

であれば、自ずから限界がある。

 

 

参院選を色眼鏡で見る(J-111 )

第26回参院選が6月22日に公示され、7月10日の投開票に向けて18日間の戦いが始まっ

た。前国会における立憲民主党内閣不信任決議案が不発に終わったこともあって、

いささか盛り上がりに欠けるが、いつもと様子がちがうような気もする。立候補者数が

やたらと多いのである。その訳はN党と“諸派”という言葉で束ねられた新党が大量の候

補者を立てているからだ。

争う議席は、非改選の欠員補充1を含めて125議席、候補者にとってはいつもより厳し

く、有権者にとっては読みにくい選挙となっている。

自民は勝敗ラインを与党の過半数としており、随分控えめな目標である。公明も現状維

持で良しとするが、立憲は1,2議席減に留まれば御の字レベルで苦戦は必至の様相だ。

共産、国民、れいわも大幅増は難しく、社民に至っては断末魔の叫びが聞こえてくる。

そんな中で「維新」ただ一党が大幅増を目論んでいる。

ここで各党が何を訴えているのか、それぞれのスローガンを並べてみよう

 自民 : われらこそが責任政党

 公明 : 安心を届け 希望をつくる

 立憲 : 岸田インフレと闘う

 維新 : 野党第1党となり自民をピリッとさせる

 共産 : 憲法を生かした平和外交

 国民 : 給料を上げる 日本を護る

 れいわ: 消費税廃止

 N党 : NHKをぶっ壊す

 社民 : 党存亡の危機

 

これらを、私の色眼鏡を通して解釈すればこんな風になる。

与党(自民・公明)の主張を一言で言えば、“他よりはまし” である。

振り返ってみれば、与党はずっとこれを続けている。“あの悪夢のような民主党政権

ということばをことあるごとに繰り返し、今もまた、コロナ被害も物価高も”他よりは

まし“で片づけようとしている。

公明はブレーキ役であると自ら宣言している。それが改革を阻害し、日本の長い停滞に

結び付いている。”安心を届ける”とは”ぬるま湯の心地よさを提供する”ということだ。

これにはまるとそこから抜け出すのは容易ではない。

 

立憲:キャッチフレーズは“岸田インフレと闘う”である。なにかにつけて強引なこじつ

けやレッテル張りが好きな集団だが、どこが岸田インフレなのかなんだかピントがずれ

ている。あの悪夢のような民主党が掲げた”コンクリートから人へ“は、それなりに説得

力があったが、今はちゃっかりと他党にパクられている。つまり立憲はあの時何が欠け

ていたのか、どこが悪かったのかを自身が”総括“できないまま分裂し名を変えた。

今はまた共産との共闘路線について総括ができないままだ。

 

維新:“野党第1党になり自民をピリッとさせる”というのが“売り”である。

考えようによっては有権者を小ばかにしたようなスローガンだが。“地に足がついてい

る”という見方も成り立つ。公約を見ても、この党は絵に描いた餅を並べるのではな

く、どうやって餅をつくるかという”手段“について語っている。日本が生まれ変わるた

めには”既得権益”にメスを入れる必要があり、選挙のためだけに組んでいるような自公

よりも自維の組み合わせがよさそうにも思う。

 

共産:自らの綱領に縛られ”硬直化“している。合法・非合法を問わず、政権与党への道

はありそうにない。”化石“化を防ぐためには、政権の見張り役に徹し、不正行為や腐

敗・汚職・を暴くことのみを使命とすれば、一定の支持を得て生き延びられるだろう。

 

国民:その前身はともかく、いつも“まとも”なことを云う。“時代遅れになった制度を変

える”という主張は、はいつの時代も政治家にとっての第一の使命であり、しがらみを

捨てて揃って自民に入党するのが一番良さそうなのだが・・・。

 

れいわ:党首の行動がなんとも不可解である。障碍者当人を国会に送り込むなんて虐待

もいいとこだ。なぜ衆議院議員を辞職して参院に立候補するのか、その訳を聞かされて

も理解できない。自信満々の語り口には詐欺師の匂いがする・・。

言い過ぎた・・ごめんなさい。

 

N党:“NHKをぶっ壊す”だけで候補者を乱立させるその魂胆がわからない。せめて“既得

権益をぶっ壊す”くらいでないと・・。狙いは得票率2%以上で政党助成金獲得か。

そんなビジネスはぶっ壊されるだろう。

 

社民:党存亡の危機…?・・・知るか!

 

さて今回の参院選、一見どうでもいいような選挙に見えるが、実は極めて重要な意味を

秘めている。それは改憲勢力が2/3以上の議席を占めるかどうかであり、そこが本当

の勝敗ラインなのである。つまり4党で248☓2/3=166議席以上が目標だ。

非改選の勢力は自民55、公明14、維新9、国民5で、合計83議席だから、これと全く同数

の83を獲得できれば、造反者がいなければ2/3を確保できることになる。だから岸田

総理は与党で過半数などと余裕を示しているのである。

予想では維新が議席を伸ばすと見られているので、おそらく2/3以上は固い。

実は現行の選挙制度の下では、参院において2/3以上を単独で占めることは極めて難

しい。その条件が今満たされようとしているのである。自民は結党時の誓いを思い起こ

し、覚悟を決めて「憲法改正」に取り掛かって欲しい。

そうでなければ、岸田総理のあだ名は「ゆ~だけ番長」よりも不名誉な「やるやる詐欺

の男」になり下がるだろう。

                         2022.06.26

 

 

いささか品のない物言いとなったが、それは色眼鏡の所為ということでお許しあれ。

もう少し長生きしてみたい理由(J-110)

世に言う”新聞離れ“は自分の中でも進行中だが、今も必ず目を通す欄がある。

毎日新聞の川柳欄である。投稿者は年配の人が多いらしく、(…だよな)と思わず膝を

打つことがしばしばである。

無断で紹介させていただくが、6.11の岡良氏の次の句もその一つだ。

  “夢だった未来はとうに通り過ぎ”

正しくその通りで、いつお迎えが来ても文句はないのだが、もう少し生きてみたいと思

うこともある。その理由は、例えば次のようなことである。

 

さしあたり、あと1年ほど長生きすれば・・・

いま世界を悩ませている新型コロナとウクライナ戦争が収まるだろう。完全決着とはい

かないかもしれないが、おそらくコロナは風邪と同等になり、ウクライナは停戦合意に

たどり着く公算が高い。浮き彫りになった日本の医療システムの問題点とプーチン

“その後”を見てみたい。

 

2年ほど生きれば・・・

日韓関係に劇的な変化が訪れる可能性がある。

6.1に行われた韓国の統一地方選挙で、尹新政権与党が圧勝した。主要17の知事・市長選

で12勝、その他の地区でも6割以上の議席を占めた。とくに、ソウル市の25区では前回

18年の1勝24敗から17勝へと激変した。当選者の中には、かつて行き過ぎた反日教育

実態を暴露して処分された高校生が含まれている。未だ彼は20歳の若者だが、韓国では

被選挙権がある。

しかしながら、国会は相変わらず野に落ちた「共に民主党」が議席の2/3を占めてい

る。大統領選を僅差で敗れた李在明は、同時に行われた国会議員補選で当選し、8月の

党代表選に出馬して命懸けで尹政権に対抗する構えだ。

新大統領としても、野党優勢の国会と根深い反日感情を無視してやみくもに関係改善を

図るわけにもいくまい。つまるところ、新大統領が手腕を発揮できるかどうかは、2024

年4月の総選挙にかかっている。そこまでを耐えて選挙に勝てば、文在寅が成立させた

悪法の撤廃や、一連の前政権の犯罪を裁くことができるだろう。

日韓関係がギクシャクする原因は主として韓国側の国内事情にある。しかし、ここまで

悪化したのは、日本側がこれまでの態度を変えたからでもある。平たく言えば、仏の顔

も三度とばかりに”腹に据えかねて”突き放したからだ。

具体的には、「慰安婦合意の破棄」と「レーダー照射事件」の影響が大きい。

しかし、日本が本気で怒って見せたことで、若者を中心に韓国内にも真実を知ろうとす

る動きが広がりつつあるようにも思う。

いずれにせよ、好き嫌いは別にして、韓国が中国に取り込まれる事態だけは防がねばな

らない。日本にとっての朝鮮半島は、ロシアにとってのウクライナ以上の存在だ。

 

3年ほど生きれば・・・

大谷翔平が何かどえらいことを見せてくれそうな予感がする。

例えば投手部門と打者部門のタイトルを同時獲得するとか、ノーヒットノーランの試合

を自身の決勝ホームランで勝つとか、漫画家でさえ躊躇するようなそんな”奇跡“を見せ

てくれるかもしれない。勿論それは3年以内でなくてもよい。むしろそんな期待を抱

かせ続けて長く活躍してくれれば、こちらも元気が出る。

 

5年長生きすれば・・・

初めての憲法改正が実現するかもしれない。できることなら、一度は国民投票という奴

をしてみたいものだとも思う。

直ちに改正すべきだと思っているのは第27条である。その次が9条だ。

第27条は”まな板”に乗っていないようだが、次の通りである。

“すべて国民は勤労の権利を有し、義務を負う

 2 賃金、就業時間、休息、その他の勤労条件に関する基準は法律でこれを定める。

 3 児童はこれを酷使してはならない。”

ここに言う”すべて国民“には条件がない。文字通りすべての国民が対象である。

わざわざ”児童“にまで言及しているとおり、子供も含まれている。

“国家には、働く意思のある国民に仕事を与える責任がある”というのならわかる。

しかし、全ての国民に勤労の”義務“があるというのはどうだろうか。

この条文は、私を含め何千万人もの国民を“憲法違反者”にしているということになる。

 

実は、この思想のルーツは新約聖書

 He who does not work, neither shall he eat.   だという説がある。

これをレーニンが演説で引用し、1918年のいわゆるレーニン憲法に次のごとく取り入れた。

“労働を共和国の全ての市民の義務であると認め、働かないものは食うことができない

というスローガンを掲げる”(18条)

その後1936年に改定されたスターリン憲法でも

“労働は「働かざるものは食うべからず」の原則によって労働能力のあるすべての市民

の義務であり名誉である”

として残されている。いかにも共産党らしい条文である。

日本国憲法でどういう検討がなされたのかは定かでないが、最初の草案にはなかった条

文らしい。そのあたり、起草メンバーの中には共産主義思想の持ち主がいたという説の

根拠ともなっている。

この条文は大袈裟に言えば”非人道的“でもある。

ソ連でさえ1977年のブレジネフ憲法では、

ソビエト人の幸福の源は搾取のないソビエト人民の労働である”(14条)

のように修正されている。

私は、日本国憲法のこの第27条が放置されたままであることが不思議でならない。

 

10年長生きすれば・・・

生命誕生の謎が解明されるかもしれない。

46億年前、生まれたばかりの地球はどろどろの火の玉状態だったと考えられている。

やがてその表面が冷却されたとしても、水はどこから来たのか、生命はどのようにして

生まれたのかは分かっていない。隕石の分析から、それらは宇宙由来であるというのが

有力な仮説ではあったが、隕石は地球到達後に変化した可能性を否定できない。

ところが2020年12月、「はやぶさ2」が小惑星リュウグウ」の試料を携えて帰還し、

その分析結果の一部がようやく今月公表された。

驚いたことに、試料には大量の「水」が含まれており、23種類のアミノ酸など生命体の

材料に使われる様々な有機物や化合物が検出されたという。

さらに、2023年にはNASAの「オシリス・レックス」が小惑星ベンヌ」のサンプルを

持ち帰る予定であり、「はやぶさ2」はカプセルを届けた後も次の目標(1998KY26 )

に向かって飛び続けている。目標到着は2031年7月の予定だ。

地球最大の謎解きは終盤に差し掛かっている。理解できるかどうかは分からないが、出

来れば知りたい

 

20年長生きすれば・・・

中国の衰退を見ることになるかもしれない。

別に中国に恨みがあるわけではないが、このまま拡大し続けられては迷惑だ。

まるで「セイタカアワダチソウ」のごとく”蔓延り過ぎた嫌われ者“になっている。

セイタカアワダチソウ」は、明治期に園芸品種として持ち込まれたらしいが、全国的

に広がったのはWWⅡ以降米軍の物資に紛れ込んだのがきっかけだ。この嫌われ者は、

周囲の植物の成長を抑制する化学物質「アレロパシー」を有しており、我が物顔に蔓延

るわけだが、自身の種子の発芽をも阻害するためやがて衰え始める。

中国の人口は2035年ごろまでにピークを迎えると予想されている。インドに抜かれるの

はそれ以前というか間もなくである。中国にとっての問題は、日本より急激な超高齢化

社会に突入することだ。建国100年を迎える2049年ごろには、約5億人が高齢者で、その

うちの2億人は要介護者になるとの予想だ。これではもはや高成長は続けられない。

富裕層は国外脱出を図るかもしれないし、一足先に高齢社会を経験した日本の助けが必

要になるかもしれない。もしかするといくつかの国に分裂するかもしれないが、驚く

ことはない。これまでの歴史を繰り返すだけのことだ。

だからまあ、これはそこまで生きて見届けたいというほどのものでもない。

                              2022.06.15

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電子計算機使用詐欺」って何?

 

何ともお粗末な事件である。取り上げるのもアホらしいとは思うのだが、ある意味現代

日本の縮図のようにも感じられるので、遅ればせながらこれに噛みついてみたい。

発端は、「新型コロナウイルス対策臨時特別給付金」の事務処理における単純なミスである。

先月(4月)8日、山口県阿武町の担当者が、該当者463名に対する10万円の給付手続き

を行ったが、その際何を勘違いしたのか、それとは別に全額分の4630万円を一人に振り

込むというミスを犯してしまった。100万程度の引き出しや振り込みでもチェックが入

る昨今、この作業がすんなり行われたことに「?」も付くが、その結果として一人の若

者(T)に合わせて4640万円が振り込まれてしまった。銀行側からの指摘によりミスに

気付いた同町はTに事情を説明し、Tは返還手続き(組み戻し)に同意した。ところが、

Tは銀行まで市職員に同行したもののその場で翻意し、その後給付金のほぼ全額を10日

間のうちに使用または移送したうえ、「金はすべて使った、罪は償う」と開き直った。

大騒動のなか、ようやく5.18になって県警がTを逮捕し、5.24には大部分の約4300万円を

確保したと阿武町が発表した。

“やれやれ”というところだが、一件落着どころか実はそれでは収まらない。

4300万円は決済サービス代行業者が黙って町に振り込んだものであり、なんだか不透明

かつ不気味でもある。騒ぎはしばらく続くだろう。

ここまでの経緯を少し詳しく見てみよう。

4.08 阿武町が4630万円を誤給付したことを確認

     Tの自宅を訪問、銀行に同行するもTは手続きを拒否しこの日は時間切れ

     夕刻、町は銀行に対しTに払い戻しをしないよう依頼する公文書を発送

 同日  Tが早くもデビット決済で約68万円使用

4.10 Tから町に弁護士と相談する旨の電話

4.11~12 Tに連絡が取れない状態が続く

4.12 町はホームページでTの住所氏名を公表

     町長が「このようなことが起きるとは夢にも思わなかった」とコメント

4.14 Tの母親と副町長がTの勤務先で面会するが物別れ

4.15 Tの弁護士から「返還手続きの日時が決まったら連絡する」と通知

4.10~18 30数回にわたってほぼ全額を出金(他口座などに振り込み)

4.21 Tが町職員に「金は動かしたもう戻せない、罪は償う」などと発言。

5.12 町が全額返済を求め提訴

5.18 山口県警が「電子計算機使用詐欺容疑」でT(田口翔、24歳)を逮捕

5.24 町が約4300万円を確保したと発表

 

以上の通りであるが、ツッコミどころ満載だ。

先ずは「新型コロナ対策臨時特別給付金」そのものについてである。

第1回目の一律給付が“バラマキ”と批判されたこともあり、今回は給付対象者を「令和3

年度の住民税非課税世帯」とした。つまり令和2年の年収が概ね100万円以下の世帯が対

象である。令和3年以降月収が同等レベルに減った世帯は申請しても良いことになって

いるが、逆に増収したケースは何もせずとも支給対象となる。まさに今回の田口容疑者

がそれだ。

彼はホームセンターの正社員であり(事件発生後退職)約20数万円の月収があった。

だから本来は支給対象外のはずである。こんなケースはおそらく山ほどある。日本は極

端に個人情報が保護されているので、行政側にとっても国民個々の懐具合は霧の中であ

る。果たして本当に困っている人に届いているかとなると疑問符が付く。

一時はアクセスが集中して繋がらなかった阿武町のホームページをみると、同町の世帯

数はわずか1528である。人口3000人足らずの過疎の町だ。そのうち給付対象者が463世

帯、なんと1/3が該当するというわけだ。

このような過疎の町が貧困にあえいでいるかというと案外そうでもない。収入は少なく

ても穏やかに暮らしている。福祉もそれなりに充実している。

町長は「こんなことが起きるとは夢にも思わなかった」と言い、「油断があったかもし

れない」と反省の弁を述べた。が、同時にミスをした担当者をかばう発言もあった。

つまり、少々意地悪な解釈をすれば、“ちょっとしたミスがこんなことになると・・”と

いう感覚なのだ。とにかく、すべてが穏やかで平和なのである。

この事件は、皆がのんびり構えている中で、一人だけフルパワーで頭を働かせている奴

がいたことによって思わぬ方向に発展した、日本ならではの事件だとも言えよう。

しかしながら、4.21にTが金はもう戻せないと開き直ってからの町の動きは素早くかつ強

力であった。まず、税金滞納者の財産を調査する名目で帳簿類を検査できるとする国税

法の規定を強引に(?)適用して銀行の情報を入手し、金の流れを突き止めた。これに

より、オンライン決済代行業者が自身に調査の手が及んでくるのを恐れ(?)、関係す

る3社が揃って約4300万円を町の口座に振り込んだ。その金は業者の”立て替え”かも知

れず、真相は不明のままだが、とりあえず町は約9割を取り戻したことになる。

 

次は逮捕容疑となった「電子計算機使用詐欺」についてである。

この罪名は1987年に「詐欺罪」の一つとして新たに加えられたものだ。

元々は「他人のクレジットカード情報を使って通販サイトで買い物をする」といったよ

うな人が介在しない(つまり誰も騙されない)犯罪が頻発したために作られたと言われ

ている。このネーミングのセンスの無さには恐れ入るが、どうも今回の事件にこの罪名

はマッチしていないような気がしてならない。

刑法の条文(刑法46条の2)は次の通りだ。

 前条(従来の詐欺罪)に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機

 に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の

 電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の

 事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、

 十年以下の懲役に処する。

素人目にはこの条文は、「この罪はコンピューターに虚偽の情報を入力したり、不正に

利用したりして不法の利益を得る行為」と読めるので、Tの行為がこれに該当すると言

われても何だかすっきりしない。Tは最初に町職員が訪問した時点で、誤振り込みであ

ることを認識し「組み戻し」手続きにも応じようとしていたのであるから、8日にデビ

ット決済があった時点で「横領罪」が成立し、直ちに逮捕もありえたのではないかとい

う素朴な疑問が残る。

 

次に、何故このようなミスが起きたのかである。

給付金の手続きは、すべての自治体にとって初めての事務処理ではなく、すでに経験済

みの作業である。当然ながら“どうして?”という疑問が湧く。

実は阿武町の担当者はベテランの女性職員の異動により新人職員に替わっていた。

そして、データのやり取りには何とフロッピーディスクが使われていた。銀行側の意向

らしいが、今の若者にはなじみがない代物である。おそらく銀行側の担当者もそうであ

ろう。事件は田舎町のそういった環境と偶然の下で発生したともいえるだろう。

 

最後に今後への影響がある。騒ぎはこのままでは終わりそうにない。

決済サービス代行業者が、ストックされていたとみられる4300万円をあっさりと返金し

てきたことで、オンラインカジノに対する懸念は拡大・増幅した。

日本で認められているのは公営ギャンブルだけである。しかし日本人が海外のカジノで

ギャンブルに興じても逮捕されることはない。では、Tが誤給付金を使ったというオン

ラインカジノはどういうことになるのだろうか。これが合法か違法かについては、実は

はっきりしていない。というか、オンラインカジノをやったからと言って逮捕されるこ

とはない。但しそれが外国政府のライセンスを受けたものでなければ違法となる。例え

ば、インターネットカフェ・カジノなどは違法である。

観光立国を目指す日本は、2016年12月「総合型リゾート(IR)整備推進法案」、(通称

カジノ法案)を成立させた。当初は2020東京オリンピックに合わせてオープンとも言わ

れていたが、新型コロナの影響もあって活動が中断された状態になっている。しかし、

すでに「IR推進法」、「IR推進本部設置」、「IR整備法」、「ギャンブル等依存症対策

基本法」、「カジノ管理委員会発足」と段階は進み、2020.12には「IR設置の基本方針」

が策定されている。あとは「候補地の正式決定」、「IR事業者の選定」を経て「開発・

開業」の運びとなる予定だ。最も有力な候補地は大坂、長崎ではないかと予想されてい

るが、ターゲットは海外富裕層なので日本人に対しては、7~8000円の入場料と入場制

限回数(週3回、月10回)がある。

ところが、オンラインカジノについては現時点では何も方針が示されていない。「カジ

ノ」と「オンラインカジノ」は全くの別物で、IR域内とオンラインでは影響の度合いが

大きく異なる。日本ではオンラインカジノへのハードルは相当高いと考えられ、実現す

るとしてもだいぶん先のことになると予想されるが、それまでの間、外国のオンライン

カジノを何らかの形で制限することができなければ”甘い汁“を吸われ続けることになる。

今回の事件は、オンラインカジノがすでに想像以上に広がっている可能性を示してお

り、実態の把握と対策の必要性を示唆するものだ。

                        2022.05.26