車で1時間ほどのところに弟が住んでいて、2,3か月に1度くらい肴持参で飲みに来る。
楽しみにしているのだが、“職場の関係者にコロナが出た“ということで、しばらく来訪
が途絶えた。
「ワクチンも打ってるし、陽性になっても免疫が強化されるだけだから、こちらは構わ
んよ」と誘いをかけてみるのだが、「兄貴は“後期”(高齢者)だから」と用心深い。
それがようやく心配なくなったということで、約半年ぶりの来訪と相成った。
で、今回手土産に持ってきたのが“覚王山フルーツ大福「弁財天」”という和菓子であ
る。名前は老舗っぽいが聞いたことがない。
「最近大人気だけど知らない?来る途中寄ってみたら、もう人気の種類は売り切れて
これだけしか残っていなかった」と弟は言う。
パンフレットを見れば、あまおう、ピオーネ、キウイ、マンゴー、メロン等々20種類ほ
どのフルーツが載っている。一番人気はイチジクだという。
「高そうだな」と聞くと、
「うん、まあ一度ためしに・・」という。
姿かたちに特段の特徴はない。イチゴ大福と同じように見えるのだが、「おや?」と思
わせる仕掛けは、そこに“タコ糸”が添えられていることだ。
“この糸で切ってお召し上がりください”ということらしい。
やってみると、なるほど見事に切れて切り口が美しい。
そこで肝心の味はどうかということになるのだが・・・・
最初にピオーネを食べてみた・・・上等のピオーネである。つまり、素材(果物)その
ものの味が印象的だ。なるほど、うたい文句の“最高のフルーツを最高の状態で閉じ込
めた”に嘘はない。フルーツを包んでいる求肥の触感は柔らかくなめらかで”高級感“が漂
うが、味そのものは控えめだ。しかし、”衝撃度“でいえば”花畑健牧場には負けているか
も・・といった第一印象である。
そこから急に、話があらぬ方向に発展した。
「ところで、求肥ってなんだ?」と言ったのは私である。
「白玉粉でしょ?」
「いや、求める肥って変じゃない?まてよ、“牛の皮”というのも見た記憶があるぞ」
「ギュウヒという音の当て字なのかな?」
こんな時、今の時代はまことに便利である。
「ギュウヒって何?」とスマホに聞く・・・答え一発、
「ギュウヒは平安時代唐から伝来した。牛皮に似ていることから付けられた名前だが、
日本ではその文字が嫌われて求肥となった」とある。
「なんだ、そんなことか。チコちゃんに叱られそうだな」
と笑い話になってしまったのだが、こんなことは他にもたくさんありそうな気がする。
というわけで、これまでちょっと気になりながらほったらかしにしてきた言葉を調べ始
めた。ところが、その作業は際限なく広がってまだ終わりが見えていないのだが、その
一端をご紹介したい。ただし、知っている人にはつまらない話ではある。
例えば「上前をはねる」という言葉である。
広辞苑その他の辞書を総合すると、”「上前」の元は「上米」で、江戸時代、諸国の年
貢に対して通行税と称し寺社がとりあげたもの”で「ピンハネ」に同じとある。
なるほどその正体は”上米“であったかと納得したが、今度は”ピンハネ“がわからない。
調べてみると、”ピン“についてはポルトガル語で点を意味するPintaに由来するというこ
とで異論はないが”キリ“については2説あって定かでない。その一つは、十字架(Crus)
に由来するという説で、辞書編集者で「チコちゃんに叱られる」にも出演したことが在
る神永暁先生もこの説を採っている。しかし、ピンとキリがセットで使われることを考
慮すると、どうもスッキリしない。そこでさらに調べてみるとWiktionaryにこんな説明
があった。
“ポルトガルから伝わったカルタを基に「天正カルタ」が生まれ、その1(竜の絵)を
ピン12(王の絵)をキリと呼んだことから”・・・・これなら説得力がある。
それに、キリが王様なら“ピンからキリまで”の意味も、元々は逆の意味だったらしい。
次はポン酢である。これも何かいわくがありそうな名前だが、どうやらオランダ語の
ponsからきているらしい。Ponsとは柑橘類などの果汁である。フルーツポンチのポンチ
も同じ由来だそうである。それにしても「ポンス」といわずに「ポン酢」としたところ
が、いかにも日本流だ。
このように、今までほったらかしにしていた言葉がいくらでも浮かんでくる。
それらを全て列挙するわけにもいかないので、最後にもう一つ、「ホットドッグ」を
取り上げて終わりにしたい。
出口宗和の「語源」によると、“ある競技場で、このソーセージは犬肉だと騒ぎ立てた
人がいてそれが広まった”と説明されている。しかし、なんだか胡散臭い。もしそれだ
けの理由なら、定着することはなかったのではないかという気もする。で、またもスマ
ホに聞いてみるとちゃんと出てくる。
”ホットドッグ:アメリカのドイツ移民がフランクフルトソーセージをパンにはさんで
食べたのが始まり。その姿から「ダックスフンド・ソーセージ」と呼ばれたが、ある漫
画家が、その絵に「ダックスフンドはいかが?」と書こうとしてDachshundのスペルを
思い出せなかったので「Hot dog」と書いたのが名前の由来“だとのこと・・・
ほぼ納得である。
チコちゃんに叱られようがどうされようがもはや手遅れ、あとはボーっと生きてやろう
とこの正月に決めたはずだったが、スマホはそれを許してくれない・・・
ああ、また目がかすむ・・・。
2022.07.18