コロナという暗雲を吹き飛ばし、日本の隅々まで光を届けた“あっ晴れな”アスリートが
注目を集めている。
白血病から復帰して間もない池江は、今月3日から10日にかけて行われた日本選手権で
4冠を達成し五輪2種目の出場を内定させた。予想をはるかに超える彼女の活躍に誰もが
驚き、感動の波と称賛の声は何処までも広がりを見せている。
彼女がオーストラリアでの合宿中、突然体調不良を訴えて帰国し、検査結果が白血病で
あることを公表したのは2019年2月12日であった。それは、東京五輪の大きな期待の星
が一つ消えることを意味し、日本中が暗雲に包まれた。実はその同じころ、さらなる地
球規模の暗雲が押し寄せていた。新型コロナの感染拡大である。
そして2020年3月24日、東京オリンピックの延期が発表された。
それを聞いたとき、“池江璃花子が間に合うかもしれない”と一瞬私は思った。
しかし、聞けば聞くほど、調べれば調べるほど、白血病とはそんな生易しい病気ではな
く、完治しても、落ちた体力を元に戻すことは容易ではないことを知らされるだけであ
った。
それでも私は、皆が変に気遣って口にしないことをあえてブログ(五輪延期に思う、
3.25)に書いた。そのわけは、“口にしたことはかなえられる”という言霊信仰が頭に浮
かんだからだ。我が国は“言霊の幸ふ国”だからである。
2019.12、過酷な闘病生活を経て退院した池江は、2024年のパリ大会への決意を発表
し、2020年7月には練習風景を公開して見せたが、それは以前とは比べようのないいわ
ば”やつれた“姿であった。しかし、そこからの回復は目覚ましく、2020.12には東京への
意欲を口にし始め、そして今回の日本選手権の出場4種目すべての頂点に立った。
ここで、あらためて彼女の足取りを振り返ってみよう。
・2016年高校1年生でリオ・オリンピックに出場した池江は、表彰台こそ逃したもの
の、7種目12レースを泳ぎ、超過密日程にもかかわらず日本記録を更新するなど、その
将来性に大いなる期待を抱かせる。
・2017年、高2の池江は、第6回ジュニア選手権で金3、銀1、胴3を獲得し大会MVPに
選出される
・2018年、高3で迎えたアジア大会では金6、銀6を獲得し大会MVPに選ばれる。
このように、着々と実績を積み、そして迎えるはずのオリンピック・・・・そこから突
然奈落の底に落とされ、そして血のにじむような苦闘の後につかみ取った“オリンピッ
ク出場内定”の切符・・・延期はあまりにも残酷だ。
そしてもう一つ、池江璃花子の感動が冷めやらぬ4月11日、それに劣らぬ快挙が海を越
えて届けられる。
松山英樹のマスターズ制覇である。
“ゴルフの祭典”とも呼ばれる最高の舞台マスターズには、第3回の1936年以来多くの日
本人選手が挑戦を続けてきた。しかし、これまではことごとく跳ね返されてきた。
松山の初挑戦は2011年の大会であったが、彼はこの時ベストアマチュアに輝いた。
そして13年プロに転向するやいきなり4勝して賞金王になり、翌年から主戦場をアメリ
カに移した。以来、事実上日本の悲願は、松山英樹一身に託されることになった。
16、17年ごろにはメジャー大会で優勝争いに絡むようになり、世界ランキングも2位ま
で上昇して、”メジャー制覇は時間の問題“とまで言われるようになったが、そこからは
予選落ちも珍しくない状態となり、ランキングも25位まで下げていた。
しかし、彼は昨年からマスターズに狙いを定め、入念な準備を始めていたという。
ドライバーを替え、キャディーを替え、コーチについたのである。そこにどんな意味が
あるのか素人にはよくわからないが、見た目には、これまでの“一匹狼”的なピリピリし
た雰囲気が消え、よりソフトな落ち着いた感じに変わっていた。
そして、最後にはその冷静さがものを言った。
最終日、13アンダートップで松山が15番ホールを迎えたとき、中嶋常幸はこう解説し
た。「ライバルの成績を予想すると、どんなにうまくいっても13アンダーまで、だから
残りホールで1打でも縮めれば勝てる」
ところが2日目バーディー、3日目イーグルのこのホールで、2打目が飛びすぎて池に
はまりボギーを叩く。同組のシャウフェレは3連続バーディーで差は一気に縮まる。
ところがその直後今度はシャウフェレが池に打ち込み、最大のライバルが目の前で優勝
戦線から脱落する。
ここで松山は、冷静にスコアボードで先行のザラトリスに3打の余裕があることを確認
する。そこからは、徹底して安全策をとり、16番、18番をボギーとしながらも計算
通りに逃げ切るのである。
遂に扉は開かれたのだ。
松山の今後の活躍はもとより、これからの世代に対する”松山効果“が大いに期待される
ことは言うまでもない。
国内では、はやくもオリンピックでの“特殊任務”に対する期待の声が上がっている。
つまり、最終聖火ランナーと選手団の旗手に二人をどうかという声である。
もはや五輪は”やるっきゃない“という機運が高まっている雰囲気なのだ。
2021.4.13