樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

今度はブタか(J-55)

芸人Nがたまたま発した謎かけ問答が炎上したのは、ついこの間のことで前回のブログ

に書いたとおりである。

そこでは「犬」という言葉が差別的とされたわけだが、今度は「ブタ」が侮辱発言だと

されて、こともあろうに、五輪式典の統括者の首が飛んだ。

新聞報道によると、辞任に追い込まれたのは五輪開会・閉会式の総合統括を担当する

S氏が、人気タレントの渡辺直美にブタの格好をさせる演出をチームメンバーに提案し

たことが在ったということを文春がスクープしたというものだ。そのこと自体は1年も

前のことで、チームメンバーたちの反対にあって『ボツ』にされた案件だ。したがって

現実には何も起きていない。これが今になって表ざたになる理由が分からないのだが、

文春にネタを打った者がいたのか、文春が引き出しの奥から引っ張り出してきたのか

、いずれにせよ、「犬」騒動に触発された可能性が高いのではないだろうか。

だとすれば、後味の悪さは倍加する。

これが侮辱かどうかは本人次第なので、渡辺直美のコメントに注目が集まっていたわけ

だが、それが今日(19日)明らかになった。

彼女が言うには、“私自身はこの体型で幸せです。なので、今まで通り・・もしその

プランが採用されて私のところに来たら絶対に断る“ということらしい。

そして、(この騒ぎで)“傷つく人がいるだろうな”と世のデブを気遣っている。

案外、彼女自身はさほど傷ついていないようにも見えるし、怒り狂っているようでも

ない。

そもそも「ブタ」は、どちらかと言えば“愛されキャラ”である。

電通出身でCM制作のベテランS氏が、そこを読み間違えるとは思われない。

もしその演出が使用されていたならば、どうなっていたであろうか・・・

こんなストーリーが浮かんでくる。

・・・かわいいブタに扮した渡辺直美が彼女らしく激しいパフォーマンスをして見せ

る・・観客は拍手喝采し、マスコットは大売れ、彼女は世界的スターに・・・そして、

世のおデブちゃんたちが元気になる・・・あり得ない話ではない。

これとは真逆の残念な結末を迎えたのは、差別や侮辱に過剰に反応する人と寛容性

のない社会のいわば化学反応である。この人たちは多様性を尊重せよと言いながら実は

逆の行動をとっていることに気づいていない。多様性を認めるということは、極端なこ

とを云えば、多様性を認めないという人たちも抱き込む寛容性を持つということだ。

言い換えれば、多数/少数派のどちらにも偏らない姿勢であり、今回の例で言えば、

ブタに負のイメージのみを貼り付けることへの懸念である。

犬や豚は、人間にとっては感謝すべき対象であり、こんなことを続けることは彼らに

申し訳ないではないか。

ここに“反対の理屈を持たぬ理屈は存在しない”という哲学者ピュロンの名言がある。

この名言は否定することができない。”そんなことはない“と言えばこの名言が正しいこ

とを証明することになるからだ。寛容な社会を形成するにはこの心が要る。

メディアやSNSは、怒り、恨み、嫉妬心を刺激し、常に「けしからん合唱団」への入会

を促し続けている。そして「けしからん合唱団」が形成されるとだれかの首が飛び、

さらに急拡大すれば「やっちまえ暴力団」に変身する恐れさえある。

怒りや恨みが持つエネルギーは想像以上に巨大だ。

それが民主主義の怖いところでもある。

                        2021.3.19