“どちらが勝っても歴代最高齢”という候補者の、あまり美しくない大統領選に勝利した
バイデン新大統領が、20日就任演説を行った。
議事堂前の広場は、大群衆の代わりに国旗が立ち並び、前大統領の列席もないという
異例の就任式であった。
新大統領のスピーチは、オバマ氏のような格調と心地よさはなく、トランプ氏のような
分かりやすさもなく、名演説とは言い難いと評価されているようだが、よく言えば
”はったり””のない、本人らしさがにじみ出たものではなかったかと思う。
翻訳全文を読むと、話の筋が行ったり来たりでどうも分かりにくいのだが、その訴える
ところを読み取ってみたい。
<要旨>
- 米国史上これほど多くの難題に直面した時代はほとんどない。
- 難題とは、新型コロナ、400年求めてきた人種間の平等、地球環境、そして今台頭する政治的過激主義や白人至上主義、国内テロ等である。
- これらの課題を克服するには民主主義の中で最も得難い“団結”というものが必要だ。
- 団結して、共に直面する敵―怒り、恨み、憎悪、過激主義、無法、暴力、疾病、失業、失望―と闘おう。
- 団結すれば次のようなことが成し遂げられる。
・間違いを糺すこと
・人々をよい仕事に就かせること
・安全な学校で子供を教育すること
・致命的なウィルスを克服すること
・仕事に報酬を与え、中産階級を再建し、すべての人に安全な医療を行うこと
これらによって、人種間の平等をもたらし、再び米国を世界のけん引役にすることが
できる。私たちは団結して失敗したことは一度もないのだ。
- 国民とは“同じ何かを愛する人々”だと聖アウグスティヌスは言った。我々米国民が愛するものは何か。それは、機会、安全、自由、尊厳、敬意、名誉そして真実だ。
- 私は憲法を守る。民主主義を守る。米国を守る。全国民にわたしの全てを捧げる。
内容的には、このようにあまり目新しいものはなく具体的な施策にも触れていない。
言い換えれば、トランプ時代の“異常さ”を普通に戻すといった雰囲気で、キーワードは
「団結」(Unity)である。というより、演説全体が「団結」の呼びかけとなっている。
裏を返せば、それだけアメリカの分断が深刻になっているということなのだろう。
政策実現の必要条件として、まずは分断の修復が必要であるとした新大統領は、直接
トランプ政治を非難することは避けているが、随所にそれは滲み出ている。そして、
そこに新大統領のスタンスと人柄が示されているようにも感じられて興味深い。
例えば、
・“みなさん、私たちはこんなものじゃなかったはずだ。アメリカはもっとましなはずだ。本当のアメリカはもっといい国だと私は信じている“
(My fellow Americans, we have to be different than this. America has to be better than
this. And, I believe America is better than this)
あるいは、
・支持しなかったすべての人にはこう言わせてもらいたい。われわれが前に進む間、
最後まで聞いてほしい。私と私の心を見極めてほしい。それでも同意できないなら
それでよい。それが民主主義だ。それがアメリカなのだ。平和的に異議を唱える
権利は、おそらくこの国の最大の強みだ。(中略) 品のない戦いは終わらせなけ
ればならない。心を開き、ほんの少しの寛容と謙虚さを示せばそれは出来るのだ。
日本には「アラサー」から派生した「アラカン」という言葉が生まれたが、さすがに
「アラ80」はない。呼び名があるとすれば「後期高齢者」だ。
新大統領は、日本なられっきとした「後期高齢者」である。スタート時点において、
”2期目はない”ことが確実視される新大統領が、どこまでアメリカの分断を修復し、
アメリカを復活させるか、後期高齢者の一人として大いに気になるところではある。
2021.1.23