日頃、最も身近な市長選挙にもまるで関心がないのに、なぜか気になる投票が
二つ続いた。一つは11月1日に行われた大阪都構想の賛否を問う住民投票で
あり、もう一つはアメリカ大統領選挙である。
他人事に近いこのふたつのイベントに興味をそそられた訳は、両者ともに全く
予想が立たなかったからで、どちらかに肩入れしたのではなく、たんなる好奇心で
開票速報から目が離せなかったというわけだ。
2015年の第一回目は、橋下知事が抵抗勢力の代表・平松大阪市長の再選を阻もうと
任期途中で知事を辞任、市長と知事のダブル選挙を仕掛けて圧勝し、その勢いに乗じ
た住民投票であったが、わずか10,741票差で否決された。
それから5年半、今度はコロナ対策ですっかり人気者となった吉村知事と松井市長
のペアで、公明党の支持まで獲得しての再挑戦である。前回よりも好条件のように
思われたが、結果は前回よりも差がついて11,942票差で否決された。
開票速報では、92%開票の段階で、賛成派が9000票あまりリードしていた。
ところが、間もなく反対派多数・否決のテロップが流れた。
賛成派のリードは、開票が96%になっても保たれていたが、最後には逆転して、
テロップの通りになった。
実はこの結末、予想しないでもなかった。何となく、前回よりも熱気が感じられ
なかったからである。
おそらく、対立関係のない知事と市長が連続したことで、現実の課題もいくつか
改善され、何も大阪市を解体しなくてもいいのではないかと市民が感じるように
なったからであろう。
しかしそれとは別に、この接戦に大きく影響したもう一つの要素があるような気
がしているのだが、それは最後に述べることとしたい。
さて、もう一つの投票、アメリカ大統領選挙である。
アメリカの大統領選挙は、その仕組みが分かりにくいとよく言われる。
確かにそうかもしれないが、概してその説明が良くないようにも思われる。
例えば、“アメリカの大統領選挙は間接選挙で、有権者は各州に割り振られた
選挙人を選ぶ“などと説明されている。そんなことはない。有権者は支持する
候補者ペア(大統領・副大統領候補)に投票する。選挙人はあらかじめ各党が
人数分を指名してその名簿が提出されている。だから、選挙人は各州に割り当
てられた「投票札」のような存在で、選挙人自ら選ぶ自由はない。(但し、
たまにルールを破る裏切り者が出ることもある)
アメリカの政治の仕組みを理解するには、国会議員から始めるのが良い。
アメリカの議会は上院と下院から成り、上院は100名で任期は6年、2年毎に3分の1
が改選される。下院は435名で任期は2年である。任期が4年の大統領選挙と同時か,
その中間に選挙がある。だから、外から眺めると、あたかも年がら年中選挙
キャンペーンをやっているような感じを受ける。
アメリカは、その成立過程から州の権限や独立性が非常に強い。そのためか、
上院議員の数は人口の大小にかかわらず各州均等に2名が割り当てられている。
2名×50州で、合わせて100名の議員となるわけだが、人口100万ほどの
アラスカも3700万のカリフォルニアも同じということで、日本なら間違いなく
憲法違反とされそうな配分だ。
一方、下院は人口に応じて議員の数が割り振られ、最低でも1名が保障されている。
人口最大のカリフォルニアには53名、人口の少ないアラスカなどは1名が配分され、
全州を合わせると435名になる。
実はこの上・下議員を足した数が大統領選挙における「選挙人」の数となる。
つまり、カリフォルニアなら53+2で55、アラスカなら1+2で3人の選挙人と
なるわけだ。選挙人の数が3の州、つまり下院よりも上院議員の数が多い州が
4つもあり、ちょっと違和感を感じるのだが、我々と彼らの平等感・公平感は
どこか違っているようだ。
この上下合わせた議員数535に、議員のいないワシントンDCに配分した3人を
加えた538が選挙人の総数となり、その過半数270以上の選挙人を獲得した
候補者が当選するという仕組みになっている。
ここまではいいとして、何とも我々には不可解な独特のルールがあり、それが
なにかと揉める原因にもなっている。
それは、その州で過半数を得た候補者は、その州に割り当てられた選挙人を
総取りできるという決まり事だ。しかしそれは、その州の意思を決定すると
いうことで、この国の名称がUSAであることを考えれば、さして不可解なこと
でもない。州はその時点で赤(共和党)か青(民主党)の一色となる。だから
その州の選挙人は、全員がいわば同じ色の札を持って12月14の選挙人投票に
臨むことになる。(例外が2州あってそれも理解に苦しむところだが、大勢に
影響はない) 選挙人投票の開票は年が明けての1月6日に行われ、正式に
大統領が選出される。しかし、それらはみな手続き上の問題で、すべては
一般投票の結果で決まっている。
通常ならば、選挙当日の深夜か翌朝には、負けた側が敗北宣言をし、勝者が
勝利宣言をして長い戦いが終わるのだが、今回は3日過ぎてもまだ決まらない
異常な事態となっている。
ここまでの経緯をおさらいしてみよう。
4年前のH.クリントンとD.トランプの選挙は、“嫌われ者同士の戦い” あるいは
“どちらがより嫌いかを問う選挙”などと揶揄されたが、今回はまぎれもなく
“トランプ継続イエスかノーか“ がテーマであり、それが世界の関心を集めて
いる。
事前の世論調査などで、バイデンがかなり優位の予想はでていたものの、4年前
のこと(ヒラリー優勢予想の大外れ)もあり、評論家やメディアもこれまで
一貫して慎重な態度をとり続けてきた。
アメリカは投票日当日も選挙活動ができる。
現地11月3日の映像では、疲れを見せないトランプに対し、今月78歳になる
バイデンにはいくらか疲れが見えた。期日前投票投票が多かったせいで、投票所は
いつもより人がまばらであった。
投票が終わるとNHKがABCニュースの開票速報をLIVEで伝え始めたが、流れて
きた映像は、日本の開票速報とはずいぶん様子が違うものであった。
取り上げられるのが特定の州ばかりなのである。大票田 のカリフォルニア州や
ニューヨークなどにもまるで関心がない。激戦州といわれる6州+6州程度の
”振れる州” 以外は投票前にほぼ確定しているからである。
調べてみると、一度も話題にならなかったニューイングランドと呼ばれる北東
海岸部の小さな6つの州(コネチカット、マサチューセッツ、メイン、ニュー
ハンプシャー、ロードアイランド、バーモント)の議員は上下院合わせて全員
が民主党なのだ。画面の地図上では、すでにほとんどの州の色分けが出来上が
っている。
だから、当然ながらまだ色がついていないわずかの激戦州のみに注目が集まる。
候補者が直接足を運んでキャンペーン活動を展開したのもそれらの地域だ。
具体的には、超激戦区のアリゾナ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、
ノースカロライナ、フロリダの6州と、時に番狂わせを演じるミネソタ、アイオワ、
今回の選挙は、期日前投票が異常なまでに多く、1億を超えた。
そして、その多くが民主党支持者であると分析されていたことから、開票
前から、“レッド・ミラージュ”という言葉がささやかれていた。
開票当初は共和党(レッド)の票が伸びるが、そのうち民主党が逆転して
蜃気楼(ミラージュ)のごとく消え去るという意味らしい。
実際開票が始まると、全体としては岩盤の大票田を持つ民主党が大きくリード
していたが、激戦州ではその通りの展開となり、ミネソタ以外はトランプの票
が先行する形となった。
そして、全米の人種別人口構成に最も近く、アメリカの縮図ともいわれる
オハイオ州(18)を制してトランプ陣営の追い上げが始まった。日本時間の
14時過ぎからは、フロリダ、アイオワ、テキサスでの勝利も確定し、15時過ぎ
には遂に209:209で並んでデッドヒートの様相となった。
その後バイデン側の順当勝ちなどがあり、22:30頃 残り8州98票を残して、
バイデン227トランプ213で翌日に持ち越しとなった。
5日の朝早速ニュースを見ると、バイデン側がミシガンとウィスコンシンを制し、
253:213とリードを広げていた。しかし、そこからの開票は遅々として進まなく
なった。形勢やや不利になったトランプは、ミシガン、ウィスコンシン、
ジョージアなどの開票作業に不正があると騒ぎはじめ、そろそろ敗北宣言が出そう
な段階になっても、先行きは依然不透明なままで、泥沼化の様相を示し始めた。
昼過ぎに一旦アリゾナをバイデンが制したという情報が流れたが、局によって
異なるようで、翌日の6日を過ぎ7日になってもまだ確定していない局もあると
いう状態が続いている。アリゾナは本来共和党優勢の州なのだが、トランプの
天敵とも言われた故J.マケインの地盤でもあり、それがここまで縺れる原因に
なっているのかもしれない。いずれにせよ、バイデンが王手をかけた状態である
ことには間違いない。
あと4州、ネバダ、ノースカロライナ、ジョージア、そして当初から勝敗のカギ
を握ると言われていたペンシルベニアのどれかを取ればバイデンの勝利は確かな
ものとなる。勝負は決まったとみてよいだろう。
トランプの訴訟は、州が決めたルールに後から文句を言っているようなもの
だから、おそらく認められることはあるまいと思う。
それにしても、何とも形容しがたいすさまじい選挙である。
今回の選挙を眺めていると、大統領制というシステムの欠陥ばかりが目に付く
ような気がする。韓国も同様だ。首相公選制に賛成していた自分の考えも改める
必要がありそうだと感じる。
さて、長々と述べてきたこれら二つの投票イベント、なんだかその勝敗を決めた
共通の要因がありそうな気がしてならない。それがコロナの影響だ。
大阪では、投票率がかなり下がった。コロナが投票率を下げた可能性は十分あり、
今回投票に行かなかった人の中には、消極的賛成の人が多かったかもしれない。
一方アメリカでは、投票率が大幅に上がった。バイデンは過去最高の票を集め、
トランプも前回勝利したときよりも多くの票を獲得している。投票率が上がった
のは郵便投票のおかげで、そうさせたのはコロナ以外の何者でもない。
何のことはない。大阪都構想もトランプも相手の強さに敗れたのではなく、
コロナに敗れたのである。
直近の映像では、トランプのオーラがすっかり消えているようにも見える。
だから、まもなく敗北宣言が出るのではないかと期待しているのだが、マケイン
のような素晴らしいスピーチも、カーリングの潔いコンシードの姿も、どうやら
あのお方には期待できそうにない。
・・・アメリカがだんだん醜くなっている。
2020.11.7