ヒトの腸は8m前後あり、それを裂いて広げれば畳20畳ほどにもなるという。
そしてその内壁には、1000種100兆個以上とも言われる「腸内細菌」が棲んでいる。
その様子を、誰かがお花畑に例えて「腸内フローラ」と呼び、その名が定着した。
腸内フローラは、個人ごとに異なるパターンを持ち、基本的に生涯変化しないという。
あたかも、人それぞれの体質や性格は、腸内細菌のパターンで決まっているかのよう
な話である。
一方、腸には免疫細胞の7割が集結している。腸の本業は「消化・吸収」なのであろ
うが、常時ウィルスや細菌などの外敵と戦っている、最もホットな戦場でもある。
この「腸内細菌」と「免疫細胞」、一見何の関係もないような両者ではあるが、実は
密接なつながりがあることが、最近の研究で明らかになってきた・・らしい。
腸内細菌には「善玉菌」、「悪玉菌」、「日和見菌」の三種があるということは、
もはや常識である。そして、腸内フローラのバランスは、ダイエット・美肌・免疫力
などにつながるとして、善玉菌の代表とも言うべき「乳酸菌」や「ビフィズス菌」を
取り入れるサプリメントが、通販市場をにぎわせている。そして、
その根拠は少々あいまいなのだが、善玉・悪玉・日和見の割合は、2:1:7が
理想的だという。しかし、もしそうだとすれば、名前の付け方が適切でない。
善玉の半分であろうと3分の一であろうと、それが必要な菌であるなら悪玉ではない。
実際、悪玉菌は動物性たんぱく質の分解などに役立っており、これから述べる免疫機能
においても重要な働きをしているらしいのだ。そもそも免疫細胞は、悪玉菌を外敵と見なさず、腸内に棲むことを許容している。ダジャレで悪いが、”ご町内“の変わり者程度の扱いだ。
善玉菌は弱酸性で悪玉菌はアルカリ性だから、「酸性菌」「アルカリ菌」とでも呼んだ方がいいのではないかと思う。
本題に移ろう。
2018.1.14に、NHKスペシャル、「人体・第4集・腸」という番組が放映された。
当時最先端の研究成果の紹介で、実に興味深い内容であったことを思い出し、録画を
再視聴してみた。この番組では、「アレルギー」や「多発性硬化症」など、いわゆる
免疫の暴走によって発症する疾患に焦点を当て、そのメカニズムを解説していた。
まず、こうした患者の便から腸内細菌の状態を調べてみると、クロストリジウム菌
が著しく少ないという共通点が見つかる。この菌は食物繊維をエサとし、ある種の
メッセージ物質(酪酸)を放出している。そして、これを受け取った免疫細胞は
Treg細胞に変身することが分かった。Treg細胞は免疫の暴走を抑制する働きをする。
実は、クロストリジウム菌というのは100種類ほどあって悪玉菌の仲間なのだが、
慶応大学の本田教授はさらに研究を進めて、クロストリジウム菌のなかの17種が
一緒になると大量のTreg細胞がつくられることまでつきとめたという。
また、腸内細菌の世界的権威、早稲田大学の服部正平教授の研究調査により、欧米人
と比べ日本人の腸内細菌は、酪酸などの免疫力をコントロールする物質を出す能力が
ずば抜けて高いことが分かったという。
この調査研究を別途調べてみたところ、比較したのは12ヵ国である。
興味深いところを取り出してみると、腸内細菌の組成によって国を分類したデータが
ある。大雑把に分けると、
C:(ペルー・ベネズエラ・マラウィ)
の3グループとなっている。例えばAはビフィズス菌が多いといった塩梅である。
中国が日本のグループでなくアメリカと同じグループに入っているなど、不思議な
結果でもあるが、細かく言えば国ごとに特徴があり、菌種組成から出身国を推定する
とその正答率は87%、日本人の場合は何と100%であったというのである。
”ウンチを見れば何人かがわかる”・・・その使い道はともかく、
驚くべき事実ではなかろうか。
かつて、山中教授が“日本のコロナ被害が比較的軽微な理由(ファクターX)を是非
つきとめたい”と発言されていたが、もしかすると、この日本人の腸内フローラこそが ファクターXなのではないか、そんな気がしてならない。
この分野のさらなる研究成果が楽しみだ。
話変わって、アメリカは今大統領選挙の真っただ中にある。
かの国の2大政党は50%近辺の支持層を持ち、毎回熾烈な戦いを繰り広げる。
その非難合戦は、我々からすると実に“見苦しい”ものだ。今回は特にひどい。
もし日本なら、大勢の無党派層が逆の支持に流れるような発言が多い。
政治家と大衆の関係を日本と外国で比べてみると、なんだか腸内フローラのようにも
見えてくる。日本の場合、善玉(酸性)と悪玉(アルカリ)が少しずついて、それに
大量の日和見(無党派層)がいる。このバランスがいいのである。
外国はデモも激しく時に暴走する。Treg細胞が足りないのである。
2020.10.21