樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

台湾有事と存立危機事態論争の核心((J-160)

11月7日の衆院予算委員会における立憲岡田議員と高市首相の質疑応答が内外に大きな波紋を広げている。それは、“台湾有事が「存立危機事態」になり得るか”という予算委員会にはふさわしくないテーマであったが、高市総理の就任前からの発言を問題視していた岡田議員がこのチャンスとばかりにと取り上げたのであろう。

岡田議員の質問に対して、はじめのうちは模範解答を繰り返していた総理であったが、執拗な追求に唆されたように次のような答弁となった。

“あらゆる事態を想定しておく、最悪の事態を想定しておくということは、非常に重要だと思います。先ほど軍事という言葉がございましたが、それはいろんな形がありましょう。例えば、台湾を完全に中国北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。それは単なるシーレーンの封鎖であるかもしれないし、武力行使であるかもしれない。それから偽情報、サイバープロパガンダであるかもしれないし、それはいろんなケースが考えられると思いますよ。だけれども、それがやはり戦艦を使ってですね、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます。実際に発生した事態の個別具体的な状況に応じて政府がすべての情報を総合して判断するということでございます。実際に武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高いというものでございます。法律の条文通りであろうかと思っております。“

これに対し、岡田議員はなぜかそれ以上の追求を止め話題を変えた。その理由について、本人は後に“マズい”と思ったので話題を切り替えたと言っているが、その弁明は

少々不自然である。実は総理の勇み足を引き出して”シメタ“と思って打ち切ったのではないだろうかという疑念が浮かぶ。もし、中国政府の大反発を予想して”マズイ“と思ったのであれば、さらに質問を重ね、”法律の条文通り、従来の政府見解を変えるものではない“という総理の主張を丁寧に聞くのが筋だ。ところが、SNSを中心に岡田氏への批判が高まるのを見るや、あちこちの番組などに出て自己弁護に努めている。見苦しい。。

国民民主党の玉木代表も25日の定例会見で、問題発言をした首相本人ではなくて質問した岡田氏に批判が向けられていることについて見解を求められ、“明確に答えろとギリギリ詰めておいて、答えたら今度は曖昧にすべきではないかと言っている。何を獲得するための質問だったのか”と皮肉っている。同じ思いの国民は少なくないだろう。

筆者は、この国会中継を生で視聴していたが、確かに総理の“どう考えても”はちょっと強すぎたかなという感じがした。そしてもう一つ、「存立危機事態」という用語は誤解を生む用語だと思った。

いわゆるオールドメディアはこの答弁には概して批判的で、中でも朝日の”認定なら武力行使も“という見出しは、台湾有事→存立危機事態→武力行使可能 と一直線に発展しそうなイメージを抱かせるものであった。

案の定、それは中国のセッケン大阪総領事の問題のX投稿、

“勝手に突っ込んできたその首は一瞬の躊躇もなく切ってやるしかない。覚悟は出来ているのか”へと発展した。

この人物、以前から北朝鮮まがいの過激な表現のツイートを盛んに発しているが、胡錦涛の時代ではリベラルな言説が多く、学生時代は民主化運動にも参加していたらしい。

現在はいわゆる「戦狼外交」の一端を担っているのだろうが、この品のない発言は日本側の親中派にむしろダメージを与え、中国政府も実は困っている節がある。小さな“嫌がらせ”をいくつか連発してはいるがその矛先は鈍い。問題の総領事も、今は首を洗って処分を待っている状況かも知れない。皮肉にも、“覚悟は出来ているのか”という彼の言葉は、見事なブーメランとなって帰ってきたわけである。

存立危機事態

総理発言後の初期段階において、国内の議論は混乱した。その原因として「存立危機事態」という”専門用語“の問題がある。この用語の意味を知らない人々、あえて誤解を生むように利用している人たち、そして一般の用語として勝手に推量した人々が大半を占めていたことが混乱を深めた。

もしかすると中国もそうかもしれないし、世界の人々ならなおさらだ。この用語を外国語に解説なしで翻訳することはほぼ不可能だ。それが混乱を助長した。

その初期の混乱をある程度沈めてくれたのは、中央大学法科大学院の野村修也教授である。教授は11.15のXで、“存立危機事態の話がかみ合わないと思ったら、中国が台湾に武力行使をしたら、日本が「台湾を守るために」武力行使する話だと思って批判している人がいるらしい。これは全くの誤解。台湾有事に伴って「中国が米軍に武力行使し」日本に存立危機事態が生じた場合に「米軍を守る可能性」の話”と説明。

11.17には、“「台湾が国ではないことを知らないのか」と罵倒する反論が来る。おそらくこの人は存立危機事態の第一要件である「我が国と密接な関係にある他国」に台湾を当てはめているのであろう。しかし、ここで言う他国は同盟国アメリカ等を指していて台湾ではありません”

この指摘はおそらく的を射ている。

そもそもこの「存立危機事態」という用語は、「武力攻撃事態等及び存立危機事態にける我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全確保に関する法律」(平成15年成立、令和3年改訂)という長ったらしい法律のなかで次の通りに定義されている用語である。

“存立危機事態:我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態”

ところが、これも丁寧なようでよくわからない。つまるところは総理が言う“あらゆる情報をもとに総合的に判断して・・”ということになる。認定されれば、それが集団的自衛権を行使する根拠となる。

だから最初から「集団的自衛権行使事態」とでもして、その中で要すれば限定的な条件を付しておけば済む話だ。但し、その条件はあくまでも方針であって具体的な条件や定量的な表現はしないのが原則だ。そこを詰めておくことは必要だが、それを公表しては同盟が成り立たない。あくまでも“総合的に判断する”でなければ「抑止力」が機能しなくなる恐れがある。

挑発か抑止か

11.7の予算委員会での総理発言以降の流れを長々と述べてきたが、実はこれまでの話は

極論すれば”どうでもいい話“である。

核心は何かといえばあの答弁が”挑発“として作用するのか、それとも”抑止“効果を生むのかということだ。

先ず台湾の将来について考えてみよう。日本から見て、望ましいケースから順に列挙すればおそらく次のようなものになるだろう。

  • 武力衝突なしに台湾が独立
  • 現状維持
  • 台湾側の意思に基づく統一(含自治区
  • 武力衝突を経ての独立
  • 武力衝突を経ての統一

この中で(1)は見通せる将来で実現の可能性がない。(4)(5)については実は双方ともに避けたいはずだ。

中国が望むのはおそらく(3)のケースである。圧倒的な軍事力をもって(5)のケースも辞さないと脅しをかけ、親中勢力の拡大を図り、先ずは自治区という形でも良しとして統一を図ろうとするだろう。そのためには台湾の独立への希望を粉砕する必要がある。

一方台湾の選択肢は(2)の現状維持であろう。しかし、それは自由陣営の支援なしには成り立たない。中でもアメリカの軍事プレゼンスがその拠り所だ。そして、この地域においてアメリカの軍事力が機能するためには日本の協力支援が必須である。であるが故に、日本の態度が鍵を握ることになる。つまり、台湾有事においては、それが航行の自由確保であれ、在留の邦人その他の保護であれ、平和維持の目的であれ、米軍が行動を起こす場合は端から日米の協力関係が担保されている必要がある。だから、もし米軍が攻撃を受けた時には、日本は集団的自衛権を発動する覚悟がありますよと意思表明することは抑止力を向上させる。

 

80歳になってますます元気な論客櫻井よしこ氏は、“総理の発言は中国を怒らせたが、それは正しいが故に抑止力になっている”とSNS等で解説しているが、その中でアメリカの機関(CSIS)が行った台湾有事で武力衝突があった場合のシミュレーション結果を紹介している。それによると、24回のうちほとんどのケースで米側が勝利するが、敗れるケースとして日本の支援が得らなかったケースと米側の対応が遅すぎた場合があったという。

そして、これを中国側がどう評価するかは分からないが、この情報からしても高市発言は強力な抑止効果を生むだろうと評価している。

勿論反対の意見も少なくない。

目についた二つの意見を取り上げてみよう。

  • 台湾という中国の内政に関わって日本の存立危機即ち集団的自衛権行使があり得るとする高市首相の間違いに対して中国が批判するのは当然。なぜ日本のメディアはもっと批判しないのか
  • 高市に拍手喝さいを送っている人の大半は、自分の商売が成りゆかなくなった時にも、やっぱり高市を支持していて、高市以外の誰かのせいだと思い込みたいのだろうね。首が回らなくなっても中国のせいなので、中国を成敗せよという話に乗りそうだ。そうやって戦争はバカが後押しして始まるわけだ。真っ先に死ぬのはバカなのだけれどもね。頭が悪い人は本当に度し難い。そうやって日本は滅んでゆくのかしら。たとえ僅かでもよい、権力に抵抗せよというコトバを全国民に送りたいが、99%の人には届かないだろうね。

これがどなたの発言かというと、最初のは鳩山由紀夫氏、2番目は池田清彦氏の発言である。

つまり、元首相と早稲田大学名誉教授という78歳のお二方が、高市発言を“挑発”とみなす中国の方が正しいと言っている。高市内閣の支持率も高齢層に行くにつれて低くなっている。そこが現状日本の悩ましいところである。

では、この騒ぎをアメリカはどう見ているのだろうか。

駐日米大使は15日、次のような皮肉たっぷりのXを投稿した

“さながら一足早くクリスマスを迎えた気分です。呉江浩中日中国大使、セツ剣駐大阪総領事に置かれましては揺るぎない日米の絆を一層深めるためのご尽力、誠にお疲れ様でございます。心からの感謝を。”

またトランプ大統領については、現時点の関心はウクライナパレスチナに向けられていて、中国の宣伝戦には付き合う気がないらしい。

要するにアメリカは、中国がぎゃあぎゃあ騒いでいるうちは本気で武力統一を始めることはない、日米同盟が確かなものである限り抑止力が働いていると見ているのであろう。

となれば厄介な話だが、中国側のウソだらけの宣伝戦に日本は独自で対抗しなければならない。望まれるのは健全な世論の後押しだ。

                     2025.11.26