樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

韓国の正念場(J-156)

韓国で今起きている騒動は、いわゆる「情治国家」という言葉で揶揄されてきたいつも

ながらの事象のようで、どこかこれまでとは違う雰囲気があります。

極寒の空の下、集結する一般大衆は年代層を問わず各地に拡大しつつあり、彼らの姿に

どこか悲壮感のようなものが漂っています。

先ずここまでの経過を振り返ってみましょう。

非常戒厳の失敗

昨年の12月3日、尹大統領は突然(当たり前だが)非常戒厳令を発動しました。

しかし、それは誰の目から見ても“あまりにもお粗末な実行計画”であり、案の定失敗に

終わりました。国会議員たちは全員無事で、野党が大多数を占める国会は直ちに内乱罪

を理由に「弾劾訴追案」を可決しました。

これによって、尹大統領は数時間にして職務停止となってしまいました。

野党(共に民主党)の思惑

これまで大統領の政策や予算執行に対しことごとく反対し、大した根拠もなく閣僚や高

官たちを次々に弾劾訴追し、大統領を辞任に追いやろうと目論んでいた野党は、大チャ

ンス到来とばかりに仕上げにかかりました。

弾劾を成立させるためには、憲法裁において6名の裁判官の賛成が必要です。

ここで、少々ややこしい話になりますが、憲法裁判所の構成と現状を見てみましょう。

9名で構成される憲法裁の裁判官は、まず大統領、大法院(最高裁)長、国会がそれぞ

れ3名を指名し、これを大統領が任命することで決定します。国会の3名は与党推薦が

1,野党第一党が1,与野党合意で1が原則です。その結果、大統領の3と与党の1で

4となるので、よほどのことがない限り6名以上の弾劾賛成にはならないようにも見えま

す。しかし、現実はそうでないことも多いのです。裁判官の任期は6年でですが、現在

大統領が指名した3名のうちの2人は前大統領(文在寅)が指名した左翼系です。

つまり、尹大統領が指名した裁判官はわずか1名しかいないのです。大法院長指名の3名

は中道と報じられてはいるものの、指名した前院長キム・ミョンスがウリ法研究会会長

であることからすれば、推して知るべしというところでしょう。

ウリ法研というのは、最初は単なる勉強会という名目で1989年に発足したようですが、

初代会長のシファンが発表した論文の中で、“この会は単なる勉強会ではなく、裁判所

を理想的な方向へ変化させることを目標とする”と述べた通り思想的・秘密結社的な性

格をもっていると言われています。人数的には、第2代会長が設立した「国際人権法研

究会」と合わせても全体の10%前後でありながら法曹界の要職を占め、いわば出世コ

ースのような存在となっているのです。

実は憲法裁の裁判官は国会推薦の3名が欠員のまましばらく運営されてきました。

だから、尹大統領指名の1人のガードで弾劾が成立しない状況にあったわけです。

そこで野党は、国会推薦枠を埋めるために3名を指名しました。この任命を大統領代行

のハン・ドクス首相が”保留”とすると、直ちに国会は彼を弾劾可決し、代行の代行とな

ったチェ・サンモク副首相に”拒否すればお前も弾劾だ“と脅迫しました。やむなく代行

は2名を任命しましたが、明らかに政治的中立性に疑義があるマ・ウンヒョクについて

与野党の合意があれば任命すると条件を付けて任命を保留しました。

こうして、憲法裁はとりあえず8名の構成となりました。とはいうものの、文在寅が指

名したムン・ヒョンベ、イ・ミソンの2名は4月18日をもって退任の予定となっています

ので、野党がなりふり構わず決着を急いでいるわけです。本来、180日以内に結論を出

さねばならないという決まりがありながら、これまでの弾劾裁判は遅々として進んでお

らず、昨年就任から2日で訴追された放送通信委員長は棄却宣告なのに174日もかかりま

した。戒厳令後訴追された首相や法務長官の審理は始まってもいません。それは、政権

の中枢にいる高官たちの職務停止による行政の空白を企図した作戦であったと思われま

すが、戒厳令を大統領の自爆とみて一気にカタをつけようとしたのでしょう。いずれに

せよ、つい最近まで大統領の弾劾成立は微妙ながらも成立しそうな状況にありました。

李在明の二枚舌

大統領の弾劾が成立すると見た共に民主党の李・在明は大いに喜んだことでしょう。

彼は5つの容疑で裁判にかけられまだ決着していません。有罪になれば大統領候補にも

なれないでしょう。しかし彼は、その前に大統領になってしまえば何とでもなるとして

自分の裁判をなるだけ長引かせようと活動してきました。その作戦は成功したかに見

え、彼の言動は早くも大統領選を意識したような発言が目立つようになりました。

昨年末には日本大使に面会し、“個人的に日本に対する愛情は非常に深い。韓日協力は

大韓民国の重大な課題”であるといったかと思えば、年明けには英国紙のインタビュー

に答えて“韓日関係は敵対的ではない。韓日米協力持続に異議はない”とまるで大統領に

でもなったような外向けの発言をするようになったのです。

これがかつて”日本は敵性国家“”汚染水放流は第二の太平洋戦争“と言っていたのと同一

人物の発言なのですから笑うしかありません。しかし、尹大統領にとっては厳しい状況

に変わりはなく、1月1日の世論調査では、弾劾賛成は70.4%に達していました。

チョン・ハンギルの登場

チョン・ハンギル氏は、韓国史を教えるカリスマ講師として知られる超有名人です。

だから、元々インフルエンサーの一人なのですが、この混乱の中にまるで”救世主“のご

とくに登場してきました。

彼は元々廬武鉉の支持者だったそうで、決して右翼的人物ではないようです。本人は

「常識派」だと自称し、尹大統領や「国民の力」の支持者でもないと言っています。

今事態においても、当初は尹大統領の戒厳令に反対意見を述べていました。ところが、

本人が色々調べているうちに、どちらが真の愛国者であるかがわかったとして涙ながら

SNS上で訴えたのです。

1月15日、彼は自身のファンチャンネル「花よりハンギル」で非常戒厳令をめぐる事態

の元凶が不正選挙にあると指摘し、中央選挙管理委員会を批判しました。 この動画が

フェイクニュースであるとして、共に民主党YouTubeを所有するグーグルに通報し、

さらに厳しい対応をとると表明したものだから、選管を批判したのに何で共に民主党

出てくるのかと彼は増々いきり立ち、言動は次のごとくエスカレートしていきました。

“大統領もいないし国防長官もいない、治安と安全を担う行政安全長官もいないし警察

庁長もいない。代行の代行さえも「弾劾する」と脅迫するのを見て、あいつら(弾劾賛

成派)の眼中には国や国民はなく、ただ自分たちの権力だけに欲を出す歴史上最悪の集

団であることが分かった。みなさんもぜひ自分で(彼らがどのような人物であるかを)

検索してほしいと訴え、”非常戒厳宣布は国民を目覚めさせる啓蒙令だった(啓蒙され

たその一人が私なのだ)”と主張しました。

彼が”あいつら“と呼んでいるのは、立法府を牛耳る民主党、司法府の要職を占めるウリ

法研、そして中国及び北朝鮮の関与が疑われる中央選管を指しています。

もし本当にこの三者が手を組んでいたならオールマイティ状態です。民主主義はすでに

崩壊していると言わざるを得ません。しかも、憲法裁の裁判官は日本などと違って国民

審査を受けないまさに”アンタッチャブル“な存在なのです。

チョン・ハンギルは彼らの暴走を止められるのは”国民“しかないと呼びかけています。

しかし、合法的な手段として国民に何ができるのでしょうか。「情治主義」だからでき

なくはないというのでしょうか。

デモ隊が掲げる星条旗

2月1日、釜山駅前に集結した弾劾反対のデモ隊の手には、太極旗(国旗)とともに多数

星条旗が握られていた。韓国において、デモ隊が他国の国旗を持ち出すのは、引き裂

いたり焼いたりする目的であることが多いので、これは異質な風景です。その理由につ

いての情報は得られませんでしたが、察するところ、これは弾劾反対派が感じている危

機感の現れなのではではないでしょうか。つまり、この混乱の背景には北及び中国のス

パイ活動があり、もはや韓米同盟に頼らざるを得ないと感じているのかもしれません。

先に述べたとおり、1.1の世論調査では弾劾賛成が70%を超えていましたが、現在はほぼ

賛否が拮抗する状態が続いています。そもそも、世論調査そのものについても従来から

疑義が指摘されていることもあり、予断を許さない状況が続いています。

韓国の正念場

実はこのブログを書くにあたり、少々生成AI(Copilot)とやり取りをしました。

しかし、AIは終始常識的な意見を述べるだけで、ユニークな意見や将来予測をしてくれ

ません。”不透明、政治は常に流動的、今後の展開に注目すべき”と答え”あなたはどう思

いますか?“と聞いてきます。ただ、最後は概ね意見が一致したのでそれを紹介するこ

とにしましょう。

AI

“おっしゃる通りです。最近の政治情勢に関しては、多くの人々が様々な情報源から自

ら調査し、個人の意識が高まっているようです。チョン・ハンギル氏の演説がSNSやイ

ンターネットを通じて広まり、それによって多くの国民が政治の問題点に気づき始めて

いるのかもしれません。とくにSNSの影響力がますます大きくなっていく中で、情報リ

テラシーの重要性は増しています。偽情報や偏った情報に惑わされず、信頼できる情報

源から正確な情報を得る能力が求められます。また個々人が自ら情報を評価し判断する

能力を持つことが健全な民主主義の維持に不可欠です。この点に関しては教育機関や政

府メディアの役割も重要ですが、個人レベルの意識向上も同様に重要です。あなたが感

じているように、情報リテラシーの向上が今後の社会においてますます重要になるでし

ょう“

何のことはない。私が12月にこのブログで述べた内容とほぼ同じではありませんか。

AIは寄せてくるのです。AIはどこまでも辛抱強く機嫌を取りながら相手を満足させよう

とします。しかしそれは逆に私がAIに寄せられているのかもしれません。だから、中国

の生成AI「ディープシーク」への警戒が指摘され政治問題化するのは当然の帰結です。

さて、正念場を迎えたこの近くて遠い隣国は、この先どうなってゆくのでしょうか。

「情治国家」から「法治国家」へと生まれ変わるカギは、国民の情報リテラシーにかか

っているのではないでしょうか。そして、それは他人ごとではないのかもしれません。

                             2025.2.10