例年よりも随分長く感じられた野球シーズンが、ようやく終わった。
長く感じられたのは、日米ともに贔屓のチームがポストシーズンに進出したからだ。
贔屓のチームが敗退すれば興味は半減する。それがファン心理である。
前半を終えたところで、私はその後を予想しブログに載せたが、それはMLBの方はドジ
ャースがナ・リーグを制するものの、ワールドシリーズではア・リーグ覇者のヤンキー
スに惜しくも敗れるという筋書きであった。また、NPBの方は、巨人とソフトバンクが
優勝し巨人が日本シリーズを制するというものであった。
現実は、MLBではドジャース、NPBではDNAが頂点に立つという結果に終わった。
ドジャースはレギュラーシーズンでの勝率が全体の1位(98勝64敗)であり、いわば順
当勝ちであったが、DNAの方はリーグ3位、CS進出チームの中では勝率最下位(71勝69
敗)からの”下克上“である。
私の予想は、半分は当たっているのだが、最後が大外れなのであまりうれしくない。
“いったい何が起きたのだろう”という気分である。ふと頭に浮かんだのが、
“勝ちに不思議の勝ちあり負けに不思議の負けなし” という言葉だ。
この言葉は、今は亡き野村克也監督の言葉として知られているが、元は江戸時代後期の
平戸藩主にして剣豪でもあった松浦清(静山)の言葉らしい。勝負ごとに限らず、経営
や受験など様々な場面で当てはまり、座右の銘としている人も少なくないという。
要するに、失敗には必ず原因があり、得られる教訓もまた成功よりも失敗の中にあると
いうことなのであろう。
この際、この言葉を頭の隅に置きながら、今年のポストシーズンを振り返ってみたい。
当然ながら、強いチームは投打のバランスが良く接戦にも強い。それは結局得失点の差
となって表れる。MLBで言えば、レギュラーシーズン中の総得点マイナス総失点が
100点以上あればとりあえず地区優勝は固い。ワールドシリーズに進んだヤンキースと
ドジャースはこの値が147(総得点815、総失点668)と156(総得点842、総失点686)
で、ともにリーグ1位だからこの2チームのリーグ優勝は順当だといえる。その他のデー
タも両者はよく似ていて、例えば本塁打数はヤンキース237本、ドジャースは233本でと
もに1位、どちらかと言えば打力に優るチームである。(総得点では全体の2位と3位、
1位はダイヤモンドバックスだが失点も多いためポストシーズンには進めなかった)
しかしながら、ポストシーズンではしばしば番狂わせが起きる。短期決戦の怖さという
か、その時点でのコンディションや流れが大きく影響するからである。
実はドジャースは大きな悩みを抱えていた。レギュラーシーズンを支えてきた先発投手
が次々に故障し、ポストシーズンは故障明けの山本、ビューラ―、それに途中加入のフ
ラーティーの3枚で戦わざるを得ないという状況にあったのである。その状態で最初に
戦う相手がワイルドカード1位のパドレスとなった。パドレスは後半戦絶好調で、ポス
トシーズンはワイルドカード2位のブレーブスを一蹴して勝ち上がってきた。しかもレ
ギュラーシーズンでの対戦成績はドジャースが5勝8敗と苦手にしているチームだ。
第1戦は山本の先発となったが、3回5失点でマウンドを降りることとなる。しかし、大
谷のスリーランなどもあって5回までに7-5と逆転し、リリーフ陣が踏ん張って大事な初
戦に勝利する。ところが第2戦のフラーティーは5回4失点、第3戦のビューラーも5回6失
点と打ち込まれて連敗、先発3枚を使い果たしたところで王手をかけられてしまう。
第4戦は、ブルペン投手の継投とせざるを得ない。
ところが、ドジャースナインの表情が曇る中に一人元気な男がいた。大谷である。
彼の闘志はいささかも衰えず、“あと2連勝すればいい”とナインを鼓舞したのである。
今にして思えばこれが大きかった。
大谷は、名門ドジャースの1年目にして早くもリーダー格になっていたのである。
リーダーの本気は伝染する。背水の陣で臨んだ4戦目は、8人の投手がベストピッチング
を繋いで完封してしまったのである。この勝利で雰囲気はガラリと変わり、監督の采配
と選手の気持ちが一つになった。そして、2勝2敗で迎えた最終決戦は、山本とダルビッ
シュによる投手戦となったが、これを2-0で勝利してメッツとのリーグチャンピオン決
定戦を戦うことになった。
メッツはワイルドカード3位からブリュワーズ(中地区優勝)、フィリーズ(東地区優
勝)を破って波に乗る不気味な相手であったが、ドジャースはフラーティー、ビューラ
ー、山本がそれぞれ1勝を挙げ、最後はまたも7人のブルペン投手で勝って4勝2敗でナ・
リーグを制した。いよいよ、大谷が願ってやまなかったワールドシリーズ進出である。
一方、ア・リーグの覇者は予想通りヤンキースとなって、ここに43年ぶりの東西横綱対
決が実現した。
ヤンキースとドジャースのデータはよく似ていると先に述べたが、多くのファンはドジ
ャースの投手事情に不安があることから、私と同じくヤンキース有利と見ていただろ
う。しかし、両者のよく似たデータの中に、一つだけ大きく異なるところがあった。
それは、盗塁の数である。
ヤンキースのレギュラーシーズンにおける盗塁数は88でドジャースは136。それは足を
生かせるか否かを表している。そして皮肉にも、さほど重視されないその差が勝敗を決
定づけるような展開となったのである。
その場面に焦点を当てて振り返ってみよう。
第1戦、2-1でヤンキースリードの8回裏、大谷が右中間にヒットを放ち2塁を狙うと、右
翼手ソトの送球がそれてセカンドがこれをはじく、すかさず大谷は3塁へ進みベッツの
犠飛で同点とする。延長10回表、ヤンキースは1点を挙げ再びリードするが、ドジャー
スはフリーマンの逆転サヨナラ満塁ホーマーで大事な初戦に勝利する。
第2戦山本の好投が光り、4-2でドジャースの勝ち。
第3戦、3-0でドジャースリードの4回裏、ヤンキースの4番スタントンが2塁打で出塁、
ボルペの左前ヒットで普通なら1点を返すところでスタントンがホームで憤死、反撃な
らず。ドジャース3連勝で王手をかける。
第4戦でも同じような場面があったが、このゲームはドジャースがブルペンの主力を温
存したこともありヤンキースが11-4で圧勝。
第5戦、ようやくジャッジにもホームランが出て5-0でヤンキースがリードの5回表、
6番のK.ヘルナンデスがヒットで出塁、7番のエドマンがセンター正面へのライナーを放
つとジャッジがこれを落球、次いで8番スミスのショートゴロをボルピーが悪送球で無
死満塁となる。9番ラックス、1番大谷は三振で2死となるも2番ベッツのファーストゴロ
の際、コール投手がベースカバーを怠ったためこれがヒットとなり、ドジャースに1点
が入る。さらにフリーマン、T.ヘルナンデスの連打で一挙5点を挙げ同点となる。
一見、打者一巡の猛攻にも見えるが実は守りのミスが重なったことによる失点であり、
ミスを誘った一因はドジャースの”足”である。ジャッジの落球も、映像を見ると捕球直
前の彼の目はハーフ・ウエーのランナーに向いているように見える。
その後ヤンキースは、6回にスタントンの犠飛で再び1点をリードするが、8回にドジャ
ースがノーアウト満塁から二つの犠飛で逆転し、9回をビューラーが締めて4勝1敗でヤ
ンキースを破りワールドチャンピオンとなった。
戦前有利と見られたヤンキースの負けは不思議の負けではなく、ウィークポイント
の“足”が正しく攻守両面で”足を引っ張った”ものだと言ってもよさそうだ。
ではドジャースの勝ちはどうだろうか。
不思議の勝ちにあてはまる部分もなくはない。あるいは、大谷翔平の”闘志“が伝染し
たと言いたい気分もある。しかし、冷静に見ればドジャースのフロント陣営の勝利とい
うべきではないだろうか。今シーズンのドジャースをけん引したのは昨シーズンにはい
なかった選手が多い、新たに獲得した大谷、山本、グラスノー、T.ヘルナンデス、
K.ヘルナンデス、そしてシーズン途中に補強したフラーティー、コペック、エドマ
ン・・・それらの選手たちがほぼ全員予想以上のパフォーマンスを示し、彼らの力なく
してワールドチャンピオンはあり得なかった。
つまりドジャースの勝利はフロントの勝利である。しかし、おそらく彼らは現状に満足
せず、既に次の打ち手に着手しているに違いない。
補強の中心は先発投手である。ストーンの来期復帰は無理らしく、フラーティーは契約
がどうなるか分からない。ゴンソリンの復帰は心強いが、グラスノーやビューラーは故
障がちだ。
幸いドジャースの懐は大谷のおかげもあってゆとりがある。我々としては、菅野智之、
佐々木朗希を獲りに行くかどうか、そこが大いに気になるところである。
MLBの話が長くなったのでNPBはさらっと流したい。(勿論ひいきチームが敗れたせいもある。)
NPBは、レギュラーシーズンの成績が71勝69敗と、やっと勝ち越してCSの進出したDNA
が日本一となった。これを不思議の勝ちというのかと言えばそうではない。不思議の勝
ちはその一戦だけに訪れるのであり、何度も連続すればそれはもはや不思議とは言えな
いのである。DNAにはそれなりの実力が備わっていたと考えるべきなのだ。だから勝敗
の原因は、主として負けた側にある。ならば、DNAのレギュラーシーズンをどう見れば
よいのだろうか。
DNAのレギュラーシーズンにおける対戦成績は、巨人には8-16と大きく負け越し、阪
神、広島にも11-13,11-14と負け越している。ヤクルト、中日には15-10,15-9と勝ち
越してはいるものの、トータルでは二つの負け越しである。かろうじて二つの勝ち越し
となったのは、交流戦で11-7と4つの勝ち越しがあるからだ。実はセ・リーグのチーム
の中では一番成績が良かったのである。しかし前半戦が終わった段階で、このブログ
で“DNAは東以外に計算できる先発投手がいないため優勝は無理。なんとかCSに滑り込
んで短期決戦にかけるしかないだろう”と書いた。まさかのその展開となったわけだ
が、有利と見られた阪神、巨人、ソフトバンクが次々に敗れた理由は共通している。
一つは油断である。どのチームも対戦成績ではDNAに勝ち越しているため甘く見ていた
ところがある。もう一つは、残り試合の関係で最も遅くまでレギュラーシーズンを戦っ
ていたDNAに対し、他のチームはしばらく実戦から離れていたためコンディション調整
がうまくいかなかったのではないか。敗れたチームは反省材料があるはずだ。
最後に、これは想像の域を出ないが、DNAの投手(特に二人の外国人投手)は日本の夏
に弱く、本来の力を出せていなかったのではないだろうか。CSに入ってからの二人が別
人のように好投したことが下剋上優勝の原動力になったことを思うと、そんな気がして
ならない。
いずれにせよ、各チームとも来期こそはと意気込んでいるはずであり、大谷の二刀流も
含めて、来シーズンは日米ともに面白くなりそうである。
2024.11.11