樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

「50-50」の衝撃(J-150)

9月20日朝、初秋とも思われない寝苦しさで目が覚め、タイマーで止まっていたエアコ

ンをかけ直して二度寝した。今度はスッキリと目覚めてスマホをチェックすると、ドジ

ャースVSマーリンズのゲームは5回を終了するところだった。

ここまでの大谷は3打席ともにヒットを放ち、ドジャースは7-3でリードしていた。

急いでTVを点けると、6回表は8番からの攻撃で打席が回ってくる大谷の様子は、さらに

大暴れしそうな雰囲気が漂っていた。

わずか1か月足らず前のこと、MLBは大谷の40-40達成の話題で沸騰していた。それが前

回のブログである。ドジャースの地区優勝がほぼ決定的になった今、ファンの関心は大

谷の前人未到の記録がどこまで伸びるか、そしてポストシーズンでどのような活躍を見

せてくれるかに移っている。

今シーズンの大谷は何もかもが”ドラマティック“だ。

40-40を達成したのは126試合目の8月24日(日本時間)である。MLBの長い歴史の中で

わずか5人しか入れてもらえない部屋に、「サヨナラ満塁ホームランで決めました」と

いう手土産をもって堂々と入室し、「まだ30試合ほど残っていますので、今日はこれ

で・・・」と退室した。彼は二度とこの部屋には戻らず、新しい部屋に入ることになり

そうだ。

「40-40」達成から5日後の8月29日、ドジャー・スタジアム入口に長蛇の列が出来た。

その日の来場者には大谷翔平のバブルヘッド(首振り人形)が配られることになってい

たからである。バブルヘッド・デーでは、その選手の家族などが始球式をつとめるのが

恒例となっているのだが、そこに現れたのは何と愛犬のデコピン君で、この大役を見事

に演じきり喝采を浴びた。

そして1回裏、大歓声に迎えられた大谷は、まるで筋書き通りとでもいうようにホーム

ランで応えたのである。その日から夢の「50-50」は現実の目標へと変わった。

ファンァンが思い描いた理想的シナリオはおそらくこうだ。

“あのWBCの決勝戦でトラウトを三振に打ち取って優勝を決めた、思い出のローンデ

ポ・パークで「50-50」に王手をかけ、猛追するパドレスを本拠地で破って地区優勝を

決めるというゲームで「50-50」を達成する”

 

しかし現実はそのような三流作家の筋書きのようなことにはならない。

6回表、8番のパヘズがヒットで出塁し、1死2塁でこの日4回目の打席に立った大谷は49

号2ランを放ち50号に王手をかける。ゲームも9-2となって、勝負はほぼ確定、矛を収め

てもよさそうなところだが、火が付いた打線は止まらない。7回表ドジャースの攻撃

は、1アウトから四球・ヒット・四球とつないだ満塁のチャンスに8番パエズのタイ

ムリーで2点を追加、そして9番テーラーが凡打で倒れたあと大谷に5回目の打席が回

る。ここで投手バウマンの暴投でさらに1点が加わったところで、あっさりと大谷の50

号2ランが飛び出す。

得点は14-3の大差となり、9回マーリンズは野手をマウンドに送る。しかし、敗北宣言

をしたような相手に対してもドジャースは容赦なく攻撃を続け、大谷の51号3ランまで

飛び出してこの回さらに6点、遂に20-3という大差のゲームになった。

この日大谷は、6打数6安打3本塁打10打点、計17塁打2盗塁という大爆発であった。

大記録を前にして突然スランプに陥るのはよくある話だが、ハラハラもイライラもさせ

ることなしに、このユニコーンは一気に駆け抜けてしまったのである。

翌日のスポーツメディアは日米ともに大谷一色となり、英国BBCや中東アルジャジーラ

までがこの快挙を報じた。NHKもまた、即座にこのゲームの再放送を決めた。

さらに付け加えるならば、時差3時間の本拠地に戻った翌日のロッキーズ戦においても

彼は4打数3安打1本塁打2打点1盗塁の活躍を続けており、2日間で10打数9安打4本塁打

12打点3盗塁の成績を上げたことになる。

MLB史上、1試合で17塁打以上は7度目、10打点以上は16度目だそうである。

しかし、1試合で「3本塁打+2盗塁」や「10打点+複数盗塁」を記録した選手はいな

い。このことからも、「50-50」がいかに”異次元”であるかを物語っている。

これで両リーグでの本塁打王獲得は確実で、MVPも当確だろう。

となると、指名打者が史上初のMVPを獲得することになる。前2回のような満票ではな

いかもしれないが、守備への貢献がないからという理由で大谷に票を入れない記者は、

よほどのひねくれものか一種の”目立ちたがり屋“とみなされる覚悟が必要だ。

大記録直前のプレッシャーや達成後の脱力感といったものをまるで感じさせない大谷に

対して、彼のメンタルの強さを称賛する声もある。しかし、もともと彼は自身の数字は

ほとんど気にしていない。それよりも、今は7年間も待ち望んだ”ヒリヒリする9月“を満

喫しているのである。

彼のポストシーズンがどのようなものになるか、ファンとしては大いなる楽しみをプレ

ゼントしてもらった気分だが、できれば最終ステージまで勝ち進んでほしい。しかし、

ワールドチャンピオンになるのは、二刀流復活の来シーズンまで先延ばしにしてもらっ

た方がいいような気がしなくもない。

                          2024.09.24