8月25日、大谷翔平が対TBレイズ戦において「40-40」を達成した。
40-40とは1シーズン中のホームランと盗塁が40以上であることを意味する。
日本でなじみがないのは、未だ誰もこれをクリアした選手がいないからである。
MLBでは、パワーとスピードという両立しにくい才能が、いずれも超一流の選手である
として極めて評価が高い称号だ。これまでに達成した選手はわずか6名に留まり、複数
回クリアした選手はいない。それを大谷は史上最速の126試合(チーム:129)で成し遂
げたのである。
その過程は、あまりにもドラマティック=ショーヘイ的=であった。
今シーズン、大谷は打者に専念することもあって、ファンの間では両リーグでのホーム
ラン王、あるいは三冠王を期待する声が高かった。しかし“専門家筋”では環境の変化や
手術後のリハビリなどがマイナス要因になって成績は下がると見られていた。
例えば米データサイト(fangraphs)などは、大谷の今期成績を(打率:.273、本塁打
38、打点:102)と予想した。これに反発して、私は(打率:.333、本塁打55、打点:
125で三冠王)と目いっぱいの予想を当ブログに書いた。(ドジャースのアレ大谷のア
レ、5.10)
滑り出しは好調で、6月末には打率.321、本塁打26であったが、打点だけはは1位のオズ
ナに大きく水をあけられていた。得点圏打率が悪いという指摘もあった。しかし、問題
はやはり打率であった。7月末には.311に下がり、8月12日には遂に3割を切って.298とな
った。その頃から盛んに話題になってきたのがこの40-40という指標である。これまで
の達成者は下表のとおりで、中には薬物疑惑のある選手もいるが、いずれもパワーとス
ピードを兼ね備えた強打者である。
中でも、昨シーズンのアクーニャJrは、41-73という驚異的な数字を挙げ、ナ・リーグの
MVP を獲得した26歳である。今シーズンにも史上初の複数回達成者が生まれるかと期
待されていたが、左膝前十字靭帯断裂で5月26日で今シーズンを終えた。彼は2021年に
右膝の靭帯も断裂しており、両ひざの靭帯を断裂したことになる。というわけで、アク
ーニャJrの脱落とともに今シーズンの40-40も消え、また大谷の三冠王も厳しくなったと
思われたが、実は大谷の「40-40」への挑戦が着々と進行し、いつの間にやら秒読み段
階に入っていたのである。
40-40クラブ
年 所属チーム 選手 本塁打 盗塁
1988 アスレチック ホセ・カンセコ 42 40
1998 マリナーズ A. ロドリゲス 42 46
2023 ブレーブス R.アクーニャJr 41 73
大谷は8.19に39号本塁打を放ち、21日、22日に盗塁を1個ずつ決めて39まで積み上げ
た。そして1日おいて8月24日(土)、本拠地でTBレイズを迎えることになった。
今シーズン、A・リーグのレイズとはこの3連戦だけである。
試合はドジャーズ先発のミラーが1回にソロ、3回にツーランを浴びて3点のビハインド
から始まる。大谷は4回にボテボテのゴロが内野安打となって出塁し、2盗に成功して
まず盗塁が40に到達する。この回は得点につながらなかったが、5回に9番K.ヘルナンデ
スの3ランが飛び出し同点に追いつく。そして9回の表を無失点でしのぎサヨナラゲーム
のお膳立てが出来上がる。9回裏は5番のスミスからの打順で大谷は6番目にあたる。
だからこの回大谷まで回るケースは2アウト満塁という場面しかない。そうなれば最高
の場面だが、たとえマンガ家でもそこまで盛り上げるのは気が引けるだろう。
ところが、野球の神様はこよなくドラマがお好きな神らしい。
まず先頭の5番スミスが0-2から死球で出塁する。次いで6番エドマンがセンター前にヒ
ットを打ち7番ロハスが送りバントを決めて1死2,3塁、1打サヨナラのチャンスとなる
が8番のラックスは2ゴロに倒れ2アウトとなる。ここでロバーツ監督は、何と5回にホー
ムランを打っているK.ヘルナンデスを下げてM.マンシーを代打に送る。ならば、と相手
も投手をロドリゲスからポシェに交代させる。打ち気満々のマンシーに恐れをなした
か、ポシェはマンシーに四球を与え、遂に2アウト満塁バッター大谷という最高の場面
が完成する。
そして・・・その緊張は一瞬にして歓喜の場面に替わる。なんと大谷は、初球を見事に
捉えセンターの観客席に運んだのである。
“「40-40」を史上最速でしかも同日にサヨナラ満塁ホーマーで決めた男”・・・
まさに“神ってる”としか言いようがない快挙である。
“まるでストーリーブックのようだ。同じ夜に40盗塁40本塁打。こんなことがこれまで
あったかどうかは分からないが、彼はグランドスラムで勝利を決めた。今回の出来事は
長い間記憶に残るだろう”
試合後のロバーツ監督のコメントは、”もうなにも驚かないよ、また何かやってくれる
だろう“と言っているようにも聞こえるが、それはファンにとっても同じである。
ゲームはまだ30試合ほど残っている。そして、それこそがこれまで大谷が願ってやまな
かった”ヒリヒリする9月“なのである。その戦いの中で、もし「50-50」という新たなペ
ージを開けばそこは大谷だけのページとなる。
実は三冠王の可能性も消えてはいない。カギとなるのは現在6位の打率なのだが、トッ
プとの差はわずかであり、上位に絶好調の選手も見当たらないので首位打者はおそらく
3割1分を上回りそうにない。もし大谷が、残り試合で45本以上の安打を打てば打率はお
そらく3割6分程度になる。そしてそのあたりで首位打者が決まりそうな気配だ。
週9安打のレベルだから十分可能性がある。そうなればいわゆる“トリプル3”(打率3割、
本塁打30、盗塁30)も達成される。(但し、MLBではトリプル3という称号はない)
しかし、私が今シーズンの大谷に期待するのは、「三冠王」よりも「50-50」の方だ。
そこは、これまで誰も到達したことのない”彼方“であり、“ユニコーン”の異名にふさわ
しい場所だと思うからである。
大谷の”ヒリヒリする9月”はファンにとっても”ヒリヒリする9月”となるだろう。
2024.08.28