<全般>
2024パリ五輪が閉幕し、各国のメダル獲得数の上位10傑は下表の結果となった。
日本のメダル総数は45で、全体の6番目になるのだが、順位は金メダル数の順で示され
るのが通例なので、堂々の3位ということになる。但し、本来ならこのポジションを占
める可能性が高いロシアは今大会に参加していない。
パリ五輪メダル獲得表(上位10)
国名 金 銀 銅 合計
米 40 44 42 126
中 40 27 24 91
日 20 12 13 45
豪 18 19 16 53
仏 16 26 22 64
蘭 15 7 12 34
英 14 22 29 65
韓 13 9 10 32
伊 12 13 15 40
独 12 13 8 33
前回ブログに書いた通り、私の予想は「金」20で、前回東京オリンピックの「金」27個
に続きピタリと当てたことになるが、その内訳まで当てたわけではないので自慢する資
格はない。とは言え、前回紹介した高橋洋一先生やGracenoteの予想が大きく外れたこ
とと合わせるとなんだか愉快である。さらに言えば、フランスの「金」16は、高橋先生
が広く設定した「金19~29」という予想の枠内にも入っておらず、先生の理論は崩壊し
たというほかない。“ナメタライカンゼヨ!”とでも叫びたい気分だ。
今回の「金」20、総メダル数45は、いずれも海外開催における最高成績で、“歴史的”或
いは”躍進“といった言葉が飛び交うほどの好成績と評価されている。しかし水を差すよ
うだが、それほどでもないという見方もできなくはない。
これまでの海外開催における記録は、2004アテネ大会の「金」16が最高で、この時の金
メダル総数は301、パリ大会は「金」20獲得で総数は328。比率で言えば5.3%から6.1%
に一応上昇したことになるのだが、もしロシアの参加があり、レスリング・フェンシン
グ・体操・柔道のどれかで日本の「金」が2、3個奪われたとすれば、ほぼ横ばいの成績
ということになる。つまり、”躍進“ではなく”健闘“若しくは”復活“のレベルなのである。
国内開催についても同様である。戦後20年足らずの1964東京大会において、日本は16個
の「金」を獲得しランキング3位に躍り出た。この大会における金メダル総数は163だっ
たので約10分の1の「金」を獲ったことになる。それから50数年、2020(2021)東京大
会では27個の「金」を獲り大きく飛躍したかに見えるが、「金」の総数もまた163から
336へと倍増しているので、比率で言えば約9.8%から8.0%に減少したというのが実情
だ。
ただ、1964東京大会に中華人民共和国は参加していない。この時参加したのは中華民国
(台湾)で、中国が夏季五輪に本格的に参加したのは1984ロサンゼルス大会からであ
る。また、韓国は銀2、銅1というレベルであった。
各国のメダル獲得数において、この50年で明らかに“躍進”したのは中国と韓国で、それ
がGDPに連動しているという説に異論を唱えるつもりはない。客観的に見て、中・韓の
経済発展に最も寄与したのは日本だと思うが、今回「銀」1「銅」5に終わったインド
の今後がどうなってゆくのかが、気になるところだ。
<特記事項>
大会終了後、メディアが追っかけまわしているのは金メダリストたちである。
それはまあ予想通りで、いわば当然の成り行きだが、今大会はその他にも注目すべき変
化なり兆候が数多くあったように思う。そのいくつかを取り上げてみたい。
・史上初の表彰台
日本の獲得メダル数が2回の東京大会で29から58へと丁度倍増したのは、大雑把に言
えば女子選手の活躍によるものである。1964東京大会において、女子のメダルはバレー
ボールの「金」と体操団体の「銅」のみに終わっている。そこから50年、近年の大会で
は、参加選手・メダル数ともにむしろ女子選手の方が多いという状況だ。
それでも体格の差による不利はどうしようもなく、各種競技の重量級においては苦戦が
続いていた。
その壁を打ち砕いたのがやり投げの北口榛花である。
陸上競技における日本女子のメダルはマラソンしかなく、トラック競技やフィールド競
技では、目標自体が「決勝進出」というレベルなのだからまさに歴史的快挙である。と
ころが、なぜかそれが“特別なこと”に感じられない。誰かがまたやってくれそうな雰囲
気があるのである。それはおそらく彼女のキャラクターからきている。彼女は、見たと
ころ陽気で明るく、笑顔がチャーミングな少し大柄のフツーの女性にしか見えない。
だからこそ、高橋尚子や宮里藍のような強い影響力を持っているような気がする。
陸連やJALは彼女の影響力を生かしてほしいと思う。
史上初は他にもある。惜しくも「銀」に終わったが、近代五種の佐藤大宗選手だ。
大会前はあまり注目されておらず、この競技がどのようなものであるかさえあまり知ら
れていなかったかもしれない。近代五種は、1912年ストックホルム大会から正式種目と
なっているので、名前ほど新しいわけではない。競技は、フェンシング(エペ)・水泳
(200m)・馬術のポイント1点を1秒に換算して上位からスタートし最後のレーザー・
ランを行う。600mのランニングを5回、10mの距離から6㎝の標的を5回命中するまでの
射撃を4回、これを交互に繰り返し順位が決まる。これを一日でやる。
実はこの競技、来年から馬術がオブスタクル(障害物競争)に変更されることになって
いる。
愉快なことに、オブスタクルの内容はどうやらTBSでおなじみの「SASUKE」のようなも
のになるらしい。大賛成である。馬術がSASUKEに替われば競技人口も増え、人気競技
の一つになりそうな予感がする。もしかすると、次回のロサンゼルス大会では日本がメ
ダルを獲れるかもしれない。楽しみである。
もう一つの史上初は、女子レスリングの重量級である。圧倒的な強さを誇る女子レスリ
ングも、最重量級(76キロ級)だけはこれまで決勝のマットに上がることさえできなか
ったが、今大会で鏡優翔が遂に念願の「金」を獲得した。
一度壁を突破すると必ずそれに続くものが現れるのが常であり、これらの“史上初”は今
後に良い影響をもたらしてくれるだろう。
・お家芸の変化
「お家芸」とは、もとは歌舞伎や狂言の世界における一門の得意芸や演目を指す言葉だ
が、オリンピックなどでは日本の得意種目を指す言葉として使われたりもする。
一般的には「体操」「柔道」「レスリング」などを指すことが多いが、”平泳ぎ“や”バト
ンリレー“のように限定的に使われることもある。
そのお家芸に新たに”フェンシング“と”スケートボード“が仲間入りしたとみてよさそう
である。フェンシングは、太田雄貴が2008北京のフルーレで初の表彰台に立ってから、
まだ10数年しか経っていないが、今大会では男子がフルーレ団体とエペ個人で「金」、
エペ団体で「銀」、女子がフルーレ団体とサーブル団体で「銅」を獲り、一気にこの競
技のトップクラスまで駆け上った。アメリカや東欧諸国も強いが、今後も日・仏を中心
とする戦いになるだろう。
スケボーはまだ日が浅いが、次々に若い選手が育っており今後も期待できる種目となっ
ている。ブレイキンも同様であるが、こういった新競技が今後どうなるのかは分からな
い。個人的には、オリンピックでやることには少々違和感がある。
・あと一歩の球技
球技のほとんどは競技人口も多く人気が高い。特にサッカーのワールドカップは五輪以
上の関心を集めるとも言われるイベントだ。五輪では18人中15人以上を23歳以下で編成
すことになっており、最高の舞台はWCであると誰もが認めている。
サッカーほどではないが、バスケットボール、バレーボールなどプロリーグが存在する
競技は同じメダルでもひと際価値が高いような気がする。個人競技のテニスやゴルフも
これに近い。これらの競技は、出場資格を得るまでの道のりが大変で、多くの種目に出
場している国ほどスポーツが盛んであると言っても過言ではない。そして、球技全般に
わたってメダルを獲得している国こそがスポーツ大国だ。
その国がどこかと言えば、やはりアメリカである。アメリカはバスケットで男女ともに
「金」を獲り、バレーボールが「銅」と「銀」、サッカーの女子とゴルフの男子が
「金」、テニスでも男子ダブルスで「銀」とすべての競技がトップクラスにある。
しかしわが日本も”予選敗退”、”一次リーグ敗退”の定位置からどうやら抜け出した感が
ある。
サッカーもバレーも、バスケットもあと一歩のところまで来ていることは間違いない。
次のロサンゼルス大会では、野球とソフトボールが復活する。球技全般の活躍が見られ
るに違いない。卓球とバドミントンも加えて、球技全体で7~8個のメダルを期待して
いる。
2024.08.19