樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

「救済新法」はメディアのミスリードだ(J-125)

12月10日、土曜日にもかかわらず参院本会議が開かれ、異例のスピードで新たな法律が

誕生した。「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」である。

しかし、この名を聞いて「あれ?」と思った人もかなりいるのではないだろうか。

これまで大手メディアは、一貫して「旧統一教会被害者救済法」(略称:救済新法)と

呼称してきたからである。(驚いたことにこの法律が成立した後もそう呼んでいる)

この法律に「統一教会」の名は出てこないし、その目的は「救済」ではなく「防止」で

あって、過去に生じた被害を救済することには全く役に立たない。

だから、略称とするなら、「救済新法」ではなく「不当寄附勧誘防止法」とか「悪質

な寄附勧誘防止法」などと呼ぶべき法律だ。

一連の報道は、明らかなミスリードと言わざるを得ない。

メディアのミスリードは珍しいことではない。しかし、こうも足並みをそろえられると

その意図を勘繰りたくもなる。が、それは後回しにして、とりあえず新法の中身をみて

みよう。

 

条文は6章18条と附則から成り、第1条と附則にこの法律の目的が述べられている。

第1条:この法律は、法人等による不当な寄附の勧誘を行う法人等に対する行政上

の措置等を定めることにより、消費者契約法とあいまって、法人等からの寄附の勧誘

を受ける者の保護を図ることを目的とする。

法律の文章は概して読みづらいが、簡単に言えば、“悪質な寄附勧誘から国民を保護す

る”ことを目的とした新法である。アンダーラインを付けた部分を説明すると、

法人等とは、“法人又は法人でない社団若しくは財団で代表者若しくは管理人の定めが

あるもの”とされているので、平たく言えば会社や学校、慈善団体などありとあらゆる

組織団体に広く適用されるということになる。だから、公益法人協会からは健全な発展

を阻害する恐れがあるとして懸念が示されてもいる。宗教法人だけを取り上げても、日

本には18万を超える宗教法人があり、それらのすべてがこの法律の対象なのであって、

統一教会がきっかけとなったのは確かだが、それのみをターゲットとしているわけで

はない。

では、不当な勧誘とは何か。それは禁止行為として第2章(4,5条)に示されている。

それらを分かり易く表現すれば第4条の、

1.帰れと言っても応じない 2.帰りたいと言っても帰さない。 3.帰りにくい場

所に連れ込む。 4.誰かに相談しようとするとそれを妨害する。 5.色仕掛け

 6.霊感等によるお告げ  の6種行為と、

第5条の 借り入れや資産の処分による寄付を要求すること 

が不当な勧誘に当たるとしている。

そして、これらの禁止行為に違反した場合の行政措置を示したものがだい6,7条であ

る。

第6条では法人等に施行に必要な限度で報告を求めることができるとし、第7条は違反行

為が継続する恐れが著しい場合には必要な措置を取るよう勧告し、これに応じない場合

は命令してその旨を公表するとしている。

さらに、第16~18条に罰則規定を設け、虚偽報告に対しては、50万円以下の罰金、命令

違反には1年以下の拘禁若しくは100万円以下の罰金を科すとしている。

ここまでは悪質な寄附勧誘の防止に関する条文であり、被害者救済に関することは第8

~10条にある。

8条は寄附の意思表示の取り消し、9条は取消権の行使期間の規定であり、クーリングオ

フに似た制度である。第10条は「債権者代位権の行使に関する特例」というもので、簡

単に言えば、子供や配偶者が寄付した本人に代わって養育費や生活費などを将来分も含

めて返還請求できるとする規定である。

しかしながら、これらの救済措置の実効性については疑問視する向きも多い。

そもそも、寄付者本人は自分を被害者と認識していないケースが多く、「信教の自由」

という大義の下どこまで踏み込めるものか、またそれが親子・夫婦等の関係に良い結果

をもたらすのかどうか、却って心配な部分もある。

こうして条文を辿ってみればわかるように、この法律が旧統一教会の被害者の救済に有

効でないことは明らかである。そもそも、法は原則として不遡及であり、法の成立以前

の事項には適用できない。今後の被害拡大を防止できるかどうかの話なのである。

そこで最初に戻るのだが、この新法が旧統一教会の被害者救済には全くと言っていい程

効果がないにもかかわらず、一貫して「旧統一教会被害者救済法」と呼称してきた大手

メディアの魂胆はどこにあるのだろうか。

それがどうもわからなくて、私にはこんなことくらいしか思いつかない。

一つには、政権へのダメージになることへの期待である。

この法律を「旧統一教会被害者救済法」として認識した人は、やがてそれが全く機能し

ないことに気づく、そして野党はいつまでも政府を批判する材料に出来る、つまり政権

へのダメージにつながる、ということ。

もう一つは、大手メディアが恐れる法人への配慮(忖度)である。

著名な言論人などが突然姿を消したときなどに、“あれは「D通」あるいは「S学会」の

逆鱗に触れたからだ”という噂が流れることが在る。「D通」は広告収入がらみで「S学

会」は抗議活動への恐れで腰が引けるというわけだ。日本の宗教法人は18万以上あると

前に書いたが、信者数ランキングの10位までに、いわゆる「新興宗教」が5つも入って

いる。これらの批判をした場合の抗議活動は耐え難いものとなるらしい。今なら統一教

会を叩いてもその心配はないというわけだ。

メディアと宗教団体は全く別物だが、似たところがある。それは、広くとらえれば、

人々をマインドコントロールすることでなりたっているということだ。世界の立派な教

会や寺院の多くは”寄進”によるものであり、朝日新聞があれほどの不祥事を重ねながら

も生き延びているのは、マインドコントロールされた岩盤支持層を持っているからであ

る。岩盤支持層を言い換えれば、“朝日新聞教”で、メディアと宗教はある種のライバル

関係にあるとこじつけられなくもない。

この法律の雑則(12条)には、“法律の運用に当たり、法人等の活動に寄付が果たす重

要性に留意し、信教の自由等に十分配慮しなければならない”という条項もあるので、

寄付者本人が取り消しや返還を求めていないケースでは、すんなり救済とはならない

感じが漂っていると言わざるを得ない。

つまるところこの法律の実効性は、11条がその通りに実施されるかどうかにかかってい

る。11条をかいつまんでいえば、次のような内容だ。

第11条:国は取消権や債権者代位権の適切な行使により被害回復を図ることができるよ

うにするため、法テラス(*)と関係機関関係団体等の連携強化による利用しやすい相

談体制の整備等、必要な支援に努めなければならない。

                (*)日本司法支援センタ―

この条文の通りに強力なバックのある相談体制が整えば、示談による円満解決の道が開

けるかもしれない。というより、それしかないのではないだろうか。

                         2022.12.13