樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

日本の少子化と世界の人口問題(Y-42)

諸悪の根源は少子化にあり、これさえ解決すれば年金も経済もすべてがうまくいくと主

張する人たちがいる。そして、その解決策は”多子化“であると当然のごとくに言う。

さらに、「子供1人につき1000万円の支援金を出すくらいの政策が必要だ」などと無責

任な提言をしたりもする。まるでマラソンの報奨金制度に倣えと言っているような話だ

が、そううまくはいきそうにない。というより、なんだか方向が間違っているような気

がするのである。

彼らが主張するように、日本は再び“産めよ増やせよ”の時代に戻るべきなのだろうか?

それをどこまでも続けるのが正解でないことは確かだが、果たして日本人口の適正値は

一体どのあたりにあるのだろうか。

少し遡って、日本人口の推移を辿ってみることにしよう。

 

日本人口の推移

日本の人口は概ね次のように推移している。

  1192(鎌倉幕府成立)     757万人(推定)

  1868(明治維新)     3,330

  1945(終戦時)      7,199

  2004(平成16)     1億2,784  (人口のピーク)

  2022(現在値)     1億2,475  (9.1概算値)

  2050(推定値         9,515

  2100(推定中間値)      4,771 (3,770~6,407)

 

この表の通り、鎌倉時代の初め757万人程度であった日本の人口は、812年後の平成16年

には約16.9倍の1億2784万人にまで増加したということになる。

それも、鎌倉から明治に至るまでは676年をかけて3.4倍という穏やかな上昇であった

が、明治以降の増加率は136年で3.8倍という激しさだ。

この急激な人口増に日本は悩まされることになり、政府は国民に対し海外移民を奨励す

る政策を続けた。それが戦争の遠因になったという指摘もある。

フランスの人口学者ブートゥールは、“戦争の唯一の原因は人口問題である”とまで言

い、WWⅡの原因の一つとして1924年アメリカが突然移民の受け入れをストップした

ことを挙げている。また日下公人は「戦争が嫌いな人のための戦争学」の中で、若者の

比率が高い国が戦争を起こしやすく、昭和15年の時点で15歳から25歳の若者比率が15%

以上の国を調べてみるとそれはドイツとイタリアと日本であったと述べている。

 

近未来の人口予想と対策

元に戻って将来の人口予想であるが、2100年の人口予想の中間値が約4800万人となって

いる。わずか100年足らずで1/2以下にまで急減するという予想は衝撃的だが、ありと

あらゆる予想の中で、近未来の人口予想ほど外れないものはない。だから人口減少はも

はや避けられないと覚悟すべきだとしても、もう少し緩やかでないと深刻な影響が出る

だろうと心配になるのは当然だ。だから、思い切った子育て支援に踏み切ろうというわ

けだが、そう簡単に事は運ばない。端的に言えば、もはや”手遅れ“なのである。

日本の人口ピラミッドは、ピラミッドには程遠く松茸みたいな形になっていて、出産適

齢期の層が萎んでいる。だから少々出生率を上げても、層が厚い高齢者の死亡数に追い

つかず、なかなか人口増に結び付かない。勿論、超高齢社会状態は改善されるだろう

が、望ましい人口ピラミッド状になるには数10年以上を要するだろう。

ではどうしようもないのかと言えば、ないことはない。それは、米欧のような移民の受

け入れである。

例えば、スエーデンの合計特殊出生率(女性一人が一生で出産する子供の平均数)は日

本よりやや大きい1.6程度で、人口置換水準(人口の増減なし)の2.08よも低い。

だから本来なら人口は減少していくはずだが、移民の受け入れによって徐々に人口は増

えている。

かといって、日本が無制限に移民を受け入れることには賛成できないが、かつて国策に

より海外移住をした日本人の子孫や海外の日本企業で働いている人たち、あるいは留学

生などを優遇して受け入れるということならさほど抵抗はないかもしれない。

そして、根拠のない感覚的な数値ではあるが、7000万人程度の日本人が、適度にばらけ

てこの列島に住むといったところが理想形ではないだろうか。

ただし、移民受け入れ策は新たな問題を生む可能性があり、根本的な少子化対策にもな

らない。遠い将来にわたって、日本が日本であるためには、なんとか出生率を人口置換

水準の2.08付近まで上昇させる対策が必要だ。

しかし、ヨーロッパの国々が軒並み出生率を下げているように、子育て支援社会福祉

だけで出生率を上昇させることは出来ない。かつて“Japan as No.1”と言われた時代を思

い出し、終身雇用や企業内教育制度などの見直し、あるいは道州制または地方分権の拡

大など、新旧織り交ぜた対策が必要である。世は“多様性の尊重”と口では言いながら、

画一的な方向に向かっている。それが日本を弱体化させてきた一因かもしれないのだ。

なんとかして”世界標準に振り回される”状態から”日本標準を世界標準にする状態”に出

来ないものだろうか。

以上、あれこれ悩ましい日本の少子化問題であるが、これを人口問題という言葉に言い

換えた途端、それはグローバルな問題にすり替わる。そして、実はこれこそが人類とい

うより地球にとっての最大の難問なのである。

 

世界人口の推移

人類の歴史でみればほんの僅か2000年前、世界の総人口は2~3億人であったと推定さ

れている。そこから1960年かけて約10倍の30億に達したはよいが、そこからの増加率は

すさまじく、12,3年毎に10億人ずつ増加して、今年11月15日あたりで80億人に達する

見込みだ。今現在も1分毎に156人、1日22万人のペースで増え続けている。将に人口爆

発である。日本の悩みとは逆に、世界の課題は人口抑制なのである。

 

地球上の生物は、“絶妙”ともいうべき食物連鎖のバランスが維持されることにより生か

されている。食物連鎖の上位にある生き物は下位にある生き物より個体数は少なく、そ

の頂点に存在するライオン、鷲、クジラなどの個体数は極端に少ない。それが自然界の

摂理である。

その摂理に逆らう生き物、それが人類だ。今地球上で年々増殖を続ける大型生物は人類

と人類が作り出した家畜、それに一部のペットに限られている。それを可能にしたの

は、人類が農業や畜産業を発展させてきたからである。しかし、そうした営みが一方で

地球の絶妙なバランスを破壊してきたことも事実だ。このまま人口増を続ければ、やが

て先進国の家畜と後発国の人間が穀物などの食料を奪い合う事態になりかねない。見方

によれば、それはすでに始まっているのかもしれない。

今も人口爆発に近い状態が続いている原因は、アフリカなどの出生率が高すぎることに

あるが、世界各国の出生率をかいつまんで表記すると次の通りである。

           世界の合計特殊出生率

 1.ニジェール   6.74      104. メキシコ    2.08

 2.ソマリア    5.89      128. フランス    1.83

 3.コンゴ     5.72      141. 中国      1.70

 4.マリ      5.69      145.スエーデン    1.66

 5.チャド     5.55              146. アメリカ       1.64

 6.アンゴラ    5.37      165.ドイツ      1.53 

 7.ナイジェリア  5.25      185.   日本       1.34

 8.ブルンジ    5.24      193.  イタリア      1.24

 9.ガンビア    5.09      198.   台湾        0.99

10.ブルキナファソ 5.03      201.   韓国        0.84

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

                 世界平均:2.39         人口置換水準値:2.08

 

・この表の通り、上位10傑はすべてアフリカの国々で、出生率5.0以上と極めて高い水準

にある。その多くは慢性的な飢餓と貧困に悩まされており、政治も不安定な状況だ。

しかし、栄養失調の子供に栄養剤を送るといった人道的支援は根本解決にはならず、

ユニセフの活動も逆効果を生んでいる可能性がある。

・人口の増減がなくなる出生率2.08程度の国は104位のメキシコで、先進国は概ねそれ

以下のレベルにある。

・この表にはないがインドは2.18で置換水準に近付きつつあり、中国は既に1.70と減少

局面に入っている。

・最下位韓国の0.84という数値は、”絶滅危惧種的水準”とでもいうべき民族的危機状態

にある。

 

個々に見れば、それぞれに事情が異なるが、世界平均が2.39を示しているとおり地球全

体の人口はまだ増加を続け、100億人突破も目前に迫っているというのが現在の状況で

ある。はたして、このような状態を持続することが可能なのだろうか。

今もてはやされているSDGsは”持続可能“を売りにしているわけだが、その17の目標の

中に「人口抑制」という項目はない。というより、目標のほとんどはむしろ人口増を促

しかねない項目ばかりに見える。

SDGsは2015年の国連総会で満場一致で採択された2030年までの行動指針である。

持続可能な世界を築くための17の目標と169のターゲットが示されているわけだが、最

も重要視しているテーマは「あらゆる貧困と欠乏からの解放」であり、人道的な意味合

いが強い。満場一致で採択されたのはそのためであり、また強制力を伴っていないから

でもある。もそも民主主義における“満場一致”は“無効”に終わることが多い。悪く言え

ば、痛みを伴わない”絵空事”にすぎないからだ。残念ながら、今回もこれといった成果

は期待できそうにない。

世界のリーダーは勇気を出して”人口抑制”を口にすべき時なのである。

                       2022.09.25