今年の日本シリーズは、共に2年連続最下位からの見事な復活優勝を遂げたヤクルトVS
オリックスという戦いになった。両チームとも久しぶりの優勝で、舞い上がっているか
燃え尽きているかのどちらかだろうと、この最後の戦いにはあまり期待していなかった
のだがそれは大違いで、終始熱戦・好ゲームの連続であった。
結果的にはヤクルトの4勝2敗で幕を閉じたが、第2戦のヤクルト高橋の2-0完封以外はす
べて1点差の緊迫したゲームであり、そこを勝ち切るヤクルトの特徴と強さが現れてい
たようにも思う。
今年のヤクルトの戦いぶり、とくに高津監督の采配ぶりには注目度が高い。
シリーズでは、第1戦の先発にプロ2年目の奥川を指名した。最終的にはクローザーの
マクガフがサヨナラ打を打たれて負けはしたが、奥川は投手部門5冠の山本に臆するこ
となく対等に渡り合った。だから、どこかでもう一度使うつもりだろうと予想していた
のだが、奥川の出番はなかった。レギュラーシーズンにおける奥川のローテーションは
変則的で、独り間隔が空いていたが、それを崩さなかったのである。
ヤクルトの2敗はいずれもクローザーマクガフに黒星がついている。そのマクガフを高
津監督は、優勝を決めた第6戦の延長10回の途中から12回の最後まで投げさせ、いわゆ
る胴上げ投手の栄誉を与えた。
12回表の勝ち越し打を決めたのは、ここまで温存していた代打の切り札川端だ。
采配はレギュラーシーズンと同じで、辛抱強く、ブレることがなかった。
巨人・阪神に比べれば広島・ヤクルトは層が薄い。だから前半はよくてもけが人が出れ
ばガタガタと崩れてしまうのが常である。今年のヤクルトは、コロナの影響(選手の感
染、外国人選手の到着遅れなど)は受けたもののけが人は出なかった。いや、出さなか
ったともいえるかもしれない。
ヤクルトの首脳陣には、90年代のヤクルト黄金時代を築いた野村監督の”教え子“が多
い。高津監督、宮出ヘッドコーチ、伊藤(智)投手コーチ、池山2軍監督、土橋育成
チーフ、みなノムさんのもとで黄金時代を築いた仲間である。表題はその意味だ。
野村監督は“ID野球”を標榜した。それは、ライバル長嶋監督の”カンピューター“と対比
されて、しばしばスポーツ誌などの話題になった。
今年のヤクルトにはノムさんの匂いがプンプンしている。一つは”育てる“という意識が
非常に強いことだ。それも、父親タイプではなく母親タイプだ。鞭を当てるのではなく
寄り添うタイプである。口はいつも小言を言っているが扱いは優しいのである。
もう一つは、野村-古田-中村のラインでつながるID野球だ。中村抜きにヤクルトの強
さを語ることは出来ない。シリーズMVPは当然の帰結である。
ツバメ流の特徴が最もよく表れているのは投手陣の使われ方だ。
最も安定した投手陣を擁する阪神と比較するとその違いがよくわかる。
阪神の先発5人柱(青柳、西、秋山、伊藤、ガンケル)のシーズン投球回数を平均する
と137回で、この5人の勝敗は48勝32敗、16の貯金を稼いでいる。一方、ヤクルトの上
位5人(小川、奥川、田口、石川、スアレス)の投球回数の平均は98回で32勝27敗、貯
金はわずか5に留まる。
ところが6から10位までの先発投手で見ると阪神の9勝8敗に対して、ヤクルトは何と
24勝6敗、登板数の少ない第2グループの勝率が極めて高いのである。二桁の勝ち星を挙
げた投手がいないのに優勝した不思議はここにある。
野村監督は選手個人のバイオリズムを参考にしているとも言われていた。高津監督がそ
こまでしているとは思わないが、選手起用に好不調の波を重視していることは間違いな
さそうだ。
ヤクルトの第2黄金時代到来を予想するのはちょっと冒険的かもしれないが、ヤクルト
の選手起用法が他の球団にも影響を及ぼすことは間違いない・・と思う。
2021.11.30