樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

五輪結果を深堀すれば(J-75)

 

海の向こうでは、19連敗中のオリオールズが終盤の大逆転勝利で、大谷の9勝目の権利

を消し、昼にはわが郷土の代表明徳が逆転サヨナラ負けを喫し、夜にはようやく復活登

板に漕ぎつけた期待の巨人菅野がKOを食らった。

こんな日はバイキングに倣ってこう叫ぶしかないではないか。

       “なんて日だ!!”

しかしながら、問答無用の「無観客」を引き継いで開催されたパラリンピックを見

る気がしないのはその所為ではない。

先のオリンピックの結果が妙に喉に引っかかっていて、それが邪魔をしているのだ。

何が引っかかっているのか、今一度メダル獲得表をじっくり眺めてみるとしよう。

ふと気が付けば面白いことに、上位7か国は漢字表記に馴染みのある国々である。

しかも、見事なまでに先の大戦の「敵国」に包囲されているようにも見える。

“やはり組んだ相手を間違えたか”というのは冗談半分である。

なお、( )内の数値は、開催前にBonusFinder発表した予想値である。

 

      金    銀    銅     計    予想との差

  米  39(47) 41(35) 33(15) 113(117)   -4

  中  38(42) 18(23) 88(87) 88(87)           +1

    日  27(28) 14(22) 17(14) 58(64)    -6

    英  22(15) 21(11) 22(18) 65(43)    +22

    露  20(25) 28(20) 23(22) 71(67)      +4

    豪  17(17)  7(16) 22(12) 46(45)    +1

    蘭  10(16) 12(9) 11(19) 33(43)        -10

 

順位はこのように「金」の順位で表記されるのが習わしで、歴代最多を大幅に更新した

日本は堂々の3位に立っている。しかしながら、予想値と比較してみると、上位3か国

の数値はあまり芳しくない。予想値は、当該国の期待値に近い数値でもあり、上位3か

国の国民にとってはやや不満の残る結果ではなかったかと思う。それに比べると英・露

は大満足の結果だ。

英・露は、コロナの影響が少なからずあり、さらには“ROCの名前で出ています”という

露の士気低下はどうしようもなかろうと思ったのは私だけではあるまいと思う。

それを大いに考慮した私は、総メダル数においても、日本は英・露を上回って3位を確

保できると予想していたのだが・・。

その国の”スポーツ力“はむしろ総メダル数に現れると考えている私にとっては、そこが

喉に引っかかっているのである。はっきり言えば露・英に負けたのが悔しいのである。

結果は結果だ。悔しさをこらえ、総メダル数の順序にすると、下表のとおり日本の順位

は5位に下がる。

批判を承知で極論すれば、メダル数は「国力の現在値」でもあり、「明日へのポテンシ

ャル」でもある。メダルは、いわば姿を見せている氷山の一角のようなものだ。その下

には国土、人口、経済力、教育機構、生活レベル、国家の意思、国民の資質といった

諸々の要素が隠れている。

では真のスポーツ大国はと考えた時、それは即ちメダル数だと言い切れるものでもなさ

そうだ。それを探ろうとして、いくつかの要素を取り上げてみたのが下表である。

この表で

・前回比というのは、2016リオ五輪に対する増減である。

・メダル競技数はメダルを獲得した競技数で、その国の多様性を示す指標ともいえる。

・人口/メダルは何人で1個のメダルを獲得しているかという指標である。

 いわば国民の“アスリート度”で効率のようなものだ。

・最後の欄は参考として単に人口(☓100万人)を示したものである。

 

      総メダル数 前回比  メダル競技数 人口/メダル   人口

  米    113     -8      21     291万人     329百万

  中    88     +18          17                 1638                  1442

  露    71     +15       16      205       146

  英    65    -2        17      104         68

    日               58            +17                     19                   218                     127

    豪    46            +14                     11                     51                      17

 

この表を作成して最初に驚いたのは、約50万人で1個のメダルを獲得するという豪・蘭

の効率の良さである。それは露・日の約4倍、米の6倍に当たり、中国に対しては何と30

倍もの効率となる。これこそ真のスポーツ大国だと言いたくもなるが、内容的には偏り

が激しすぎるきらいがある。豪は獲得したメダル46個のうち、競泳、ボート、セーリン

グなど水に関係する競技が32を占める。つまり、豪は水の王者なのである。

同様に蘭の稼ぎ頭は自転車だ。これは冬のスケートと深い関係がありそうである。

もし、効率だけを言うならもっとすごい国もある。その国はニュージランドだ。

わずか480万の人口で20個のメダルを取るのだからずば抜けている。ラグビーだけでな

く、この国はボートとカヌーも飛びぬけて強い。しかし、この国をスポーツ大国と呼ぶ

人はいないだろう。同じ理屈で、豪・蘭2国もスポーツ大国のリストからは外される。

残りは米中露英日の5か国である。

最後はこれら5強の特徴をやや辛口に分析してみたい。

辛口になるのは先に述べたとおりかつての敵国だからであり、成り行きだ。

 

アメリ

アメリカは世界中のタレントが集まってくる国である。

研究者、起業家、芸術家・・アスリートも例外ではない。

要するに、アメリカの代表選手=世界の代表選手なのである。

だから、今後もアメリカがそういう国である限り、優位は動かないだろう・

上表のメダル獲得競技数が最多の21として表れている通り、アメリカは競技種目にお

いても多様性が見て取れる。

最も目立つのは五輪の花形、競泳と陸上競技だ。とくに、陸上はアフリカ勢が強いの

で、5強の中ではアメリカの一人勝ち状態となっている。いうまでもなく、活躍してい

るのはアフリカ系あるいは中米系アメリカ人だ。アメリカ代表=世界代表の典型だ。

アメリカがいかに圧倒的であるかを数字で確認するとこうなる。

左が陸上、右が競泳で獲得したメダル数である。

 

      金      銀      銅      小計    合計

 米    7 11        12    10         7   9     26  30    56

 中    2    3               2         2               3        1              7          6            13

 露   1   2          2         2               0        1              3          5              8

 英    0    3               3         3               3        1              6          7            13

   日     0      2               1         1               1        0              2          3              5           

   

中国

中国はアメリカとは逆にタレントが流出する国である。多くの人材が国を離れてゆく。

上層階級の民は、出来れば老後は外国で暮らしたいと願い、子や孫に外国籍を取らせよ

うとする。高給を餌に海外からの人材を導入することに熱心だが、それに応じるタレン

トたちは所詮”出稼ぎ“に過ぎない。とはいえ、多くの分野で着実に成果は現れている。

それでも、この国の人材の流れが変化しない限り、言い換えれば”住みたい国“にならな

い限り、いかに圧倒的な人口を有していようとトップの座に就くことは難しいだろう。

中国の強みとしては、圧倒的な種目を持っているということが在る。

飛び込み、バドミントン、卓球、トランポリンなどはすべてのクラスでメダルを獲得

し、中でも飛び込みは8つの階級で7個の金5つの銀を荒稼ぎしている。その他には重量

挙げ(金7、銀1)射撃(金4,銀1、銅5)などが強い。団体競技と格闘技は苦手で、

メダル獲得競技数は17と日本の19よりも少ない。要するに、“獲れるところで獲ろう”と

いう狙いがありありで、今後はおそらく、ボート、カヌー、自転車と言ったところに力

を入れてくるものと予想される。

 

ロシア

ロシアは今回予想外の頑張りを見せた。ドーピング制裁で国旗も国歌も許されず、代わ

りの候補に挙がった「カチューシャ」も、拒否された末に選ばれたチャイコフスキー

ピアノ協奏曲を選手たちはどのような思いで聞いていたのだろうか。四面楚歌ともいえ

る状況で前回リオを15個も上回る成績を収めたのだから、帰国した選手たちを迎えるロ

シア国民の熱狂ぶりも当然かと思う。出場した選手たちは、ルールに従いドーピング疑

惑を払しょくして出場したのだから罪はない。ロシア選手が出たため金が取れなかった

だのメダルが取れなかっただのという不満を口にする方こそみっともない話だ。

この国は、伝統的に採点競技に強い特徴がある。その他には特に強さが目立つ競技はな

く、強いてあげるなら男子レスリング、フェンシングと言ったところである。

 

イギリス

イギリスは伝統的な競技に強く、そこが逆にユニークな存在感を醸し出している。

近代5種の男女独占、6種目中の5つでメダルの馬術、3種目すべてでメダルのトライアス

ロンと言ったところがこの国の凄さである。稼ぎ頭は意外にも自転車で金6、銀4、銅3

を獲得している。22種目中の13種目でメダルを獲っているのだからもはやお家芸と呼ぶ

にふさわしい。

イギリスの人口は約6800万人で、日本の約1/2、中国に対しては約1/21ほどでしかな

いが、これまでに積み上げてきた歴代メダル合計では米、旧ソに次ぐ第3位である。

いずれ中国に抜かれるかもしれないが、それはずいぶんと先の話になるだろう。

もしかするとそれよりも前に、中国の数値は旧ソ連や旧東独同様、旧中国として固定さ

れてしまう可能性もないわけではない。

ユニークついでに言えば、5強の中で女子よりも男子のメダル獲得数が多いのはイギリ

スだけだ。ごちゃごちゃいうと反発を食らうので、ここは黙って拍手を送りたい。

さらに付け加えると、前に話題にした豪・新(ニュージランド)も英国王を元首とする

立憲君主国だ。

以上諸々の要素を考慮して、“スポーツ大国”の名は、イギリスに与えるのが最もふさわ

しいと私は考える。

 

日本

徐々にではあるが日本はメダル数を増やし続けている。

最大の特徴は新種目に対する反応の良さである。

新しい種目に力を注ぎ、いち早く世界のトップに躍り出るのが1964東京五輪の女子バレ

ーボール以来伝統の得意技だ。そこが強みでもあり逆に弱みでもある。

日本がこれまでに最も多くメダルを獲得して来た競技は「体操」である。そしてこの体

操こそが5強がしのぎを削る熱い種目でもある。元々は露・中・日の争いであったがそ

こに米・英が割って入り、僅差の戦いが繰り広げられるようになった。

日本としては、ようやく初のメダルを獲得した女子の育成強化が待たれるところだ。

懸念されるのは、かつてお家芸と言われた競泳の衰退だ。再建策が必要であることは言

うまでもないが、個人メドレーの決勝でメダルを逃した二人の選手がにこやかに握手を

したシーンは、「銀」で申し訳ないと泣いた吉田沙保里と重ね合わせると、なんとなく

引っかかるものがある。

これぞオリンピックの主役とも言うべき陸上競技は日本の弱点である。

頼みの女子マラソンもメダルへの期待は薄くなっている。多くの種目にエントリーした

が決勝にさえ残れないのが現状だ。しかし、先進国の多くがそうであるように、それを

解決するのは異国の血統である。日本でもその傾向は既に現れている。

その流れは、日本が“住みたい国”のトップクラスにある限り続く。

それは日本の将来にとって、きっといい事にちがいない。

今回の五輪、日本がメダルを獲得した競技数は19で、それはアメリカの21にせまる

なかなかの成績だ。つまりトップは目の前にあるのである。願わくばそこを目指しても

らいたいものだと思う。

ここまで書いたところで、大谷が翌日のゲームで先頭打者ホームランというニュース

を知った。

機嫌を直してパラリンピックでも見るとしよう。

                         2021.8.27