樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

東京五輪総括(J-74)

異例ずくめの東京五輪が17日間の日程を終え8日閉幕した。

その時を待っていたかのような台風襲来であるが、何はともあれ、無事に終了できたこ

とを喜びたい。

9日の毎日新聞は、“異形の五輪閉幕”と題してコロナ禍の強行開催に批判的な論調を崩さ

ず、連日の日本のメダル獲得に同日の感染者数と暗いニュースを併記して“パラレルワ

ールド”と表現した。聞くところでは朝日もそれ以上に五輪には冷たかったようだ。

確かに滞りなくとは言い難いが、大過なく終えられたことには、開催国としてもう少し

胸を張ってもいいのではないかと思うのだがいかがであろうか。

仕事も予定もない後期高齢者には誠に有難い自国開催で、連日5~6時間のテレビ観戦に

明け暮れたわけだが、この際色々感じたことを振り返ってみたい。

 

日本人選手の成績全般

日本はこの大会で、金27、銀14、銅17、合計58個のメダルを獲得した。

言うまでもなく歴代最高の成績である。

金27は米国39中国38に次ぐ堂々の第3位で、トータル58は前回東京(1964)の丁度2倍

に当たる数字だが、その上にはROC(71) と英(65)がいるので全体の5位となる。

私のメダル予想は7.4の当ブログで述べた通り、金27・銀24・銅26、計77だったので

金は予想と一致したわけだが、私の予想の中にはテニスの大坂やバドミントンの桃田な

どが含まれていたのでピタリと当たったわけではない。そして、トータルではかなり期

待を下回るやや残念な結果となった。

各国のメダル数を眺めてみると、金よりも銀・銅の数が多い国がほとんどである。メダ

ル数10個以上の国で、金が銀・銅よりも多い国は、日本の外には中国とキューバの2国

しかない。そこには「金」偏重のお国事情があるとみるべきで、健全なスポーツ育成の

思想とは言えないようにも思う。

見方によっては大躍進、見方によっては少々残念な成績ともいえる今回の結果をもたら

した要因は何処にあるのだろうか。

それを端的に表現すれば、“女子の躍進と男子の停滞”の原因を探ることになるのかもし

れない。

前回東京で獲得したメダル数27個中、女子が獲得したのはバレーボール(1位)と体操

団体(3位)のわずか2個に過ぎなかった。それが今回は女子が30で男子の25を大きく上

回る。(残りの3は混合)つまり、女子が15倍になる一方で、男子は前回東京を上回る

ことさえできていない。新種目を除外すればその凋落ぶりは明白で、お家芸と言われた

競泳や階級別の種目(レスリング、ボクシング、重量挙げ)等で男子は好成績を収める

ことができなくなっている。この傾向はおそらく今後も続くだろう。

 

天晴な競技

・予想以上の活躍を見せてくれたのは柔道とレスリングである。この二つで金27個中の

過半数を占める金14個を獲得したのだから”大天晴“としか言いようがない。逆にこの二

つがなかったらお寒い限りだ。階級制の格闘技における女子頼みは強まるばかりで、吉

田、伊調という絶対女王が引退した女子レスリングは最軽量級の須崎以外は苦戦を強い

られながらも金4を獲得した。

・女子は球技などでも将来への期待を抱かせる存在となっている。その象徴がバスケッ

トである。競技が始まるまでは、むしろNBAの八村塁、渡辺雄太を擁する男子チームが

注目と期待を集めていたのだが、現実は厳しく見せ場もなく敗退した。逆に女子チーム

はランキング上位を次々に破り決勝まで勝ち上がった。かつての女子サッカーなでしこ

ジャパンを彷彿させる日本らしいチームワークの完成度が高かった。

・世代交代ですっかり若返った体操も良く健闘し金2、銀1、銅2を獲得した。団体は惜

しくも2位となったが、個人総合では橋本大輝が最後の鉄棒で見事逆転優勝を成し遂

げ、王者内村の後を継いだ。また、村上茉愛が得意の床で女子個人初のメダルを獲得し

将来への期待を抱かせた。体操は通算獲得メダル数を103として1位の座を守った。

・卓球は新設された混合ダブルスで水谷・伊藤ペアが中国ペアを破り中国の鉄壁の牙城

に穴をあけた。伊藤はこの金に加え、団体の銀・個人の銅と3種のメダルを全てそろえ

る活躍を見せた。

・新種目及び復活種目の空手・スケートボード・スポーツクライミング・サーフィン・

野球/ソフトボールの全てで日本選手は好成績を収めた。これらの種目が定着するかど

うかは微妙であり、今後も日本のメダル獲得源になるかどうかはわからない。また今後

も競技種目として残されたとしても、戦いは厳しいものになるだろう。

 

喝!と言いたい競技

・期待を大きく裏切った種目の筆頭はバドミントンだ。五つの競技すべてがメダル圏内

という評判があり、私の予想 金2・銀1も“控えめ”のつもりであったのだが、結果は銅

1の惨敗に終わった。ケガや対外試合の制約など同情すべき事情はあったにせよ反省は

必要だと思う。

・競泳は体操・柔道に次いでメダルを獲得してきた日本の得意な種目であり、今回も期

待値は高かったのだが、個人メドレー大橋悠依の金2が光るのみで全体としては期待

に応えることができなかった。世界との差が拡大しているような感がある。

・陸上はこれまでに25個のメダルを獲得している。今回は男子競歩20kの銀・銅2個に終

わり、注目の男子4×100リレーは、それが強みのバトンリレーで失敗し失格となった。

陸上競技は明らかに黒人の資質的優位があるようで、先進諸国も黒人選手のパフォーマ

ンス頼みとなっている。日本もやがてそうなりそうだが、それにどうこう言うつもりは

ない。むしろ自然の成り行きである。

 

五輪の今後

五輪はひたすら巨大化の方向に進み今や限界に達しつつあるように見える。

 200以上の国と地域が参加し、33種目339の競技を行い、総数にして1080のメダルを競

いあうという規模はすでに限界を超えているようにも見える。

これを開催できる都市はそう多くはないだろうし、観戦する側にしても、あまりにも多

すぎて観たい競技が見られないという状況が生まれている。もはや誰もが改善の必要性

を認める状況にあり、早晩その議論が始まるのではないかと思う。

改善の方法は二つある。

一つは競技種目の削減だ。対象となる競技は五輪が最高の舞台とは言えない競技であ

る。例えばサッカー、野球、テニス、ゴルフ、バスケット、ボクシングのような競技で

ある。これらはプロとしての最高の舞台が他にある。ゆえに、選手も周囲も五輪を優先

せず、最高のメンバーが五輪に参加していない。

もう一つの削減対象は競技人口の寡少と時代適応性である。やり投ハンマー投げ

円盤投げと言った投擲競技や射撃と言った種目がこれにあたる。

二つ目としては、競技種目の2分割と2年毎の開催である。例えば2年毎に半分の種目を

実施する。陸上や競泳などは毎回実施するとしても競技は半分にする。そうすることで

開催都市への負荷も約半分になり、立候補する都市も増えることが期待できるし、選手

の方も調整がしやすくなるはずだ。

五輪はもはやアマチュアリズムへの回帰は不可能であり、商業化の流れも抑えられない

だろう。しかし、このまま肥大化を続ければ誰も手を上げるものはいなくなるだろう。

生き残るためには変わらねばならない。

                         2021.8.10