思いのほか高い支持を得てスタートした菅内閣でしたが、その後は調査するたびに支持率が下がり、ようやくこの2月になって少し盛り返しました。
支持率を下げた原因には、コロナ対策の不手際などがあげられていますが、どうもそればかりではないようにも思われます。それは、当初から言われていたことなのですが、 “ヴィジョンがない” “国家観がない” ”発信力が弱い“といった物足りなさ、いわば根本的な不満があるからではないでしょうか。だとすれば、今後も発足時の63%に回復するのは夢物語で、40%台が関の山といったところかもしれません。
菅総理は就任時、“安倍内閣の政策を継承する”と表明しました。
ならば、安倍さんは日本をどんな国にしたいと考えていたのでしょうか。
安倍さんは、就任直前に著した自著に「美しい国へ」という表題をつけました。
しかし残念ながら、美しい国の要件について、具体的に示されたものはありません。
もっとも、それを示していたならば、日本を悪く言うことに生きがいを求める人たち
を中心に、大騒ぎになっていたことでしょう。
それを見越しての”美しい国へ“なのでしょうが、厳しい見方をすれば、それは、
”ずるいスローガン“ でもあります。反論のしようがなく、結果に対する評価も
難しいからです。
どんな国でも、その国民は、自分の国を「いい国」にしたいと願っています。
政治家ならなおのこと、その思いは強いに違いありません。
ではこれまで、日本の政党や政治家たちはどのようなスローガンを掲げてきたので
しょうか。
思い出してみると、意外にも国家観やヴィジョンを示すものは少ないのです。
最も分かりやすいスローガンは、「所得倍増計画」(池田内閣)ですが、記憶に新しい
民主党の「コンクリートから人へ」と同じく、国家観を示すものではありません。
これは偏見かも知れませんが、どうも日本では国家的スローガンが忌避されているよう
な気がします。かつての「富国強兵」や「大東亜共栄圏構想」などに、必要以上に
イメージを重ねているのではないでしょうか。
ずいぶん前の話になりますが、いわゆる55年体制が崩壊した1990年代、非自民・非共産
8党派による連合政権が誕生したときのメンバーに「新党さきがけ」という政党があり
ました。
この政党が掲げたスローガン-「質実国家」(小さくてもキラリと光る国)-は、
一つの国家観を示すものとして珍しい例で、その思想は、言論界や教育界などに根強く
生き続けているようにも思います。
しかし残念ながら、この考え方は明らかに間違っています。それが成立するのはスイス
やシンガポールのような国であり、日本は世界から見れば、決して”小さくない“国
なのです。
さて、「いい国」とは一体どんな国なのでしょうか。日本は何処を目指すべきなので
しょうか。
一つの尺度として、国民が幸福であるかどうかという考えが在ります。
そして都合のいいことに、2012年から、国連のSDSN(持続可能な開発ソリューション
ネットワーク)という機関が毎年「世界幸福度報告」を発表しています。
3月20日は「国際幸福デー」に指定されていて、そのころになると毎年「世界幸福度
ランキング」が話題になります。
ところが、信じがたいことに、日本のランキングは初回の40位が最高で、以降ランクを
下げ続け、2020年には韓国の下に並んで62位まで下がってしまいました。勿論、先進国
中では最下位というポジションです。
一体、この調査はどのように行われているのでしょうか。調べてみると、大いに問題が
あることが分かります。
調査対象としては、・一人当たりGDP ・健康寿命 ・社会保障制度 ・人生の自由度
・他者への寛容さ ・国への信頼度 ・主観満足度
といった項目なのですが、項目はともかく問題はその調査方法にあります。
最初の二つは客観的な数字で問題はありません。しかし、あとの項目は次のような質問
に対してキャントリルラダー方式(最悪を0最良を10としたときあなたはどの位置に居
ますか?)で回答させたものなのです。
<質問>
・困ったときに助けてくれる親せきや友人はいますか?(社会保障制度)
・人生で何をするか自分の意思で決められますか?(自由度)
・過去一か月に慈善団体に寄付したことが在りますか?(寛容さ)
・政府、企業内に腐敗が蔓延していますか(国への信頼度)
・あなたは今満足ですか(主観満足度)
日本はこれらの項目の中で、寛容さと主観満足度が極端に低いという特徴があります。
その説明は後で述べますが、そもそもの問題は、幸福度という極めて主観的な問題を数
値化しようとするところに無理があるのではないかと思います。
項目的にはよく似た調査で、イギリスのシンクタンクが発表している「レガタム繁栄指
数」というのがあります。
こちらのランキングでは、総合点で20位前後というのが日本の定位置で、そのあたりが
概ね妥当な日本の立ち位置なのかもしれませんが、経済に重点が偏っているようにも見
えます。
ところが、アメリカのUSニューズ&ワールドが発表している「最高の国ランキング」
になると日本の評価はガラリと違ってきます。
このランキングで不動の1位はスイスなのですが、毎年2位争いを繰り広げているのは、
日本とカナダ、ドイツの3国なのです。
そして、ランキングの順位以上に注目すべきは、次のコメントです。
“日本人自身は自国を低く評価している。日本国民はその他の世界の人々よりもずっと
ネガティブに悲観的に自国を捉えている。日本以外の国はほとんど他国民よりも自分た
ちをポジティブに見ている。(中略)自信がない国民は自国の悪い面を伝える「逆PR」
をしかねない“
このコメントこそが、最初に取り上げた「幸福度ランキング」の「?」を解消させてく
れるものであり、また日本の悪口を言いたい人たちが好んで「幸福度ランキング」を取
り上げる訳を納得させてくれるものだと思います。
実は、私が最も注目するのは、昨年の暮れ(2020.12.10)に発表された「理想の移住
先」ランキングです。これは米国のレミトリー社が、世界101の国と地域で行われた
グーグル検索を分析したもので、従来の調査手法とは全く異なるものです。データ数
などの詳細が分からないので、その信ぴょう性に疑問があるかもしれませんが、評価
対象に魅力があります。つまり外国人が「移住したくなる国」というのは、その一点
だけで「いい国度」を表していると思うからです。
このランキングで断トツの1位を占めたのはカナダですが、2位には何と日本がランク
されています。一般的に、言語的・距離的に近い国が好まれる傾向がある中で、日本
が2位に居るのはなかなかではありませんか。それにもう一つ付け加えると、断トツの
1位となったカナダ人が選んだ移住先は日本なのです。
私は、日本の国づくりを考えるとき、目標と成果が定量的に認識できる(数値的に把握
できる)ものがあった方がいいのではないかと思っています。
例えば、次のような項目を総務省あたりがデータ化して、ホームページ上に載せたら
どうでしょう。
・世界の人が移住したいと思う国(さらに信頼できる調査が必要)
・健康長寿国
・国際的な賞を数多く受賞する国
それらの中には、安全で、差別がなく、快適な暮らしができ、誇りが持てる といった
「いい国」を客観的に評価できるすべての要素が含まれています。
つまり「いい国の証明」です。そしてそれが国全体の活力になような気がします。
何のためにかと言えば、勿論それは 日本を継続するためです。
で、私が思う日本の現在位置は、”悪くない” ”まあまあ”といったところでしょうか。
2021.2.15