2020.10.24、ホンジュラスが新たに加わり、核兵器禁止条約を批准した国が
50か国に達した。規定により、90日後の来年1月22日にこの条約が発効する
ことを国連が発表した。
26日、日本の主要メディア(特に新聞)は、このニュースを大きくとらえ、一斉に
報じた。例えば毎日新聞では、
1面トップに続き、2,3面に特集記事、6面に条約要旨、20,21面に関連記事を
掲載するという、“これ以上はない”と言わんばかりの扱いである。
ところが世界では、“これ以下はない”程度の小さなニュースでしかなかったようだ。
この違いはどこから生じているのだろうか。日本のメディアは、この問題を正しく
伝えているのだろうか。いささか気になったので少々調べてみることにした。
毎日新聞はこのように伝えている。
“核兵器を非人道兵器とする国際規範が誕生することで核軍縮を迫る圧力になること
が期待される・・・・。条約は2017年7月、国連加盟の6割を超える122か国・地域
の賛成多数で採択された。・・・“
この記事、全くのウソというわけではないが、アンダーラインの部分などは、誤解を
与えるおそれが十分にある。
まずは、この問題における国連の経緯を振り返ってみよう。
始まりは2011年。国連総会の第1委員会(軍縮・安全保障)が採択した52の決議の
中に「核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議」があり、127か国の賛成により採択される。
それから5年後の2016年10月、その交渉を翌年から開始することを決議し、そして
2017年7月7日、新聞記事にあるごとく122か国の賛成によりこの条約が採択され、
そこから3年3か月の時を経てようやく批准国が50に達したというわけだ。
問題はその中味である。122か国が賛成したとあるが、その他には反対1(オランダ)
棄権1(シンガポール)の2か国しかない。つまり、核保有国のすべて、NATO諸国、
MNNA(Major non-NATO ally, 非NATO主要国同盟=日本、韓国、豪州など)
といった主要国のほとんどは不参加なのである。
実は賛成122と言っても署名したのは84か国で、今後批准国が増えるとしても、
せいぜい残りの34か国程度しか見込めないというのが実態だ。
批准国の50か国は、欧州の小国5(合わせて1200万人程度)、アフリカ6、中東1、
アジア7、あとは中南米21、南太平洋10の島国が主体だ。
批准はまだだが署名はしているという残りの34か国にしても、大国はブラジル、
インドネシアくらいで、はっきり言って、
これらの国のほぼすべてが、そもそも核兵器など持ちようがない国々であり、直接
核攻撃を受ける心配もゼロに近い国々なのだ。
この条約発効が、“核軍縮を迫る圧力”になりうるかどうか、はなはだ疑問であると
言わざるを得ない。
勿論、核兵器など存在しないに越したことはない。然し皮肉なことに、これほど
抑止効果のある武器もない。究極の自衛手段といっても過言ではないのだ。
核を保有する国やその同盟国が、堂々と反対票を投じたオランダを除き、挙って
”不参加“という手段を講じたのはそのためだ。
現実的に、第3次世界大戦を防いでいるのは「核兵器」であり、持病のごとく
繰り返された印パ戦争を鎮めたのも「核」である。また、小さくてもイスラエルや
北朝鮮が独立国としての「拒否権」を行使できるのも「核」の力に他ならない。
言うまでもなく、日本は唯一の被爆国である。その非人道性、悲惨さを最も分かって
いるのは日本人だ。しかし、広島の原爆ドームや被爆者たちの声を通じて、世界に
核廃絶を訴える活動は果たして効果を上げられるものだろうか。
核の恐ろしさを知れば知るほど、そのような目に合わないためには、やはり自身で
「核」を持つ必要があると思わせるという逆の宣伝になっているのではないだろうか。
今年批准国が50に達した背景には、2017年のノーベル平和賞を受賞したICANの活動
があるようだが、この団体も楽なところで”お茶を濁している“ような感じを受ける。
北朝鮮が、過酷な制裁に耐えてなお、核を捨てない事実を理解しなければならない。
核を放棄させる力は、外からではなく、内からの圧力であり、覚悟なのである。
2020.10.30