6月30日、中国全人代は、香港での反体制活動などを禁じる
「国家安全維持法」を可決し、早くも翌日には多数の活動家
が逮捕されるという事態となった。
この法律、以前から、香港の法律として制定しようと画策していた
案件なのだが、2003年の「国家安全条例」、2019年の「逃亡犯条例」と、
いずれも香港市民の激しいデモにあってやむなく断念してきたものだ。
それが「コロナ対策」という、またとないチャンスを得てデモを封じ、
ついに悲願を実現させたのである。
実際には、香港のコロナ感染はほとんど広がってはいないので、
コロナを理由とする「デモ禁止」は不当である。
市民が騒がなかったのは、
「この法が過去の活動に適用されることはない」
と事前に宣伝されたことで、いちはやく
リーダー格の活動家たちが脱退を表明したからであろう。
当然ながら、自由諸国は挙ってこの中国の措置に反発した。
しかし、そのスタンスは、国によって微妙に異なる。
「制裁だ!」と拳を振り上げているのはアメリカだけで、
EUは口先だけ。日本の遺憾表明にも迫力がない。
それはある意味、中国の存在感を物語っている。
さて、そもそもこの法律、どういう行為を対象としているのだろうか。
報道によれば、次の4つが挙げられているようだ。
- 国家を分裂させる行為
- 政権を転覆させる行為
- テロ行為
- 外国勢力と結託して国家に危害を加える行為
いずれも「スパイ防止法」を持つ国なら書いていそうな文言である。
つまり、「あなた方の国も同じでは?」といわれたら、
「ことばは同じでも中身が違う」くらいの反論しかできないだろう。
もし、言論などの人権侵害を指摘するなら、
香港の前に、新疆ウィグルやチベットを取り上げねばなるまい。
イギリスだけは、1997年の返還(主権移譲)の際に交わした
「一国二制度」・「港人治港」(香港人が香港を治める)の約束違反
だと責めることもできなくはない。しかし、もともと無茶苦茶な
「阿片戦争」をしかけて香港を植民地にしたのが始まりだから、
あまり偉そうなことは言えない。
お隣の「文」さんなら“アヘン戦争が違法だから「南京条約」は無効”
と言いそうなところを、“香港の基本法18条-香港が制御不能な場合
は本土の法律を適用する―の適用をなるべく避けるための立法措置で、
「一国二制度」を終わらせるものではない“
と、まあ一応の理屈を述べるあたりは、練りに練った作戦なのであろう。
そもそも、数で言えば中国の措置を支持する国の方が多いのである。
何と言われようが、香港は中国の一部であり、あと27年もすれば
自動的に香港の自治は終了するのだから、中国にしてみればことを急ぐ
必要はない。ただ、「独立」だの「民主化」だのといった主張が、
国内に拡大したり、外国に利用されたりすることが困るのである。
中国は天安門事件という苦い経験を経て、用意周到に事を運んでいる。
香港の人々には気の毒だが、どうしようもない。
何かをすればそれは内政干渉となる。
実は香港と日本の関係は極めて深く、彼らは日本が大好きである。
在留日本企業は1,400社以上、25,000人以上の日本人が滞在している。
日本の農水産物輸出先としては第一位であり、2019年の訪日旅行者数は
約229万人で中・韓・台に次ぐ4番目だ。リピーターも多く、
人口比で言えば断トツの一位ということになるだろう。
香港は、中国にとって、現状のままでこそ利用価値が高い。
いきなり本土化を進めることはなさそうだが、香港市民の国外脱出が
増えるかもしれない。
いずれにせよ、香港の今の繁栄が続くとは予想しがたい。
2020.07.09