樗木(ちょぼく)の遺言と爺怪説

愛国的好奇高齢者の遺言と違和感をエッセイ風に・・・

たかがランキングされどランキング(J-126)

“4年に一度世界が熱狂する”と言えばかつてはオリンピックしかなかったが、近年はこれ

に替えて「FIFAワールドカップ」を挙げる人が多いかもしれない。そこまでではないと

しても、勢いの差は歴然としている。サッカー人気の秘密はどこにあるのだろうか。

第一に挙げられるのはその手軽さである。ボール一つとある程度の広場があれば20人以

上が参加できて、設備や用具による制約は少ない。ルールもシンプルである。一人で練

習することも可能だ。

第2にスリリングな展開がある。得点を競うスポーツの中では最も点が入りにくい競技

なのに、最も遠いところから10秒前後で得点が入ることもある。だから観ている方は目

が離せない。プレーの激しさから高齢者などには無理なところもあるので、競技人口は

バレーボールや卓球よりも少ないようだが、ファンの数では断トツの一位である。

第3には夢があることだろう。世界には300ほどのプロリーグがあるらしいが、欧州や南

米を中心とする一流選手の名声と報酬は、間違いなく夢を与えている。

第4に、これは偏見かも知れないが大国の不振がある。

オリンピックなどでメダル争いを演じる大国が、サッカーとなると揃いもそろって

あまりパッとしないという皮肉な現実である。

アメリカはようやくランキングを16位まで上げてきたが、ロシアは33位、中国に至って

は79位でコートジボワールやマリなど西アフリカの国々よりも低位に甘んじている。

それが何となく”心地よい“のである。

 

さて、今回のカタール大会は、1930年の第1回から数えて22回目のWCとなる。

出場チーム数は1978までは16で、1982年から24となり、1998年からは32に増えた。

日本の初出場は、その32に増えたフランス大会で、それ以降7連続出場となっている。

カタール大会は、いろいろ話題の多い大会となったが、その一つに“番狂わせの連発”

が挙げられる。“番狂わせ”とは、大きなランキング差のある下位チームが上位チームに

勝利することだ。それを演じたのはアジア・アフリカの代表チームで、日本のGS

(グループ・ステージ)における対ドイツおよび対スペイン戦の勝利は”奇跡“とまで言

われた。実は最大の番狂わせは開幕早々にアルゼンチンを破ったサウジアラビアで、こ

の他にもデンマークに勝ったオーストラリア、ベルギーを始め次々に格上を倒して、ベ

スト4まで進んだモロッコがいる。ブラジルに勝ったカメルーンポルトガルを破った

韓国も”番狂わせ”には違いがないが、この二つは相手が既にGS突破を決めた後の試合だ

ったので少々評価は下がるらしい。

いずれにせよ、あまりに”番狂わせ“だの”奇跡“だのと騒ぐものだから”ランキングがなん

ぼのもんじゃい“と言いたくもなる。これは性格だから仕方がない。

 

そもそもランキングは何のためにあるのか、と言えばそれは出場資格と組み合わせのた

めである。しかし、その重みは競技によって異なる。例えばゴルフだとランキング1位

の選手が予選落ちして50位の選手が優勝しても誰も番狂わせとは言わないし、テニスや

卓球で20位が1位に勝てばかなりの番狂わせとなる。サッカーはその中間程度といった

ところだが、実はランキング算出方法は競技によって大きく違っている。

最も明快なのはテニスで、直近52週間における上位18大会の合計ポイントでランキング

される。ランキング上位者は組み合わせを始め多くの優遇措置を受けられるが、1年間

試合をしなければポイントをすべて失うことになる厳しさもある。

逆にサッカーは最も複雑で、次のごとく不公平に見える部分もある。

<サッカーランキングの算出法>

サッカーのランキングは、過去48か月の国際Aマッチの成績を基にポイント化したもの

で、1993年から発表されている。算出法は次の通りである。

(A)勝ち点、 勝利:3点 (PKは2点)

(B) 試合の重要度 

   1.0 親善試合

   2.5 大陸選手権の予選、FIFAWC予選

   3.0 大陸選手権の本選、FIFAコンフェデレーションズカップ

   4.0 FIFAWC本大会

   *大陸選手権とは欧州選手権AFCアジアカップなど6つの大会

(C) 対戦国の強さ

    FIFAランキングが適用される

    1位:2.0

    2位以下は200-相手国のFIFAランキング/100の値

    (ドイツの例;200-11/100=1.8)

    150位以下は0.50

(D) 大陸連盟間の強さ

    対戦国が所属する大陸連盟ごとに以下の定数を割り当てる

    欧州:1.0、南米:0.98、 その他:0.85

    対戦2国の定数合計/2=Dとする。

    (要するに欧州以外のチームはポイントを割り引く)

以上の値を基に次の式により国際Aマッチにおけるポイントを計算する。

 (A)×(B)×(C)×(D)×100=暫定ポイント

次いで

 (1)48か月を12か月ごとの4つに区分する

 (2)直近の12か月毎に暫定ポイントを合算し試合数で割って平均を出す。

    但し5試合以下の場合は5で割る。

 (3)得られた4つの平均値に対し、直近の12か月から順に1.0、0.5、0.3、0.2

    をかけた値を合計する。これがランキングポイントとなる。

    (つまり、4年間の成績を対象としているが、古い成績ほど割り引かれるとい 

     う仕組みだ。)

このランキング算出法からわかるように、アジア、アフリカのチームはなかなかランキ

ングが上がりにくい仕組みになっている。だから本当はそれほどの番狂わせではなく、

ましてや”奇跡“と呼ぶのは勝ったチームに失礼なのかもしれないのである。

日本は7回連続出場を果たし、そのうち4回はGSを突破してベスト16に進んだ。

2002年の日韓大会は首位通過したがトルコに敗れた。そのトルコは3位になった。

2010年の南アフリカ大会では、パラグアイと引き分けたがPK戦で敗れベスト8には進め

なかった。

惜しかったのは2018年のロシア大会である。日本はベスト8をかけてベルギーと対戦

し、後半早々2点を先取したが69分、74分と立て続けに失点し同点のままアディショナ

ルタイムに入った。だれもが延長かと思った終了間際、日本のコーナーキックを敵キー

パーがキャッチするやあっという間のカウンター攻撃でゴールを決められてしまうので

ある。これは今も「ロストフの14秒」と呼ばれる苦い記憶として刻まれている。この時

もベルギーは3位となった。そして今回、”死の組“とも呼ばれたGSを首位で突破して、

”今度こそ新しい景色を“という願いを込めてクロアチアと対戦したのである。しかし、

またもやPK戦で敗れベスト8の壁に跳ね返されてしまった。先に進むにはどうやらPKの

壁も破る必要がありそうだ。

しかし、あと一息のところにきていることは間違いない。今回、ドイツとスペインに勝

ったことでランキングの方もかなり上昇するだろう。

次回の2026年はアメリカ、カナダ、メキシコ合同の大会となり、出場枠も48と大幅に

増加する予定である。アジア予選は間違いなく突破するはずなので、今度こそベスト8

以上を期待したい。しかしながら、今大会の3位決定戦と決勝戦は、ベスト8の先には

さらに高い壁があることをを想像させるものでもあった。やはりランキング上位同士の

ガチンコ勝負はレベルの高さを見せつける内容であった。それは同時にランキングの重

みを実感させるものでもあった。

WCの優勝チームは欧州か南米かそのどちらかに限られてきた。しかし、いずれそれ以

外の地域にも優勝のチャンスが巡ってくるだろう。そして最初にチャンスをつかむの

は、アメリカかアフリカのチームになりそうだ。アメリカはタレントが集まる国であ

り、アフリカはタレントが他のスポーツに分散しないからである。日本にもチャンスは

あるとは思うが、ランキングが12位程度まで上がらないと頂点は難しいような気がして

いる。                   2022.12.22

 

 

 

「救済新法」はメディアのミスリードだ(J-125)

12月10日、土曜日にもかかわらず参院本会議が開かれ、異例のスピードで新たな法律が

誕生した。「法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律」である。

しかし、この名を聞いて「あれ?」と思った人もかなりいるのではないだろうか。

これまで大手メディアは、一貫して「旧統一教会被害者救済法」(略称:救済新法)と

呼称してきたからである。(驚いたことにこの法律が成立した後もそう呼んでいる)

この法律に「統一教会」の名は出てこないし、その目的は「救済」ではなく「防止」で

あって、過去に生じた被害を救済することには全く役に立たない。

だから、略称とするなら、「救済新法」ではなく「不当寄附勧誘防止法」とか「悪質

な寄附勧誘防止法」などと呼ぶべき法律だ。

一連の報道は、明らかなミスリードと言わざるを得ない。

メディアのミスリードは珍しいことではない。しかし、こうも足並みをそろえられると

その意図を勘繰りたくもなる。が、それは後回しにして、とりあえず新法の中身をみて

みよう。

 

条文は6章18条と附則から成り、第1条と附則にこの法律の目的が述べられている。

第1条:この法律は、法人等による不当な寄附の勧誘を行う法人等に対する行政上

の措置等を定めることにより、消費者契約法とあいまって、法人等からの寄附の勧誘

を受ける者の保護を図ることを目的とする。

法律の文章は概して読みづらいが、簡単に言えば、“悪質な寄附勧誘から国民を保護す

る”ことを目的とした新法である。アンダーラインを付けた部分を説明すると、

法人等とは、“法人又は法人でない社団若しくは財団で代表者若しくは管理人の定めが

あるもの”とされているので、平たく言えば会社や学校、慈善団体などありとあらゆる

組織団体に広く適用されるということになる。だから、公益法人協会からは健全な発展

を阻害する恐れがあるとして懸念が示されてもいる。宗教法人だけを取り上げても、日

本には18万を超える宗教法人があり、それらのすべてがこの法律の対象なのであって、

統一教会がきっかけとなったのは確かだが、それのみをターゲットとしているわけで

はない。

では、不当な勧誘とは何か。それは禁止行為として第2章(4,5条)に示されている。

それらを分かり易く表現すれば第4条の、

1.帰れと言っても応じない 2.帰りたいと言っても帰さない。 3.帰りにくい場

所に連れ込む。 4.誰かに相談しようとするとそれを妨害する。 5.色仕掛け

 6.霊感等によるお告げ  の6種行為と、

第5条の 借り入れや資産の処分による寄付を要求すること 

が不当な勧誘に当たるとしている。

そして、これらの禁止行為に違反した場合の行政措置を示したものがだい6,7条であ

る。

第6条では法人等に施行に必要な限度で報告を求めることができるとし、第7条は違反行

為が継続する恐れが著しい場合には必要な措置を取るよう勧告し、これに応じない場合

は命令してその旨を公表するとしている。

さらに、第16~18条に罰則規定を設け、虚偽報告に対しては、50万円以下の罰金、命令

違反には1年以下の拘禁若しくは100万円以下の罰金を科すとしている。

ここまでは悪質な寄附勧誘の防止に関する条文であり、被害者救済に関することは第8

~10条にある。

8条は寄附の意思表示の取り消し、9条は取消権の行使期間の規定であり、クーリングオ

フに似た制度である。第10条は「債権者代位権の行使に関する特例」というもので、簡

単に言えば、子供や配偶者が寄付した本人に代わって養育費や生活費などを将来分も含

めて返還請求できるとする規定である。

しかしながら、これらの救済措置の実効性については疑問視する向きも多い。

そもそも、寄付者本人は自分を被害者と認識していないケースが多く、「信教の自由」

という大義の下どこまで踏み込めるものか、またそれが親子・夫婦等の関係に良い結果

をもたらすのかどうか、却って心配な部分もある。

こうして条文を辿ってみればわかるように、この法律が旧統一教会の被害者の救済に有

効でないことは明らかである。そもそも、法は原則として不遡及であり、法の成立以前

の事項には適用できない。今後の被害拡大を防止できるかどうかの話なのである。

そこで最初に戻るのだが、この新法が旧統一教会の被害者救済には全くと言っていい程

効果がないにもかかわらず、一貫して「旧統一教会被害者救済法」と呼称してきた大手

メディアの魂胆はどこにあるのだろうか。

それがどうもわからなくて、私にはこんなことくらいしか思いつかない。

一つには、政権へのダメージになることへの期待である。

この法律を「旧統一教会被害者救済法」として認識した人は、やがてそれが全く機能し

ないことに気づく、そして野党はいつまでも政府を批判する材料に出来る、つまり政権

へのダメージにつながる、ということ。

もう一つは、大手メディアが恐れる法人への配慮(忖度)である。

著名な言論人などが突然姿を消したときなどに、“あれは「D通」あるいは「S学会」の

逆鱗に触れたからだ”という噂が流れることが在る。「D通」は広告収入がらみで「S学

会」は抗議活動への恐れで腰が引けるというわけだ。日本の宗教法人は18万以上あると

前に書いたが、信者数ランキングの10位までに、いわゆる「新興宗教」が5つも入って

いる。これらの批判をした場合の抗議活動は耐え難いものとなるらしい。今なら統一教

会を叩いてもその心配はないというわけだ。

メディアと宗教団体は全く別物だが、似たところがある。それは、広くとらえれば、

人々をマインドコントロールすることでなりたっているということだ。世界の立派な教

会や寺院の多くは”寄進”によるものであり、朝日新聞があれほどの不祥事を重ねながら

も生き延びているのは、マインドコントロールされた岩盤支持層を持っているからであ

る。岩盤支持層を言い換えれば、“朝日新聞教”で、メディアと宗教はある種のライバル

関係にあるとこじつけられなくもない。

この法律の雑則(12条)には、“法律の運用に当たり、法人等の活動に寄付が果たす重

要性に留意し、信教の自由等に十分配慮しなければならない”という条項もあるので、

寄付者本人が取り消しや返還を求めていないケースでは、すんなり救済とはならない

感じが漂っていると言わざるを得ない。

つまるところこの法律の実効性は、11条がその通りに実施されるかどうかにかかってい

る。11条をかいつまんでいえば、次のような内容だ。

第11条:国は取消権や債権者代位権の適切な行使により被害回復を図ることができるよ

うにするため、法テラス(*)と関係機関関係団体等の連携強化による利用しやすい相

談体制の整備等、必要な支援に努めなければならない。

                (*)日本司法支援センタ―

この条文の通りに強力なバックのある相談体制が整えば、示談による円満解決の道が開

けるかもしれない。というより、それしかないのではないだろうか。

                         2022.12.13

 

 

 

 

世界の王室(その2)アジア編(Y-45)

前回の欧州編に続き、アジアの王室を見てみましょう。

アジアの君主国は、日本、タイ、カンボジアブータンブルネイ、マレーシアの6ヵ

国ですが、やはりそれぞれに悩みを抱えています。

先ずはホットなところでマレーシアから・・・。

 

マレーシア

マレーシアは日本と同じく立憲君主制ですが、国王は世襲ではなく、13州のうちの9州

のスルタン(首長)と4州の知事で構成される「統治者会議」によって互選されます。

実態は9年毎にめぐってくる輪番制で5年任期なので、厳密な意味での君主国ではないか

もしれません。スルタンは男系世襲のようですが詳細については情報がありません。

政治の実権は首相が握っていて、実はこのほど(11.19)総選挙が行われましたが、与党

が大敗を喫し、いずれの党も単独過半数を取ることができませんでした。したがって連

立政権をつくる必要が生じたわけですが、お互いにいがみ合ってまとまらず、ついに

アブドラ国王の登場となり、ようやく最多議席を獲得した「希望連盟」のアンワル氏が

首相となりました。

しかしながら、アンワル氏は汚職と同性愛行為で投獄された経歴もあり、今後の政権運

営を不安視する声も少なくありません。

マレーシアは先の大戦では一時日本の統治下におかれたこともあり、最も”迷惑をかけ

た“地域の一つですが、今は国民の80%以上が日本に好意を持つ最大の親日国でもあり

ます。

それには、1981年から22年間も首相を務めたマハティール氏が、”もし日本がなかった

らマレーシアのような国は植民地のままであったろう“と発言するなど、大の日本贔屓

であったことが影響していると思われます。マハティール氏は2018年、92歳にして再び

首相の座に返り咲きますが2年後に辞任し政界を引退しました。ところが、97歳にして

今回の選挙にまたも立候補し、そして落選しました。

マハティール氏の落選と長く政権を維持してきた与党の大敗が、マレーシアの今後にど

のような変化をもたらすのか、仮に現在の非同盟中立政策が崩れて中国の手に落ちれば

マラッカ海峡から南シナ海に至る重要な海域の自由が奪われる恐れもあり、大変気にな

るところですが、大手メディアはどこも関心を示していないような感じです。

今回の混乱収拾に国王が果たした役割は、立憲君主・議会制民主主義の体制からすれば

極めて異例のことのように思われますが、国王の存在感は格段に増したに違いありません。

 

ブルネイ

2020年10月22日に行われた「即位礼正殿の儀」において、一人の軍服姿の美青年が注目

を集め、”あの人は誰?“と話題になったことが在りました。やがてその人物が、ブルネ

イ29代ボルキア国王とともに来日したアブドゥル・マティーン王子(29)であること

が分かると、地図上のブルネイを確かめた人も多かったのではないでしょうか。

実はマティーン王子は、米誌「People」の人気企画「最もセクシーな男性」のロイヤル

メンバー部門においてアジア人唯一のランキング入りをした、知る人ぞ知る有名人だそ

うで、陸軍少尉にしてヘリコプターパイロット、スポーツ万能でペットは何とホワイト

タイガー、彼のインスタグラムのフォロワー数は234万人というのですから、いわゆる

インフルエンサーと呼ぶべき存在です。但し彼は第4王子なので、王位継承順位は第3

位(異母兄の一人が死亡)です。体型も風貌も日本人的な感じを受けますが、それは母

(第2王妃)に日本人の血が入っているからだそうです。

ブルネイは、面積は三重県ほど、人口約46万人の小さな国で、カリマンタン島の北部マ

レーシア領の中にあります。ブルネイ王朝は1363年から続いていますが、1961年成立の

マレーシア連邦に加わらずイギリスの保護国となることを選択し、1984年に独立を果た

しました。

豊富な地下資源の輸出先は主に日本で、日本との関係は良好です。

国家としての体制は「立憲君主国」ではありますが、国王は首相、外務大臣、国防大

を兼務していますので、実態としては独裁だろうと思います。しかし、国は豊かで、社

会保障も充実しており、国民の不満はないようです。この王室も当分安泰かと思われま

すが、懸念されるのは資源の枯渇と中国とマレーシアの関係でしょうか。

 

カンボジア

今年の9月22日、外務省は大臣談話として“クメール・ルージュ(KR)裁判の終結を発表

しました。この裁判は国連とカンボジア政府が協力して1970年代のKR(ポルポト政権)

が犯した人道に対する罪を裁くために2006年に設置された混合法廷で、日本はこの裁判

の支援において主導的な役割を果たし、それがようやく決着したという報告です。

私がそのことを知ったのはSNSなので、新聞・TVの報道は記憶にありません。

思えば、自衛隊PKOとして初めて海外派遣されたのがカンボジアでした。当時大反対

をしていた大手メディアには、何か言うべきことがありそうなものですが・・・・。

 

カンボジアは、人口の90%が同一民族で、立憲君主の二院制、農耕民族で仏教国、日本

とよく似ているので平穏な国だろうと思いたくなりますが、実態はその逆です。

クメール人の特性なのか、それとも地政学的な宿命なのか、いずれにせよ気の毒なのは

国民です。歴史を少し遡ってみましょう。

・1953 フランスの保護国から独立しカンボジア王国となる

・1970 反中・親米のロンノル派がシハヌーク王制を打倒しクメール共和国になるが、                          親中共産主義のクメール・ルージュとの内戦に発展

・1975 KRが勝利しポルポト政権が誕生、国名を民主カンプチアとし、大量の自国民を  虐殺する

・1979 ベトナム軍が侵攻しKRは敗走し親ベトナムヘン・サムリン政権によるカンプチア人民共和国樹立されるが、反政府3派連合【KR、シハヌーク(王党)、ソン・サン(共和)】との内戦が起きる

・1991 パリ和平協定、1992日本がPKO 派遣

・1993 UNTAC監視下で選挙が行われ王党派が勝利、シハヌークを初代国王とする立憲        君主制カンボジア王国となる

・1998 第2回国民議会選挙が行われフン・センが首相となる。(以降今日まで親中の

    フン・セン独裁が続いている)

・2004 シハヌークが引退し、実子のノロドム・シハモニが第2代国王となる

・2013年の国民議会選挙、2017年の地方選挙で野党救国党が躍進するが、その後党首は

  国家反逆罪で拘留され、同党は解散、幹部118名が5年間の政治活動禁止とされた。

  そして、2018年の選挙では与党人民党が全125席を独占した。

 

ざっと見れば以上の通りで、現在の安定がいつまでもつのか心配なところです。

国王は、王室評議会9名(首相、両院議長、両院副議長各2名、仏教宗派2つ)による秘

密投票で選出されるので、マレーシア同様厳密な意味での君主とは言えないかもしれま

せん。

 

ブータン

ブータンはネパールの東に位置する人口77万人の小さな国ですが、日本人にはよく知ら

れた国です。1907年に東部の豪族ウゲン・ワンチュクラマ僧や国民に押されて初代国

王になり現在は5代目となります。第4代国王が自ら主導して国王親政から議会制民主主

義を基本とする立憲君主制に移行し、第5代に引き継ぎました。

ブータンは非同盟中立政策をとり、国連安保常任理事国のいずれとも外交関係を結んで

いませんが、昭和天皇崩御に際しては国ぐるみで1か月の喪に服すほどの親日国で皇室

との交流もあり悠仁親王の初外国訪問はブータンとなりました。

ブータンの自然や気候は日本と似ているそうですが、1960年代からブータンで農業の改

善に尽くし、1992年この地で没すると外国人初の国葬で葬られ「ブータン農業の父」と

呼ばれている西岡京治という日本人がいます。

国王は国民から敬愛され王室としての悩みはなさそうですが、国としての最大の悩み

は、おそらく言語の問題であろうと思います。ゾンカ語が公用語とされていますが、こ

の言語では専門的な用語が表現できないのです。したがって政府の公式文書は英語であ

り、高度な学問や技術を自国語で学ぶことができません。

もう一つは、中国が時々越境行為をしてくることですが、これはインドの保護国的な関

係のブータンにちょっかいを出してインドの反応を見ているのかもしれません。

 

タイ

タイは東南アジアの中で唯一植民地にならなかったある意味誇りある君主国です。

しかし1932年の立憲革命以降、12度のクーデターと13度のクーデター失敗を繰り返して

きた政情不安定な国でもあります。この間憲法は18回も変わりました。2000年以降で見

ても、2001タクシン政権の成立、2006クーデターによりタクシン亡命、2011タクシン

の妹インラック政権成立、2014クーデターと目まぐるしく政変が起きています。それで

も観光地としての人気を保ち続けてきたのは、そこに安定した王室があり、混乱時には

いつも国王が沈静化に大きな役割を果たしてきたからではないでしょうか。

その”微笑みの国“が今大きく揺れています。そして、その震源地を探れば安定の要であ

るはずの現国王ラーマ10世(ワチラロンコン)に行き当たるのです。

ラーマ10世は、国民から崇敬された前国王ラーマ9世(プミポン)の唯一の王子で、父

王の崩御により、2016年王位を継承しましたが、若いころから王子にあるまじき奇行が

しばしば問題になっていました。そして、国民が抱いていた懸念は現実となってしまい

ました。

彼はこれまで3回離婚しています。最初の妃は母シリキット王妃の姪で1女がありま

す。2度目は元女優で4男1女を儲けましたが親子ともども国外追放され、王位継承権も

はく奪されています。3度目は元ナイトクラブのダンサー(ストリッパー?)で、愛犬

の誕生日を祝うパーティーTバックのパンティー一枚きりで登場したという情報があ

ります。まさかと思いましたが、証拠の動画をネット上で見ることができます。しかし

この王妃も王位継承権のある王子を残して離婚させられました。4度目の結婚相手は、

元タイ航空の客室乗務員から陸軍に入隊、2014年から王室警護部隊の副司令官となりわ

ずか6年で陸軍大将に昇格した人物で、2019年5月の戴冠式を前に結婚したスティダー現

王妃です。ところが7月にはシニーナートという陸軍の看護師に「高貴な配偶者」とい

う称号を与え、100年近くなかった側室に迎えました。彼女は3か月後に称号をはく奪さ

れ一旦姿を消しましたが、2020年8月に元に復帰しその後公務(?)に大活躍で王妃の

ライバル的存在になっています。

これまでのいきさつを眺めてみると、2014年のクーデターの後首相に就任したプラユッ

ト元陸軍司令官の関与が強く疑われます。

野党は、プラユット首相が今年で憲法に定める首相任期制限8年に達したとして提訴し

ましたが、最高裁はその起点を現憲法が発効した2017年とすべきであるという判決を下

したので、彼の任期は2025年までということになりました。

新国王は、2017年の新憲法草案に修正を加えることを要求し、国王は摂政を置くことな

しに外遊できるとしてドイツの別荘で暮らすことが多く、真偽のほどは分かりません

が、女官(愛人)20人と側近数百人を連れドイツの高級ホテルに“新型コロナ避難”をし

たという情報もどうやら事実のようです。

さすがにタイ国民も我慢できず、2020年あたりから政権批判に加えて王室改革を要求す

るデモなどが頻発するようになり、国王も帰国して王室行事や新型コロナに苦しむ国民

を励ます姿をアピールしましたが、まもなくドイツの別荘に戻ってしまいました。

一連の経緯は、王室とプラユット政権の強い結びつきを明白に示しています。

あからさまに言えば、プラユット政権は新国王を担ぎやすい”神輿“に仕立て、政権批判

が王室に向かうように誘導し、「不敬罪」を最大に適用して反対派を封じ込める策をと

っているようにさえ見えるのです。

プラユット首相が、ロシアや中国に倣って権力の集中と任期の延長を企図しているとす

れば、国民の不満はますます膨らんでゆくでしょう。その政権に王室がぺったりのまま

次の政変が起きたならば、それは王室をも危機に陥れるかもしれません。

勿論、その前にラーマ10世の退位が早められることも十分考えられます。

 

日本

最後に控えているのは日本の皇室ですが、実はこのブログで「皇統について思うこと」

(1)(2)として2020年11月に早々に取り上げています。今回の「世界の王室」は、

いわばその補足版で、いかに日本の皇室が貴重な存在であるかを言うための付録のよう

なものです。

世界の君主国は、欧州・アジアの他にも中東に7国(UAEを各首長国に分割すれば13),

アフリカに3国、それに英国王を君主とする国の15か国や都市国家を加え、さらに連邦

国家を分割して最大にカウントすれば合計52か国に上ります。今現在存在感を示してい

るのは、中東のアラブ諸国ですが、これらの国の経済は石油・天然ガス資源と外国人労

働者で支えられています。しかしそれがいつまで続くのでしょうか。2010年~2012年に

かけてアラブ世界に吹き荒れた大規模な反政府デモ、いわゆるアラブの春は大量の避難

民と過激派組織を残して”尻切れトンボ“に終わりましたが、火種は残っていいます。

1952年、エジプト革命で王位を追われたファルーク国王はこの時、“何年か後には王と

いう存在は世界に5人しか残っていないだろう、トランプのキング4人とイギリス女王

だ”という言葉を残して、“嬉々として”フランスに亡命したと伝えられています。莫大な

資産を持つアラブの王家も、「一旦緩急あらば資産抱えて国脱出」を考えているかもし

れません。

これまで述べてきたように、世界の国王の多くは「王」から「立憲君主」となり、為政

者に権力・権限を付与する“権威”としての役割を持つ存在へと変化しています。

端的に言えば、”象徴的存在“への変化であり、日本の天皇は最も古くて最も新しい君主

と言えるのではないでしょうか。

最後が言葉足らずのような感じになりましたが、それはサッカーの日本代表チームの

初のベスト8入りをかけたクロアチア戦が間もなく始まるからです。悪しからず。

                        2022.12.05

 

 

 

世界の王室(その1)欧州編(Y-44)

ノルウエー

あまり大きなニュースにはなりませんでしたが、11月8日ノルウエー王室がルイーゼ王

女(51)の公務からの離脱を発表しました。

王女は現国王ハーラル5世の長女で、2002年作家のアリ・ベーン氏と結婚し3女を儲けま

したが、16年に離婚、ベーン氏は3年後に自殺しています。王女はその後も王室に在っ

て公務に携わってきましたが、今年6月アメリカの黒人霊媒師デユレク・ベレット氏と

婚約し、物議を醸していました。ベレット氏は、新型コロナの治療に効果があるとする

メダルを販売するなど、代替医療の名目でビジネスを展開しており、これに対する批判

をうけて王室の公務とビジネスを明確に区別するためだとされています。

ノルウエーは、1990年に王位継承順位を男子優先から長子優先に変更していますが、次

の国王までは旧法のままで、弟君のホーコン王太子が継承することになっているので直

接の影響はありません。とはいえ、王位継承権のある王女の公務離脱は、その理由を含

めノルウエー国民に衝撃を与えています。

ついでにと言っては何ですが、ソニア現王妃は洋服商の娘(平民)であり、王太子妃は

何とシングルマザーでその子の父親は薬物所持で有罪というおまけつきですから、お騒

がせは血統なのかもしれません。

ノルウエー王国は872年に誕生し、その後スウェーデンデンマークとの連合王国の時

代を経て、1905年にスウェーデンから分離独立してデンマークの王子を迎え、現在のノ

ルウエー王国に生まれ変わっています。つまり、君主国としての歴史は長いけれども、

現王朝としての歴史はまだ120年足らずでしかも”借り物”だということです。

 

イギリス

ノルウエーのニュースに続き、その翌日にはイギリスで騒ぎが起きました。

就任して間もないチャールズ国王夫妻が、新たに建立されたエリザベス女王銅像の除

幕式のためヨーク大聖堂を訪れた際、23歳の男に数個の生卵を投げつけられるという事

件が発生したのです。

イギリス王室は、日本(126代)デンマーク(54代)に次ぐ41代の歴史を誇る古い王室

です。開祖は、1066年にイギリスを征服して王位に就いたノルマンディー公ウィリアム

で、当時の王室ではフランス語が使用されていました。その後何度も王朝は変わり、国

王が処刑されて(ピューリタン革命)共和制に移行した時代もあります(1649-1660)

だから、1660年を王朝の起点とする考え方もあるようです。

1714年にはスチュアート朝がアン王女で途絶え(17回妊娠するも5人は夭折、死産6回、

流産6回)、ドイツからジョージ1世を迎えてハノーバー朝となります。そのハノーバー

朝も18歳で帝位についたヴィクトリア女王ザクセン・コブルク・ゴーダ公国からアル

バート公を婿に迎えたことでまた王朝が変わることになります。しかし、WW1 でドイ

ツが敵国となったためドイツ風の名を嫌ってウィンザーの名に変えたのが現王朝の始ま

りです。今回即位したチャールズ3世はまだ5代目ということになりますが、実は先代が

女王であったため、その姓は王配エディンバラ公フィリップ殿下の姓と重ねて「マウン

トバッテン・ウィンザー」となるのだそうです。なんとなく目立たないようにしている

ように見えますが、これまでの考え方からすれば、やはり王朝は変わったということに

なるのでしょう。

 

欧州の君主制国家とその王室には溢れるばかりの存在感があり、スキャンダルを含め何

かと話題を提供してくれます。ここに取り上げたのは直近の話題ですが、それ以外の国

の現王室の成り立ちもなかなか興味深いものがあります。

 

スウェーデン

先ずは人口約1000万人(117位)のスウェーデンの王室です。現王朝の始祖ベルナドッ

テは、もとナポレオンの副官から将軍に上り詰めた人物ですが、ナポレオンの強い意向

により跡継ぎの無かったスウェーデン国王の王太子兼摂政に就任します。それから3年

後、スウェーデンプロイセン、ロシアが連合してナポレオンと闘うことになると、ベ

ルナドッテは連合軍を指揮してこれに勝利します。この功績により議会はすんなりとベ

ルナドッテの即位を認めます。彼には既にフランス人の妻と子があり、意地悪な表現を

すれば、平民出身のフランス人一家が、元の主を裏切って敵国スウェーデンの王家を乗

っ取ったということになります。しかし、その後ベルナドッテ王朝に前王家の血筋から

王妃を迎えたことなどもあり、特に波風は立っていないようです。尚、スウェーデン

王位継承順位を男子優先から長子優先に変更したので次期国王は長女のヴィクトリアが

継ぐことになっています。

 

オランダ

次は人口約1700万人のオランダです。

この国はナポレオン戦争後のウィーン会議(1815年)によりベルギーを併合する形で成

立し、ネーデルランド連邦共和国の最後の総督ウィレム5世(オラニエ・ナッサウ家

の子フレデリックが即位しました。現国王アレクサンダー(第7代)は、オランダ王室

116年ぶりの男子で、3代にわたり女王が続いた後の123年ぶりの男性国王です。オラン

ダ王室と日本の皇室とは長い交流がありベアトリクス前女王は日本でもよく知られてい

ますが、ドイツ人外交官であったクラウスとの結婚式には反対デモが押し掛けるという

騒ぎもあったようです。

オランダの王位継承者の結婚には政府と議会の承認が必要ですが、現国王アレクサンダ

ーと次男のヨハンは共に問題を起こしました。アレクサンダー妃マクシマはアルゼンチ

ン人で、その父が軍事独裁政権の閣僚であったからです。しかし父は反対派への拷問や

殺害に直接の関与はなかったとされ、二人の結婚が認められました。一方ヨハンの相手

は、彼女の過去の異性関係(暗殺された麻薬王)などから承認が得られずヨハンは王位

継承権を放棄して結婚しました。なお、久しぶりの男性国王を戴いたオランダですが、

次期はまた女王となる予定です。真偽のほどは分かりませんが、最近そのアマリア王

(18)がマフィアから狙われているという騒ぎが起きているようです。また、彼女が自

伝の中で王位に“乗り気でない”思いを漏らしていることもオランダ国民の頭を悩ませて

いるようです。

 

ベルギー

次は人口約1200万人のベルギーです。

ベルギーは1831年にオランダからの独立を果たして王国となりました。本来なら、共和

国として出発するはずでしたが、共和国になるとフランスの影響力が強くなりすぎてバ

ランスが崩れるとして、イギリス、オーストリア、ロシアから反対され、イギリス王室

に近い貴族(ヴィクトリア女王の王配を出したザクセン・コブルク家)を押し付けられ

た形で王国となりました。第3代のアルベール1世の時代にドイツ風の家名を使わないこ

とに決め、以後は国名を家名とすることに決めました(ベルジック家)。

ベルギーは自国の体制を「国民的君主制」と呼び、君主は「ベルギー国王」ではなく、

「ベルギー人の王」(King of the Belgians)としています。なお、この国も1991年に女

子にも王位継承権を認めましたので、次期国王はエリザベート(21)が女王となる予

定です。

 

スペイン

次いで取り上げるのはイギリスに次ぐ人口4670万人を擁するスペインです。

“スペインは何でも起こるが何も起きない”と言った同国の評論家がいますが、この国の

王朝は目まぐるしく変わり、しかも2度の共和制を挟んでいます。

1939年、第2共和制を終わらせて軍事独裁政権を築いたフランコ総統は、国王不在のま

ま自身を終身摂政としてスペイン王国を名乗り、最後にブルボン朝アルフォンソ13世の

孫ファン・カルロス1世を後継者に指名しました。ファン・カルロス1世はスペインの民

主化を進め国民の人気も高かったのですが、晩年はアフリカでの象狩りや数々のスキャ

ンダルで批判を浴び、現国王フェリペ6世に譲位しました。しかしその後も王室の人気

は回復せず、支持率は50%前後に低迷しているようです。次期国王は長女のレオノー

ル王女が継ぐ予定ですが、彼女がどのような結婚をし、またどのような女王になるかで

局面は変わるのではないでしょうか。何でもありのスペインですから、何が起きるかわ

かりません。

 

デンマーク

最後は日本に次ぐ900年の歴史を誇る国、人口580万人のデンマークです。

国王は世界でただ一人の女王となったマルグレーテ2世で、グリュックブルグ王朝の5代

目です。実はデンマーク国王は男子に限られていたのですが、前国王には男子がなく、

弟君が王位を継ぐ流れになっていました。ところが、マルグレーテは幼いころから国民

の間で大人気であり、弟君の方は逆に不人気であったことから、1953年に憲法を改正

し、13歳の王女マルグレーテを王太子に指名し初の女王が誕生することになりました。

マルグレーテ女王は、モデルのような美形で才能にあふれ、それに気さくな人柄とあっ

て、今も世界から敬愛されており、毎年末のTVを通じた国民に対するスピーチは恒例行

事となっています。

実はつい先日、マルグレーテ女王が4人の孫たちから王子・王女の称号をはく奪すると

発表し話題となっていますが、現王室グリュックスブルグ家はギリシャ、イギリス、ノ

ルウエーなどの国王も輩出した名門中の名門です。

その前はオルデンブルク朝(1448-1863)で、第5代クリスチャンセン3世の3男ハンス

(ヨハン)公はドイツ最北端の湖のほとりに地味ながらも気品のあるお城を立てまし

た。それが今も残るグリュックスブルク城です。グリュックスとは「幸運」の意味で、

やがてそれが家名となりました(デンマーク語ではリュクスボー)。ハンス公は2度の

結婚で23人の子宝に恵まれ、その末裔が1868年クリスチャン9世として現在につながる

グリュックスブルク王朝を開きます。そして、このクリスチャン9世の子供たちが欧州

各国の王室と婚姻関係を結び、王は「ヨーロッパの義父」と言われるまで関係が広がり

ます。「幸運の城」はその名の通り幸運をもたらしたわけです。デンマーク国旗はロー

教皇が十字軍に授けた旗を基にデザインされたもので、いわゆるスカンジナビアクロ

スの先駆けでもあります。

デンマーク社会保障が行き届き、個人の自由度や政府に対する信頼度も高く、国民の

幸せ度ランキングで1位になるなど、世界一幸せな国と言われています。

 

欧州の王室は長い歴史の中でその多くが姻戚関係にあり、複雑に絡み合っています。

そして“国は滅びても王家は残る”とでも言うべき地位を築いています。

しかし現在の王室を観察すれば、これまでに述べたように、それぞれ悩みを抱えていま

す。大きな流れとして、体制としては絶対王制から立憲君主制へ、王位継承順位は男子

優先から長子優先へ、配偶者は王侯貴族から一般人へと言った流れがあり、最近は自ら

王室を離れる王子や王女も珍しくありません。そういった流れの中で、次期国王が女王

となる国がスウェーデン、ベルギー、オランダ、スペインと7か国中4か国に上るのもあ

ながち偶然とは言えないように思います。そして、その王配がどのような出自であるか

はまた王室の存続に微妙な問題を投げかけるかもしれません。

 

欧州にはこの7か国の他にアンドラモナコなど「公国」と呼ばれる小さな国が5か国あ

り君主国としてカウントされることもありますがここでは省略します。

次回はアジアの王室を見てみることにします。

                         2022.11.24

 

 

 

歴史問題の肝所(Y-43)

いわゆる「歴史問題」は、話題になる度に私たちを重苦しい気分にさせてきました。

テーマとしては、慰安婦靖国、徴用工、教科書などが挙げられますが、これらはいず

れも似たような経緯をたどっています。代表的なパターンを示すとすれば、

朝日新聞をはじめとするいわゆる反日メディアが火をつけ)⇒(中・韓がこれを外交

カード或いは愛国主義教育として、時には内政問題のガス抜きとして利用し)⇒(中・

韓国民の反日運動に発展し)⇒(日本政府が泣く子を宥めるような宥和政策を講じて、

いったんは沈静化するが)⇒(政治家などが誤解を生む発言をしたりして)⇒(これを

反日メディアがことさら大きく取り上げ)⇒(再び炎上する)、といった堂々巡りを繰

り返しているように思われます。

つまり、それらの多くは日本発であり、日本と中・韓の双方に存在するむしろ円満な決

着を望んでいない勢力の共同作戦に踊らされているような印象が拭えないのです。それ

が重苦しさの原因です。謝罪は相手が許してくれるまで続けなければならないという考

えと同様に軽々な謝罪も誠意を疑われ逆効果を生んでいます。

この状態から抜け出すためには、相手の言い分を聞くことではなく、私たち自身が“肝

所”を抑え、口では”友好”と言いながら実は対立関係の持続を望んでいる勢力につけこま

れるスキを与えないことが肝要です。青少年教育や教科書などにおいても、そこが強調

されなければならないと思います。

その肝所はどこなのか、以下私見を述べてみたいと思います。

 

慰安婦問題の肝

慰安婦問題の肝は、日本人と韓国人が“日本国民”として平等であったが故に起きたとい

うことではないでしょうか。初めに、ある人物の次のコメントを読んでみてください。

“(当時)朝鮮の女性は日本国民であった。さらに日本軍慰安所は、占領地女性に対す

戦争犯罪防止のために設置運用された合法的な売春空間であり、慰安婦慰安所の経

営者と契約を結んだ後、身分証明書の発給を受けて出国しており、現地に到着してから

は、領事館・警察に各種書類を提出して営業許可を得て金を稼いだ職業女性たちだった“

これは、“なぜ韓国人である私たちが「慰安婦少女像」撤去運動を行うか”という題で週

刊新潮11月3日号に発表した金柄憲(国史教科書研究所長)の手記の一部です。

当時、売春は”合法“であり、日本人慰安婦も同様に処遇されました。金柄憲氏は”慰安婦

の本質は貧困であり、恥ずかしくも悲しい私たちの自画像である“と述べていますが、

彼女たちの多くは一家を支える稼ぎ頭というべき存在でした。勿論、例外的には悲惨な

ケースがあったかもしれませんが、中には日本人と結婚した慰安婦も存在し、その実態

は”性奴隷“とは程遠いものであったはずです。

この手記に対してどういう反響があるのか、私としては大いなる関心を持ってアンテナ

を張っていたのですが、日韓双方の大手メディアは共に”無視“をきめこんでいます。

日本のメディアは、おそらく週刊新潮のスクープが気に入らないのでしょう。

韓国メディアの静寂は、慰安婦問題が”旬”の話題ではないことを意味しています。つま

り、慰安婦運動が下火になっていることを示しているのかもしれません。

いずれにせよ、正義連(旧挺対協)をはじめとする”慰安婦ビジネス“と、その勢力に利

用されている未だ和解に応じない少数の元慰安婦たちは、”名誉回復“といいながら逆に

和解に応じた多くの元慰安婦たちの名誉を傷つけてきました。

慰安婦支援団体や政治家などの不祥事が明らかになり、所詮、慰安婦問題は彼らの

慰安婦ビジネス“であったという疑いが濃厚になった今、「日本軍性奴隷制問題解決の

ための正義記憶連帯」などというおどろおどろしい名称もそう長くは続けられないでし

ょう。しかし、韓国内に150体、世界に34体も設置された少女像が撤去されるにはどれ

ほどの時が必要だろうかと思えば、また気が重くなってしまいます。

 

徴用工問題の肝

徴用工問題の肝は、「日韓請求権協定」に従うということに尽きると考えます。

日韓請求権協定(1965)の第1条は、経済協力(無償供与及び低利貸し付け)について

の超具体的な取り決めです。これにより日本は5億ドル(無償3億、有償2億)及び民間

融資3億ドルの経済支援を約束し完全に履行しました。それは韓国の国家予算(3.5億ド

ル程度)を大きく上回る大変な額で、個人に対する補償も含まれていましたが、韓国政

府はすべてを経済発展に投入し”漢江の奇跡”を成し遂げました。第2条では、これによっ

て“両国は請求問題が完全かつ最終的に解決され、いかなる主張もすることができない

ことを確認”したとし、そして第3条では、“両国はこの協定に関する紛争は外交で解決

し、解決しない場合は仲裁委員会の決定に服する”と約束しているわけです。

だから、元徴用工らが未払い賃金などの支払いを求めた訴訟は当然棄却されましたが、

次には手を変え、虐待を受けたとしてその”慰謝料“を雇い主の企業に求め、なんと最高

裁にあたる大法院がこれを認めてしまったのです。つまり両国の関係は、第3条適用の

段階に入ったわけです。仲裁委員会に預けるということです。韓国側が何を言ってきて

も「取り決めの通り、仲裁委員会に預けましょう」というのが筋なのです。それ以外の

妥協は必ず禍根を残すでしょう。もし仲裁委員会が日本側の主張を認めなかったとして

も、それは致し方ありません。

このところ両国に歩み寄りの気配が漂っていますが、ともに支持率が低迷する政府が功

を焦って、おかしな妥協策を講じはしないかと少々心配になるところです。

コロコロと証言や判断を変える相手に対抗するには、変更できないものをベースにしな

ければなりません。だから、巨額の経済支援の根拠となった否定しようのない日韓請求

権協定に基づくしか道がないと考えます。

 

靖国問題の肝

GHQは、1946.2に旧軍人軍属への恩給を廃止しましたが、靖国神社の存廃に関しては

散々迷った挙句1951に存続を認める決定を下しました。この決定には二人の神父の進言

が少なからず影響したと言われていますが、靖国問題の肝はこの神父の言葉に示されて

いると思います。それは、

戦死者に敬意を払うのは国民の権利であり義務である”という世界の“常識”です。

戦死した軍人軍属の合祀は1946年から始まり、56年には敗戦時に自決した者540柱、59

年にはB,C級戦犯78年にはA級戦犯も合祀されました。戦争が終わった後に、報復まがい

の理不尽な裁判によって死刑とされた人たちは国内で59名、国外では1000人を超える数

に上ります。朝鮮戦争の勃発により対日政策が変わり、それ以降の刑の執行は中止され

ましたが、日本はそれほどまでの命による償いをしてようやく主権を回復しました。

そして、52年サンフランシスコ講和条約が公布されてから1年後の53年には、元戦犯を

含めて恩給や遺族への扶助を復活させ、これによって実質的に戦犯の名誉は回復されま

した。80年には、教皇ヨハネ・パウロ2世によって、戦犯として処刑された人々へのミ

サが行われ、天皇陛下や首相の靖国参拝にもこれと言ったクレームのない状態が続きま

した。ところが、1985年朝日新聞が中曽根首相の公式参拝を取り上げ、“中国が厳しい

視線で注視している”という記事を書きました。そう言われて中国もこれは外交カード

として使えると判断したのでしょう、“アジア各国人民の感情を傷つける”とはじめて意

義を表明したわけです。これが発端です。

戦争犯罪は双方にあります。人道的に見れば正しい戦争などありえません。しかし、同

じ行為でも勝てば英雄、負ければ戦犯となるのが常といえます。戦後の軍事裁判は、ほ

ぼ全面的に勝った側の理屈です。百歩譲って、負けた側だけに罪があるとしても、その

世代は十分に罪を償って生涯を終えるわけで、その子らが罪を受け継ぐ必要はないし、

継がせてはならないのです。

 

教科書問題の肝

教科書問題の肝は単純である。

明らかな内政干渉であり断固として拒否せよ”ということにつきる。

それができないのなら、もはや独立国家とは言えない。

                         2022.11.08

 

マイナカードのこれまでとこれから(J-124)

今月13日、政府は現行の健康保険証を2024年秋に廃止して、マイナカードと一体化した

「マイナ保険証」に切り替える方針を打ち出した。

ところが、総務省が19日に発表したように、マイナカードの普及率は、2016年1月から

6年9か月をかけて、ようやく50%越えを達成したばかりである。

どうしてこれほど普及が進まないのであろうか。

デジタル庁の調査(今年1~2月)によれば、その理由は次の通り見事に3分されている。

  ・情報流出が怖いから       35.2%

  ・申請方法が面倒だから      31.4%

  ・カードにメリットを感じないから 33.1%

しかし、これらの理由には誤解や考え違いと思われる部分もある。

その原因はいくつかあると思われるが、メディアのマイナカードに対する姿勢が、なぜ

か冷ややかであることも一因ではないだろうか。

例えば、10月14日の毎日新聞の「国民不在の強引な普及策」と題する社説がそれだ。

要約すれば、このような内容である。

 “政府は「誰一人取り残されないデジタル化」を掲げる。そうした理念に反する政策

ではないか。確かに利便性は高まるだろう。ただ期限は設けず普及状況や医療機関の態

勢などを考慮して決めるはずだった。

カードの交付開始から7年近いが、国民の半分しか持っていない。取得手続きのわずら

わしさだけが理由ではあるまい。政府が個人情報を管理し、データを活用することへの

不信や不安は根強い。カードを持ちたくない人が保険診療を受ける仕組みはあるのか。

紛失時にはどう対応するのか。

日本では、政府に個人情報を握られることへの警戒感が払しょくされていない。成果を

急ぐあまり、混乱や不信を招いては本末転倒である。国民に対し丁寧に説明し、理解を

得る手続きを怠ってはならない。”

この社説は、マイナンバーカードの利便性を認めながら、逆に不安感を煽る論調となっ

ている。社説には執筆者の名前がない(毎日の記事は原則記名方式)ので誰が書いたの

かはわからないが、この筆者は間違いなく総務省のホームページに目を通しているに違

いない。もし読まないで描いたとすれば無責任も甚だしい。

令和2年に発せられた「マイナンバーカードの安全性」には、イラストを駆使した丁寧

な説明がある。執筆者は読者にその事実を知らせることもせずに、知らぬ顔で読者を漠

然とした不安感へと誘導し、“国民に丁寧に説明し理解を得る手続きを怠ってはならな

い”と結んでいるのである。総務省の説明に疑義があるのであれば、具体的にその部分

を追求すべきだと思うが、それはしない。一方的かつ独善的だ。だから“ビラになった

新聞”(門田隆将)などと揶揄されるのである。

 

マイナンバーカードの機能を端的に言えば「名寄せ」である。

名寄せとは、元々は金融機関が複数の個人口座を持つ顧客の正確性を確保するための

管理を指す用語だ。つまり、ミスの防止と業務の効率化が狙いである。行政の狙いもこ

れと似たようなものと考えてよいだろう。反対派の懸念は大げさすぎるのだ。

マイナンバーカードそのものには大した情報は入っていない。詳細な情報は各行政機関

にあるが分散管理されているので、芋づる式に個人情報が漏れることもない。

また、カードのICチップは偽造に対する耐タンパー性(いじる、勝手に変える)を有し

ており、不正に情報を読み出すとすると壊れる機能がある。さらに言えば、他人に悪用

されたとしても、被害に遭うのは概ね行政機関側で、そこはクレジットカードなどとは

異なる。

何らメリットがないから持ちたくないという理由もそれは考え違いだ、何故なら当人に

メリットがなくても(それは誤解なのだが)行政側にメリットがあるからである。つま

り行政の効率化は国民全体にとってのメリットであり、様々なサービスを受けている国

民側も協力する義務があるということだ。

マイナカードに関する誤解は他にもある。

その一つが年代別の普及率だ。今年5月、しゅふJOB総研が「仕事と家庭の両立を希望す

る主婦・主夫層」528人に対しインターネットを利用して調査した結果を公表した。

その内容は、年代が低い程マイナカードの所持率が高く、30代以下と60代以上では20

ポイント近い差があり、スマートフォンやパソコンによる申し込みが便利なことが影響

しているのではないかというものであった。

その影響かどうかは知らないが、どうやら”アナログ世代が取り残される”というイメー

ジがこのマイナカードにも定着しているらしい。しかし実態は大違いなのである。

総務省の9月末のデータによると、5歳区切りの年代別普及率ベスト5はつぎのとおり高

年齢層の所持率が高い。(2022年9月末データによるもので国民全体は49%)

   1.75~79 才  56.6%

   2.60~69    55.6

   3.65~69    53.5

   4.30~34    52.6

   5.55~59    52.5

さらに意外なのは、男女別にした時の高齢男性層の高い所持率である。

   1.男性90歳以上 68.6 %

   2.85~89    60.3

   3.75~79    60.2

   4.80~84    58.6

   5.60~64    55.8

 

総務省のデータからは、地域別の所持率についてもまた意外な事実がみてとれる。

都市別の所持率ベスト5は次の通りである。

   1.宮崎県都城市   84.7%

   2.兵庫県養父市   82.9

   3.石川県加賀市   76.9

   4.高知県宿毛市   74.8

   5.石川県珠洲市   68.0

 

 宮崎県や兵庫県は県全体としても1,2位なので、都城市養父市に違和感はないが、

宿毛市の4位には少々特異な感じがする。なぜなら、高知県全体では41.3%で沖縄に次ぐ

ビリから2番目にランクされているからである。

となると、そこには何か理由があるはずである。もしかすると、普及率ランキングは

自治体職員の熱意ランキングそのものではないのか・・・。その思いを抑えきれず、

迷惑を承知で宿毛市の市民課に電話をかけてみた。すると・・・

冷たくあしらわれるかと思いきや、予想外の丁寧な対応である。

そして、その回答も予想外であった。”特段のことはしていない”というのである。

”他の自治体さんと特に違ったことをしているわけではありませんが、割と早い段階か

ら取り組んできたので、マイナカードのメリットなどが口コミで伝わったのではないで

しょうか”といったふうに、”謙虚”そのもので、”自慢話”を引き出せない。

そこではたと気づいたのだが、実はそこがキモなのではないか。つまり、このような地

域差は、”普及作戦”の優劣からではなく、”職員のサービス精神”の差から生まれている

のではないかということである。電話対応がそれを感じさせるのである。

 

マイナカードの導入に反対、あるいは懸念を示してきた勢力には、正当な理由がない。

たいていは、お決まりの政府批判か自己都合によるものだ。しかし、マイナ保険証への

一本化方針発出以降、カードの利便性や安全性に関する情報も急に増えてきた。

23年3月までに全国民に行き渡らせるという当初目標の達成は無理だとしても、これか

らの交付速度は格段に加速するのではないだろうか。

                        2022.10.22

 

二刀流の完成と伸びしろ(大いなる感謝と愛をこめて)(J-123)

MLBへの関心がほぼポストシーズンへと移り、10月5日のエンゼルス対アスレチックス

の最終戦はただの消化試合になると思われていたが、思わぬ注目を集めることになっ

た。この試合に、大谷選手が規定投球回数到達をかけて先発登板することになっていた

からである。

大谷は5回1失点で惜しくも16勝目を逃したが、今シーズンの投球回数は166回となり、

既定の162回を難なくクリアした。打者としては既に規定打席数を超えており、彼は同

一シーズンで投・打共に規定回数超えをした史上初の選手となった。

今シーズン規定回数をクリアしたのは両リーグ合わせて投手で44人、打者で130人に限

られる。規定回数に到達するということは、とりもなおさず一流選手の証明でもあり、

大谷選手は投手としても打者としても一流の仲間入りをしたことになる。

まさしく、二刀流の完成である。

この快挙がどれほど価値のあるものか、そして大谷の目指す頂上はさらにその先にある

のか・・・この際スポーツライターになった気分でいろいろと掘り下げてみたい。

 

投手としての大谷

先ずは今シーズンの投手としての成績を見てみよう。( )内は順位

 

 防御率   勝利数  奪三振  投球回数  QS率   K/BB    WHIP

 2.33(4) 15(4) 219(3) 166(20)  57.1(9) 4.98(7) 1.01(5)

 

投手三冠と言われる防御率、勝利数、奪三振数ともに見事な数値と順位にある。

何も文句は付けられない成績ではあるが、防御率と勝利数は投手だけで決まる数値では

ないので純粋に投手の能力を示すものではないという考えもある。だからFIP(Fielding

Independent Pitching) という新しい指標も生まれている。これは、被本塁打、与四死

球、奪三振のみで投手を評価しようとする試みであるが、例えば打たせて取るタイプの

投手が評価されにくいといった欠陥もある。

ではどういう投手が優れているのか、それは監督の立場で考えると分かり易い。

監督からすれば、まず年間を通じてローテーションを守ってくれる投手である。故障せ

ず波が小さく、安定したパフォーマンスを発揮してくれる投手だ。それは最終的に投球

回数になって表れる。規定投球回数をクリアするのは1チーム当たりわずか1.5人程度

で、規定が厳しすぎはしないかとも思うが、いずれにせよ極めて貴重な存在だ。

次に望まれるのはいわゆる試合を作ってくれる投手で、それを示す指標がQS率である。

QSとは先発投手が3失点以下で6回以上を投げることをいう。これが大谷選手は57.1%と

好投手の中ではやや低い。その理由は、好不調の波というよりは球数が5回あたりで100

球前後に達してしまうことにある。あと1回が投げられていないというもどかしい場面

がかなりある。

投手としての力量は、いかに威力のある球を制御できるかにあり、それはK/BBという指

標として表れる。Kは三振、BBは四球である。大谷投手のK/BBは4.98で7位、立派な数値

ではあるが、奪三振率(9回当たりの奪三振数)が1位の11.87であることを考えればや

や不満が残る。

監督目線で言うとさらにもう一つ、攻撃のリズムに好影響をもたらす投手である。守備

の時間をテンポよく締めてくれる投手だ。それはWHIPという指標に表れる。WHIPとは

(Walks plus Hits per Inning Pitched)の略で、1イニング当たりのランナー数である。

たとえ無失点でもピンチの連続では攻撃のリズムが生まれない。WHIPは、いわゆる”試

合の流れ“に影響する重要なファクターであるといえよう。好投手はこの数値が1.0前後

にあり、ここでも0.83のバーランダーが断トツであるが、大谷は0点台の4人に次ぐ5位

なので胸を張ってよい。

今シーズンの大谷は、投手としてのパフォーマンスが著しく向上したと言われるが、そ

の言葉の通り勝率以外の指標ではいずれも昨シーズンよりも今シーズンの数値が良い。

その原因の一つに変化球の組み立てが多彩になったことが挙げられている。

今思い出されるのは、このブログにも「真二刀流はホロ苦スタート」として書かせても

らった昨シーズン、2021年4月4日のホワイトソックス戦である。

この試合で大谷は4回までをヒット1本に抑え、自身のホームランなどで3-0のリード

で勝利投手の権利がかかる5回のマウンドに立った。ところが、2アウト1塁から牽制悪

送球、四球、四球で満塁となったあと、空振り三振に打ち取った球を捕手が後逸、さら

振り逃げの走者を刺そうとした送球がそれ、さらにさらにその球をカバーした外野手

がホームに悪送球というミスの連鎖で3失点、遂に同点とされたうえに大谷はカバーに

入ったホームベースで走者に足を踏まれマウンドを降りた。

あのころ大谷の持ち球は、ストレート、スライダー、フォーク、カーブの4種類で、私

は素人ながら空振りをさせる球だけでなく凡打にさせる球としてカットボールかツーシ

ーム、出来ればその両方が欲しいと書いた。

今シーズンの大谷は、比率としては少ないが、その二つの球種を新たに加えて投球の幅

を広げている。しかし、投球の中心となっている球種は磨きのかかったスライダーだ。

捕手のスタッシーが大谷のスライダーは6種類あると言っているらしいが、素人の目に

も左にスライドして落ちる球、まっすぐ落ちる球、横に大きく曲がる球の3種があるこ

とがわかる。持ち球の全てが勝負球に使えるレベルなのでその日の調子や打者に合わせ

て使い分けシーズン後半は圧巻のピッチングを重ねた。

いとも簡単に(ではないかもしれないが)球種を増やす彼の姿を見ていると、そのうち

チェンジアップやスクリューなども見せてくれるかもという期待感さえ抱かせてしま

う、それが投手としての大谷である。

 

打者としての大谷。

大谷選手の今シーズンの打撃成績は下表のとおりで、見た目の数値はほとんどの指標で

昨シーズンを下回っている。その原因は昨シーズン最後までタイトルを争ったホームラ

ン数が46本から34本へと大幅に減少したためである。今シーズンのボールは飛ばないと

いう話も伝わるが、ひとり大爆発のジャッジを除けば全体的に打者の成績は落ちてい

る。しかし見方によれば、大谷の成績は昨シーズン以上と評価できなくもない。とく

に、今シーズンは打率が大きく向上し25位にランクされたため、一般に打率の順位によ

って30位までが示されるランキング表に名前が載ることになったことは、大谷の存在感

をさらに高めることにつながったと言える。

大谷の成績と1位の数値を並べると下表のとおりである。

 

      大谷選手の打撃成績(上)とランキング1位の数値(下)

  打率   打点   本塁打  打席数  塁打   OPS   BB/K

 .273(25)     95(7)        34(4)      666(9)    304(5)    .875(5)      0.447

   .316        131 *         62 *       724        391*      1.111 *      0.634*

                                              ( )内は順位、* はジャッジ選手の数値  

打撃ランキングを打率の順位で構成することは、打率を重視しているという背景がある

のかもしれないが、打者を評価するうえでは弊害もある。例えば、上表にある打席数

724でトップの座に就いたのはレンジャーズのマーカス・セミエン選手であるが、打率

が.248なのでランキング表の30位にも名前が出てこない。しかし細かく見ると塁打は9

位の282、打点83で盗塁が25もある。これを打率.304でランキング表の6位にランクされ

ているヤンキースのベニンテンディ外野手の打席数521、打点51、塁打184、と比べてみ

るとチームにとってみれば明らかにセミエン選手の貢献度が高いといえるだろう。

打者の優劣もまた投手と同じく監督目線で見ると分かり易い。

監督目線で見れば、やはりシーズンを通じて安定したパフォーマンスを発揮してくれる

選手が有難い。それは打席数となって表れる。だから大谷選手の打席数が666で全体の9

位というのは極めて大きな意味を持つ。

次に監督が望むのは、チャンスメーカーでありポイントゲッターでもあるという選手

だ。それが表れるのはOPSという指標である。OPSとは、出塁率+長打率(塁打÷打数)

で計算される数値で、一見意味不明な指標のようにも見えるが、その打者の貢献度をよ

く示している。今シーズンのジャッジは1.111でずば抜けているが。NPB 通算成績でこ

れが1.0以上の選手は王貞治ただ一人、MLB通算では8人でベーブルース、テッドウィリ

アム、ルーゲーリック、バリーボンズとビッグネームが名を連ねる。8番目に現役のマ

イク・トラウトが食い込んでいるが、彼が1.0以上で現役を終えられるかどうかは微妙だ。

更にもう一つ、私が勝手に作ったBB/Kという指標がある。BBは四球、Kは三振で、投手

を対象としたK/BBを逆にして打者を見てみようという指標である。これは投手から見て

その打者がいかに厄介な相手であるかを示している(と勝手に思っている)。 大谷は

昨シーズンホームランを警戒されて敬遠四球が20もありBB/Kは0.508、今シーズンは

それより下がっている。ちなみに、NPB通算では王1.6、落合・長嶋が1.3、松井が1.0と

いったところで、MLBではベーブルースが1.55、バリーボンズが1.66という高い数値を

残している。今シーズンのジャッジは0.63なので、それらの先輩たちには遠く及ばな

い。

打者としての大谷選手は、一言で言えばまだまだ伸び代がある選手ということになる

が、それについては次項で述べることとする。

 

大谷の”SUGOI”と伸び代

MLBの実況放送を観ていると、大谷選手がホームランを打つたびに名物アナウンサーの

口から様々な日本語が発せられる。その代表が“SUGOI”である。エスカレートしている

感もあるので来シーズンには“YABAI”とか“EGUI”なども飛び出すかもしれない。

では大谷選手のどこがすごいのか、そこを探ってみよう。

まず挙げられるのは、彼の強靭な身体能力である。たしかに、先発ローテを全うした選

手が全体9位に当たる打席に立ったという実績にはすごみがある。しかしそれにも増し

て驚かされるのは、登板翌日の打撃成績だと元プロの有名選手たちが口をそろえる。

100球も投げれば翌日は使い物にならないのが普通なのに、大谷はむしろよく打つとい

うのである。調べてみればまさにその通り、登板翌日の打撃成績は、69打数23安打で打

率.333、6本塁打とシーズンを通した成績を大きく上回っている。さらに、登板間隔を中

5日に縮めた後半戦は、41打数17安打で打率.415、本塁打4と疲れ知らずの驚異的な数

字を叩きだした。

それを根拠に、ファンが大谷のさらなる進化を期待するのは当然かもしれない。

投手としての大谷選手のSUGOI は、奪三振率11.87(1位)の高さだ。しかし、現役投手

NO.1の呼び声が高いアストロズバーランダーが、奪三振率では大谷より2ポイント以

上低い9.51でありながらK/BBが6.38と逆に2ポイント以上高いことを考えると、少々

SUGOIもかすんでくる。しかし、そこに大谷の伸び代が潜んでいると言える。

K/BBのランクを見ると、大谷の4.98はランク7位である。奪三振率で1位の大谷がなぜ

そこまでランクを落とすかと言えば勿論与四球が多いからだ。下表のとおりK/BBの順位

は、奪三振率よりもむしろ与四球率に影響される。

 

     K/BBの順位     奪三振率の順位     与四球率の順位

  1. ガウスマン      大谷          クルバー

        2.  クルバー       コール         ガウスマン

        3.  バーランダー     シース         バーランダー

        4.  ビーバー       ガウスマン       ビーバー

        5.  コール        マクラナハン      マクラナハン

        6.  マクラナハン     レイ          コール

        7.  大谷         バーランダー      大谷

この表から大谷選手が改善すべき方向が見えてくる。ファウルで粘る打者を三振に打ち

取るのはなかなか難しい。その結果が四球になればダメージも大きい。だから凡打に打

ち取る投球術が必要だ。それは、省エネ投球につながり、投球回数の増加に直結する。

似たようなことが打者大谷についても考えられる。

一般に、ストライクが先行すれば投手有利、ボールが先行すれば打者有利といわれる。

それはその通りで、カウウント別の打撃成績にはっきりと表れている。

では3ボール2ストライクからの打撃成績はどうだろうか。

ここで塁打ランキングの上位6選手のデータを取り上げてみよう。

 

    塁打ランキング上位選手の3-2からの打撃成績

          機会(回) 打率 三振  四球   BB/K

 1.ジャッジ    95    .263  49    51   1.04

 2.トラウト    66    .152  24  29   1.21

 3.アルバレス   65    .200  27  29   1.07

 4.大谷      75    .133  37  23   0.62

 5.サンタンダ―  72    .167  24  28   1.17

 6.シーガー    43    .256  21  27   1.29

 

全体として言えば、3-2というカウントは投手不利のようにも感じられるが、実際は

この表の通り、打撃上位の選手でさえ投手有利の結果が示されている。しかし、流石に

上位の選手だけあって大谷以外のBB/Kは1.0以上、約半数は四球となっている。

四球よりも三振の数が多いのは大谷だけなのだ。そこは積極性の現れなのかもしれない

が、0-2,1-2からの打率も.120、.163と極端に悪く、やはり2ストライクを取られ

た後の対応については改善の余地がある。

この他にも、100マイル以上を何回投げただとか、打球速度、一塁到達速度など、大谷

選手のSUGOIをいろいろと掘り起こしてくれるマニアがいて、それはそれで楽しみを増

やしてくれてはいるのだが、大谷自身はおそらくそんなことはまったく気にしていな

い。イチローもそうであったが、彼のライバルは過去の自分なのである。

今シーズン、大谷は自分のチームがポストシーズンへの望みを絶たれた後半戦で、明ら

かに目標をチェンジしたように見えた。それは規定投球回数への到達と打率の向上であ

る。そして、その目標がほぼ達成されたことを彼のコメントからも感じとることができ

る。

来シーズンもエンゼルスでプレーすることになった大谷が、果たしてどのあたりに目標

を設定したのであろうか。ファンとしては、来シーズンもケガをせずに活躍してくれれ

ばそれで充分だというのは表向きのセリフで、さらに二刀流を進化させてほしいという

のが本音であろう。

全くもって余計なお世話ではあるが、大谷選手の来シーズンの目標設定はこのあたりで

いかがでござろうか。

     大谷選手の来シーズンの目標(ファンとしての希望)

    投手成績               打撃成績

 投球回数  180回 +           打席数    600  +

    QS率    75 % +           打率    .290  +

    K/BB     6.0  +            塁打    330  +

       WHIP   1.0   -             BB/K    0.7  +           

 

以上、大谷選手への感謝と愛をこめて

過去最高の選手が集結するであろうWBCを楽しみに・・・

                          2022.10.15